短編小説 「傀儡」
もし最初から何も聞かなければ、私は誰かを友と呼べたのだろうか。
#短編小説 #創作
私は人に好かれやすい。
皆が私に本音を話す。
想い人のこと。失敗したこと。誰にも言えないような弱み。
それらはすべて、なぜか私のところへ集まってくる。
ある日、友人が言った。
「これ、誰にも言うなよ」
そう言って笑いながら、自分の秘密を打ち明けた。
私はいつものように頷く。
だがその瞬間、胸の奥で小さく何かが沈むのを感じた。
また一つ、私はこの人の弱みを知ってしまったのだと。
私は友と呼べる存在がいない。
いや、前まではいたのかもしれない。
ただ、時の流れとともに考え方が変わり、私の中で友という言葉の意味が変わってしまった。
皆、私を好いてくれる。
暇な日には誰かとご飯に行き、遊びに行き、くだらない話をする。
だが、どこかで必ず本音を打ち明けられる。
それは信頼なのだろう。
私も最初は嬉しかった。
だが、ある時から思うようになった。
これは信頼ではなく、私が相手の弱みを握っているということなのではないかと。
もし私がその秘密を口にすれば、その人の人生は簡単に崩れてしまうかもしれない。
だからなのだろうか。
本音で話しても、喧嘩をしても、相手はどこか一歩引いている。
私がわがままを言っても、誰も強く否定しない。
ある日、冗談半分でこう言ったことがある。
「もし言いふらしたらどうする?」
友人は笑った。
だが、その笑いはどこかぎこちなかった。
「お前は言わないだろ」
そう言いながら、目はほんの少しだけ逸れていた。
その瞬間、私は理解した。
私はもう、友達ではないのかもしれない。
気づけば私は多くの秘密を抱えていた。
そして多くの人と仲良くなっていた。
いつからか、周囲は私をこう呼ぶようになった。
情報屋、と。
だがその呼び名を聞くたびに、胸の奥が少しだけ冷える。
私は誰の秘密も守っている。
それでも、誰のことも信じることができない。
もし最初から何も聞かなければ、私は誰かを友と呼べたのだろうか。
私は多くの秘密を知っている。
それなのに、私は誰一人として信じることができない。
気づけば、外では落ち葉が風に流されていた。
私もまた、その一枚なのかもしれない。
信頼の証だったはずの告白。
けれどそれは、主人公にとって呪いだった。
秘密はいつしか、人を縛る糸になる。
短編小説「傀儡」を書きました。
よければ読んでみてください。




