表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/177

1話……教国の聖女様御一行

 王城の門を見上げて思案に耽る。


 追放系なら追放系でもっとテンプレ通りにボロカスになじられてから放り出された方がいくらかマシだと思う。


 微妙に親切にされちゃうと恨めないしざまぁwwwwできないし……

 そもそも実は最強パターンも無いっぽいしどうしたものか……


 一応この世界の言葉と文字は理解できるみたいだし、ステータスも平均よりは上みたいなこと言ってたから冒険者にでもなろうかな?

 あるのかは分からないけど。


 とにかくこんな目立つ場所に居ても仕方ないし移動しよう。

 行くあても無いけどとりあえず歩いていればなにかしらあるでしょ。


「あの……」


 まずは適当に歩き回ってみようかな?

 テンプレなら王城付近って貴族街みたいになってること多いしまずは一般人区画? 平民区画? とにかくそういう場所に出よう。


「あの……!」


 俺のカンによれば……こっちかな?


「すみません!」

「はいっ!」


 いきなり耳元で大きな声が聞こえてびっくりした。

 振り返るとそこには長い金髪の修道服を着た美女が立っていた。


「どちら様で?」

「いきなり申し訳ありません。私はサーシャ・ライノスと申します。失礼ですが貴方は勇者様ではありませんか?」


 ふむ? 勇者……なのかな?


「俺はついさっき勇者としての力が無いって追い出されたところだから……違うんじゃないかな?」

「でも異世界の方ですよね? 着ている服が私たちとは違いますし、それにその黒髪……」

「あぁ、異世界人かどうかなら異世界人で間違いないよ。それで何か用?」


 Tシャツにハーフパンツ、サンダルだからな。

 というかなんでサンダル履いてるんだろ? 寝てたらここに来てたんだからサンダルなんて履いてるわけないのにな。


「やはりそうでしたか! あの、少しお話よろしいですか?」

「アテも無いし構わないけど、どこで話すの?」

「近くに喫茶店がありますのでそこで……」


 サーシャさんはそう言うと俺を先導して喫茶店へと連れてきた。


 席に座って俺はコーヒーを、サーシャさんは紅茶を頼んでから話が始まった。


「まずはいきなりのお声かけ大変失礼致しました。改めまして私はサーシャ・ライノスです。エルヴニエス王国の隣、アルマン教国にて聖女の地位を預かる者です」


 聖女……そういえば召喚された職業の中に無かったな。

 聖女とかテンプレのかたまりなのにね。


「俺は久里井戸玲央、目が覚めたら城に居て今でもなにがなんだかわかってないんだ」


 さっぱり分かってないね。

 今でも夢だと思ってるくらいだし。


「王城ではあまり説明は受けられなかったのですか?」

「えっと……魔王が復活してヤバいから助けを求めるために勇者召喚で俺たちを喚び出したとは聞いたけど、それくらいかな? あぁ、あとはステータスを確認したくらい」


 王城内であったことを思い出しながら伝えると、サーシャさんは複雑そうな顔をした。


「そうなのですか……ちなみに勇者召喚では何人の勇者様が召喚されたのでしょうか?」

「確か俺含めて男4人女2人の合わせて6人だったかな?」


 こういうのって話してよかったのかな? 口止めはされてないし大丈夫かな?


「その中でクリードレオ様だけが追い出されたのですか?」

「そうだね。他の人は勇者だの剣聖だの賢者だの……立派な職業だったみたいだしステータスも俺よりはるかに高かったみたいだしね……

 それとクリードレオじゃなくて久里井戸、玲央だよ。ちなみに久里井戸が名字だからね」


 俺の名前のイントネーションがおかしかったので訂正しておく。

 クリードじゃなくて久里井戸だよ。


 それを聞いたサーシャさんは不思議そうな顔をしている。


「名字……?」

「えっと……家名って言えばわかるかな?」


 名字が分からなかったんだね。


「なるほど、クリード家のレオ様ですね! 覚えました」

「だから久里井戸……もうクリードでいいや。それでサーシャさんはどうして俺に声をかけたのかな? 勇者召喚の話が聞きたかったの?」


 名前談義は諦めた。

 外国人には日本の名前は発音しづらいっていうのは聞いたことあるし仕方ないだろう。


「そうでした。本題に入らせてもらいますね」


 サーシャさんはコホンと小さく咳払いをして姿勢を正した。


「実は……私は教国の聖女として勇者パーティと共に魔王討伐に向かうべくここまで来たのですが、門前払いされまして……それでどうしようかと思っていたところに見たことのない服を着たクリード様を見かけてつい声をかけてしまいました!」



 ……ん?

 特別用事があったわけではないの?


「つまり……勢いで声をかけてみたけど特に用は無かったと?」

「そう言われると間違いではないんですが……」


 間違いないのかよ……少しは取り繕えよ。


「ま、まぁそれはいいのです。クリード様はこれからどうなさるのですか?」


 思い切り話逸らしたな……まぁ乗ってやろうか。


「とりあえずしばらく困らないくらいの金銭は貰ったけどなにか仕事しないといけないなーとは思ってる」

「なるほど、それでなにか希望のお仕事はあるのですか?」


 なんでこの人面接官みたいな空気出してるの?


「うーん……どんな仕事があるのかわからないけど、この世界には冒険者とか探索者とかそういった職業ってあるのかな?」


 この際だからサーシャさんから色々聞いて教えてもらおう。


「冒険者はありますよ。魔物退治したり採取したり護衛したりするお仕事です」

「おぉ、あるなら冒険者をやってみたいとは思うかな」


 あるんだね、やはりテンプレは偉大だ。


「クリード様は戦えるのですか? 勇者は召喚された際武具を召喚できるスキルを得ると聞いたことがあるのですが、クリード様の召喚できる武具は何でしょうか?」

「武具召喚か……剣とか槍とかを召喚するスキルは持ってないけど、トラック召喚ってスキルはあるな」

「とらっく? どのような武具でしょうか……?」


 分からないか……まぁ分からなくて当然だろうなぁ。

 一応石畳にはなってるけど車一台も走ってるの見てないもん。

 馬車が走ってるのは見たけども。


「なんと言うか……めちゃくちゃ大きい鉄の塊って言えばいいのかな?」

「盾のようなものでしょうか?」


 サーシャさんの頭の上にクエスチョンマークが見えるな……

 それでどうやって戦うの? って顔だ。


「自走するというか、馬車みたいに操れるんだよ。戦えるかというと……微妙?」


 撥ね飛ばして戦うのもどうかと思うし、それやるとトラックめちゃくちゃになりそうだし……


「うーん……一度召喚して見せてもらうことって出来ますか?」

「それは構わないけどここじゃ無理かな? 幅3メートル弱あってそれが長さ12メートルくらいあるし……」


 正確な数字は覚えてないけどそれくらいなハズ。


「そんな大きな鉄の塊を動かせるのですか? それってめちゃくちゃ強いんじゃ……」

「まぁそれはなんとも……」


 まぁ実際見てみないことには想像もつかないだろうな。


「では冒険者ギルドへ行きますか? そのトラック召喚というのも見てみたいですし」


「はぁ……別に構わないけど……」

「では行きましょう! あ、ここのお金は私持ちますので!」

「あ、ちょ!」


 止める間もなくサーシャさんは支払いに走っていってしまった。

 一応金は持ってるから払うつもりでいたんだけど……初対面の女性、しかも年下っぽい女性に奢らせてしまうなんて……


 若干後悔しているとすぐにサーシャさんは戻ってきた。


「では行きましょうか、アンナ、ソフィア、行きましょう」

「はい」



 俺たちの座っていた席のすぐ隣でお茶を飲んでいた2人組が返事をして立ち上がった。

 お連れさんだったの?


「すみませんクリード様、隠すつもりは無かったのですが、この2人は私の仲間です。私1人で大丈夫だと言ったのですが……」

「聖女様、ここは他国ですので念には念を」

「そうッスよ、何かあってからじゃ遅いッス」

「本来なら見知らぬ男性と2人でお話など言語道断です。しかし勇者の1人であるから私共も妥協したのです。お分かりいただけますか?」

「もぅ、分かってますよ! クリード様紹介しますね。こちらは私の仲間のアンナとソフィアです。とっても頼りになるんですよ!」



「お初にお目にかかります勇者クリード殿。私は聖女様の護衛騎士のソフィアと言います。以後お見知り置きを頂たく」

「自分はアンナであります! ソフィアと同じくサーシャ様の護衛騎士を務めているッス! よろしくお願いしまッス!」


 2人はそれぞれ自己紹介をして軽く礼をした。


 ソフィアさんは皮の鎧を身にまとい先端に布を巻き付けた長い棒……槍かな? を持った金髪ポニーテールのキリッとした無表情な女性。


 アンナさんは皮の胸当てと両手にグローブをしていて腰に剣、背中に盾を背負った栗色ショートカットの元気良さそうな女性だ。


「俺は久里井戸玲央、サーシャさんとは話したけど久里井戸が家名だよ。よろしくお願いします」


 こちらも自己紹介を返して軽く一礼。


「じゃあ紹介も終わりましたし冒険者ギルドへ行きましょう!」



 元気よくサーシャさんはそう言って1人先行して歩き始める。


「聖女様! お待ちを!」

「1人は危ないッス!」


 護衛の2人も慌ててサーシャさんについて行く。

 せっかく冒険者ギルドに案内してくれると言うのだから俺も遅れずについて行こう。




 移動中は特に会話らしい会話も無くしばらく歩いて行く。

 やはり王城がある街……王都? は相当に広いな。


 1時間ほど歩くと大きな壁、城壁? 外壁? にたどり着き3人で壁の門をくぐる。

 門をくぐると先程までの整然とした街並みでは無く雑多と言うのか色んなものが混在したような街へと変貌した。


「この門から先が一般区画です。貴族街の東門から出てきたのでこの辺は東区ですね。冒険者ギルドはもう少し行ったところ、外門近くにありますよ」


 街の印象の違いに驚きキョロキョロしていた俺にサーシャさんが説明してくれた。


 王都は2つの大きな壁で区切られており、外側の壁を外壁、内側の壁を内壁と呼ぶらしい。


 内壁の内側は貴族や大商人などが住む区画で外側は一般人が住む区画と分けられているんだって。



 うん、予想通り。

 予想と違ったのは思ったよりも壁の中の面積が広い事だ。


「すごいね、こんな大きな壁作るのってどれくらいかかったんだろ?」

「壁自体はそこまで大変な作業ではないですよ? 土系統魔法が使える人を集めることが出来れば数週間あればできますよ」

「なるほど魔法か……やっぱり俺のいた世界とは全然違うな」

「クリード様の世界には魔法は無いのですか?」


 サーシャさんが驚いたように聞いてくるが、やはり魔法のある世界で生まれ育ったサーシャさんには魔法の無い世界の話は信じられないんだろうな。


「今は城郭都市とか城壁とか作られないけど、作られてた時代は人の手で組み上げてたと思うよ」



 世界史はあんまり得意じゃなかったけどそうしかないよね。

 重機とか存在しなかったわけだしね。


「人の手で……大変そうな世界ですね……」

「今の時代は色んな重機とかあるから相当楽だと思うけど、昔は大変だったろうね」


 詳しく知らない話を膨らませても仕方ない、しれっと話を流してからまた冒険者ギルドへ向けて歩き始める。


 前方を歩く3人はサーシャさんが護衛の2人に色々話しかけているが護衛2人は会話より警戒を優先しているようであまり盛り上がってはいない。

 2人とも真剣だな。


 それからしばらく歩いて俺たちは大きな建物の前にたどり着いた。

 王城からほぼ真っ直ぐ、メインストリートなのだろうか? 大きな道沿いに冒険者ギルドは建っていた。


「ここが冒険者ギルドです! ささ、クリード様登録しちゃいましょう!」


 ハイテンションで俺の腕を掴んで中に入ろうとするサーシャさん。

 護衛騎士のアンナさんは先行して冒険者ギルド内に入って中を確認しているようだ。

 対してソフィアさんはサーシャさんから離れず身辺警護を行っている。

 自己紹介の時は明るい元気娘な感じがあったが仕事中はキリッとした顔をしてなんか雰囲気があるな……


「わかった、わかったから引っ張らないで!」


 グイグイ引っ張るサーシャさんを宥めて冒険者ギルド内へ足を踏み入れる。

 中はかなり広くて入って左手側は飲食店のようになっている。


 テンプレならここで仕事の終わった冒険者たちが飲んでいるのだろうが、まだ昼前のようで空席ばかりだった。


 右手には掲示板があり沢山の紙が貼り付けられている。

 おそらくあれが冒険者向けの依頼だろう。


 正面にはカウンターがありゆったりとしたスペースで受付嬢が数人待機している。


 うん、完全に想像通りの造りだな。


「やっぱりこの時間は空いてますね! さぁさぁクリード様サクッと登録しちゃいましょう!」



 サーシャさんはなんでこんなに楽しそうなんだろうか?

 トラックを見せる約束はしたけどそんなに楽しみなのだろうか?


「まぁここで突っ立ってても仕方ないよね、行こうか」


 カウンターの上を見ると【登録、相談】と書かれた場所があったのでそちらへ移動。


 さて、ここで登録したら俺の異世界生活が今度こそ始まる予感がするね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ