表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/61

バイエルンの妖精Ⅲ

母親たちの思惑をよそに花嫁に選ばれたのは15歳のエリーザベトでした。

はつらつとした若いそして物おじしないその仕草と性格が新鮮だったのでしょう。

真面目で母の言いつけを常に守っていたフランツヨーゼフ1世の初めての犯行でした。

伯母様は皇帝が未婚のまま生涯を終えるなどあってはならないと覚悟を決める。

深いため息をついた後覚悟を決めたように言った。


「貴方の意思の強さははわかりました。

 明日エリーザベト公女に結婚の申し込みをいたしましょう」


「母上。

 ありがとうございます。

 でも強要はしないでください。

 私の伴侶には重い重責を担います」


「でも貴方を支える栄誉ある役目ですよ。

 ナインと言う方はいないでしょ」


翌日叔母とママの話し合いが始まった。

その話が終わるとママが私の所に来て言った。


「皇帝陛下が貴方と結婚したいと仰せよ」


私はあまりの驚きに心臓が止まりそうだった。


時が止まったよう、でもすぐに不安で涙が流れた。


「あの方が?私の夫に?私があの方の妻に?

 えぇ?!」


「シシッ。

 この申し込みは断る事は出来ません。 

 なんといってもオーストリア帝国皇帝陛下でいらっしゃいます」


「あの方の?

 私はまだ未熟で子供です。

 彼を幸せにする?

 そんな事出来るでしょうか?」


狼狽したわ。

だって初恋は知っていても、結婚の本当の意味も皇后になるという本当の意味も知らなかったのに。


「あの方を幸せに出来るでしょうか?

 私はまだ幼すぎるのに。」


ママが抱きしめてくれた。でも震えが止まらない。

ネネも心配……そうだった。

私が皇帝陛下の妻に皇后になる?


翌朝ママが私のサインした結婚承諾書を手に、伯母はサインをしてから2人抱擁し合った。

伯母様から承諾書を受け取ったフランツは駆け足でグランドホテルにやってきたわね。


ロビーでママと抱き合った。


私達の部屋にやってきて、私を抱擁して軽く口つけてくれた。

私の胸が不安と期待に高鳴る。


この日晴れて私は皇帝陛下の婚約者となった。


フランツは嬉しさのあまり部屋の窓から。


「私の花嫁が決まった!

 婚約したのだ」


町の人は歓声と拍手で祝ってくれた。

すぐにロビーに降りた。


ホテルの従業員も拍手でむかえてくる。

もう町は一大祝賀に沸き立った。

23歳の若きオーストリア皇帝の結婚という祝賀に皆が喜んでいるのがわかる。

私は嬉しさと戸惑いと入り混じった気持ちでいたのを覚えている、

挿絵(By みてみん)

イシュルの区教会で皇帝陛下は私を婚約者として紹介する為に6人馬車で教会を訪問した。

すでに私は皇帝陛下の婚約者。


伯母が皇帝陛下と共に私を先を譲った。


もう私は公女だけではない。

未来の皇后。


静かにしかし熱の籠った声で皇帝陛下が言った。


「私の婚約者です」


そう言って私の手をとった。


神父はにこやかに微笑んでミサを行ってくれた。


そのミサを終えた私を待っていたのは市民の花弁による歓迎だった。

私に美しい花弁が降り注ぐ。


バイエルンの王夫妻、母の姉プロイセン王妃エリーザベト伯母様が祝に来てくださった。


そうこの喜びが。

そして幸せを感じる。

そして皇帝陛下の嬉しいそうな笑顔が私を更に押し上げてくれる。


皇帝陛下を幸せにできているの?

出来るのかしら?

私に。

と当時は思った。


私はこれからの生活に不安を覚えながらバーデンバーデンから急いでやってきた不機嫌そうなパパがイシュルに到着した。


明らかに私の婚約を喜んではいるようには見えないけれど愛おしそうに私を包み込んだ。


「シシッ。

 お前が考えている以上にウイーンは寒い。

 そして窮屈だ。

 お前はまだ幼い。

 しかしもう取り返せない。

 幸せになれるかどうかはお前次第だよ」


私を抱きしめたその腕と肩は震えていた。


今思えばまるでこれからの試練と困難を知っているかのようだった。


意味がわからなかったけど、パパがあまり嬉しくない婚約なのはわかった。


19日イシュルの町の人々はこの婚約を祝ってくれて、私達に会うと明るい笑顔で接してくれた。

ママと伯母様も皇帝陛下が嬉しそうにしているのが伝染したのか嬉しそうに言った。


「可愛らしい」


「あまりに幸せすぎて今何日なのか?何時なのかわからなくなります」


と思っていたのですって。

挿絵(By みてみん)

田園風景、川、山、湖を馬車で、舟で、フランツとの遠出したわ。

乗馬も狩猟もしたわ。


カイザーヴィラにブランコまで作ってくれたわね。

そして囁くのよ。


「僕が今どんなに幸せかとても言葉には表現できない」って。


そして私に沢山の贈物をくれたわ。


舞踏会も!

幸せな時は今思えば婚約時代が一番幸せだった。


楽しくて幸せでバート・イシュルの滞在は瞬く間に過ぎた。


そしてやってきたしばらくお別れ。

彼はウイーンに帰ってしまう。

私達はポッシー館にかえらないといけない。


陛下はザルツブルグまで見送ってくださったわ。


涙が止まらない。

別れの時に彼は優しく口つけてくれた。


伯母様にも抱擁した。


その後伯母様は無表情で言ったの。


「シシッ。歯をみがきなさい。

 黄ばんでいるわ。」


ショックだった。

この後歯へのコンプレックスが私からほほ笑みを奪う事になる。

誰にも汚い物を見せたくない。

自然と声も小さくなった。

内気なんかじゃない。


伯母様がこの婚約を快く思ってはいないのかも知れないと思って、悲しくて不安になった。


これが私の苦難の始まるだとはこの時はわからなかった。

わからないほど幼かった。

伯母様は他の姉妹に手紙を書く時、いつも私を褒めるけれど、それは本心ではなく相手へのハプスブルグ家の優越感を見せつける為だったわ。

双子の姉ザクセン王妃にあてて。


「自分はまったく意識していないだけにいっそう良い印象を呼び起こしたのです。

 喪服だったにもかかわらず…簡素で高貴なハイネックの喪服を纏ったシシッは魅力的でした」


って。

でも私に対しては違った。

私にはわからなかった。

そんな高等な行為は理解出来ない……今も。




花嫁に選ばれなかったヘレーネ(ネネ)はこの後ショックのあまり欝病になってしまいます。

さてヴィテルスバッハ家は神経系統に問題があるようで、シシッの姉妹は全員欝病に悩まされました。

本家も同じく精神に問題があったり、癲癇や、今でいうある種の発達障害が度々現れていました。

近い血の近親婚の結果と考えられています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ