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三題噺もどき3

無駄思考

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくご。

 


 コンセントを刺し、扇風機のスイッチを入れる。


 風を直接受けるのは嫌いなので、弱にして少しそれた位置に向ける。

 それでも十分、涼を取る分には事足りる。暑いんだったら冷房をつけなさいよと言われているが、仕事を辞めて収入がなくなった手前、あまりこう……金がかかりそうなことはしたくないと思ってしまう。先月の給料分までは、今まで通り半分は家に入れるつもりではあるけど。いらないとは言わないだろうし。

 まぁ、それで倒れたたら元も子もないので、暑すぎれば冷房をつけようかなという判断に今は至っている。

「……」

 つい数分前に起床して、特に何をする気にもなれずにぼうっと寝転がっていたのだけど。

 腹の虫が鳴ったので、リビングに降りてきた。両親はすでに出勤、妹は2人とも学校だろう。1人は昼過ぎにはまた帰ってくるかもしれない。今日は部活あるんだろうか。

 ……とりあえずは、顔を洗って、水分補給をして、扇風機をつけたまではいいのだが。

 そのままの流れで、ソファに座ってしまったので、またやる気を失った。

「……」

 空腹だったから降りてきたはずなんだけど、こう。

 ここに来た瞬間に、食欲が失せたというか、腹は減っているけど食べる気にはならないと言う状態になってしまって、さて、どうしたものかとなった。

 幸いというか、我が家にはお菓子が入ったカゴがあったりするんだが、その中を見てもそこまで食べる気になるものがない。多分、母親が職場でもらってきたモノなんだろうけど、甘いものばかりでちょっと今は違う。

「……はぁ」

 何に対してかも分からない溜息が漏れ、ソファに沈み込む。

 頭まで背もたれに預け、視界が逆さまになる。

「……」

 開かれたカーテンの先には、外の景色が広がっている。

 隣に立つ一軒家。その奥にはアパート。

 そして、晴れた空に、白い雲。まばゆいほどに降り注ぐ日差し。

 きっと外は昨日のように、それ以上に暑いのだろう。

「……」

 退職してから数日しかたっていないが、昨夜上の人から連絡が来た。

 電話ではなくて、メッセージではあったんだが、あの人の名前を見るだけで身構えてしまうのがホントに嫌だ。もう関係ないと言い聞かせつつも、嫌な感覚はいつまでも残る。

 まぁ、連絡自体は、どうやら送迎会をしたいから、どこか開いている日はないかという連絡だった。そういうのって退職する前にするもんじゃないのかと思ったが、今はまだ有給消化中ではあるので、タイミング的にはおかしくはないのか。

「……」

 というか、正直言うと、そういう送迎会とか、してほしくないと言うのが本音なのだが。

 あの場にいるのが苦痛だったからやめたと言うのもあって、あの人に会うのがつらいからやめたと言うのもあって、もう一度顔を合わせないといけないと考えるだけで頭が痛くなる。若干の息苦しささえ覚えるんだから、自分の弱さに吐き気がする。

 それでも、断るなんてことはできないので、いつでも大丈夫だと返信はしておいた。

 あちらは仕事の都合もあるのだから、あっちに合わせる方がいいだろう。

「……」

 その返信を返すのにも、時間を要した。なんというか、たったそれだけと思うかもしれないが、たったそれだけでもあれこれと考えてしまうのだ。

 失礼な文章になっていないかとか、不快にさせないだろうかとか、おかしな文になっていないだろうかとか、これだと堅苦しすぎるだろうかとか。少々の短い言葉でも考えてしまう。

 あの人だからというのが大きいけれど、いつだってそうだった。

「……」

 昨夜その連絡を返してからも、返事がなかなか来なかったり、既読がついたのに何も動きがなかったり、忙しい時に送ってしまっただろうかと考えたり、何か気に障ったのかと考えたり、もっとこういえばよかったのかと考えたり。

 ―あの時もこの時も、もっとこうすればよかったのかと考えだしたり。

「……」

 今も、昨夜のことを思い出したせいで、あれこれと考えだしている。

 そういえば、今朝になっても連絡が返ってきていなかった。

 何だろう、やっぱり何か気に障ったんだろうか。何かトラブルにでもあったんだろうか。それとも何か別のことがあったんだろうか。

 する必要のない思考まで、ぐるぐると回りだしてしまう。

「……」

 このままでは、思考が沈む一方でしかない。

 とりあえず、何か気を紛らわそうと、近くにあったリモコンに手を伸ばす。

 電源を入れると、すぐに耳に飛び込んできたのは興奮した様子のアナウンスだった。

「……」

 どうやら、オリンピックの様子を流しているようだ。

 そういえば、世間はオリンピックの話で持ち切りだったな。

 映された会場は満席で、歓声が上がるたびに、その盛り上がりや熱気が容易に想像できる。

 あんなに何かに夢中になっていられるのが、羨ましくなってくるくらい。

 彼らは国を背負い、懸命に戦っている。

「……」

 あまり、スポーツそのものに興味がないので、リアルタイムで見ることはないのだけど。

 この間父が見て、盛り上がっているのを聞いたりはしたけど。

 あぁ、でも某SNSではよく見たりはするなぁ。射撃とか棒高跳びとか空手とかバスケとか。開会式の事とかいろいろ。情報が散り散りで、あまりちゃんと理解はしていないが、良くも悪くもその話題で盛り上がっていると言う印象がある。

「……」

 見るのも疲れてすぐにスマホを閉じてしまうんだけど。

 あと、通知を見るたび、心臓が跳ねるから、スマホから離れていたいと言うのもある。

 なんというか、連絡手段が簡単になったのはいいが、プライベートと仕事の境界線が薄くなってしまった感はあるよなぁ。おかげさまで、スマホ依存にはならなかったけど。

「……」

 そういえば、そのスマホを自室に置いてきたままだった。

 いや、別にいいんだけど、昨日の連絡の返信が来ていたら困る。早めに返事を返しておかないといけない。

 ―が。

「……」

 くぅ―

「……」

 そのまえに、思いだしたように鳴り出した腹の虫をおさめることにしよう。

 何か食べるものあったかなぁ。







 お題:晴れた空・棒高跳び・満席

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