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眼鏡の男

「こんにちわー」

 男の声で呼びかけられて目を覚ました。慌てて起きあがると、縁側から若い男が呼んでいた。メガネをかけた優しそうな男だ。

「あ、玄関がそちらに…」

 と案内しようとすると遮るように男は言った。

「道に迷ってしまって、申し訳ないのですが駅まで送ってもらえませんでしょうか。」

「……」

 迷った人間がくるのはいつものことだが、駅まで送るとはこれいかに。

 しばらくフリーズしていると男は続けて言った。

「あの、そこに軽自動車があったので…もしかして運転はされませんか?それでしたら僕が運転しますけれども…」

 軽自動車?そんなもんあったか?

 はてなマークを飛ばしながら、縁側にあったサンダルをはいて庭に出る。なんと、家の横に白くて小さい自動車がとまっていた。なんだこれ。

「ああ、ありますね…車…」

 間抜けな事を言いながら俺は自動車の周りをぐるっと回った見た。タイヤは大丈夫そうだ。目立った破損はない。洗車したてとは言えないが、それなりに綺麗そうな車だった。試しに運転席のドアを開けてみる。車のキーもあったので座ってエンジンをかけてみた。問題なくかかる。ガソリンも半分以上ある。さてさて?

「ありがとうございます!」

 男は勝手に助手席に乗り込んできてそう言った。バックミラーもサイドミラーも座席の位置も、全て俺にぴったり合うようにセットされている。たぶん、俺の車なんだろう。記憶にないけど。

「じゃあ…行きますね。」

 首を傾げながら俺はアクセルを踏んだ。過剰なほどゆっくりと山道を下りながら、俺、免許持ってるのかなぁと考えた。運転操作自体はなにも考えなくてもわかる。教習所に通って免許取ったんだろうか、というか俺、戸籍とか住民票とかあるんだろうか。

 男はアルカイックスマイルを保持したまま真っ直ぐ前だけを見ている。何を考えているのかはわからない。さて、この人は生きてるんだろうか。死んでるとしたら俺は死人とドライブしてることになるな。その場合、周りからは一人に見えるのか、いやそもそも車自体見えない?

 しばらく信号もない道を時速三十キロで進んでいると、ちらほら畑の中で農作業をしている人が見えてきた。こちらに気がつくと例外なくガン見してくる。どうやら車自体は見えているらしい。それにしても、見過ぎじゃないだろうか。

「あの、どこまで行くんでしたっけ?」

「駅までお願いします。」

 男は爽やかに言った。そうだな、さっきもそう言ってた。まさか俺が駅の場所を知らないなんて思ってないんだろう。ということはこの人は、本当に道に迷った生きてる人なのかもしれない。困った。どうしよう。

 トロトロとひたすら真っ直ぐに走っていると、人家がそれなりにでてきた。アレはなんだろう…スーパーかな。やたらデカいけど。

「あ、すみません。ちょっとそこのスーパーに寄ってもらってもいいですか?」

 男の言葉に内心助かったと思いながら俺は駐車場に車をいれた。どうやらホームセンターと食品スーパーがくっついている建物らしい。午前中のせいか買い物客はまばらにしかいない。

「ちょっと買い物してくるんで待ってもらってもいいですか?時間かかるかもしれないんで、外で座って待っててもらっても構いませんので。」

 男はそう言うとにこりと笑って車外に出ていった。それをぼんやり見送っていると、なんとなく腹が立ってきた。

 なんかあいつ偉そうじゃない?俺ドライバーじゃないし。さっき俺が運転しなきゃ自分が運転するとか言ってたけど、それ帰り俺はどうすりゃいいの?車持ち逃げする気だったの?

 ぐちぐちと考えた後、大きな溜息をついた。ちがう、一番イライラするのはこの先の運転だ。素直に駅を知らないと言うのか、適当に人が多いところまで走って無理矢理降ろして帰ってくるのか。その場合戻る道がわからないので、俺も迷子になって宿に帰れない可能性がある。ここは大人しく…

「誰かに聞くか…」

 人の出入りはポツポツとあるがいずれも老人ばかりだ。たぶん近所の人だろう。平日なんだろうな。平日に若い?男が道を聞く…普通なような、通報案件のような。いや、道を聞くぐらい普通だろ!俺は道に迷った観光客!

 自分にそう言い聞かせながら車の外に出た。通る人の服装でなんとなく春か秋かなと思った。ホームセンターの前にはたくさんの緑が並んでいた。

 あー、帰りたい。

 溜息を吐きながらノロノロとスーパーの入口に向かっていると、後ろの方で物音がした気がして振り返った。エンジンをかける音が白の軽から聞こえる。あれ?あれって俺の車?車は出口の方へ進み始めた。

 慌てて車に駆け寄ると、運転席には眼鏡の男が座っていた。サイドミラーを掴んで窓を叩く。

「何やってんだよ!」

「すみません、ちょっと急ぐんで。」

 男は笑顔で言うとアクセルを踏んだ。

「いや、ふざけんなよ!」

 俺はそう言って車に追い縋ろうとした瞬間、突然視界が回った。あれ、空が見える…

 それきり俺の意識は途切れた。





 

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