10話 負けず嫌いは…………無理だ、これ
遅くなりましたァ!!!
S級と判定されてしまった僕。
切り替えていこう。とにかく次は戦闘試験だ。
薄暗く、大人一人がぎりぎり通れるかという狭さの螺旋階段を下へ下へ降りていく。その永遠に続くのかと錯覚するギルドの深さに驚嘆した。
地下の蒸し暑さに汗水たらしながらもスキルのおかげで笑顔は崩れない。それがこれから相対するボジラには煽りに見えるようで、先ほどから背後から殺気に似た視線を鋭く感じる。
平和ボケ日本人にはめちゃくちゃ怖いのである。
20分ほど階段を降り続けると広く、円状の透明の膜が張られた場所へとたどり着く。降りてきた分なのか天井の高さは確実に5階分は超えている。その場所は透明な膜で覆われ、そこで行われる戦闘の影響からギルドを守っているのだろうと僕は推測する。
お互いに向かい合い、ボジラは僕を睨みつける。透明の膜の外、安全地帯なのだろうか。ロミユさんは膜の外で地下に透き通る響く声を張った。
「それでは戦闘試験用意…………始め!!」
僕はもう一度ステータスを確認。
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リツィル=シグラッテ
種族:人間(保留:大賢者) 年齢:3(+17)
HP:2000
魔力:40000
知能:2000
体力:500
適正魔法:火、闇
スキル:
【隠蔽】
【転生者】
【簡易浮遊】
【暗神の加護】
【超速学習】
【通訳】
【人間逸脱】
【腐縁】
【超反応】
【原悪】
【超演技】
【物理魔法干渉無効】
【空間探知】
ギフト:【不老不死】【???】
称号:〈転生者〉〈頭脳明晰〉〈シスコン〉〈一匹狼〉
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ステータスウィンドウを横目に襲い掛かってきたボジラを、寸前で横に足を出して回避する。フルオートに変えておいた【超反応】のおかげだ。はっきり言って、僕はこの男に勝てるだけのステータスは持っていると思う。
だけど目立たないためには、それを悟られず自然に相手を降伏させるほかない。どうしたものか。
そう考えている時、
「おいおい、こんな実力でS級冒険者を名乗るつもりはないよなあ!?」
僕を侮辱してるのか? スキル【超演技】!! おっさんを爽やかに煽ってやれ!!
猛攻を難なくしのぎながら強く願う僕。これまで攻撃をほぼ無意識下で回避していた僕は気づかなかった。自分の笑顔は崩れ、息が上がっていることに。
「っきっ、しゅきr、きれっえっ(切れた、スキルが切れてる!?)…………」
【超演技】により無双モードだった思考が一気に現実に引き戻され、かひゅっ、と音にならない空気を鳴らす。僕自身、単語にならない奇声を上げ、動揺で頭が埋め尽くされる。
なんでスキルが切れてる!? スキルの使用には何か制約があるのか?? 検証もしていないスキルを使ったせいだ。慌ててステータスウィンドウを開き、【超演技】の欄を見る。
◯スキル【超演技】
発動中、演技による言動・動作・表情で、別人のように振る舞える。
なお、演じるキャラは初回時のみランダムであり、次回以降は複数の候補から選択することができる。
……ただし、加護を付与されている場合、効果時間はその付与した人物の性格に左右される。
なんだ最後の一文は。見逃していた。
僕の加護といえば【暗神の加護】。つまり僕を異世界に放り込んだアス様の性格に左右される、ということだ。……簡単には使えないな、このスキル。
いっそ恥を忍んで降参しようか。そうすればこれ以上この人たちと関わらないで済むし、話す必要もないはずだ。うん、名案。僕、天才。
降参するため、やられたフリでもしようとボジラの攻撃に近づく。が、彼の叫び声が聞こえてきた。
「どうした!? まさか本当に反撃も出来ないのか!? …………つまんねえなあ!! お前!!」
ボジラの馬鹿にするような言葉に、パニックに陥っていた頭が、すん、と脳に直接冷水をかけられたように霧が晴れ、冴えた。
額に浮き出た汗が頬を伝い流れると、片方の口の端がひくり痙攣する。僕を客観的に見ることが出来たならば、とても気持ちの悪い顔になっていただろう。
いま、このおっさん、何て言った?
反撃も出来ないのか、だって??
前世では勉強は学年一位で、そこそこモテていた。習い事や運動だってやろうと思えばなんだってできた。もちろん僕だけの力ではないのは確かで、みんなに助けれていたのも事実。それも合わせて、大抵のことは平均以上に行ってきたのだ。
目立たないため、話さないために勝利を放棄する?
僕としたことがあり得ない。よほど混乱していたようだ。
転生して、忘れかけていたんだろうか。
「僕は結構、負けず嫌いだったんじゃっ、」
噛んでしまったことにひどい恥ずかしさを覚え唇を嚙みながらも魔法を展開。
普段使用する一段階上。B級火属性魔法を呟いた。
「【閃柱】」
慌ててボジラが長ったらしい詠唱を唱えながら水魔法を形成。遅すぎる。そう感じるのは父さんや母さん、そしてあの死神見習いの強さを嫌というほど見てきた後だからか。
空気が揺さぶられ僕とボジラの間に熱風が巻き起こった。遥か遠い天井すれすれまで届くと、少しの焦げ跡が残る。
僕は魔法に吹き飛ばされぬよう足を踏ん張るが、ボジラはそうもいかなかったのだろう、透明な膜まで吹き飛ばされ無様にぶつかり、変な声を上げた。
僕を馬鹿にしたからだよ、ざまぁ。
落下してくる巨体を眺めながら心の中で馬鹿にしてやった。…………結局目立っちゃったけどね!?
当然、試験は合格。
新人ながら飛び級も良いところだ。
困ったことに、目を覚ましたボジラが異様に懐いた。強いやつに懐くってほんと馬k………野生動物みたいである。再び薄暗く狭い階段を登り地上に戻った僕が、ボジラを従えているのを、ギルドの人たちは怯えた視線で見てきた。
その中には畏怖や警戒も混じっている。僕の体が震えた。
「あぅっ」
人。人。人。息が詰まる。
「………無理だ、これ」
眩暈がすると同時に、後ろ向きに倒れこんだのだった。
***
何か柔らかいものが頬に当たる。くすぐったい。
ゆっくりと目を開けると、青と黒の混じった長髪。
「おはようございます、律さん」
イケメンの大の男(神)に上から覗き込まれ、膝枕ならぬ胡座枕状態である。デジャブだ。
「いやだから何してるんですか……アス様」
僕が呆れた声でそう聞くと、彼───暗神アストラルはツヤのある髪を乱雑に掻く。
「……何をしてるんでしょうね、俺」
その綺麗な顔面を、本気で殴りたくなった。
次回。S級冒険者になったリツィル。王子ネアが動く!!
投稿日時は未定。
定期試験が近いので遅くなる可能性があります。
告知!!!
連載『最強少女の魔法奇譚』
短編『天、声を聴く。』
短編『自分が嫌いな僕のために』
も投稿しています。読んで貰えると幸いです……。
浪崎ユウ、でXやってます。覗いてみてください。




