A-04 リジェネって言いづらいよね
「子いこいけしくまてださす助願うのどかおを」
「ナリーイ。い落て着ち。今ルけるをーヒからか。丈夫大」
重いまぶたをやっとのことで持ち上げると、そんな会話が聞こえてきた。ここは……病院か? 草の匂いに満ちている。そういう類の施設だろう。
確かにヒールって単語も、アナグラムでバラバラだけど聞こえた気はする。てことは証明成功だ。ヒールみたいな一撃で回復する系の魔法は一般人には使えない。ある程度制限されて、免許か何かないと使えないんだろう。
あぶねー。裏技見つけて巨大魔法とかぶっ放したら件の上位管理者につかまっちゃうって。って考えるとファンタジーなナリして結構なディストピアよね。
いや前世でも、赤ちゃんがヤクブーツやってたり銃ぶっ放したら問題になるもんな。別に普通の事か。
まあヒールに制限がかけられているとわかっただけでそこまで確定させるのは気が早いけれど、推察は出来る。私はとりあえずそれで満足と──。
「ああ、ルテア。ったかよ。めねんご……に当ねんめご本」
マッマは泣きながら私をきゅっと抱きしめた。なにを大げさなと思ったけれど、私は遅れて自分がしたことの愚かさに気が付いた。
……娘が二階から落ちて平気な親なんているものか。
思えば前世の私の家族は、いつも小刻みに震えているばっちゃだけで、両親はとっくに死んでたから、家族の想いなんて考えたこともなかった。
泣きながら何度もごめんねと繰り返すサリアにとても申し訳ない気持ちが湧き上がって、私はもうこれ以上利己的なことでマッマを困らせたくないという気持ちが湧いた。いのちだいじに。これ鉄則ね。
そのあと医者っぽいいでたちのジジニキが、実際医者であることがわかった。どうやらヒールにも何種類かあるらしく、初めは外科のヒール、次に内科のヒールにまわされた。そこまで細分化されると医療じゃねぇかと萎えるけど、普通に考えてヒール一発でなんでも治るとかオーバーテクすぎる。
そして完全に万全になった私ことアルテ・クロノスタシスはマッマこと母のサリアに抱かれておうちに帰る。
私はそこで初めて、外の世界を見た。
想像以上に何もない世界だった。ただ広がるだだっ広い平原。出てきた治療院があるくらいで、他は放牧地。羊と牛がいた。呑気に歩いてる。そこら辺は同じか。でも町とかはなくて、遠くに一軒家がぽつり見えるくらいだ。
北海道みたいだな。
情緒の欠片もない感想が出たところでマッマが子守唄を歌ってくれた。サリアの歌声は、ジュディ・オングのようで耳心地が良かった。こういうASMR売ってくんないかなと思ったが、この世界にはイヤホンとかないことに気が付いて萎えた。ぜってぇ創ろう。工作魔法みたいなやつ習得して、ぜってぇ……。
異世界で声優事務所をつくる所まで妄想していた頃、私とマッマはおうちについた。そこで、傷だらけのパッパが待っていた。遠距離の通信手段とかあるのだろうかとか考えていると、私を見るや否や走って来て抱きしめる。
服くっさ! と思った。でも、そんな風に誰かに抱きしめられるのが久しぶりで、なんか泣きそうになった。そっか、親の葬式でばっちゃにぎゅっとされて以来か。
それからかえってマッマのチッチを吸って、三人で布団に入った。読み聞かせは優しい声で、この世界の考察をするより微睡に落ちて行った方が気持ちいいだろうなと思って、眠った。心なしか寝た後にベッドがギシギシ揺れてたのは気のせい。
明日は今日立てた仮説を実証する。もちろん命大事に。これ鉄則でね。
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