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4話……ウルトの能力

 サーシャさんたちの近くにウルトを停車させて運転席から降りる。


「こんな感じだけど……満足してもらえたかな?」


 俺が声をかけてもサーシャさんは唖然とした顔をしたままだったので顔の前で両手を打ち鳴らせてみた。


「はうっ! はっ、私は一体……」


 サーシャさんは音に驚いたのか体をビクリと大きく震わせて意識を取り戻した。

 いや失ってはいなかったけど。


「これがトラックだよ、見てみてどうだった?」


 まだアワアワしているがまぁすぐ元に戻るでしょ。


「す、すごいです! あの巨体であの速度……あのまま体当たりなんてされたらどうなるのでしょうか……」

「それはあんま考えたくないね……まぁ弾き飛ばされるならまだいいけど、踏み潰されたら多分生きていられないよ」


 そういえば荷物って積んだ状態なのかな?

 フル積載してたら20トン超えるから踏み潰されたら生きていられないよね?


「いやいや……あの体当たり食らったら自分耐え切れる自信ないんスけど……」


 自分の盾を見ながら呟くアンナさん、確かにあまり体の大きい方では無いし大型トラックに撥ねられたら大変な事になるだろう。


「真正面から最速で突き出せば……貫けますかね?」


 対してソフィアさんは槍の穂先を見ながらそんな物騒なことを呟いている。


 怖いからやめて欲しい。

 運転手目掛けて突けば恐らく車体貫通して運転手に攻撃は当てられるだろうけど結局ソフィアさんも撥ねとばされてえらいこっちゃになると思う。


「まぁトラックって荷物を運ぶ車であって戦うためのものじゃないからね?」


 みんな戦うことばかり考えているが運搬用だからね? 戦闘用じゃないからね?


「運搬用ですか? あんなにかっこよくて強そうなのに……」

「かっこいいのは同意だけど、俺のいた世界では後ろの箱いっぱいに荷物を積んで色んな場所に運ぶための車だったからね」


 大事なことがからもう一度、戦闘用じゃないからね?


「そうなのですね……」


 なんでサーシャさんは納得いかないみたいな顔してるの?

 そんなにトラック……ウルトに戦わせたいの?


「聖女様、クリード殿、前方森より何か来ます!」


 サーシャさんと会話しているとソフィアさんが焦ったように槍を構えて叫んだ。

 ソフィアさんの隣には盾を構えて腰から剣を抜いているアンナさんの姿も見える。


「見えました、ゴブリンです。数は……多数! 聖女様、クリード殿、お下がりください!」


「分かりました。クリード様こちらへ」


 森へ目を向けるとたくさんの緑色の肌をした醜悪な魔物が木の棒を振り上げながら飛び出してきた。


「きもちわるっ!」


 サーシャさんに腕を引かれて後方へ移動する。

 ソフィアさんとアンナさんは突撃せずその場で迎え撃つ体制だ。


「めちゃくちゃ数多いけど、2人で大丈夫?」

「大丈夫ですよ。私も補助魔法掛けますし、あの2人は教国でも指折りの騎士ですからゴブリンになんて負けません!」


 サーシャさんはそう言ってから両手を胸の前で組んで祈りを捧げるような体勢になった。


 するとソフィアさんの槍、アンナさんの剣と盾が淡く白く光り始めた。


「聖属性を付与しました! 怪我は私が治しますから2人とも頑張ってください!」


 なるほど、武器と盾に属性付与をしたのか……

 ファンタジーでは聖属性は魔物に対して絶大な効果があるっていうのが定番だしこの世界でもそうなのだろう。


 まだゴブリンたちとはかなり距離があるが2人は臨戦態勢に。

 ゴクリと生唾を飲みながらその様子を見ていると、ブォンとこの場に似つかわしくない音……エンジン音が聞こえてきた。


「は?」


 音のした方、ウルトに目をやるとなぜかゆっくりと動き始めていた。


「は? え? いや、なんで?」


 全く理解出来ず混乱する。

 しかしウルトは俺の混乱など知る由もなく……徐々に速度を上げて……消えた。


 いや、消えたというのは語弊がある。

 動き始めはゆっくりだったがある瞬間に一瞬で速度が上がったのだ。


「瞬間……加速?」


 そんなスキルが俺に追加されたはず、ならばウルトもこのスキルを持っていて当たり前だ。

 問題はなぜ勝手に動いて勝手にスキル使ってるかなんだけど……


 一陣の風と化したウルトはそのままゴブリンの集団に突撃、蹂躙する。

 次々にゴブリンを撥ね飛ばし踏み潰し……駆け抜けた時には大半のゴブリンが地に伏せ転がっていた。


「えぇ……」


 ウルトは追撃とばかりにUターンしてきて再度突撃、残ったゴブリンにも体当たりをお見舞してあっという間に全滅させてしまった。


「ナニガオコッテルノ……」


 全くもって飲み込めない。

 なんで運転手不在で勝手に動いてるの!?


 全ての敵を倒したことを確認したのか、ウルトはこちらにやって来て俺の前で停車した。


 俺も撥ねられるのかと思ってちょっと身構えちゃった……


『マスター、複数の生命反応がマスターに対し敵対行動を取ったと判断したため殲滅致しました。緊急事態と判断したためマスターの指示を仰がず行動したこと、謝罪致します』

「え? いや、うん、ありがとう」


 なんでこいつ謝ってるの?


 てかよく見たら血や肉片どころか傷一つ付いてないな……


「しかし汚れてないな……ここまで自律行動するとは思わなかったしビックリしたよ」

『緊急事態と判断しましたので。あの程度では傷など付きませんし先日マスターがしっかりとワックスをかけてくれましたので汚れずに済みました』

「いやいくらワックスかけてても汚れるでしょうよ……」


 なんでワックスかけてたら汚れないんだよ、意味わかんないよ。


 なんか後ろでサーシャさんが「しゃ、喋ったァァァ!」と騒いでいるがとりあえず無視させてもらおう。


「聖女様! クリード殿! ご無事ですか!?」

「ふぇ?」


 無視しておこうと思ったらソフィアさんがこちらに駆けてきた。


「あー、ソフィアさん、俺とサーシャさんは無事だよ。ウルト……このトラックが全部倒したしなんか俺には絶対服従みたいだから心配ないよ」

「そ、そうですか? 問題が無いなら私はゴブリンの討伐証明部位と魔石の回収を行ってきます」

「魔石?」


 討伐証明部位は右耳だって覚えてるけど、魔石ってなんぞ?


「はい。魔物は例外なく心臓付近に魔石を宿しています。この魔石は魔道具の燃料になりますので売れますよ」

「へぇ……」


 売れるのか……ならどうせ倒したなら回収するべきだね。


「それで魔石ってどうやって取り出すの?」


 もしかしてかっ捌くの?


「? 胸を切り開いて取り出しますが……」


 うわぁ……やっぱりか。

 この世界じゃ当たり前っぽいし、冒険者やっていくなら俺も慣れないといけないのかなこれは……


『マスターよろしいでしょうか?』

「ん?」

『会話の流れから死体の一部を回収したいのだと判断しましたが、お間違いありませんか?』

「間違ってないよ。右耳と心臓付近の魔石だけ回収したいんだけど、どうしたの?」


 突然ウルトが会話に割り込んできたのでソフィアさんはなにか言おうとしていたが口を噤んでいる。


『それでしたら私のスキルで行うことが可能ですが、いかが致しましょう?』

「は? どういうこと?」


 剥ぎ取りまでできちゃうの?


『はい。私のスキル【無限積載】を使えば死体からなら任意の部位を積み込めます』

「はぁ、君そんなことも出来るの?」

『可能です。実行しますか?』


 問われたのでイエスと答えるとウルトはゴブリンの近くへ移動した。

 そこで何がするのかな? と思って見ていると、ウルトはすぐに方向転換してこちらに戻ってきた。


「あれ? 早いね、もしかして失敗したの?」

『いえ、問題無く完了しました。どうぞご確認ください』


 次の瞬間、俺の少し前の地面が光り、たくさんの耳と紫色の小さな石が現れた。


『ゴブリンの右耳、及び魔石37匹分です』


 37匹もいたの? それで剥ぎ取り一瞬で終わらせたの? 一瞬で?


「とらっくって……凄いですね、」


 サーシャさんが今度はキラキラした目でウルトを見つめている。

 驚いたり右往左往したりキラキラした目で見たり忙しいなこの聖女様……


「ウルト、お疲れ様、助かるよ」

『私はマスターの安全と快適さを護るためだけに存在しますので、礼は必要ありません』

「お礼言っちゃダメなわけじゃないだろ? ならいいじゃん」


 お礼なんて俺が言いたいから言うもんだからね。


「あぁ、そうだウルト……」


 ウルトのスキルって何? と聞こうとしたがふと気が付いた。

 スキルとかのある世界って割とスキルは隠すべき、みたいな考え方あるよな?


 もちろん俺とウルトだけの時ならなんの問題も無いんだけどサーシャさんたちも居るしな……


『マスターどうなさいましたか?』

「いや……」


 確認した方がいいか? でも確認する相手がサーシャさんじゃ意味無くね?


 明確にパーティ組むって決まってるなら開示することに問題は無いだろうけど……


「クリード殿、どうかなさいましたか?」

「いや、ウルト……トラックのスキルを確認しようかと思ったんだけど、スキルって他人に隠すものなのかな? って思って」

「あぁ、なるほど。スキルについてはあまり吹聴するものではありませんが隠さないといけないというものでもありませんね」


 ソフィアさんはそう教えてくれた。

 なら聞いたら教えて貰えるのかな?


「じゃあソフィアさんのスキルって教えて貰えるの?」

「個人的には構わないのですが、立場上私は聖女様の護衛ですので手の内を晒す訳には……」



「クリード様、私の戦闘系スキルは【魔法(聖、光、空間)】【聖なる護り】【聖女の祈り】【魔法効果上昇】【浄化の光】です。私はクリード様に隠すことはありません。ソフィアとアンナもクリード様には隠さなくて良いですよ」


 言い淀むソフィアさんに被せるようにサーシャさんが自分のスキルを開示した。


「聖女様……わかりました。クリード殿、私の戦闘系スキルは【槍術】【身体強化】【気配察知】【騎士の矜恃】です」


【槍術】はそのまま槍の技術だろう。【身体強化】も多分イメージ通りなはず……【気配察知】もなんとなく想像出来る。


「【騎士の矜恃】?」

「はい。【騎士の矜恃】は背後に仲間がいる時筋力と耐久力に補正がかかるスキルです」


 ほぉー……なんかかっこいいな!


「自分は【剣術】【盾術】【堅牢】【衝撃緩和】の4つッス!」


 アンナさんも元気よくスキルを教えてくれた。

 アンナさんのスキルはなんとなくイメージできるな……


「クリード様のスキルは【とらっく召喚】と【とらっく完全支配】でしたよね?」


 俺のスキルか……なんか一気に増えたから覚えきれてないんだよな……

 サーシャさんたちも教えてくれたんだし隠す必要も無いよね?


 俺は「ステータスオープン」と唱えて自分のスキルを見ながら答えることにした。


「ええと……【トラック召喚】【トラック完全支配】【魔法(雷、氷、風、水、光、音)】【瞬間加速】【瞬間停止】【自己再生】【魔力吸収】の8つだね」


 なにも反応が聞こえないので自分のステータスから視線を外して3人に目を向けると、今日何度目かの驚愕の表情をしていた。


「く、クリード様! 喫茶店でお話していた時には2つだけだって言ってましたよね!?」


 言ったね。

 一緒に驚いてるってことは俺とサーシャさんの会話を2人も聞いてたんだね。


「うん。さっき【トラック召喚】でトラック喚び出してなんか魔力同期? っていうのやったらステータスも上がってスキルも増えてって意味のわからないことになってます、はい……」


 3人からの視線の圧がすごくてだんだん尻窄みになってしまった……


「それは……スキルで召喚した存在からスキルを与えられたということですか……?」


 信じられないという顔で呟くサーシャさん。いや全員同じような顔してるな。


「そういうことになるのかな?」


 同期したら増えたし……


『失礼ながらそれは違います。私がマスターにスキルを与えたのではなくマスターのスキル【トラック完全支配】の効果により私のスキルを吸い上げたというのが正しいです』

「はぇー……とらっくもクリードさんも凄いッスねぇ……」


 あ、これ多分アンナさん理解するの諦めたな。


『申し遅れましたが私は株式会社三葉トラック開発により開発された【2030年式ウルトラグレート冷凍車モデル】、個体識別名称【ウルト】』です。御三方どうぞよろしくお願い致します』


 ウルトはそう丁寧にお辞儀をしてキャブチルト(画像の張り方分からないので気になる方は作者ページからTwitterに飛んで見てください)を行いお辞儀のように頭を下げた。


 ちょ、やめ! 運転席の中ぐっちゃぐちゃになる!


「ご丁寧にありがとうございますウルト様。私はアルマン教国にて聖女を務めておりますサーシャと申します。以後お見知り置き戴きたく存じます」


 サーシャさんは一度綺麗にお辞儀をしてから右手でソフィアさんを指し示した。


「こちらは私の護衛を務めるソフィアです。気高い騎士であり槍の腕は教国でも有数の存在です」

「ご紹介に与りました護衛騎士のソフィアと申します。よろしくお願い致します」


 ソフィアさんは胸に手を当てて綺麗な礼をする。


「続きましてこちらも私の護衛騎士を務めるアンナです。少々言葉遣いに難がありますがご容赦頂けますと幸いです」

「アンナッス、よろしくお願いしまッス!」


 気をつけ! の姿勢からほぼ直角に頭を下げるアンナさん。

 なんだろ? 緊張してるのかな?


『私に対して敬称、敬語は不要です。マスター共々よろしくお願い致します』

「だってさ、サーシャさんたちも気軽に呼んであげてよ」



 なにやら堅苦しい雰囲気になりそうだったので間に入って和らげたい。


「私は普段からこの口調ですので……むしろクリード様とウルト様こそ私に対して敬称も敬語も必要ありませんよ?」

『そういう訳には参りません。私はマスターのために、人のために存在する機械です』


 ウルトも頑なだな……

 まぁ人の役に立つための産業機械ではあるから間違ってはないんだが……


「ならもうお互いそれでいいじゃん。ウルトもサーシャもそれでいいだろ?」


 お許しを貰ったので俺はあえて普通に話しかける。


「わかりました。クリード様は今後私のことはサーシャと呼んでくださいね? これでまたサーシャさんなんて呼ばれたら寂しくなりますよ?」

「ではクリード殿、私のこともソフィアと呼び捨てにして下さい。主人たる聖女様のことを呼び捨てにされる方から敬称付きで呼ばれる訳にはいきません」

「自分もアンナでいいッスよー!」



「わかったよ、ソフィアもアンナもよろしくね。できれば俺のことも呼び捨てで呼んで欲しいけど……まぁ慣れたらよろしく頼むよ」


 さっきのソフィアの言葉を借りるなら主人が敬称付きで呼ぶ人を自分が呼び捨てにする訳にはいかないとか言いそうだし。



 ウルトのおかげかちょっとだけ3人と打ち解けられた気がした。

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