9話 定番イベント始まった、と思ったら
思ったより進めませんでした。
今回も更新予定ぎりぎりです。
冒険者ギルドへと足を踏み入れた僕。
そして定番イベントは始まった。初ギルドでチンピラに狙われる、あれだ。
僕の周りをガラの悪いパーティが囲む。
「ガキ。アリスさんに色目使ってんじゃねーよ!!」
「王子様気取りか!? にこ、じゃねんだよ、なめてんじゃねえぞこのゲスが!!」
笑顔が、いけなかったのかな。
「おいあれ、A級パーティ、”夕立と泉”じゃないのか?」
「まじか、終わったな………あいつ」
え、この人たちA級? 街のチンピラがセオリーじゃないの、そこは。
一般的にギルドで扱われるランクはD~S級。つまりA級は、そこそこプロの強い冒険者なのだ。
「ここがどこだか知ってるのか!? ああん!?」
「初心者が来るとこじゃねんだよ、西南区ギルドはよぉ!」
やばい、もう帰りたい。
だが僕の頭に浮かんだスキルがあった。そうだ、アレを使おう。こういう時のためじゃないか。
この前は散々な目に遭ったが、今回は“普通“らしく見せられるはずだ。
◯スキル【超演技】
発動中、演技による言動・動作・表情で、別人のように振る舞える。
なお、演じるキャラは初回時のみランダムであり、次回以降は複数の候補から選択することができる。
僕の目の前に映るウィンドウには、3つの選択肢。
現在の外見から推測できる性格に絞られるらしい。
どれどれ? …………爽やか系煽り野郎、クール系見下し野郎、ただのイキリ野郎、と。
「おい、なんか言えよドアホ」
「A級パーティを無視するもんじゃあねえよ?」
どれ選んでもロクなことにならないじゃん!? なんか、悲しくなってくるな自分の見た目に。ウィンドウも地味に口悪いし………流石に泣くよ?
右下にランダムボタンを発見したので、もう、スキルに身を任せることにした。
「聞いてんのかコラ」
絡んでくる輩に首根っこを掴まれた時、綺麗な笑顔を浮かべた僕の口が動いた。
「ああ、もちろん聞いているよ。でも君、こんなに弱い力でA級って………頭は大丈夫か心配になるね」
「お前っ…………!!」
「あ、そろそろこの手をどけてくれないか? 受付に行きたいんだ」
「あの新顔、爽やかな顔しながらじわじわ煽ってるだと………」
「あ、あいつ、あの夕立と泉にケンカを売ったぞ!! 信じられん!!」
爽やか系煽り野郎かぁ~。イキリ野郎よりは、マシか?
掴まれた腕を払うと、”夕立と泉”の男が歯ぎしりしながら睨み付けているのがわかった。
後ろのメンバーも鋭い視線を送ってきている。さすがA級パーティ”夕立と泉”。……全員が強そうだ。
悠然と冒険者達の間を縫って受付にたどり着いた僕。
その背筋は真っ直ぐ伸びていて、普段の僕とはまるで正反対だ。声は透き通っていて僕の笑顔は自然でいて、どことなく冷たかった。
僕はデスクに腕をとん、と置くと、降りてきた髪を静かに耳をなぞり、かける。
目を細め軽く上がる口角。これ爽やかっていうか自分大好き人間じゃないのか!?
「お嬢さん、冒険者登録をお願いできるかな?」
「は、はいっ!! 今すぐ!!」
周りの冒険者達はが愕然とした表情を、受付嬢はなぜだか頬を赤らめコソコソと話し合っていた。
「王子様みたい……」「いや貴族かも……」そんな声が耳に届き、僕は頭を抱えそうになる。
嫌だよ目立つの。いやすでに注目浴びてるけどさ。ほんとなんなのこのキャラ設定!!
戻ってきた受付嬢が綺麗なお辞儀をした。
「ん、んん、改めまして、ようこそ西南区ギルドへ!! 私は受付長のロミユと申します!! まずは、確認事項やギルド規定の説明。書類にサインしてもらいます。それから、簡単なステータス測定と、実際の上級冒険者による戦闘試験を受けて頂く流れとなります」
「へえ。意外と簡単なんだね。じゃあ、説明をお願いしようかな」
ガタンッ!!! と強くデスクを叩く音。
「ちょーっと待った。お前、そのまま俺たちを無視する気かぁ!?」
「ごめんごめん、忘れていたよ。今度は何の用?」
このスキル、楽だわ。僕が頭の中で素数を数えているうちに、勝手に話を進めてくれる。
日本にいた頃にも使いたかったな。体が勝手に動くのは少し恐怖を感じないでもないけど…………。
今は好都合。頼らせてもらおう。
さっき絡んできた男が、肩を掴んだ。僕は軽く瞬きをしながら目線を移す。
我ながらいちいちウザイな。
「戦闘試験だったなぁ!? ”夕立と泉”のリーダー、ボジラ、つまりこの俺が受け持ってやるよ!! B級以上の冒険者ならだ・れ・で・も・試験官をできるんだろう!? お前……正々堂々ぶっ潰してやる」
「ありがたい。先輩の肩を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
うわあ。青筋浮き出てるよこの人。
キャラ違うんだし、知らないからな僕は。
……ただひとつ気になるのは。
このスキル、試験の最中も演技を続けてくれるんだろうか? 僕としたことが検証が足りないまま未知のものを使ってしまった。
もし切れた瞬間、素の僕が顔を出したら───終わる。
A級パーティの前で醜態をさらして、試験どころか人生終了コースである。
強すぎず、弱すぎない。僕は、そんな塩梅を狙わなければいけないのだから。
「ええと、では戦闘試験では試験官をボジラさんに受け持ってもらいましょう。
それではギルド規定の説明に移りますね」
ロミユさんはそれは丁寧に教えてくれた。うん、どっかのニート神とは訳が違う。
どうやらこのギルド、基本は B級以上S級未満 の依頼を回すらしい。
初心者は少なく、メインは魔物討伐だそうだ。
ルールもいくつかあった。西南区ギルドの規則である。
C級以下は加入から一週間以内に依頼を受けろ、とのこと。つまりはニート禁止。
不定期に行われる昇級試験は点数制で、飛び級もアリ。
冒険者同士の迷惑行為は数日間の謹慎。でも多少の喧嘩は許容範囲らしい。線引きがむずいな。
ダンジョン内で死人が出た場合は全てを不問とする。そこは自己責任の世界だ。
このルンダ王国の法律に反する行動はギルドの出入りの禁止が言い渡される。当たり前ですな。
大雑把にまとめるとこんな感じ、だろうか。
「説明は以上となります!! 何か、ご質問は?」
「いえ、特にないよ。ロミユさん。次は、ステータス測定、かな?」
指でデスクの角を優しく触れてほほ笑む僕。やっぱ自分の方が恥ずかしくなるんだよな。
「ええ、ではこの魔硝石に手を置いてもらえますか?」
この魔硝石は、教会で測定したときと同じものだ。
僕は動揺していない。そう、このスキル【超演技】と同時にスキル【隠蔽】も発動させていたからだ。
以前の周囲の驚き具合から平均値を計算し、そこから今の僕の外見───17歳時で順調に成長した場合の平均ステータスを算出してみせる。そのうえで【隠蔽】でギリ隠せる程度。
よし、表示させるべき数値は、これだ!!!
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リリツ
種族:人間 年齢:17
HP:1000
魔力:5000
知能:1000
体力:250
適正魔法:火、闇
スキル:
【超速学習】
【空間探知】
【隠蔽】
ギフト:【物理魔法干渉無効】
称号:〈一匹狼〉
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元の魔力が4万だからな。魔力が多いってことにしよう。
そう、【隠蔽】はかなり有能だ。ほとんど僕の計算と同じになっている。
「な、ななっななっななな、何ですか、この数値は!!??」
突然のロミユさんのリズミカルな叫び声。
ギルド内の冒険者たちの視線が僕に集中する。
「ええと、何か問題が…………?」
冷静ぶってるけどさ。どう考えても問題だろ、この騒ぎようは!!
「何かあったどころか、これは…………!! S級並みのステータスですよぉおおお!?」
「な、何だと!?」
「馬鹿な、初期ステータスでS級判定なんて、50年ぶりじゃないか!?」
「いや、あのキザ顔は貴族筋だろ!」
「俺の彼女がアイツに惚れちまうよ……!!」
「あいつが加入したら俺らの立場が……」
貴族じゃないし。抑えてこれなんですが!?
前世の高校のテストで全教科満点取った時と同じような反応するじゃん………!!
「褒めてくれるなんて嬉しいよ、ありがとう」
そう僕の口が目を細めて呟くと、受付嬢も、酔っぱらいも、隅っこの掃除のおっさんまで────全員が叫んだ。
「誰も褒めてねえよ!!」
『最強少女の魔法奇譚』も更新する予定です。
明日…………テストだ…………。




