6話 新たな名のカラスと共に
背中に黒い翼がついた不思議な男と一緒にご飯を食べるが、男は私を警戒しているのでそのままソファに座り、私はそこから離れた所にあるテーブルにつき、食べ始める事にした。
私が先にミルクパン粥を食べるのを見て男はおそるおそるとミルクパン粥を一口食べた。
(口に合うかな…?)
すると男は目を大きく見開きながら勢いよく食べる。
どうやら口に合ったみたいで安心したが…。
「そんな急に食べるとお腹痛くするよ」
「__っ…あ、あぁ…わかった。
あと、この粥ってやつ、悪くねぇ……美味いな」
「お、それは嬉しいな、ありがとう。
まだたくさんあるけどおかわりいるか?」
男は黙りながら空っぽになった皿を渡した。その皿にミルクパン粥を盛った後、男はまだ私を警戒しながらゆっくりと食べ始めた。
何だか周囲を疑うその姿…本当にカラスみたいな男だな。
いやカラス人間か?
…たくさんあったミルクパン粥はこの男が全部食べ尽くし、鍋の中が空っぽになった。
すると男は立ち上がり、外へ出ようとした。
「…食べ物、ありがとうな。オレは、ここから去る」
「じゃあ自分の家に帰るのか」
そう言うと男の足は止まり、顔を俯いた。何か悪い事でも言っただろうか?
そういや自己紹介してなかったな。
礼儀としてまず私から名乗るか。
「名乗りを上げずにごめんなさい。
私の名前は金山…じゃなくて、ミノリ・カナエって言うんだ。
神様の力でこの世界に転生したみたいなんだ」
「…はっ?神様?転生?」
あ、変な女だと思われたかもな。
まぁそうだよな。いきなり神様とか転生とか急に言われたら頭おかしい奴だと言われても無理ないか。
訂正でもするか。
すると男は私に少し近づき目を見開きながら問いかける。
「…転生?神様の力でか?」
「えっ私元々は地球っていう惑星から…この世界の神様、確か…創造神ジェネス様の加護でこの世界に生まれ変わったんだ」
「ジェネス様!!?」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も…母さんから聞いたことがある。
…この世界を創りだしたと言われている神様!!
だが創造神様の名前を知っているのはほんのわずかしかいないと聞くが……そうだとしたらお前、本当に神の許しを持った異世界の“勇者”なのか!?」
「“勇者”?
私はそんなおとぎ話に出てくるような凄い人じゃないよ。
その神様からは何も強制的なお願いされてないし、むしろこの世界でのんびりと暮らしてねって言われてこの世界に転生したんだよ」
すると男はますます驚いた。
「のんびりと暮らして……だと!?
それだけなのか!!?」
「うん、それだけ」
男は私を見ながらありえないと表情をし、ふらつきながらソファに座り込んだ。
私はとりあえず飲み物を用意した。バモゥモのミルクを注いだコップをこの男に渡す。
「よくわかんないけど、まぁこれで落ち着こうよ。
ミルク一杯どう?」
「…何“酒一杯どうだ?”って誘い方するんだお前…いやミノリだったな。
まぁ…一杯もらう」
男はコップを受け取り、一口飲む。
すると男の目が鋭くなりながら黙ってぐびぐびとミルクを飲み干した。
「ぷはぁっ!美味っ!!」
「それはよかった。
なぁ…私、自己紹介したからさ、君の名前を聞かせてよ?」
すると男は黙り込んだ。
…しばらくしたら口が開いた。
「ティオ…ティオ・クロウドというが……もう死んだ」
「死んだ?君今生きてるじゃないか?」
「…オレの事話す前にミノリの事を話してくれたら理由を話してやる。
何故この世界に召喚されたのか?
創造神様は何故お前みたいな女を選ばれたのか?」
「それもそうだな。
相手の事聞く前に自分から話さないとな。
私ね元の世界では死んだんだよな」
「…はっ?だがお前は生きて……そういやお前転生したと言ってたな」
「うん、創造神様の加護のおかげで無事に転生でき…」
「はぁっ!?そ……創造神様の加護だとぉっ!!?」
ますます驚く男…ティオは放って置いて、私はこの世界に来る前の事を話した。
話が進んでいくとティオの顔色が青白くなり、またありえないっと訴えているような目で私を見る。
「……ミノリの元の世界…地獄の世界なのか?」
「いや、フツーの世界だけど?」
「ありえねーだろフツーは…母親が浮気に、父親からの暴言・暴力に家事や金稼ぎ全てお前任せで自分は酒三昧とか…。
それに大量かつ素人には難しい仕事…理不尽すぎる上の者からの説教に、何もフォローしねぇ冷たすぎる仕事仲間…異常すぎるほどの労力消費……お前、よく二十七年間生きてきたな!?」
「えっ!?そんなひどくはないと思うけど…私が可愛げなく要領悪かったからあーなっただけだよ。
つまりえっと…自業自得ってわけだ」
「それは違う…お前、気づけ___ッ!
はぁ……それにその父親が投げた皿が頭に当たって死んで……元の世界で生まれ変われない代わりに創造神様の加護つきでこの世界に転生したのか…」
「そうそう、そのおかげで無事に転生できたわけだよ。
神様には感謝しきれないな。
…お供えでもした方がいいかな?」
「した方がいいぞ……ってお前!
本当に元の世界では自分が悪いって思ってんのか!?」
「えっ………?」
さっき言ってた通りなのにまだ理解してないのか?
するとティオは私を呆れた目で見ながら深くため息ついた。
なんか失礼な男だな。
私は少しティオの態度にムッとしながら問いかけた。
「私の事話したから次はティオの番だよ。
この世界について、特にティオの事!」
「…はぁ……わかった…話してやる。
オレは流刑されたんだよ」
「えっ……」
私はそれを聞いて思わず後退りしてしまった。
「もしかしてミノリ、オレが殺人したかと思ってんのか。
殺人の罪なら民衆前で斬首されるからな」
「あ、そうなの…けど、刑に処するって事は、ティオ…何か悪い事でもしたのか?」
するとティオは持っていたコップを乱暴にテーブルの上に置いた。
私はそれに驚いてしまった。
父も何か腹が立った時よくそうしてたな…何か腹立つ事あったのか?
ティオは苛立ちながら理由を話し始めた。
「___ッ不吉な存在だからだ」
「…え?誰が?」
「___オレが、不吉を呼ぶ黒翼の者だからだ。
黒は災いをもたらす不吉な色、象徴。
それを持つ者は魔族のみと言われてて、ほとんどいねぇが…オレの一族…クロウド一族が唯一黒い毛色を持つ翼人族だから、人族や同胞共は、オレら一族を殲滅した。
……まぁ、オレだけギリギリ二十年ほど逃げ続けたけど、人族が放った矢がオレの片翼を撃ち抜き、怯んだ隙に捕まって、処刑として流刑となったわけだ」
「……黒いだけで?」
「あぁ…そんだけの理由でオレは処刑されたが…天がオレを味方したのかよくわからんけど、嵐が起きて海の魔物に喰い殺される前に小舟から落ちてそのままこの島に流れ着いたわけだ」
「……」
「そういうわけだ。だからオレは死んだんだよ…あいつらから見ればな」
「…そんなの、理不尽な人種差別じゃないか。
ただ黒いってだけで君以外全員殺すなんて…。
…私の前の世界での長い歴史の中にそういう悲惨で理不尽な事あった。今はそんなの撤廃してて、差別する奴は減ってるがまだ…」
ティオは私の話を聞いて何もかも諦めた表情になった。
「はぁ…つまり差別を無くすのは無理って話か?」
「___そんな事はない。
私の前の世界では人種差別撤廃条約がつくられている。
長くかかってしまったが少しずつ関係が良くなっている所がある。
まぁ全て解決したわけじゃないがそれでも前の世界の人達は今でも頑張っているんだ。
何が言いたいかというと、それは…唯一生き残った君はその差別やらの被害者でありながらそれらを無くす先導者になると思うんだ。
だから…その……君は不吉なんかじゃないって思い知らせる事が出来るんだ!
だから君は死んでない!!」
するとティオは呆気にとられ、顔を俯かせた。
何か気に入らない事言ったのか私は焦りながら声かけようとしたら、いきなりティオは顔を上げ大笑いし出す。
「クックク…アハハハハァーーーッ!!
ククッ……ふぅ、まさか、んな事考えるなんて思ってもみなかったな。
ミノリ、お前結構凄ぇ考え持ってるな」
「…何か変なのか?」
「いやむしろ感心したというか、それいいな。
そっか…差別を無くす先導者とかオレが不吉な存在じゃない事を皆に思い知らせるか…悪くないなそれ。
それならもう少し生きてみせてやろうかな、オレの存在…いやクロウド一族は不吉を呼ぶ一族ではない事を思い知らせてやる!
それこそが今のオレの使命だ!」
よかった…ティオの目から全く生きる気力なかったけど、今なんとなく目に光が宿ってる感じがする。
他人だろうと何も罪のないこの人が死んでいく姿なんて見てたら…そんなの嫌な気分になる。
するとティオはある事を思いついた。
「そうだ。
“ティオ・クロウド”はあの海で行方不明もしくは死んだ。
でもオレはもう一度生きる事決めたが…いつか公に出てこれるその時まで…ミノリ、オレに新たな名前をつけてくれないか?」
「……え?名前?
ティオに、新しい名前を私がつけるの?」
「当たり前だ。
お前がオレに生きる希望をくれた人だ。
つまりお前のおかげで生きる事となったわけだ。
だからこれからの事を祝って、生まれ変わりとして今のオレに相応しい名前をつけてくれ」
急に言われてもなぁ…。
でも私も似たような感じで今の名前で転生したし、これも心機一転の証だよな。
ティオに新しい名前をつけるとするか。
そうだな…どうせならめでたい名前がいいな。
吉兆の象徴…カラス…神様…はっ!
「…よし決めた!
今から君の名前は“ヤタ”でどうだ!?」
「“ヤタ”?変わった名前だな」
「元々は八咫烏っていう私の前の世界の神様からとった名前なんだ。
太陽の化身、導きの神とも言われているめでたいカラスなんだ。
なんか今のティオに合いそうだなっと思って名付けたけど…気に入らない?」
「……いや、その名前気に入った。
まさかお前の前の世界の神様から名前とるとはな…。
こんな不吉な存在のオレにそんな立派な名前つけてくれるなんて…面白いじゃねーか」
よかった。気に入ってくれたようだ。
私はふとある思いつきをティオ…いやヤタに出した。
「居場所とかないなら一緒にこの家…島に暮らすか?」
「えっ!?」
「その代わりに労働してもらうけどな。
畑と牧場の仕事の手伝いする人が欲しかったんだ。
それやる代わりに住む部屋と三食食事つきで風呂有りに仕事終えた後基本自由に過ごす事ができる。
どうだ?」
「………いいのかよ。そんな好条件、確かにオレは罪人で居場所なんてねぇし、翼……怪我しててロクに飛べねぇからここから出れねぇしな。
仮に島を出たとしてもまた逃亡生活の繰り返しだからな……本当にいいのか?」
「一人だと大変だし色々とこの世界の事知りたいから別にいいよ。
それにヤタは悪い人じゃないしさ」
するとヤタは口角を上げ、私に手を差し出した。
「お人好しすぎるなお前は…その条件のった。よろしくお願いするなミノリ」
その答えに私はなんとなくだが嬉しく感じ、ヤタの手を握った。
「これからよろしくなヤタ」
こうしてティオ改めヤタと共にこの島で暮らす事となった。
…空いてる部屋に必要な家具を創造していたら、突然ヤタが走って来た。
「ヤタ、どうしたんだ?
まだ君の部屋準備中だけど…」
「おいミノリ!この家に呪いの手紙かなんかが入って来たぞ!?
オレは本当に不吉を呼んでしまったのか!!?」
ヤタから手紙を受け取り、その内容をよく見たら神様の文字だ。
だけどいつもと違う内容だった。
『ミノリに手を出したらただじゃおかねぇぞ…(怒)
呪呪呪呪___×100』
……なんかぞっとする内容だった……。
昔小学生の頃に受けとった手紙の内容と同じだな。
ヤタなんだか怯えているし、早めに神様にこれはやめてとお願いするか。
…お願いした後ヤタはは震えながら私に向けてこう宣言する。
「あの創造神様とお前に誓う……ミノリ、お前に手を出したりしねぇし何かあったら守ってやる。
だから……もうあの恐ろしい手紙はやめてくれ!!!」
「神様、ちゃんと聞いてくれてると思うから安心しなよ。またあの手紙をヤタに送って来たらすぐにやめるようにと私が頼むからさ」
改めて、ヤタとの島ライフが今日から始まった。




