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2話……冒険者ギルド

【登録、相談】の窓口の前に歩いていくと、自分の方に向かっているのを察したのか受付嬢が立ち上がって出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご要件でしょうか?」



 ニコリと微笑む受付嬢。

 エクボが特徴的な落ち着いた雰囲気の20代半ばくらいの女性だ。


「冒険者登録希望です。こちらで構いませんか?」

「新規登録でしょうか? こちらで大丈夫ですよ。後ろの方々は紹介者でしょうか?」

「紹介者?」

「はい、既に冒険者になっている方の紹介があれば登録時の説明を省略することもできますので」


 なるほど、と思い後ろに居る3人に振り返って見るが、3人は揃って首を横に振った。

 ノリノリで連れて来といて登録してないのかよ……


「私たちは冒険者ではありません。なのでこちらのクリード様と一緒に登録したいと思います」


 サーシャさんが俺の横に並んでそんなことを言い始めた。


「かしこまりました。では皆様こちらの用紙に記入お願いします」


 受付嬢は4枚の登録用紙とペンを取り出して俺たちに手渡してくれた。


 用紙を見てみると、名前と出身地、例え大怪我を負ったり死亡したりしても自己責任であることを認める署名、たったこれだけだった。


 たったこれだけでも出身地をどう記入するか少し悩む。


「クリード様、この登録用紙ですが……」


 書こうと思ったところサーシャさんから小声で話しかけられた。


「名前ですが、クリード・レオではなくクリード、またはレオだけの方が良いかと思います。この世界で家名があるのは貴族かそれに準ずる者のみですので」


 なるほど、悪目立ちするってことか……わかったと示すために一つ頷く。


「それと出身地ですが、アルマン教国聖都としておいてください」

「なんで?」

「その方が私たちもフォローしやすいですし、この王都出身にしてしまうと知り合いが居ないことを怪しまれかねません」

「なるほど、わかったよ。ありがとう」


 的確なアドバイスに感謝して記入を始める。

 名前はサーシャさんたちが俺の事をクリードと呼ぶのでそのままクリードと書き込み出身地も言われた通りアルマン教国聖都とした。

 最後に署名してから受付嬢に登録用紙を手渡す。


「クリードさん、サーシャさん、アンナさん、ソフィアさんですね。申し遅れましたが本日担当させていただきますマリアと申します」


 よろしくお願いしますねと会釈されたのでこちらも返しておく。


「では皆様初めての登録とのことですので説明を始めさせていただきます」


 こちらの顔を見てきたので頷いて続きを促す。


「まずは禁止事項についてです。冒険者ギルドとは国家間の垣根を越えた超国家的組織ではありますが、登録された冒険者や職員には各国の法を遵守する義務が発生しますので、国の法には必ず従ってください。

 また、ギルド内での禁止事項としまして虚偽報告、魔物の擦り付け、ほかの冒険者からの成果の収奪などもあります。

 この規約を破った場合軽くてもランク降格、資格剥奪等の処置を取りますのでご了承ください。詳しい規約はこちらの冊子をお読みください」


 受付嬢は小さな冊子をそれぞれに手渡した。

 10ページもないような薄い冊子だ。後で目を通しておこう。


「続いてランク制度についてです。

 冒険者ランクは下からアイアン、カッパー、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコンとなります。

 皆様は登録したてですのでアイアンからのスタートとなります。

 昇格に関しては同ランク依頼を連続20回、もしくはひとつ上のランクの依頼を連続10回達成すると昇格します。

 逆に、ランクに関わらず5回連続で失敗すると降格となりますのでご注意を」


 なら高ランク帯はランクを行ったり来たりするのかな?

 てかやっぱりミスリルとかオリハルコンとかあるんだね……


「しかしシルバーランク以上は昇格時に試験があります。その試験に合格しなければ昇格は認められませんのでまずはシルバーランクになることを目指してみてください」


 なるほど……そういうシステムなのか。


「今までの説明で分からないことはありますか?」

「いえ、大丈夫です。続けてください」


「かしこまりました。では依頼について説明します。

 依頼は常設と外注があります。

 常設依頼とは国や街、ギルドなどが常に出している依頼のことで基本的に街道周辺や街の近くの魔物の間引き、薬草類の採取となります。

 低ランクの間はこちらをこなすことをおすすめします。

 外注依頼ですが、こちらは個人や商店などから出される依頼のことで、こちらは特定魔物の討伐依頼や珍しい薬草採取依頼など多岐にわたります。

 高ランクになるにつれて外注依頼が増えていきますね」


「常設依頼というのは受注してからでないといけないのですか?」

「いいえ、常設に貼られている依頼でしたら事後報告で問題ありません」


 なら外注を受けたついでにこなすこともできるってことか。


「次は魔物討伐の際の証明ですね。魔物によって決まった部位が証明になりますので、討伐した場合忘れずに証明部位の回収をしてくださいね」

「その証明部位は教えて貰えるんですか?」

「ギルド資料室で周辺に出現する魔物の討伐部位の一覧の載った資料があります。閲覧は無料です。

 もしくはギルド売店にて大銅貨1枚で販売しておりますのでよろしければご購入ください」


 なるほど、種類が多いなら覚えきれなさそうだから購入も考えた方がいいかな?


「薬草の一覧も販売しておりますのでそちらもよろしければ……

 コホン、失礼しました。では説明を続けますね。

 次はパーティ制度についてです。

 数人でパーティを組む場合パーティリーダーのランクがそのパーティのランクとなります。ですのでパーティを組む場合は同じランク同士かランクの高い人をリーダーにしてパーティ登録をすることをオススメします。

 パーティの加入、脱退はこちらの窓口で行えますのでその際はこちらまでお越しください」


「パーティでの依頼達成の場合依頼の成否はどうカウントするんですか?」

「パーティで受けた依頼でもメンバー個人で受けた依頼でもパーティでの成否となります」

「なるほど、なら気をつけた方が良さそうですね」


 パーティ組むかどうかはわからない……と思うけど多分なんか聖女様御一行に組み込まれる気がするんだよね。サポートがどうの言ってたし。


「ここだけの話、常設依頼を事後報告で受けるようにすれば失敗がカウントされることは無いのでおすすめですよ?」


 受付嬢マリアさんは小悪魔的な笑顔でそんなことを言ってきた。

 ……確かにそうだな。


「やるかやらないかは別として聞かなかったことにしておきますね?」


 苦笑しながらこう返すしかないよね。


「ふふ、では最後にランク特典についてです。

 冒険者ギルドに登録した時点で各街や国境を超える際の通行税が半額になります。

 依頼での外出の場合戻る時は無料ですので必ず出る時に門兵さんに声をかけてくださいね。

 またゴールドランク以上となりますと通行税が無料となります。

 ギルド提携の宿やお店での割引もありますので是非ともゴールドランク冒険者になれるよう頑張ってください。

 説明は以上となります。なにか質問はありますか?」


「魔物の素材の買取なんかもギルドでやってもらえるのですか?」

「はい、承っております。素材のレートも掲示板に貼られていますのでご確認下さい」

「分かりました、ありがとうございます」

「ではこちらの冒険者証をご確認下さい」


 受付嬢は4つの黒っぽいドッグタグのようなものを取り出して俺たちに配ってくれた。

 いつの間に作ったの!?


「名前、出身地に間違いはありませんか?」


 カードの表記を確認するが申請通り。間違いは無い。


「大丈夫です」

「でしたら登録手続きは完了です。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」


 そのまま立ち上がって掲示板の前に移動、常設依頼を確認するといくつかの依頼が張り出されている。


 まずはゴブリン討伐。5匹で1つの依頼のようで報酬は大銅貨1枚。ゴブリンは右耳が証明部位と書いてある。


 次はウルフ討伐。これは1匹毎の依頼で報酬は銅貨2枚。こちらは牙が証明部位になるらしいのだが、毛皮の買取もできるらしい。


 他にもいくつかの常設依頼を確認して覚える。

 とりあえず見かけたら戦ってみよう。


「ではクリード様、早速街の外へ行きましょう!」

「待ってサーシャさん、俺何も装備とか無いしある程度は装備整えてから行きたいんだけど」

「魔物が出たら今日はアンナとソフィアに任せましょう! それより早くとらっくが見てみたいです!」


 両手を握ってキラキラした目でこちらを見ているサーシャさん……

 これ物凄く断りづらい……


「わかったよ……アンナさんソフィアさん、魔物は任せて大丈夫?」

「はい、護衛はお任せ下さい」

「任せてくださいッス! ゴブリンやウルフなんてこの装備でもなんの問題も無いッス!」

「ん? この装備?」


 アンナさんとソフィアさんを見てみるがちゃんと武器も防具も持っている。

 もしかして本来の装備じゃないのかな?


「教国の鎧を着ていると目立ちますからね。私がお願いして目立たない装備にしてもらってるんです」

「そういうことか……でも護衛が目立たないような格好しててもサーシャさんが修道服着てたらサーシャさんが目立つんじゃ?」


 俺がそう口に出すと、サーシャさんはビクリと身体を震わせてから硬直してしまった。


「私……目立ってます?」

「あー……言いづらいけど結構目立ってると思うよ? 王城からここまで移動する間も結構視線集めてたし」

「ふ、不覚……」


 ガックリと肩を落とす聖女様。

 アンナさんとソフィアさんからの視線が痛い……


「ま、まぁそう落ち込まないで、次から気をつければ……ね?」

「そ、そうですね! では早速行きましょう!」


 サーシャさんが元気を取り戻したのでこれ以上言うのはよしておこう。

 また変なこと口走って落ち込ませるのも本意じゃないしな。


 そのまま4人連れ立って冒険者ギルドを出て外壁に向かって歩く。

 この王都には東西南北に大門があり北東、北西、南東、南西に小門があるらしい。

 冒険者ギルドから一番近いのは東の大門で、目と鼻の先にある。


 俺たちは大門へ向かい門兵さんに声をかけて王都を出る。


 門兵さんとのやり取りは思ったより簡単で、冒険者証を見せたら門兵さんが名前を控える。

 戻った時にまた冒険者証を見せればそれでいいらしい。


 無事王都を出た俺たちは街道からそれであまり人目につかない場所を探す。

 トラックを召喚なんてしたら目立つことこの上ないので仕方の無い処置だ。


「聖女様、左前方にウルフです」


 ソフィアさんの言葉で足を止める。

 言われた方向に目を向けると、薄茶色の犬……狼か。狼が1匹近付いてきていた。


「ぐるる……」


 ウルフは歯を剥き出し唸りながらゆっくりと近寄ってくる。


「私が出ます。アンナは護衛を」

「了解ッス!」


 ソフィアさんは穂先に巻いている布を外して狼に向けて駆け出した。


「シッ!」

「ギャウン!!」


 ソフィアさんの突き出した槍は綺麗にウルフを貫き一撃で倒してしまった。


「はや……」

「ソフィアは素早さの評価がCですからね、相当強いんですよ!」


 何故かサーシャさんがドヤ顔でそんなことを言ってくる。

 素早さCか、たしか俺はEだったよな……2つも離れてるってことは文字通り格が違うんだろうなぁ……


「自分の素早さはFッスからねぇ……ソフィアの素早さは羨ましいッス」


 アンナさんはFなのか、ステータス上は俺の方が素早いらしい。


「聖女様、討伐完了しました」


 ソフィアさんはなぜかウルフの死体を引きずってこちらに歩いてきた。


「ご苦労さまです。そのウルフは収納しますね」


 サーシャさんがウルフに向けて両手をかざすとウルフの死体は光に包まれて消えていった。


「今のは?」

「今のは収納魔法です! 使える人はあんまり居ないんですけどとても便利な魔法です!」


 俺が興味を示したのが嬉しかったのかサーシャさんはさっきよりも更に胸を張って渾身のドヤ顔を浮かべている。

 今まであまり気にしていなかったけど、マジで可愛らしい顔してるよな……


 美少女と美女の中間くらいと言うのかな?

 純日本人でほぼ実物の西洋人を見たことの無い俺が綺麗、可愛いと思うんだからほんと綺麗で可愛いんだろうね。


「すごいな……それって俺も覚えられたりするのかな?」

「クリード様がですか? 失礼ながら……クリード様は【魔法適性】のスキルはお持ちですか?」

「いや、持ってないよ。【魔法適性】のスキルが無いとやっぱり無理な感じ?」

「そうですね……」

「そうですか……」


 俺には魔法は使えないのか……せっかく異世界来たのに……


「まぁレベルが上がれば習得するかもしれませんし! 私たちみたいなこの世界の人間では異例ですけどクリード様なら覚えられるかもしれません!」

「そうなの? なら希望だけは捨てないでおこうかな?」

「はい! それでもうこの辺りなら人目に付くことも無いと思うんですけど、そろそろ見せて貰えませんか?」

「そうだね……ところでスキルってどうやって使うの?」


 見せる気はあるんだけどそういえば使い方わかんないや……


「使いたい! って気持ちが大事ですよ! クリード様はとらっくの明確なイメージはできますよね?」

「気持ちね……イメージはしっかりできるよ」


 毎日眺めてたし免許取ってからは実際運転もしてたからね。


「使いたい! って気持ちで明確にイメージしながらスキル名を唱えてみてください、多分それで出来ます!」

「多分かよ……まぁわかった……【トラック召喚】!!」


 目を閉じて俺の乗っていたトラックをイメージしながら唱える。


 すると俺の数メートル先になにやら大きな魔法陣のようなものが浮かび上がった。


 何が起こるのか観察していると、地面から生えてくるようにトラックが出現した。


「おぉ……」


 出来た!


「これが……とらっく……」

「なんて大きさ……」

「す、すごいッス!」


 三者三様の反応を見せる聖女様御一行、共通しているのは大きく目を見開いて口をぽかんと開けているところだね。


「く、クリード様、これが動くのですか?」

「うん、動かしてみようか?」

「是非!」


 おぉ、めっちゃ食い付いてきたな……


 俺はトラックを動かすためにトラックへ近付いてみる。


 うーん……会社のロゴ入ってるしナンバー8931だしこれ完全に俺が乗ってたトラックだよな?


 驚愕……でもない事実に気付きながらも俺は運転席のドアを開けてトラックに乗り込んだ……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のキャラクターが和む。 読みやすい。 展開もスピーディー [一言] ユーモアが好みです。
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