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バイエルンの薔薇 オーストリア皇后Ⅰ

オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世の婚約者として花嫁授業というストレスを受けながらも婚約生活を送り、ウイーンへと輿入れするシシッ。


「愛らしくはつらつと

した顔にスリムでほっそりとした体つきは、まさに朝露がしたたる一本のバラのように見えた」


ウイーンの新聞各社は私に好意的な文面で市民に新しく来た皇后の訪問を歓迎してくれた。

挿絵(By みてみん)


この時から私は「バイエルンの薔薇」と称され人民に受け入れられた。


翌日には巨大な都市いウイーンのメイン通りをフランツが用意してくれた豪華な馬車が長い行列で進むパレード。


フランツとパパ、私とママ、そして良家の家族達が順に馬車で移動する。


大通りの両側には多くの市民が婚礼の祝いに歓声を上げて熱狂している。

挿絵(By みてみん)


でも私は見る余裕もなかった。

初めての海外、初めての都会、初めての人、波の様に押し寄せる初めて…

それが好意的であったとしても、人の目線に注目される事に成れていない私には耐えられなかった。

ただ怯え、隣のママに支えてもらいながら涙に暮れていた。

ただただ居た堪れないほどの恐怖心で心臓は今にも止まるかとおもうほどだった。


なんとか行進を終える事が出来たの。



フランツが新皇帝に即位した頃は革命の影響を受けて人気がなかったらしい。


革命の影響で前皇帝フェルディナント1世陛下は退位し、彼が義父を飛び越えて皇帝に即位した。


特にマジャール人の国ハンガリーは彼を認めなかった。

中世直系の王がいなくなり、ハンガリー王女を皇后に迎えていたハプスブルグ家の皇帝が王を兼ねるようになったんだとマイラット伯爵が教えてくれていたわ。


だからこそ自分達の国として独立したいと、反乱を起こすもオーストリア軍と支援したロシア軍に鎮圧された。

ハンガリー貴族達は亡命したり、捕らえられ、処刑されたり、投獄や財産没収されたりと苦難が続いていたそう。


そんな動乱の中でフランツはハンガリー人に暗殺されかけた。


傷は深くて完治するまで一年近くかかったと言ったわ。

逆にオーストリア人民ではフランツに同情するようになった。

若い輝かしい未来の帝国の象徴となったフランツ。


だからこの婚礼は大変な祝賀だった。

馬車の窓から見える祝賀ムードのウイーン市民達へ手を振る事も、微笑む事すら余裕がなかった。


教会に向かう馬車の中で歩兵隊の礼砲の音の後に、教会の鐘の音で私の恐怖と不安は最高潮になる。


私はやはり始終泣いていたの。

ただ自分の環境の変化が怖すぎて16歳だったから。

まだまだ子供でしかも社交界すら無縁だったわ。



ようやく馬車が止まり、扉が開かれた時フランツが見え少し安心したわね。


鮮やかに光る私を見つめる瞳は情熱的で、とても得意げに嬉しそうだった。

私の手をとって馬車から降りようとした時、王冠が扉の枠にぶつかって足を踏み外しそうになった。

優しくフランツが助けてくれる。


些細なしかし緊迫した場面だったわ。


それでは義母はその日を。


「うっとりするようだ。

 あの愛らしい少女の振る舞いは完璧で、優雅で淑

 やかさに満ちた威厳があった」


と日記に書いていたのですって。

でも同じくらいまだまだ私を至らないと思っていたようだったのに。


ようやく王宮に入れたが、この後はまたも王宮内で臣下や各国の大使貴賓客への挨拶。 


もう緊張感は爆発して頭はパニックになってしまった。


泣き出して控えの間へ逃げ込んだ。

しばらく泣いて……。誰も知らないのだもの……。皆怖い……。怖い……。


ようやくホールに戻ってもどうしていいかわからない。

それに何を話したらいいの?


この王宮では皇后からでないと話かけられない。

私は恐怖の為に何を話したらいいか?

すらわからなかったの。


その時私の目に従姉妹アーデルヒルトとヒルデガルトを見つけたの。

2人に抱きついたわ。


欠かさず義母は冷淡に言ったの。


「ここは宮廷です。

 宮廷儀礼に準じて皇后としての儀礼を守りなさい」と。


どうして従姉妹なのよ……。


私はあの方を愛しています。

 あの方が皇帝でさえなければ……

私は叫びたかった。

私は皇帝だから愛したのではない。愛したのが皇帝だっただけと……。



午後祝宴が終わり、ドレスを着替えた。

白色のクリノリンのドレスに裾や袖に金糸や銀糸の刺繍と銀梅花の飾りが。

その後ろにヴュリュッセルレースの豪華な裾ベール、薔薇の花飾り、栗色の豊かな髪をオーストリア風に結い上げて、頭には新調したダイヤの頭飾り、ダイヤのネックレスをつけて。

1854年4月24日アウグスティーナ教会へ向かったわ。

ミュンヘンで盛大なお別れのパレードとなった。

フランツヨーゼフ一世の用意した場所に乗り込んで、祝いに集まった市民にハンカチを振って別れを惜しんだという。

バイエルンという牧歌的要素の強い国から都会で更に歴史のあるハプスブルグ家の皇后となったシシッ。


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