140話……盗賊注意
聖都の外、少し離れた位置に転移してウルトを元のサイズに戻して全員で乗り込む。
「じゃあウルト、よろしくね」
『かしこまりました』
ウルトに乗り込んでからは和やかな時間を過ごす。
全く揺れず移動している感覚は無い。
なのに実際は時速100キロ程度での移動なのだ。
よめーずwithイリアーナは代わる代わる運転席や助手席に座って外の景色を眺めたり荷台部分でお茶を楽しみながらお喋りに興じたりと忙しない。
俺はと言うとウトウトしている。
2日連続で全員の相手をしたのだ、体力的にも睡眠時間的にも厳しい……
ウルトが言うにはそれも気の持ちよう、大丈夫と思えば大丈夫だと言うが中々思い込めるものでもない。
【理外】となった俺にはこの世界の理は通用しない。
つまり全ては俺の意思で俺の状態は決まるらしい。
極論心臓を貫かれようが首を刎ねられようが俺が大丈夫と思えば大丈夫ということ、でもさすがにそれは大丈夫と思えないと思う。
「レオさんもこっち来るッスよ! お喋りするッス!」
「ごめん、ちょっと眠いんだ」
聞こえてきた感じ今はベラとイリアーナに今までの冒険のことを話しているようだ。
サーシャやアンナが俺の活躍を誇張して話しているのがバッチリ聞こえているので加わりたくない。
サーシャたちの中の俺ってどれだけすごいんだろうか……謎だ。
「あ、盗賊」
リンが盗賊に襲われている馬車を発見したようだ。
ここはまだ教国領内、ということは俺には貴族として盗賊をなんとかする義務があるのかな?
「リン、盗賊って殲滅と捕縛どっちがいいの?」
基本的にあまり人間を殺したく無い気持ちはあるが盗賊は魔物とあまり変わらない認識だしどっちでも問題は無い。
そもそも既に人を殺してる身だ、今更日本の感覚で人を殺したくないというつもりも無い。
「法的には殲滅で問題無いわ。ただ本拠地を吐かせるために数人生け捕りが望ましいわね」
なるほどね……なら後ろで指揮を取ってる奴以外は斬り捨てるか。
「じゃあ行ってくるよ」
「1人で大丈夫?」
「問題無いよ。【理外】になってからまだ戦闘したことないし、軽く慣らしてくる」
今のところ体の感覚やスキルの使用に違和感は無いけど戦闘となればどうなるかわからない。
帝国の迷宮を攻略する時もなるべく自分で戦うようにしようかな?
強欲の剣を取り出してから転移を発動、襲われている馬車へ急行する。
幸い怪我人は出ているが死者は居ないようだ。
「なんだてめぇ!? どこから……」
いきなり現れた俺に驚き怒声を上げる盗賊だが、最後まで言い切る前にその首を飛ばす。
「な、なんだ!?」
「冒険者か!?」
「いや、相手は1人だ!」
騒ぎ出す盗賊たち、数は……12か。
見た限り脅威は感じない。レベルも高くは無さそうだ。
これならスキルは使わなくても大丈夫かな? 純粋な肉体能力の確認には最適かもしれない。
「おらぁ!」
盗賊の1人が斧を振り下ろしてくる。
1歩横にズレて攻撃を回避、そのままカウンターで首を刎ねる。
「合わせろ!」
5人の盗賊が上段、中段、下段とタイミングを合わせて攻撃してくる。
これも1歩下がって回避、一振りで5人の上半身と下半身をお別れさせる。
剣を振り抜いたタイミングで1本の矢が飛来、躱すのも剣で弾くのも難しいタイミングを狙った見事な一矢だが空いている左手で掴んで捨てる。
同時に剣に軽く魔力を流し込んで振ると、弓を持った盗賊の体が左右に真っ二つに別れた。
うん、【飛翔閃】も問題なく使えるな。
それから流れ作業のように馬車を襲っていた盗賊たちを殲滅、最後に逃げようとしていたリーダー格の男の左腕と左足を斬り飛ばして逃走出来ないようにして簡単な回復魔法で止血だけしておく。
死なれたら尋問できないからね。
「よし」
戦闘挙動に違和感は無し、思い通りに体は動いてくれた。
これなら身体能力強化系のスキルは使う必要は無いな。
リーダー格の男が舌を噛み切らないよう猿轡を噛ませてから襲われていた馬車に戻る。
「大丈夫?」
「あの……助けて頂き本当にありがとうございます!」
馬車に居たのは商人風の男女と、護衛っぽい冒険者3人組。
3人組は首元にシルバーランクを示す冒険者証を付けていた。
「どこまで行くんだ?」
「私たちは北東の街イーセンに向かっています」
イーセン……聞いた事無いな。
「そうか……とりあえず怪我を治すから動かないで」
商人の男女に怪我は無い、怪我をしているのは護衛の冒険者の方だ。
3人に回復魔法を掛けているとウルトに乗ったみんなが追いついてきた。
「レオ様、治療は私が変わりますので」
「よろしくサーシャ、ベラ。じゃあ俺はあっちから情報でも聞き出してくるよ」
「私もそちらに行きます」
「自分は残党が居ないか警戒しとくッスよ」
回復魔法は本職の2人に任せて尋問に移る。
アンナは2人の護衛、ソフィアは俺の付き添い、リンは……商人から話を聞いているな。
「ひっ……! なんだ、なんなんだよ!?」
俺たちが近付いてきたのを察知したのかリーダー格の盗賊は騒ぎ始める。
「うるさい。素直に喋るのと痛みで喋らされるのどっちがいい?」
盗賊にかける慈悲はない。
放っておいてもいいのだが一応貴族である俺は国内での犯罪を見逃すのもダメかなと思って行動しているだけだ。
本当はさっさと終わらせて帝国に行きたいのだ。
「それで、お前らの組織の人数と本拠地は?」
腰に提げた強欲の剣の柄頭を触りながら質問する。
「お、俺たちは【ノーフェイス】だ……失俺の知っている限り人数は400人程、アジトは……」
視線を逸らして口を噤む。
痛いのがお好みですか?
親指で剣の留め具を外す。刀で言うところの鯉口を切る動作だね。
「アジトは……少し離れた森の中だ。これでいいか?」
「少し離れた森ってどこさ? 方角と距離は?」
「……南東に2キロほど行った森の中。これ以上は言えねぇ」
ここまで言っといてこれ以上って? つまり虚偽ってことだろ?
【強欲なる者の瞳】を発動、言っていた森を探して上空から見下ろす。
見つけた、この森かな。
このスキルを手に入れた時には出来なかったズーム機能を使って森の中を見下ろしていく。
……なるほど、アジトは4つ、俺たちがどれか1つを強襲している時に囲めるようにあんな言い方をしたのか。
確かにどれか1つでも見つけたら他にあるとは思いづらいだろう。
「なるほどね、森の中に4つのアジト、どれか1つが落とされても問題ないと言うことか」
「なっ……!?」
リーダー格の盗賊は言い当てられたことに驚いているようだ。
「じゃあもういいよ。さよなら」
「まって……」
強欲の剣を抜刀、そのまま首を刎ねた。
人数については正直どうでもいい。ウルトに頼めば詳細な人数分かるし口を割らせても嘘か本当かわからないから。
「こっちは終わったよ。そっちはどう?」
盗賊の死体を土魔法で掘った穴に放り込み火魔法で燃やしてからサーシャたちのところに戻る。
魔法を使ったのは俺、死体を回収してきて穴に放り込んだのはウルトだ。
「お疲れ様でした。治療も終わりましたしリンさんも話を聞き終わっていますよ」
「そっか、それでこの人たち近くの街まで送った方がいいのか?」
街の場所とか知らないけど……
「いえ、ここからならすぐに街にたどり着けますのでそこまでしていただく訳には……」
商人の男がウルトをチラチラ見ながら口を開く。
「そう? 大丈夫ならいいけど」
「大丈夫です! それよりなにかお礼をしたいのですが……」
「お礼ねぇ……」
俺は義務として盗賊討伐をやっただけだからお礼と言われても……
むしろこの人たちが被害を受けていたら保証する義務があるのでは無いかとすら思っている。
ノブレス・オブリージュってそういうもんでしょ? 違うの?
「別にいらないよ。盗賊討伐は俺の仕事みたいなものだから」
「しかし……いえ、でしたらお名前だけでも伺いうことは可能でしょうか?」
「名前? えっと……」
フルネームで名乗ってもいいけど隠してた方がかっこいい気がするな……
「こちらの方はレオ・クリード侯爵様です。貴族の義務として盗賊を退治しましたのでお気になさらぬよう」
「サーシャ!?」
レオだけ名乗る方がかっこいいかと思っているとサーシャが丁寧に爵位まで説紹介してしまった。
「侯爵様……こ、これは大変な失礼を!」
商人たちは一斉に膝を着いて頭を垂れる。
「あー……俺元々庶民だからこういうのはちょっと……とりあえず立ってください……」
そう声をかけると商人たちはおずおずと立ち上がってくれた。
良かった、人を跪かせる趣味は無いから困るんだよね。
「じ、じゃあそういうことで……俺たちは残党って言うか本隊潰しに行くから……気を付けてね?」
「はい。本当にありがとうございました」
商人たちは深々と頭を下げて去っていった。
「んじゃ駆除しに行きますかね」
俺たちは全員でウルトに乗り込んで盗賊団殲滅へと向かうことにした。




