7話 新しい人生を始めよう
久しぶりですね。
1話分の長さがわからず、7話と8話に分けました。
新キャラが登場します。
故郷は半壊。
見るも無残な光景で家屋の過半数は影も形もなく、僕の両親も含めて、その町のほとんどの住人が自然災害にでも遭ったかのように死んだ。
そして、生き残った住民が警備隊が来ると話していたのを小耳に挟んだ。大方、何が起こったのか、調査をしにくるんだろう。
この一連の騒動に、僕は不思議と動揺していないみたいだ。未だ実感がない、というのもあるだろうけど、僕という人間が元からそういう風にできているともいえる。他人に関して無関心無感情。とてつもなく自分本位な生き物だといえるだろう。
それは置いといて。
僕はその故郷を去り、広い涼しい高原をのんびりと歩いている。それはなぜか。
「話せるわけないでしょ………初対面の警備隊に質問攻めされるのは目に見えてるし、この世界の調査力なら生き残った僕が容疑者扱いされてもおかしくないよな。事実を齟齬なく伝えられる自信もないし普通に暮らすっていう今世の目標が潰えるのもごめんだし………あっ」
また、声に出ていた。ぶつぶつぶつぶつぶつと独り言を垂らしに垂らしてしまった。恥ずかしい。
そう、これは僕の癖だ。
以前、妹の菜那に「さすがにちょっとキモい」とツッコまれた時は死のうかと思うほどのショックを受けたこともある。気をつけないと。
「そういえばあのドゥエリって女、死神眷属だって言っていた。というか十中八九、アス様関係だしなぁ」
これからも狙われる可能性が少しでもあるなら、強くならなきゃいけないはずだ。
「ステータス」
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リツィル=シグラッテ
種族:人間(保留:大賢者) 年齢:3(+17)
HP:2000
魔力:40000
知能:2000
体力:500
適正魔法:火、闇
スキル:
【隠蔽】
【転生者】
【簡易浮遊】
【暗神の加護】
【超速学習】
【通訳】
【人間逸脱】
【腐縁】
【超反応】
【原悪】
【超演技】
【物理魔法干渉無効】
ギフト:【不老不死】【???】
称号:〈転生者〉〈頭脳明晰〉〈シスコン〉〈一匹狼〉
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まずはHPと魔力、体力が上がったな。それとスキルが異常に増えた。でもここまでステータスが上がるのは、命の危機に陥った時限定だろうな。
そして称号という欄が増えた。特にバフをかけてくれるわけではなさそうだが、意味はあるのだろうか。
誤解を生みたくはないので、僕はシスコンではない、と明言しておこう。
ギィヤアアアアアアアアアアア!!!!
「……悲鳴? こんな場所に人が?」
こんな事なら居場所を特定できる魔法でも調べておけば良かったかもしれない。
そう後悔しても遅いのはわかっているので、目視で周りを見渡す。人の気配は、ない。
《スキル【空間探知】を獲得。使用しますか?》
「便利だなおい」
どうやらスキルを獲得したようだった。
「よし。闇属性スキル【空間探知】」
液体の膜を薄く張ったように視覚が広がり、木々などの障害物の奥の方までよく見えるようになる。
この高原にも補整された道があったようで、すぐに蛇のような魔物達に襲われている集団を発見した。
豪華な馬車の周りで多くの騎士が苦戦しているのがわかる。
僕はパチン、と指を鳴らす。
「C級火属性魔法【百撃槍】」
炎を纏った無数の槍が弧を描くように空を飛び、集団のいる方向へと向かっていく。魔物だけを穿つ槍だ。これで人的被害は出ないはず。
「こうして人助けをするうちに僕にも運が回ってきたり……というのはさすがにない、か」
僕は良い事をしたような優越感に浸りながら、少し離れた場所に見える街へと歩みを進めた。
*****
「何だ!? この魔法は!?」
その街へと続く街道沿いに、魔物に囲まれた馬車と、それを護衛する騎士の姿があった。
しかしたった今、空から降り注ぐ魔法の槍が魔物達を一撃で貫いたことで、混乱に陥っている。
「A級の魔物であるサーペンティルが、得体の知れない魔法で討伐された、だと?」
ガタイのある騎士の1人が重々しく呟く。
しばらくざわついていると、馬車の中から子供が顔を出した。
「何事です?」
軽やかに外へ飛び降りたのは服を身に纏う少年。
その丁寧な所作と口調からは想像できないほど、背丈は小さく、幼く見える。
爽やかなストロベリーブロンドの短髪。皴一つないブラウスに、胸元には金色のブローチ。
「ネア殿下!? 外に出られてもらっては………!!」
「これ程大きな音が聞こえてくれば当然でしょう。ほう!! これは魔法の痕跡ですか?」
「危険です、どうか馬車へお戻りください!!」
そう叫んだ男の肌に悪寒が走る。
少年の瞳に射抜かれた男は足が竦んで声も出せないままだ。
「護衛、誰にものを言っているのですか?」
少年は愛らしく、誰に対しても平等に接する。
しかし、10歳にも満たない彼が時折みせる、歴戦の戦士のような威圧の表情。
それに抗えるものは未だいない。
彼の名は、ネア=ルンダ=レイノルズ。
まだ幼いながらもこのルンダ王国の、次期国王である。
「護衛」
興味深そうに魔物の死骸を観察するネア。一声かけるとその場にいた全員が一斉に跪いた。
屈強な騎士達がひとりの少年に頭を下げる姿は、まるで宗教画。
「本当に素晴らしい………この魔法を使った者は伝説に残る天才でしょう。その者は街へ向かっているようですので、これから街に入るものをくまなく探し出し、私の元まで連れてきて頂きたいのです」
有無を言わせぬその声からは微かな期待と喜びが漏れ出ていた。
「殿下の、おうせのままに!!」
彼の命に声を合わせる。
騎士たちは内心ざわつきながらも、逆らうことを考えすらしなかった。
再び動き出す馬車の中で穏やかに揺られる。
ネアは綺麗な顔で頬を染め、無意識にブローチを握りしめた。
期待と、強い所有欲の混ざったその声。
「こんな人材に出会える日が来ようとは、ぞくぞくしますね。……絶対、誰にも渡しませんから」
今日か明日中に更新予定です。




