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生と死とその狭間でⅡ 息子ルドルフ皇太子の死Ⅰ

1898年1月30日

その朝侍女に髪を梳かしている時だった。

ギリシャ語の教師にホメロスを読ませていたわ。


扉をノックする音の後にイーダの悲壮な声が聞こえたの。


「陛下 ノブスカ男爵が今すぐにお話したいと言っております」


「えっ?この時間に?

 少し待つように。または後で…」


イーダの更に悲痛な声が続く。


「皇太子殿下について悪い知らせが」


「え??」


急な接見を希望したノブスカ男爵が深々とお辞儀をして静かに震える声でゆっくりと告げたのよ。


「陛下………皇太子殿下がお亡くなりになられました………」


最後まで聞いてられなかった私の頬に自然と涙が流れてきた。

なんだか現実的なないような気もしたのを覚えているわ。

そうこの世はまだ私に試練を与えるのかと思った。


「亡くなった……ルドルフ……ルドルフが……」


慟哭の涙が止まる事を知らずにただただ流れてベットに倒れ込んだわ。

悲しくて……辛くて……どうして神は私の試練を……。


そんな時、皇帝陛下がお越しになったのよ。

勿論陛下にはまだ知らせていないとノブスカ男爵は言っていたわ。


「まだよ。

 まだ陛下にはお越しになれないように」


私はイーダに叫んだわ。

自分の整理がついていなかったのだもの。

無理だった。


少しの時間まるで永遠の時の中にいるようだった。

でも皇帝陛下に御話ししない訳にはいかない。

それにこれは私がお伝えしないとと思ったのよ。


「いいわ。入っていただいて。

 神の御加護を祈るだけだわ」


自分が絶望の淵にいるのがわかっていたけど、夫の事を思うと気丈に振舞わないといけないと変に冷静だった。

覚悟を決めたあの時今でも覚えているわ。


その後夫に「ルドルフの死」を告げたの。


私達の息子が死んでしまったことについて。


再びの悲劇が私達を襲うと二人。


夫はワナワナと口元が震えて私の手を取ったわ。

私達は声も上げずに泣き合った涙が二人を包んだわ。

そう一番上の娘を亡くした時以来の大切な子供の二人だけの…。

不幸だったの?そんなに世の中を憂いたの?


あまりに突然で私に瓜二つの魂を持ちながら、理解し合えなかった子と親である私と貴方。

どうしてこんな事になってしまったの?


しばらく抱き合って、夫はようやく冷静になって部屋を出たわ。


そろそろシュラット夫人の訪問があるはずから彼を慰めてくれると思って少しだけ安心した。

私はこの後ヴァレリーにも知らせないとと思って娘を部屋に呼んだの。


娘は不思議そうに部屋に入って来た時、私は泣いていたのよ。


「ママ?

 どうしたの?

 何があったの?」


不思議そうに聞くヴァレリーの瞳を見つめながらまるで本を読むように告げたの。


「ルドルフが…もうだめらしいの…」

娘はしばらく表情をこわばらせて言ったわ。


「自殺したの?」


「どうしてそんな事?

 違うは毒を盛られたのよ」


その時よ。

夫が入り三人で抱き合ったの。


重い沈黙の後、夫は侍従に言ったのよ。


「シュテファニーを呼んできなさい」


そして息子の家族に夫の、父の死を知らされたの。

息子のルドルフは私の唯一の男子だった。


長女のゾフィーが病死した後、何とか立ち直って一年後妊娠して難産の末生まれた初めての息子だった。

あの子を出産した後原因不明の高熱にうなされて、しばらく起き上がれなかったわ。

なんとか体調は回復したけれど、あの子を手元に置くと強い意志が持てなかった。



挿絵(By みてみん)

将来のハプスブルグ帝国の後継者、夫、義母、帝国中が喝采で迎えられたあの子。

帝国の未来を一身に受けた子。  

私は誕生は嬉しかったけれど心は晴れなかった。

何故なら必ず息子は私から離されると確信していたし、まさにその通りに義母に奪われたわ。


若くて未熟な皇后には未来の皇帝の養育を任せられないと。

ゾフィー達を義母の反対を押し切ってハンガリーに同行させた時、チフスにかかってゾフィーは死んでしまったの。

義母は私を責めなかったけれど、私は育児に自信を無くしたわ。

もう彼を取り戻す戦いをする気力もなかったの……。


ただ許された時間だけ面会をしたて抱いたわ。


自分の子供なのに可笑しな話でしょ。

抱きながら悲しかったわ。

悲しすぎて会うのが辛すぎて…我が子なのに他人の子の様に距離をとって……。

愛情が深くなってあの子を取り戻して、再びゾフィーの様に殺してしまったらどうしよう……。

どうしてもその呪縛を解く事が出来なかったの。

 

ようやくあの子の教育に「待った!」をつけられるようになるまで何年もかかったわ。


あの子の養育係りだった男ゴンドレクール大佐は躾、帝国の未来の皇帝にさせる目的の為にまだ幼いあの子に虐待していたのよ。


鞭で打ったり、冷水を浴びさせたり、過酷な度を過ぎた運動、寝ているそばで銃を撃ったり、動物に襲わせたり、森の中で一人置き去りにしたり、そんな毎日が幼い息子にいいはずはない。

私が気が付いた時には精神的に追い込まれ、神経過敏で委縮した病弱な子になっていった。成人してもその心理的な精神は不安定で罪悪感と自己否定感の強い人物になってしまった。


大佐の虐待の事実を知って私は激怒したわ。

その時ようやく我に返ったの。

私しかあの子を救えないと。

夫に息子の教育係りの解任をしないと、離婚するとせまったのよ。


私達はカトリック信者よ。

離婚は大罪と言われていたから。

流石の夫も私の意見を聞いてくれたわ。

教育係を補佐官のトゥルンベルグ伯爵が任命された。


ルドルフは温厚な教育者に託され成長していった。

好奇心旺盛で自由に多くの知識を吸収していったと聞いていたわ。



あまりあえなくても嬉しい手紙や、久しぶりに会えた時にはキラキラした瞳で私を見つめていたものよ。


皆が思う親子関係ではなかったかもしれないけれど、青年期にはそれなりに彼の未来は輝いているようにも見えたわ。


成人した息子は頭が賢く繊細で優しい子供に成長したの。

でも幼少期に一緒にいなかったという過去は私達のその後を大きく左右したわ。


私達は家族というにはまとまりがなく他人行儀で、次女のギーゼラがお嫁にいってから彼は孤独だった。

夫は彼を後継者として接するあまりにあえて冷淡な態度だった。


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