第5話 刻まれたもの
天音たちは机までカップ麺を持って行き、二人横になって座った。天音と未露が持っていたのは、カップ麺といえばこれ、と言わしめるほど有名な形のカップ麺。
(天音)「よぉし、食べよう!」
(未露)「わ、わたし……、こんなに食べきれないかも……」
(天音)「……、良いよ残しても。私が食べるよ」
(未露)「う、うん……」
天音は麺を啜る。ズルズルと豪快に良い音を立てて麺を口の中に、そして、喉の奥へ運んでいく。温かいスープが絡んだしっからとした麺は程よく噛み切れ、天音の手は止まらない。対照的に未露は、一本ずつもたもた食べていた。啜るわけでもなく、少しずつ口の中で巻き取るように箸で口に運んでいく。未露は麺を啜らなかった。
(天音)「ふぅ……、食べた食べた……、もう一個作ってくるね!」
(未露)「え……、う、うん、わかった」
ものの一分もしないうちに麺を食べ終わった天音。未露はまだ麺を2本食べたところだった。何故かは分からないが、未露も少しペースを上げて食べていく。
新しいカップ麺にお湯を注いで来た天音はまた未露の横に座った。未露はまだ麺を6本食べ終わったところだった。
(天音)「そういえばさ、大家さんどうしてるの?元気?未露よくしてもらってたもんね、覚えてるよ」
(未露)「……、おばあちゃんは……、足を悪くしちゃったから、リハビリくらいでしか外に出てこなくなっちゃった……、それもたまにだし……」
親も天音も居なくなった未露の唯一と言ってもよかった大家のお婆さんは、数年前事故で足を折ってしまった。それから足が目に見えるように悪くなって行き、最近ではリハビリを兼ねた散歩にもあまり行かなくなっていた。それ故に、未露もあまり大家さんと会えていなかった。
(天音)「そっか……、部屋に入るんだよね?後で会いに行こうかな、未露も行く?私のこと覚えてるかなぁ?」
(未露)「あ、あ、えっ……と、あ、……行く……」
(天音)「……うん、そろそろできたかなぁ。私さ、硬麺がすきなんだよね」
(未露)「へー」
今度、天音が食べ始めたのは大きなカップ麺だった。明太子風味の豚骨味で濃厚な豚骨の味と明太子が絶妙に絡み合い、麺にスープが絡まっている。青春真っ只中若者、さらに天音は以前は合気道部に所属していた。転校先である今通う学校にも合気道部があると聞き、内心ワクワクしている天音は、より一層食欲が増していた。
(天音)「美味しい〜!!!未露も食べてみる?」
(未露)「わ、私はいいよ……こっち食べる」
ちまちま食べている未露は既に麺が伸び始めており、ぶよぶよし始めていたが、それでも美味しそうに一本ずつ食べていた。
(天音)「遠慮せずにほらぁ、はいあーん」
無邪気に未露へ向かい麺を口元へ運ぶ天音。
(未露)「(大丈夫……、大丈夫……、天音ちゃんは昔と変わらずに【良い人】だからきっと大丈夫……)」
意を決して未露は天音から差し出された麺を口の中へ入れた。その瞬間襲いくる強烈な吐き気。未露は慌ててトイレに向かい、昼食で食べていた麺を全て吐き出してしまった。
(天音)「未露!!?どうしたの!?大丈夫!?未露?!」
天音は嗚咽を漏らしながら吐き続ける未露の背中をさする。未露はただひたすらに吐き気が無くなるまで吐き続けた。しかし吐いてる途中にも関わらず、未露は言葉をこぼし始めめる。
(未露)「ごめん……、ごめんね天音ちゃん……オェェ……」
(天音)「謝らなくて良いよ、いっぱい吐いたら良い」
(未露)「ち、ちがうの……、わ、わたしは……、オェェ……」
(天音)「後で聞く。今はスッキリするまで吐くことに専念」
(未露)「オェェ……」
天音は未露が吐き終わるまで背中をさすり続けた。
……………
吐き終わり、吐き気も無くなったところで未露たちは机の場所に戻った。
(未露)「わたし……、わたしは……、人から食べ物を受け取れないの……、今みたいに吐いちゃうから……」
(天音)「……、いつから?」
(未露)「中学の時から……、灰の時か消しかすの時かも……、忘れちゃったけど……、もう……、いつからかも……覚えてないけど……、いつからか急に……、人から【食べさせられる行為】が……、ダメになった……ごめんなさい……ごめんなさい……」
天音が未露に近寄り未露をぎゅっと抱きしめる。
(天音)「謝らなくて良い。こっちこそごめんね、気が付かなくて。ゼリーなら食べられる?デザートで買ってきてて、良い、泣いて良いよ。泣いて良い、謝らないで、未露」
(未露)「……、うぇええん……!!」
お疲れ様です。洋梨です。
書ける範囲だと、灰、消しかす、砂、蝉の抜け殻とか無理矢理食べさせられてますね。




