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4話 測定の日


 

 時が過ぎるのは早く、僕は3歳になった。

 ティナの部屋の蔵書は全て読み切り、着実に知識を手に入れていく。


 今日はステータス測定の日。

 少し歩いた場所にある教会に足を踏み入れていた。

 数十組の家族が集まっているのだが、僕の測定はその1番最後らしい。



「それでは、リツィル=シグラッテのステータス測定を開始する。

 まずはこの魔硝石に手を置きなさい」



 なんだか気取った司祭が、どこからか手のひらぐらいの石を出してきた。

 その石には魔力がこもっているようで、不思議な色をしている。

 僕はアルトに指摘されてから普段から行っている、ステータスの【隠蔽】スキルを発動させた。


 ブィィイン______。


 機械のような音を立て、ウィンドウが現れる。

 しかしいつも僕が見ているものとは別の、【隠蔽】されたステータスウィンドウだ。



 ____________________________________


 リツィル=シグラッテ


 種族:人間 年齢:3

 HP:500

 魔力:800

 知能:800

 体力:50

 適正魔法:火、闇

 スキル:【隠蔽】

 ギフト:【物理干渉無効】


 ____________________________________




「おおお……!!!」



 なんか驚かれているが、これでも結構隠蔽スキルが頑張ってくれている。


 隠蔽が発動して偽装されているのは、魔力、知能、スキル、ギフトの部分。

 というか【隠蔽】スキルを使っているおかげで、

 実際の魔力が1万のところを800に、スキルも【隠蔽】スキル1つだけ、

 と偽装してくれているのは本当に有難いと思う。


 ギフトは……まあ、不老不死よりはマシなものが表示されたけど……意味あるのか、これ。強いて。

【隠蔽】も限界がある、ということだろうか。



「すごいな、リツィル!! この年にしてはとても魔力が高いし、知能が抜きん出ている!

 これは将来有望だなぁ!!」



 シアンが満足気に頷いた。微笑んでおく。

 これで魔力が高いとか、本当の数字を見せたらどうなるんだろうか。


「隠蔽スキルがあるのね……じゃあこの数値自体にあまり意味は……」


 シアンに比べてティナは色々鋭すぎる。やめてほしい。



「ん? 何か言ったか、ティナ?」

「いえ、何もないわ。素晴らしいわね」


「子供の平均魔力は200だし、知能はあっても50程度のはずだろう……? まずスキルなんて子供が持っているはずないのに。なんなんだこの家族は……」


 司祭が頭を抱えている。

 子供の平均ってそんなものなのか。そしてなんか申し訳ない。

 測定を終えた周囲の家族たちもなんだか騒めきが起こっていた。


 僕の前へ進み出たのは、小さい女の子。



「ちょっとあなた!!!」



 同い年ぐらいだろう。この歳にしては随分しっかりしているな。

 好戦的な笑みを浮かべ、綺麗なブロンドの長い髪を靡かせた彼女は僕を指差す。



「私と戦いなさい! その数値ならさぞ強いんでしょうからね!!」


 は? 年頃の女の子ってこんな感じだっけ? 少なくても僕の妹はこんなこと言わないよ。


「いやでも、お嬢様、ここで戦闘は……」


 近くにいた侍女らしき女性が、恐る恐るといった様子で彼女に制止をかける。


「いいわよ。近くに闘技場があるでしょう?」



 僕抜きで話が進んでいく。


 えぇ……なんなんだ急に。めっっちゃ困る。

 そういえば、この子は僕のひとつ前で測定をしていたことを思い出した。

 ギフトも持っていて、確か、名前は。


「サリア=ルージェ……!! あの子、【秀才】ギフト持ちのサリア=ルージェだ!!」


 そう叫んだ男はサリアに高圧的な態度で睨まれる。


「なによ。軽々しく呼ばないでくれる? それでリツィルは? ()るの? ()らないの?」


 もう名前で呼ばれてるし。こういう一軍女子ってすごいわ、やっぱ。【秀才】ギフト? 何それ。

 しかしこれは、チャンスでもある。同世代の中でどれぐらい通用するのか。それを知ることができる。


 僕はシアンとティナを交互に見る。

 予想通りシアンはふっと軽く笑いながら僕の肩に手を置いた。


「いいじゃないか。面白そうだ」


「シアン、それは無責任じゃない? 戦闘というのは危険が伴うし……。

 でも、リツィルが好きに決めるべきよ」


「っ……」



 うん。僕が女子と話せるわけがなかった。

 少し悩んでから、服の中に入れていた、しわくちゃになった紙に返事を書く。



「戦う。案内してほしい」




 ***




 闘技場は円形になっていて、ローマのコロッセオのような形をしている。

 中央のステージは広く、ドームライブができそうなぐらいの大きさだ。

 ライブか……菜那に連れて行ってもらったのが懐かしい。


 しかしこの世界はどこまでも異世界定番だなと感じた。あの男神以外は。


 誰かが呼び寄せたのか、そこには既に大勢の人が集まっている。誰かが噂を広めたらしい。

 教会の近くに闘技場があるというのは、果たしてどうなのだろうか。

 うん。考えても仕方ないので諦めよう。


 両親たちと離れ、僕はステージの袖に待機していた。【隠蔽】スキルを解き、小さく呟く。




「ステータス」




 ____________________________________


 リツィル=シグラッテ


 種族:人間(保留:大賢者) 年齢:3

 HP:500

 魔力:10000

 知能:2000

 体力:100

 適正魔法:火、闇

 スキル:【転生者】【簡易浮遊】【暗神の加護】【超速学習】【通訳】【人間逸脱】【隠蔽】

 ギフト:【不老不死】【???】


 ____________________________________




 これが隠蔽されていない今の僕のステータス。うん、これならいけそう……。



「なわけないよな!!」



 思わず叫んでしまった。誰か近くにいないか周囲を見渡す……よかった、いない。


 3歳どうしの戦闘ってなに??なんで誰も止めないんだ!? というか、火と闇の適正があるけど、魔法スキルはまだ覚えてないよな?いつの間にかギフト増えてるし。【???】って怖すぎだろ。



 キィィイイイン!!!!



 ハウリングが聞こえ、慌ててウィンドウを閉じて耳を塞いだ。僕はその時、画面にノイズが走っていたのに気づかなかった。



「さあお待ちかね、サリア=ルージェ様、対するは、リツィル=シグラッテ!!! 双方とも今日ステータス測定を終えたばかりの3歳だぁ!!!」



 司会までいるのかああああ……。

 やばいやばいやばい、こんな大勢で戦えるわけないじゃん!! こんな時……!!



 ピロン。その時、通知音が鳴った。



 《スキル──を取得しました》



「それでは、入場……!!」




 ***




「ふん、逃げなかったのね。安心しなさい。降参するなら見逃してあげるわよ!」



 サリアは余裕ありげに僕に話しかける。

 すると僕の口から軽蔑するような笑いが溢れた。



「はっ……ははは!!! 降参だって?? そんなもの、するわけないだろう?

 君、相当頭が悪いようだね。少し懲らしめてあげようか」



 いやどんなキャラだよおおおおおおお!?

 もう嫌だ。羞恥心でしぬ。穴があったら潜り込みたい。



「決まりね……怪我しても知らないから!」


 彼女は手を前に突き出して息を吸う。

 カッ、と見開くサリアの瞳。何か、来る!!



「我が虚空たる世界の深淵よ、この汝に力を貸したまえ!!!」



 サリアがぐおん、と魔力を込め続ける。

 大声で唱えた詠唱に、観客がザワザワと騒ぐのが聞こえてくる。



「聞いたことのない詠唱だ!!! しかもあの魔力!! 大人にも引けを取らないんじゃないか!?」



 魔力が水へ変化して、収縮が止まった。



「ふっ……お前ごときの魔法など」



 そう僕の口が呟いた瞬間、羞恥心と彼女の魔法が僕を襲う。



「【雨流の静弾】!!」



 大きな水の球が打ち出される。と、思ったけどそこまで大きくない。というか彼女の手のひらサイズ。ただの【ウォーターボール】じゃん、それ。


 そしてそこから導かれる答え。

 彼女まさかその歳で……厨二病、だと!?



「ふん、やはり弱いな」



 僕は一言呟き、その水魔法を片手でかき消した。

 湧き立った観衆も静まり返り、僕の一挙一動に魅了されていく。



「な、何が起こったの!??」



 うん。それ僕も知りたーい。まあというわけで、そろそろネタバラシだ。

 僕が入場前に取得し、発動させたスキル。それは、【超演技】というスキルだった。


 そりゃ人前に出るなんて絶対ムリ。こんな時別人になれたらいいのに!! とか願ってたら勝手に取得していたのだ。何この手軽さ。




 ◯スキル【超演技】

 発動中、演技による言動・動作・表情で、別人のように振る舞える。

 なお、演じるキャラは初回時のみランダムであり、次回以降は複数の候補から選択することができる。



 初めて解説が書いてあって普通に驚いた。

 という感じで、別人のように演じられている。



「魔力の流れと反対向きに魔力を流した……これでお前の攻撃は無効化できるんだよ」


「な……な……なんで、そんな技術、子供が使えるわけが」



 サリアは言葉にならずに混乱している。僕も知識では知っていた。

 しかし、実践なんて、したことなかった。なんで出来るの? やっぱ才能かな。



「こっからは、僕のターンだな」



 僕は、体中に魔力を流し、笑った。

 それに対して、サリアは僕を睨みつけ、手を構える。



「負けるわけには、いかないんだから!!!」




 ***




「降参っ、今回は、降参してあげる!!!!」



 しばらくして、闘技場に彼女の叫び声が響いた。

 威力高っっか。ちゃんと【隠蔽】できてるはずなんだけど、こんなにも差が出るものか?


 ステージにはいくつもの魔法で抉られた跡が残り、煙が立ち上る。

 サリアの目にはうるうると大粒の涙を浮かび、服は土埃で汚れてしまっていた。何もここまでやる必要はなかったと思うのだが。



「ははは!! これぐらいで降参とはな。情けない。だが、僕はここでやめてやるとは一言も」


「しょ、勝者リツィル=シグラッテ!!!」


 司会が慌ててマイクを取った。


 おい、何言ってくれるんだ【超演技】。

 司会が入らなかったら完全に悪者になってたよな僕!! 落ち着け。スキルに罪はない……たぶん。



「よくやったな、リツィル!! 父さんはお前を誇りに思うぞ……!!! だがその……女の子を、なぁ?」


「ええ、初めて戦ったにしてはとてもいい出来だったわ。

 戦闘なのだからもう少し痛めつけても、あの子のためになったとは思うけれど」



 父、シアンは一向に僕と目を合わせず、母、ティナが真面目な表情で呟いている。

 ティナさん、あなた子供の前で何を言ってるんですか?? 異世界人ってみんなこんな感じ?



「リツィル=シグラッテ……。相当な素質はあるが、性格に難があるかもしれんな」

「ルージェ家のお嬢様をあれほど痛ぶるとは」


「あまり近づかない方が……」



 違った。絶っっ対、僕の印象が悪くなっている。

 弁解する術は持ち合わせていないから、もう放っておくことにしよう。


「ちょっと!!!」


 先程戦ったばかりのサリアが僕の腕を掴んできた。

 やり返されるかと身構えるが、彼女は更に強く僕の腕を掴んだ。

 彼女の顔を除くと涙の跡があり、唇を噛み締めていた。


 僕より少し背の低いサリアは、自然と上目遣いでこちらを見る。

 かわい……いや、17歳の僕が3歳児をそう言うのは。うん、やめよう。



「私はサリア=ルージェ!!! い、いつか、あなたを超えてみせるわ!!」



 覚悟を持った真剣な瞳。

 僕にやられて涙も浮かべているのに……この子は僕なんかより、断然強いな。



「ルージェ家のこの私が認めたってことよ!! もっと感謝なさい!!

つ、次会った時は容赦しないから!!」



 ふん、とそっぽを向いて、侍女と共に帰っていく。

 僕と、シアン、ティナはその後ろ姿を微笑ましげに見ていた。


「良い友達ができたみたいだな、リツィル!!」


 友達。前世ではそんなものいなかった。僕に憧れてくれる人や好意を持ってくれる人はいたけど、僕は気持ちを返してあげられなかった。



「そっか……友達、か」



 ザザザッ。


 頭の中でノイズが走った。



 《ギフト【???】により、スキルを取得しました》


 

次回はたぶん日曜に更新します。


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