18話……新たな出会い
〜リバーク迷宮第5階層〜
階段を下ってきたが付近にはなんの気配も無い。
今のうちに光源の魔法を展開、相変わらず豆球の方が明るいくらいだけど今は練習、使い続けることに意味があるのだ。
「さぁ行くわよ」
静かにリンが号令を出す。
俺たちは隊列を組みながら通路を進んでいく……
壁には所々4階層で見付けた魔鉱石が反射しているのが見えるが今は無視。
ミスリルを見つけることが出来れば回収するが魔鉱石はもう十分だ。
『前方より生命反応、数は2、未確認です』
未確認、つまり今まで出会っていない魔物か。
しばらくして現れたのは身長2メートルを少し超えたくらいの鬼だった。
あれがオーガかな?
ゴゥッとリンから風の魔法が放たれオーガを切り裂く、血は吹き出しているがそこまで深くはなさそうだ。
「行きます、【剛腕】!」
ソフィアは一時的に筋力を上げるスキルを使用してオーガに襲いかかる。
【剛腕】って俺も持ってるけどそういえば使ったことないな……
というか戦闘中にスキル使った記憶が無い、せっかく持ってるんだから使わないと宝の持ち腐れだな。
【剛腕】を使って鋭く突き出された槍はリンの魔法で裂けた皮膚を上手く捉えそのまま貫いた。
『生命反応消失しました』
ソフィアはまだ構えていたがウルトの声で構えを解く。
「上手く傷口を狙えましたが傷が無ければ一撃で貫くのは難しそうですね」
「やっぱり硬いのね……次は魔法無しで戦ってみる?」
「はい、相手が1匹なら挑戦してみます」
先程の戦闘の感想を話し合い次は魔法無しで戦う事にしたらしい。
俺もやってみたいな……
そこから少し移動するとまたウルトが魔物を感知、今度はオークに似た反応との事なのでおそらくオークの上位種だろう。
ハイオークかな? ソルジャーかな? ナイトかな?
現れたのは今までに見た茶色い肌のオークではなく薄らと青い肌をした2匹のオークだった。色違いかよ。
「あれは……ハイオークかしら? 実物を見るのは初めてだからあまり自身は無いけど……」
ハイオークか……まぁ武器も盾も持ってないからソルジャーとかナイトって言われても疑問の余地しか無いもんな。
2匹はこちらを見付けると勢いよく走り出した。
速度はまぁオークよりは速いな、けどそれだけだ。
走り込んでくるハイオークの1匹に対しリンが先端が鋭く尖った岩を放つ。
ハイオークが走り込んで来る分威力が増したのか岩はハイオークの顔面を貫きその命を奪った。
もう1匹のハイオークは仲間が殺られたことなど気にもとめずに接近してくる。
それに対してアンナが1歩前へ、ハイオークの攻撃を受け止める構えだ。
ハイオークの拳が振るわれ吸い込まれるようにアンナの構えた盾に直撃、【不動】も使っていないようだったので勢いと腕力に押し切られ吹き飛ばされるかと思ってみていたがアンナは少し後ろに押し込まれただけで耐えきった。
その隙にハイオークの死角に回り込んだソフィアの一撃、的確にハイオークの骨を避け心臓を貫いた。
ハイオークは一度大きく震えてそのまま倒れる。
「ハイオークの一撃は思ったほどじゃ無かったッスね、飛ばされるかと思ったけど大丈夫でした」
「皮膚もそこまでですね。多少オークより硬いくらいかと」
ハイオークはあまり問題無さそうだな、とりあえずはオーガの戦闘力を把握するまでは気をつけないとな。
それからしばらくオーガに遭遇する機会は無く、主にオークやハイオーク、稀にラッシュボアが突撃してくるという感じで順調に進んでいく。
『マスター、人間6人の生命反応を確認、オーガ4匹と戦闘中の模様。うち1人はかなり危険な状態です』
ハイオーク5匹との戦闘を終えてすぐ、ウルトが人間の生命反応を感知した。
1人は危険な状態……どうする?
「リンさん……」
「とりあえず行ってみて状況を確認するわ。助けられるようなら助けましょう」
「はい!」
「ウルト、先導よろしく!」
短い会話で方針を決定、ひとまず確認することからだ。
しかしオーガ4匹か、まだオーガの戦闘力ははっきり分かってないから少し不安はあるな。
ウルトの案内で移動すること少し、大きな広場にたどり着いた。
通路の影に身を潜め状況を確認する。
中では激しい戦いが行われており、オーガと相対しているのは4人。
剣を持った戦士が2人、盾を持った戦士が1人、そしてその後ろから魔法を使っている魔法使いが1人。
壁際では軽装の女性が倒れた鎧を着た男性を介抱している姿があった。
地面には何本かの松明が転がっており本当に最低限の視界だけはある感じだ。
戦っている4人のうち3人は今にも倒れそうなほど消耗している様子、唯一剣を持った戦士の片方だけが元気にオーガ4匹と戦っている。
「どう? 行けそう?」
「私とアンナで1匹、クリード殿に1匹、残りをあのパーティに対応して貰えるなら大丈夫だと思います」
「了解、サーシャちゃんはあの人の回復をお願い、あたしは炎の魔法で明かりを維持することに務めるから、あたしの方にオーガが来ないように注意して」
「分かった、一応リンにウルトを預けるから最悪ウルトを盾にして逃げて」
「助かるわ、出来ればウルトのことはバラしたくないから最終手段として預からせてもらうわね」
どう行動するか決めながらも戦闘を見ていたが、あの戦士すごいな……
常に動き回って誰かが集中して狙われないようにしているし、自分に来た攻撃は回避か受け流し。
カウンターでさらにヘイトを稼いで自分を狙わせる動き……
多分身体能力は俺の方が上だけど技術がすごい。
的確な判断で回避、受け流し、カウンター、さらに仲間のサポート……見習うべき動きだな。
「じゃあ行くわよ!」
気が付けば戦士の戦いに意識を持っていかれていたがリンの声で我に返る。
まずは展開していた光源の魔法を解除、剣を抜いてオーガに向けて駆け出した。
走って近付いていくと、オーガ4匹と戦っていた戦士もこちらに気付いたのか一瞬目を見開いたのが見えた。
「助太刀する、1匹寄越せ!」
「助かる!」
必要無いかもしれないが許可も貰えたので一番近くに居たオーガに攻撃を仕掛ける。
オーガは俺の攻撃に気付いて防御の体制を取った。
「【剛腕】!」
スキルを使用して筋力を強化、そのまま防御していた腕を斬り飛ばした。
「ガァァア!!」
切り落とされた左腕を抑え前のめりになるオーガ、ちょうどいい位置に首が来たな……
そのまま【剛腕】の効果が切れる前にもう一度剣を振り上げ、その首目掛けて振り下ろした。
多少の硬さは感じたが特に問題なく切断、これなら【剛腕】が無くとも斬れそうだ。
周りを見ると、ソフィアとアンナは安定のコンビネーションでオーガを封殺、すぐにでも倒せるだろう。
戦士の方は……今まで4匹相手にしてどうにかなっていた人が2匹でどうにかなるわけが無かった。
躱し、受け流し、カウンター。
オーガ2匹を相手に危なげなく一方的にダメージを与えていた。
見るのも勉強と思い戦士の戦いを見学する。
常に相手の最適な間合いから微妙にズラしている立ち位置、オーガの力を利用した流れるような受け流し、完全にオーガの体制を崩してから放たれる回避も防御も出来ないカウンター。
俺は思うままというか……身体能力と動体視力に任せた回避と攻撃をしていたと思う。技術なんて無いからね。
そんな素人目からでもわかるこの技術、すごすぎる。
教えて貰えないかな?
「はっ!」
見ているうちに戦士は1匹のオーガを袈裟懸けに深く斬り裂いた。
そのまま流れるように2匹目のオーガの首に一撃、かなり深く斬り裂いたらしく噴水のように血が吹き出した。
2匹のオーガは同時に倒れる。
それを見た戦士も腰が抜けたようにへたり込む。流石にげんかいだったようだ。
『マスター、生命反応消えていません』
他の人間が居るからかイヤホン越しに届いたウルトの声。
ハッとして倒れたオーガを見ると袈裟懸けに斬られたオーガが立ち上がろうとしていた。戦士は気付いていない――
「【瞬間加速】ッ!」
1歩目から最高速度に達することが可能になるスキルを使用して起き上がったオーガに接近、そのまま首を刎ね落とした。
戦士は声も出なかったようで、驚愕に目を見開き俺の方をじっと見つめていた。
「大丈夫?」
「あ、あぁ、ありがとう」
手を差し伸べると握ってきたので引っ張って立たせる。
「本当に助かったよ。パーティを代表してお礼を言わせてもらうよ」
「いや、たまたま発見して勝てると踏んだから助太刀したんだよ、危ないと判断してたらこっちも逃げてたんだから頭下げなくていいよ」
頭を上げさせてから他の人も立ち上がらせてから怪我人の治療をしているサーシャの下に移動する。
「サーシャ、どう?」
「大きな傷を受けていましたがもう大丈夫です」
起き上がってはいないが顔色も悪くなさそうだ。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
介抱していた軽装の女性は今にも泣き出しそうになりながらサーシャにお礼を言っている。
サーシャは微笑んでお礼を受け入れてその女性の傷も癒してあげていた。
「重ね重ねありがとう、僕はケイト、このパーティのリーダーをしています」
「ケイトね、あたしはリン、こっちのパーティのリーダーよ」
リーダー同士しっかり握手を交わす。
「本当にありがとう、まさか5階層でほかのパーティに助けられるなんて思ってもみなかったよ」
「本当に偶然よ。あたしたちは昨日からここの迷宮に潜り出したばかりだしね……ほかのパーティはこの階層には居ないの?」
「ここには僕たちだけだね。たまに来るパーティは居るけどすぐ上に戻っちゃうし……まぁだからミスリル掘り放題で美味しいんだけどさ」
そう言って自分の冒険者証を取り出す。ランクはゴールドだ。
「2年くらい前にこの階層にたどり着いてから地道にミスリルを集めてゴールドランクになったんだ。あと2人で全員ゴールドランクになれるから焦って警戒が雑になってたのかもしれないね」
ケイトはそう自嘲気味に笑う。
2年か、長いな……でも普通はこの位かかるものだよなぁ……
「階層ボスには挑まないのか?」
「ここのボスはオークキングにハイオークが2匹、オークが無数にいるんだ。数も多いし僕らにはまだ荷が重いかな? キングとハイオークは何とかなりそうだけどあのオークの数がね……」
そんな大量に居るの? 4階層のゴブリンも大量に居たけどゴブリンとオークじゃ格が違うか……
「だからここで全員ゴールドランクに昇格とミスリル武器を揃えてからボスに挑むつもりだったんだけどね。2年くらい5階層に居るけどあんなにオーガに囲まれたのは初めてだったよ」
「この階層でオーガはあまり出ないの?」
「うん、レアってほどでは無いけど出現率は高くないよ。今までで一番多かったのでも2匹同時だったんだ」
2匹なら捌けるんだけどねとケイトは笑うが4匹捌いてたじゃん。
盾持ちの大柄な戦士と魔法使いは苦笑いを浮かべている。そういえばこの人たちの名前知らないな。
「なぁリン、メンバーの紹介とかって……」
「そういえばして無かったわね……」
コホンと咳払いをひとつ入れてリンは場の注目を集めた。
「ケイト、紹介が遅れたけどパーティメンバーを紹介するわね。改めてあたしはパーティリーダーのリンよ。職業は魔法使い。それでこの隣のが副リーダーで魔法剣士のクリードよ」
俺って副リーダーなの? それに魔法剣士?
あ、勇者召喚で喚ばれたトラック運転手ですって言う訳にもいかないからダミー的な? それに魔法剣士って職業あるの?
俺が悩んでいると、ほらと腰の辺りを軽く叩かれたので自己紹介をする。
「クリードです。リンが言ったように魔法剣士です。よろしく」
軽く頭を下げると拍手が起こった。なぜ?
それにケイトのパーティメンバーが拍手するならまだわかるけどなんでサーシャも拍手してるの?
「そこでそっちの戦士さんを治療してるのが治癒士のサーシャ、槍を持ってるのがソフィアで盾持ちがアンナ、両方戦士よ」
「よろしくお願いしますね」
サーシャは微笑みながら軽くお辞儀、ソフィアとアンナは無言で礼をした。
「丁寧にありがとう。僕はケイト、このパーティのリーダーで職業は剣闘士だよ。クリードくんとは同じ中位職だし仲良くして欲しいね」
ケイトは俺に視線を向けてニコッと微笑んだ。
ん? 中位職ってなんぞ?
「それから戦士のディムとクレイ、魔法使いのロディだよ」
えっと、剣士の方がディムで盾持ちの方がクレイ……それに魔法使いのロディね。
3人はそれぞれ軽く頭を下げて挨拶してくれた。
これ拍手しといた方がいいか?
3人がそれそれよろしく、と言って頭を上げたので拍手。
よかった、サーシャもしてくれたから1人恥をかかなくて済んだ……
「それで、まだ起きてないけど槍使いの戦士のハンス、介抱してたのが盗賊のミナだよ」
「起き……てる、ぞ」
どうやら意識を取り戻したらしくミナと呼ばれた盗賊の女性に支えられてハンスは身を起こした。
「オーガに殴られた時にはもうダメかと思ったが治癒士さん……サーシャさんだったか? アンタのお陰で助かった。ありがとう」
「あの! ハンスを助けてくれて本当に、本当にありがとうございます!」
ハンスとミナはサーシャに向き直り深々と頭を下げた。
サーシャは頭を上げてくださいと窘めているが2人は一向に頭をあげる気配は無い。
「はは……仲間が済まないね……それで、僕たちは一度戻るけど君たちはどうするの?」
「あたしたちは進むわ。一度5階層のボスと戦ってみるわ。勝つにしろ逃げるにしろそこで一旦街に戻るつもりよ」
「そっか、わかったよ。なにかお礼がしたいんだけど……」
「お礼なんて――」
「リン、ちょっとちょっと」
お礼を断ろうとするリンを引っ張り少し離れる。
「なによ、クリードは何か欲しいものでもあるの?」
「出来ればだけどね。ケイトから剣術を教えてもらうなんて無理かな? あとは欠片でもいいからミスリルが欲しい」
「剣術はわかったけどなんでミスリル……あぁ、なるほどね」
どうやら察してくれたようだ。
「4階層でウルトが魔鉱石を回収したら魔鉱石を感知出来るようになった……つまりそういうことね?」
「そうそう。ミスリルに関しては相場がわかるなら買取でも損は無いと思うんだ」
「そうね、ちょっと頼んでみるわ」
内緒話を終えケイトのところに戻るとケイトは何かを覚悟したような顔で待ち構えていた。
なんで? もしかして俺がえげつない要求してくると思ってるのかな?
「ごめんなさいね、それでお礼の件なんだけど……」
「君たちは命の恩人だ、僕たちに支払えるものなら……」
悲壮な顔でそう告げてくるがそこまで思い詰めなくてもいいと思う。
一体何を要求されると思ってるのか気になるところだ。
「うちのクリードがあなたに剣術を教わりたいそうなの。無理に都合合わせろとは言わないから時間があれば教えてあげてくれないかしら?」
「え? け、剣術?」
拍子抜けしたのかケイトは間の抜けた声を出している。
「俺の戦い方はスキルと身体能力に任せた戦い方だからケイトの綺麗でかっこいい戦い方を見て感銘を受けたんだ。良かったら俺に剣術を教えて欲しい」
「そ、そんな……綺麗だなんて……」
素直に思ったことを述べただけなのだがケイトは照れたのか赤くなって俯いてしまった。
自分の得意分野を褒められてうれしかったのかな? それともオーガ4匹を倒しきれなかったのを恥じてるのかな?
それなら恥じる必要は無いと思う。
「え、あ、僕なんかでいいのなら……」
「ありがとう!」
思わずケイトの手を握るとケイトは更に顔を赤くして俯いてしまった。
え? もしかしてそんなに褒められ慣れてないとか?
「クリード、戻りなさい」
「え? あ、はい」
なんかリンが怖い顔で戻れと言うので大人しく戻る。
しかしケイトもあんなに顔を赤くして……ちょっと悪いことしたかな?
「ケイト、出来ればもう1つお願いしたいのだけど……」
リンがそう言うとケイトは顔を上げた。
まだ少し赤みがかっているが表情は強張っている。
これはこつちが本命だと思ってる顔だな。
「ケイトたちが持ってる中で1番小さな欠片でいいからミスリルを譲って貰えないかしら?」
「ふぇ? ミスリル?」
「えぇ、あたしたちは5階層に来たばかりでまだミスリルの実物は見てないの。だからサンプルが欲しいのだけど……難しいようなら対価を払ってもいいわよ」
「い、いや、そんな対価なんていらないよっ! 寧ろ持ってるミスリル全部寄越せって言われても仕方ないと思ってるよ!」
全部? そんなにいらないよ?
サンプルさえあれば自分で集めるから大丈夫だよ?
両手を前に出してブンブン振っているケイトを窘めてリンは続ける。
「それはケイトたちのランク昇格に必要でしょ? それにほかのパーティの集めたものを横取りする趣味はないわ」
「わかったよ。これくらいで大丈夫?」
ケイトは手のひらを上に向ける。
するとそこに淡い光と共に小指の先程の石が現れた。
アレがミスリルか……というかケイトって剣闘士だよね? 戦士系っぼいのに収納魔法使えるの?
「十分よ、ありがとう」
「これだけでいいの? 他になにかあったりする?」
ケイトは少し不安そうだ。
だから何を要求されると思ってるんだよ……
「もう十分よ」
「命の恩人に対してのお礼にしては少なすぎると思うんだけど……」
ケイトはどうしたいの? なにか要求されたいの? されたくないの?
「足りないと思うならクリードにしっかり剣術を教えてあげてくれるとありがたいわね」
「わかったよ。僕たちは迷宮を出たらしばらく休みにする予定だからクリードくんも迷宮を出たら僕のところに来てほしい。大鷲亭って宿に泊まってるから」
「大鷲亭だね、わかったよ」
もう一度握手をして約束を交わした。
「じゃあ気を付けて戻れよ」
「ありがとう、クリードくんたちも気を付けてね!」
それじゃあ、と言い残して6人は4階層に向けて戻って言った。
「さぁ、あたしたちもやることやって先へ進むわよ」
オーガの死体と貰ったミスリルをウルトに積み込み出発することにした。
ちなみに途中から近くに居ないなと思っていたソフィアとアンナはスライムにオーガの死体を溶かされまいと奮闘していたらしい……




