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うわめいどつよい

 無事ギルドでのお馴染み(テンプレ)を済ませたクー達は次の日、最低ランクでも受けられるナオリ草という薬草の採集の依頼を受け、アンマルの街から少し離れた草原まで趣いていた。


「ふふんララよ、今度こそどうだ? ナオリ草率、百点ではないか?」

「……クー様。今回は十五本中、なんと五本がナオラナ草です。このままギルドへ納品すれば、まず未達成と減点間違いなしですね」

「……そんなぁ」


 一瞬で仕分けてみせた試験官メイドのララに容赦なく不合格を言い渡されたクーは、その場で崩れ落ち、地面へと膝をついてしまう。


「うぐぐぅ……まるで見分けが付かないぞ。薬草の定番ナオリ草と死には至らない程度の毒を持つナオラナ草。どうしてこんなにややこしいんだ。逆にララはどうやって見分けてるんだ……?」

「知識と経験です。ナオラナ草はこうやって擬態し、他生物に誤認させ、種子を運ばせる種。言うなれば彼らなりの正存戦略、生きようとした進化の答えなのです。例え人には過ぎた毒であったとしても、自然の一端を摘んだ者として、在り方には敬意を払っていきましょうね」


 俯きクーをララは優しく労いながら、ナオリ草に鼻を近づけ、突き抜ける葉の香りに目を細める。


「まあまあクー様、あまり気を落とさないでください。最初にしては上々の部類です。ナオリ草採集の依頼でナオラナ草をギルドへ提出し減点を喰らう、これは一人で突っ走るような新人冒険者にとっての通過儀礼みたいなもの。自信家情な新人の鼻をへし折り、信頼できる他者へ選び頼る選択を覚えたり、より勉学に励むきっかけとしての定番ですから、クー様も例に漏れなかったというだけの話ですよ」

「……しかしな。こうも間違えて摘んでしまっていては、植物への敬意もクソもないのではないか……?」

「ふふっ、大丈夫ですよ。薬がときに毒となり、そして毒もまた薬となるように。このナオラナ草にも需要はあるのです。もちろん限度はありますが、クー様にはこのララがいますので、遠慮なく間違えていきましょうね」


 クーの疑問にララは微笑み、手に持っていたナオリ草を置き、そばに置いてあった布で蓋をしていたストローバスケットを手繰り寄せる。


「ここまでにして昼食にでもしましょうか。お疲れ様でした、クー様」

「わーいお昼だ。ララ、今日は何持ってきたんだ?」

「サンドウィッチです。アンマルには贔屓にしているパン屋がありますので、今日は少し奮発してみました」


 バスケットから取り出された、中身のぎっちりとしたサンドウィッチに、クーは目を輝かせる。


「うーんうまうま、腰が痛い。しかしララよ、薬草採集はこう……報酬の割に、意外と骨だな。どこの業界も新人というのは安月給で下働きが基本なのか?」

「薬草採集の依頼は新人ですら割に合わずに避けるというのが共通認識ですからね。ナオリ草採集はその中でも少々の目利きが必要ですので……まあ、つまりはそういうことです」


 ララの言葉に、サンドウィッチの中に嫌いな食べ物を見つけてしまったクーは、ものすごい嫌な顔をしながら首を傾げてしまう。


「……それで供給は追いつくのか?」

「店など一定以上の量が必要になるのなら、採集を生業としている冒険者と固定で契約。個人で賄うのであれば、自分で栽培なんて手もあります。新人が受ける依頼のは誰が受けずとも世が回る、新人達への救済の面もあるのですよ」

「へー」


 ララの豆知識をおかずに、クーはサンドウィッチを食べ進めていく。


「ところでクー様。中のトメイトを器用に避けようとしないでください。身体に良いんですからお残しは駄目ですよ」

「……味も食感も、俺が嫌いなの知ってるくせに」

「冒険者や市民にとって好き嫌いは贅沢。虫でも泥水でも啜れる気概を持たなければやっていけません。成長期であれば、なおのことです」


 クーはララの有無を言わせない意見に返す言葉もなく、クーがクーになる前からの厭物(えんぶつ)、トマトことトメイトも一緒にサンドウィッチを完食した。


「ごちそうさま。ララの料理は……なんていうか、母親の味よな。我が屋敷自慢のシェフ、エーエーの料理とは違う温もりがある。とっても好きだぞ」

「……お戯れを。手慰みの軽食一つでそのような好評価、あまりに恐れ多いです。あと、クー様の母上はミーア様です。何度も言いますが、ララめを母などとは呼ばないように。いいですね?」


 ララの持ってきたお茶を食後に嗜みながら、クーはララの注意へ露骨に不満を抱いてしまう。


「えー?」

「嫌でしたら、このサンドウィッチは没収ということで──」

「わーわー! ……まったくララは意地悪だな。俺にとって、二人の母親の代わりはお前だというのに」


 クーはララの否定に、何故か胸の奥でチクリとした感触を覚えながら、ブー垂れたように不満を露わにする。ちなみにマリアナ・ズーハルトという義母の存在は、数は疎か思考にさえ入っていなかった。


「さて、食事を済ませたのなら、そろそろ街へ戻りましょうか。長居は無用……おや?」


 立ち上がったララが帰り支度をしようとした矢先、一際強い風が吹いたと瞬間、穏やかな草原の静寂は鈍くも重い激突音によって打ち破られる。


『グルルルゥ……』

「ぐうっ、ああくそっ。ただのボア狩りのつもりで来たのに、なんでこんな所に上位種がいるのよ……!!」


 クー達の正面、少し離れた場所にて勢いよく地面に転がされた金髪の少女は、トコトコと歩いてくる赤黒い体毛をした四足の巨躯──猪のような怪物へと睨みながら、槍を支えにしながら立ち上がり、血の混じった唾と悪態を吐き捨てる。


「ララ、ララ。なんか赤いぞあのボア。なんだあのボアは」

「ブラッディボア。緑溢れる草原に合わぬ、血に塗れた突撃獣ですね。ズーハルト領ではまず見かけない種のはずですが……血を吸ったボアが突然進化でもしたのでしょうか?」

「突然進化?」

「生物に稀に起こる進化現象です。稀な中でも一層稀ですが、人に発生した例もございますよ」


 獲物と狩人。突如として現われた両者をよそに、首を傾げたクーへ、ララは簡潔に答えを返す。


(突然進化……ああ、リリスのあれか。こんな所で拝めるとは幸運だな)


 突然進化という単語を聞いたクーは、【めがゆりTS】に出てくるヒロインの一人を思い出し、なるほどと納得しながら目の前の真っ赤で大きな猪と原作知識を擦り合わせた。


「ククッ。どれ、腹ごなしに──」

「いけませんよクー様。人と獣は別。無礼ながら、今のクー様では手に余るかと。なのでここは後学のため、このララめにお任せを」

「ほう?」


 立ち上がろうとしたクーを制止したララは、仕方なしにと軽く息を零してすぐ、軽い一跳躍にて傷ついた女性のそばへと辿り着いてしまう。


「くっ、無駄に開けた場所でば逃げ場なし。こうなりゃやるしか……!!」

「もし、失礼します。差し支えなければ、私(わたくし)めがご助力いたしても?」

「ああ助か……って、人!? え、うそっ、メイドさん!? ええっ、えええぇ!?」


 驚く金髪の少女をよそに、一礼して前へと出たララは、スカートの中より短剣を取り出した。


「我が愛剣、狩りにて抜くのはいつ以来でしょうか。──では、失礼」


 短剣を鞘から抜き、翡翠の刀身が顔を覗かせたその瞬間。踏み出す音さえなく、突如としてクーの視界からララの姿が消失する。


「……ククッ、クククッ! 見事だララ! まるで追えぬとは世界は広い! 素晴らしい!」

 

 クーは目の前の光景に、目を輝かせ、腹の底よりの讃辞を露わにする。──絶命し、ドシンと大きな音と共に巨体を横たわらせたブラッディボアへ。そしてその奥にて、悠然と血を払い、短剣を鞘に収めるララの姿に。


(ララの姿がブれ、再び見せた瞬間にはもう終わっていた。……正直、どう短剣を振ったのかさえ捉えきれず、足捌きも辛うじてしか見えなかった。……ククッ、ララが強いのは知っていたが、まさかここまでとは恐れ入ったよ)


 クーはただ戦慄するしかなかった。信を置く付き人、母親みたいな教育係の女性が垣間見せた、背中さえ窺えない実力の高さに。


「う、嘘ぉ……。メイドさんが、あのブラッディボアを、一瞬で倒しちゃった……」

「冒険者様。討伐に割り込んでしまったこと、心よりお詫びいたします。お怪我はございますか?」

「あ、ないです……こちらこそ、本当にありがとうございます……」


 槍を支えにしながら呆然と立ち尽くす金髪の少女へ、ララは再度一礼し、クーの下へと歩いて戻る。


「どうでしたかクー様。ララめの戦い、今後の参考になれば幸です」

「すごい、すごいぞララ! 俺、とても感動した! 今度からララにも戦いを教えて欲しいくらいだ!」 

「お断りします。ララめに学ぶより、まずはバルバリアン様から王道を盗みきってくださいませ」


 クーの要望を一刀両断したララだったが、どうしてか、少しだけ頬を綻ばせていた。

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