15話 逃げ一択でしょうよ
お久しぶりです。
明けましておめでとうございまーす!!
……少し遅いですか。
何にしろ、今年も宜しくお願いします。
動揺を押し殺し、改めて辺りを見渡す。
僕が目覚めたのはギルドだと勝手に思い込んでいた。けど実はそうじゃないらしい。
ギルドとは思えない程、煌びやかでいて、壁や床が金の装飾で埋め尽くされているのだ。
「あの……ここは??」
「私の家の、客室です!! お気に召されましたか?? このまま私の配下に……」
「いやそれはならない、んですけど」
素早く断ってから状況を整理。ギルドどころか、一般市民はきっとこんな家に住んでいない。いや絶対。
僕の両親の別荘もこれ程ではなかった。
今更聞くのも気まずい。けど聞かずにはいられない。
「つかぬことをお伺いしたいんですが……ネアさんって、何者??」
「やはり今までの態度。私の事をご存知無かったのですね!! 私は────」
勢いよく開かれる部屋の扉。慌ただしく入ってきたメイド服の女性達。
「ネア殿下!! お母様の容体が急変して……!!」
「すぐ向かいます………名も知らぬ冒険者のお兄様、どうかこの部屋で待ってくれますか? また来ます!!」
バタバタと過ぎ去っていった。容体が急変って、母親が病気か何かなのかな。
あんなに小さい子供が辛い思いをしてきたのかな………。
というか。
今の、聞き間違いじゃないよな。
「────殿下って言った???」
殿下?? 殿下って?? ネアが??
殿下(でんか、英:Highness)は、皇族・王族等の敬称。「殿舎の階下」の意味で、中国を起源とし、同一国内の称号としては皇帝・天皇等に対する陛下より下位に、高官に対する閣下より上位に位置付けられ────って、だめだ。Wikipediaが巡ってしまった。いやそれどころじゃなくて。
ネア=ルンダ=レイノルズ。ルンダ王国の、王族。
「つまり王族の方に失礼な事しちゃったって事!? 死神に会ったのは僕のせいだし、これって責任問題に問われないかな!? ということは、ここって王族の宮殿ってこと?? やばくない?? 普通でいたい僕が関わっちゃいけない所じゃない?? ───はっ!!」
独り言が多かった。反省。とりあえず落ち着け僕。あいつが表に出てきた事でまだ動揺しているんだ。
いまは状況整理。ただ脳を回転させろ。
自分に言い聞かせてひとつ深呼吸……よし。
正確に情報をまとめるため、口を開く。
「もう片方の僕が死神を殺して無事生還。
それからここは宮殿で、ネアは王族だった。
そのネアは多分魔法オタクで、僕に目をつけてる………うん、それが今一番の難問。
変身してこの場から逃げるのが最善だ」
そこまで呟いて思考を内側に戻す。
変身するとしても。今の姿……リリツの兄設定はネアに認知されてるからもちろん使えない。
僕自身、リツィルは村のみんなを殺した容疑がかかっているかもしれないし、元の子供の姿には戻れない。女性姿も論外。
残りはリリツ。S級冒険者として噂が立っているが、それ以外は特に問題はない……はず……だよな??
方針は決まった。善は急げ。
いやでも……わざわざ看病してくれたネアに何も言わずに出ていくのは。
「ちょっと失礼、かな」
そう溢した僕は服の中から羊皮紙を取り出し、軽くメモを書き込んだ。
***
「ネア殿下、宜しいのですか??」
「何です」
「お母様のご病気が……」
様子を伺うように聞くメイド服の女性。
その気遣いに少しの苛立ちを見せながらネアは俯きがちに答える。
「仕方ない。お母様は、昔から体が弱かったですし。その上いつも魔物討伐にも参加してくださっている………いえ、この話はもう止しましょうか」
無言で歩みを進めるネア。
リツィルのいる客室の前まで辿り着き、扉に手をかける。
「お待たせしました────って………」
「お客様、どこに!?!?」
布団は、まるで何も無かったように綺麗に直され、ベッドにはもちろん誰もいない。
何の痕跡も残さず、リツィルだけが消え失せている。ただひとつ、デスクの上に置き残された羊皮紙。
「少しの間お世話になりました。 スズカゼ」
ネアが手に取り読み上げる。彼の表情に段々と笑みが広がり、興奮して早口になる。
「………あの冒険者のお兄様の名は、スズカゼさん!! 先日は気がつきませんでしたが、この魔力の残穢、絶対!! この地区に来る途中襲ってきた魔物から私達を救った、魔力と同じですよ!! 巧妙に隠されていて隙がない!! どんな魔法を使ったかさえ全く予想がつかない!!
………そういえば、近頃話題になっていたS級冒険者がいましたが、顔立ちがどことなく似ていると感じませんか??」
「え?? あぁ、言われてみれば……」
突然話を振られた従者は混乱しながらも返す。
「やはり!! ではもしかしたらご家族なのかもしれません!! まずはギルドに接触しそれから───」
「あの、ネア殿下?? どう致しましょうか……」
「ええ、西南地区全域に捜索願いを出します。確実に私の配下にし、近々始まる戦争にも参加してもらいますよ」
ストロベリーブロンドの髪を揺らし、悠々とした態度で客室を去っていった。
***
逃走は完璧。筆跡も変えたし、髪の毛ひとつも落としていない。いや殺人犯みたいな事言ってるな僕。
結果から言おう。僕はS級冒険者リリツの姿に肉体変化をし、魔力で窓を開け、出ると同時にスキル【簡易浮遊】を発動。窓に倒した魔力を解除して反発力で閉め直す。全部元通り!! って理屈はこんな感じ。
門番のゴウダンとソイダン、略してゴウソイのコンビが見せてくれた西南地区の地図を暗記していたので、できるだけ裏道を通っていく。
死神を殺さなければいけないが、僕には死神の気配がわかるわけでもない。そして、先日のように、僕が逆に殺されてしまうかもしれない。平凡に生きながら、どうにかして敵を探る方法は………。
口元に手を当てて考えていると、手の甲をじっと見つめて一つの策を思いつく。
いや、あるじゃないか。本当にできるのかは定かではないが、手っ取り早く日常を手に入れるには賭けるしかない。
◯スキル【暗神の加護】
暗神アストラルが授ける加護。闇属性の効率が350%上昇し、暗神アストラル召喚とか、なんかいろいろできるようになる。
僕は小声で呟いた。
「聖紋……スキル【暗神の加護】発動。暗神アストラル召喚」
手の甲に紋が浮かび上がり、神々しく、どこか不気味な光を放つ。細い裏道に暗い煙と白い閃光が迸り、聖紋と同じ模様が地面に現れた。
それは僕が初めて見る、まさに神の降臨。
────のはずだった。
「えっあの……突然呼ばないでくれます??」
道の端に蹲り、大事そうにパソコンを抱える男神。
あれ? なんか地上に降りてくると普通だな。羽が生えてるただのコスプレニート野郎……ってそれは言い過ぎたかな。すいませんアス様。
「………また失礼な事考えてますよね??」
「かっ、んがえてないです」
「さいですか。何です?? 死神の居場所??」
「アス様、今日は話が早いですね、そうなんです。死神達の居場所、わかったり……??」
まあ、これはただの賭けだ。わからなくても仕方がないし、僕が探しに行けばいいだけ。
「正確な位置まではちょっと……しかし、アテはありますよ」
あるんかい。
その時、離れた場所から微かに人の話し声が聞こえてくる。ビク、と肩を揺らすアス様。神なのに??
「えーと、今回はもう帰らせてもらいまーす。
そうだ、聖紋だけじゃいちいち俺を呼び出すの、面倒くさいでしょ。化身みたいなの、渡しておくんで。
詳細はこれに聞いといてもらって」
そう言って強引に渡されたのは、手のひらサイズの毛玉?? じゃなかった。アス様によく似た青と黒の髪に埋もれた小さな体。
「ぎゅーぅうっ!!」
鳴いた。え、かわよっ。でもないだろ、論点そこじゃない絶対。
意味がわからない。思わず、らしくもなく僕は小声のままアス様に声を張った。
「これに何ができると!?」
「ほら、人と関わったり沢山魔法使ったりするとほら、成長するとかー、しないとかのやつです。
名前はアッシー!!」
「名前雑すぎません??」
「俺は現世の人間に見つかったらほら色々アウトなんで!! またいつかお会いしましょうッ」
現れた時の紋が再度地面に現れ、アス様の姿が見えなくなると共に薄れ、神聖な香りだけ残して掻き消えた。
物音が近づいているので、慌てて自分の体ほどの幅の横道に隠れ、アッシーと暫し見つめ合う。
(アッシー、様?? 話せたりします??)
肩に乗っているアッシー様にしか聞こえないような声で話しかけてみる。いや、僕はどうかしている。
(ぎゅぅうう??)
首を傾げるアッシー様。
話せるわけ、ないよね、知ってた。
仲間、もといペットが一体増えたようだ。
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