5話 異世界のカラス青年
「これより今、この災いをもたらす黒翼の者を魔の海にて流刑とする!」
「あーよかったな」
「これで翼人族の恥が海の魔物の餌となって消えていくな」
「もうこれで不吉な事は起こらないな」
(…痛い……潮風が体の傷を抉ってきて…痛いな…。
これからオレは…死を待つのか)
全身傷だらけのまま動かないようにキツく縄で縛られ、今からオレはこのボロい舟に乗って魔の海まで流れて行くのか。
そんなオレの姿をを見て一安心する者や軽蔑する者、嘲笑う者、嫌悪する者、汚い目で見る者などと…。
(あーあ、この世界はなんて醜悪・冷淡・残酷なのだろうか)
オレはこんな奴らからさっさと離れたく、すぐにボロい舟に乗った。そして人族・翼人族の風魔法によりすぐに海の沖まで流れて行く。
ここで海の魔物がオレを喰らう事となるが、まだ来ないようだ。
(このまま魔物に喰われて死んでいくのか……)
オレはふと昔の事を思い出した。
といってもロクな人生じゃなかったが。それでも災難ばかりでよくここまで生きてきたな。
物心ついた頃から人族や同胞である翼人族に追われ続けたな。変装してなんとかやり過ごす事あったけど、バレたらまた追われ、時には石を投げつけられ、罵倒の言葉を浴びながら逃げた事もあったな。それでもオレは必死に逃げ続けた。腹がすいたらどこかの家の畑の作物を盗ったり、魚を捕って、それを火で焼けば食べれるが場所がバレると厄介だからってそのまま生で食べたなぁ。
(あん時スゲー腹壊したけど…)
まぁそんな日々はこれで終わりか…。
「…母さん……」
幼い頃、ボロボロの体をしてた母さんが何度もオレを抱きよせながらこう教え続けた。
『いい、ティオ。
私達クロウド一族は何があっても生きなきゃならないんだよ。
どんなに酷い目にあっても生きて…生き続けるんだよ。
クロウド一族の歴史を…知識を継ぐことが使命。
そして、あの悲劇を繰り返さないために……。
だから生き続けるんだよ。
大丈夫だよ!
何があっても母さん、ティオのそばにいるからね!』
……嘘つき。
そう言って母さんはすぐに同胞に殺されてしまった。
そばにいるって約束したのに。
オレなんて庇わなければよかったのに…。
『___母さんッ!!』
『ティオ!逃げ…て…母さんを置いて逃げて!!』
オレは何もできなかった。
あの時母さんを助ける事ができなかった。
そして今から死ぬんだ。
クロウド一族の固有スキルはこれでおしまいか…。
オレも約束破ってしまうな。
…ごめんな母さん。
今から母さんがいるあの世へ逝くから。
……大丈夫。何も感じないから、大丈夫だ。
すると頭にポツっと水が落ちてきた。
「雨か…やけに空模様が怪しいな……嵐が来るのか?」
思ってた通りだ。
雨がひどく激しく降り、風が強く吹き、波が大きく荒れていく。ボロい小舟が左右激しく揺れ、座ってたオレはその揺れにより横に倒れ、そして…大きな津波がボロい小舟へ覆い被さって来た。
「うわああぁぁぁーーーーッ!!」
オレはボロい小舟から海へ落ちた。全身縄で縛られているせいで上手く泳げない。
そして海がますます激しく荒れ、全身ぐるぐると回る。潮の流れに乗り、オレはどこかへ流れて行く…。
(苦しい…息が…できない……ッ!
もう……ダメだ…)
そう思いながらオレは気を失った___。
***
「さてと…やっと牧場と畑に取り掛かれるな!やるぞー!」
嵐は三日間あったが大きな被害はなく、晴天の下で私は背伸びしながら思わず気合の入った声を空に向けて上げた。
三日間私はある程度小屋の中にいる動物たちの世話と畑の様子見に終えたら、すぐに家へ帰り、自室にあるレターセットで神様と文通し合った。この三日間色んな事を神様から教えてもらった。
まずは“スキル”というのは自分が使える能力の事。
そして“固有スキル”とはその人自身だけの能力の事。
いわばその人しか使えないとても珍しい能力らしい。
私が持ってるスキルの中の一つ“鑑定”は自分自身だけでなく、他の人もそのスキル使えば私と同じようにあの液晶画面…“ステータス”というものを出して相手の能力値や情報を見抜く事ができる。
物で“鑑定”すると素材の名前・品質・利用法といったものがわかるようだ。
“無限収納”は前に教えてもらった通りだ。
そして魔力というものは魔法を使う際のエネルギーらしい。前の世界には一切ない力みたい。
私の魔力が∞なのは創造神様の加護によるものらしい。
魔法の使い方はこの嵐の三日間合計約六十時間程練習した。
時には家を壊しちゃった事もあったけどすぐに修復された。魔法で創られた家だからかな?
まぁまた家や家具など壊さないように何度も小さな魔法を繰り返したら、ちょびっとだけどようやく使いこなせるようになれた。
動物達をブラッシングに搾乳、毛刈りした後久々に小屋から出して放牧する。
その間に私は小屋の中の動物達の寝床と餌置き場と水飲み場の掃除、ココドリの卵の回収。
これらを終えたら畑仕事だな。
「おーすくすく育っているなー」
三日間嵐があったのにむしろを取ると野菜と果物の種から芽が出て、少し育っている。苗もぐんぐん伸びている。
もうしばらくしたら美味しい作物が実るのか。ちょっと楽しみになってきたな。
「こんなに楽しいって思えたのは久々だな…。
土は少し湿ってるし、コンポストに動物の排泄物と家に溜まったゴミを入れたらそのまま蓋を閉めて…一旦仕事完了だな。
………どうしよう」
こんな早く仕事終えたら何すればいいのかわからない。今日はとてもいい天気だ。
…よし、海へ見に行こうかな。
「潮風が気持ちいいな…ここで朝ご飯兼お昼ご飯でも食べようかな……ん?」
砂浜に黒い何かが打ち上げられている。
私は確認しに近づいて見ると…人だ。
「いや、人……何だろうか?」
日本人と同じ黒い髪をしててガリガリに痩せた若い男だが…縄で全身縛られているし、よく見るとひどく傷ついている。
だけど私は一番に目にしたのは…カラスのような翼が背中についてある事だ。
「コスプレ…ってやつなのか?
あっ!そんな事より早く助けないと!!」
まずこの縄をほどこうとするが、ガチガチに縛られていてかなり難しい。仕方がない。私が頭にハサミを思い浮かべたら目の前に出てきた。それで翼?やら傷つかないよう慎重に切っていく。そして縄が緩んだところでほどく。
私はこの男の首に触れてみる。
少し動いてる。生きているようだ。
打ち上げられていたこの男を家へ運ぼうと背中に乗せて行く。
「ふぅー…この人すごく軽いな。
まぁそれで無事に家へ運べたけど、このままソファに寝転がすだけじゃ良くないな…」
起きる気配は全くない。むしろ傷のせいか嫌な夢見てるせいなのかひどく魘されている。
とりあえず傷の手当をしよう。
私は傷薬やら包帯を頭に思い浮かべた。
(こんなひどい傷…前の世界の傷薬で治せるのかな?)
私はそう思いながら頭に思い浮かべる。包帯はすぐに出てきたが傷薬は出てこない…。
「えっ?何で出てこないの?」
すると何故かベランダから白い花と青い草、何かの根っこ数個に、太い木の枝一本が飛んで来て、それらが合わさって光を放った。
光がやみ、私の手の平に小さな彫り物の器が落ちた。
蓋を開けてみると中には軟膏のようなものが入っている。それから消毒のような匂いがした。
おそらく薬だろうとは思ったが、一体何なのかと私はこの軟膏をスキルで“鑑定”する。
【上級:フローラ・オイントメント】
傷口に塗るとすぐに回復する傷薬
外傷にしか効かないので口にしても効果は無い、苦い
材料:フラリス草・アイルル草・ヨルクォーツ花の根
「これが…異世界の傷薬なのかな?
…はっ!この人の傷へ塗る前に私で試してみよう」
私は昨日傷ついた指の傷へ試しにその傷薬を塗ってみた。
すると傷がたちまちふさがり痛みが消えた。
「すごっ…!これなら大丈夫かもな。
ちょっとしみるけど傷治すからな」
自分で試した後、この男の体中の傷口を傷薬で塗った。すると傷はたちまち治り、男の顔も少し穏やかになっている。
だけど、翼にも傷薬塗ったが中々治らなかったため、塗った後に優しく包帯で巻いた。
あとは創造して出した掛布団をかけ、様子見する事にした。
「この男…一体何なんだろうな?
この世界の人?なのかな……」
まぁ起きたらおそらく自分の家へ帰るだろうから、それまでここで安静させよう。
起きた時にすぐに食べさせるための食事を作ろう。
昨日のパンが残っているからそれでパンの粥でも作るか。食べやすいし柔らかいしお腹に溜まりやすいしな。
米の粥もいいけど、もしかしたらこの世界は外国文化に近いかもしれないからパン食の方がいいのかもしれないな。
私はキッチンに入り料理に取り掛かった。
食パンを一センチ角くらい切って、鍋にバターを入れて弱火で溶かし、バモゥモのミルクを入れる。
ミルクが沸騰しそうになったら切ったパンとついでに細かくちぎったチーズを入れよう。
二・三分煮込み、水分が十分飛んだら塩コショウ少々かけて、出来上がり!
「食パン全部使ったからミルクパン粥の量結構あるなー。
私あまり多く食べれないから余ると思うし…まぁその時は冷蔵庫に入れて冷凍保存するか」
「ん……んぅ…_____ッ!!?」
あ、男が起きた。
早速ミルクパン粥を持って行ってやろう。
すると男は私を敵意ある目つきで睨みつける。
「おい女……何故オレを助けた!!」
「えっ?」
「とぼけんじゃねぇ!!
オレのこの黒い髪、瞳、翼を見て何とも思わねぇのか!!!」
「別に…ただ、懐かしいなーって思ってたけど」
男は私の答えに目が点になった。何故?
「は?…懐かしい……?この黒い毛色が?
__ッ!お…お前まさか、魔族…なのか?」
「マゾク?何それ?私は人だよ」
男は私をじっと見て黙り込んだ。すると男のお腹からグオォォォ~っと部屋中響くほど大きな音が鳴った。それを聞いた私はとりあえず顔が赤くなっている男に粥が入った鍋を突き出して提案した。
「一緒にご飯食べよ!」
「………は?」
何でか男は私を敵意ある目つきから打って変わり奇異な目で見つめてくる。
私、何かおかしな事言っただろうか?




