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仕事だから  作者: トウヤムクン
1/1

英雄譚の始まり

今回のシリーズは短めで終わらせるつもりです。

駄作にお付き合いください。

 だだっ広い野原の一本道を、一台の馬車がゆっくり走っている。馬車の周囲には大隊規模の護衛が張り付いており、馬車を厳重に守っている。

 それだけ聞くとこの馬車には貴人が乗っているように思えるが、この馬車は罪人を護送している。馬が引いているのは四方を鉄格子で囲まれた牢屋であり、その中には1人の少年が拘束具で椅子に縛り付けられている。

 少年は女性ウケの良さそうな柔和な顔立ちで、手足はほっそりしており、とてもこの扱いがふさわしい罪人には思えない。


 この少年は『勇者』()()()

 数年前に出現した魔王を討伐した後、逆賊に堕ちて、こうして捕えられた。

 

 「隊長!周囲に異常ありません!」

 「ご苦労。引き続き周囲を警戒せよ」

 「はっ!」


 護送隊の隊長の元に、部下の 1人が駆け寄って斥候の成果を報告する。隊長が勇壮なのは当然として、駆け寄ってきた部下や周りの部下も皆壮健である。遮蔽物がない野原でも真面目に周囲を警戒し、緊張感や集中を切らさない様からは、高い練度が伺える。


 そんな護送隊の隊長を務める騎士にして()()()()()であるアイクは、勇者としての栄光から転げ落ちた弟をチラリと見た。殊更に悲しそうな目をして見せたりはしないが、破滅した弟に何も思わないわけではないらしい。


 アイクの脳裏に、ここ数年の記憶が蘇った。



 ◆ ◆ ◆



 勇者と魔王の物語。

 有史以前からある勧善懲悪の英雄譚であり、魔法やモンスター、迷宮が実在するこの世界では定期的に起きる『実話』である。


 迷宮と呼ばれるモンスターの生息地に突然変異個体が現れ、各地のモンスターが活性化し、まるで軍隊のように人類に襲いかかる。

この突然変異個体こそが魔王であり、魔王自身は自分の迷宮から出てこないが、各地で活性化したモンスターの群れが魔王軍として人類社会を脅かす。


 迷宮でモンスターを倒すとアイテムが手に入る。このアイテムは多岐に渡り、強力な武具や回復薬、あるいは希少な素材などなど、もはやアイテム収集が一つの産業となる程に、迷宮は人類社会と密接に結びついている。よって、魔王対策として真っ先に挙がる『迷宮から遠い場所に都市を建てる』というのは、現実的ではない。


 また、迷宮でモンスターが発生する原理や、魔王と呼ばれる突然変異個体の発生原因は全くわかっていないため、魔王が発生したら討伐するという対症療法的な対策しか存在しない。


 魔王とはモンスターの王であり、最強のモンスターである。当たり前だが、魔王の根城である魔王城には精強なモンスターがわんさかと待ち構えている。よしんばそれらを倒しても、待っているのは最強のモンスターである。


 想像し得る限り最も輝かしい偉業、魔王討伐。

 それは、いつの時代も数人の手に委ねられた。


 つまり、勇者パーティである。



 ◆◆◆



 この時代、この周辺一帯の覇権国家であるナイル王国。

 その首都の中央に、ただ一片の穢れも許さぬと言わんばかりに真っ白で荘厳な城が聳え立つ。政治の中心地であるこの城で、今まさに歴史が作られようとしている。


 城の最上階に位置する謁見の間で、1人の少年が跪いている。少年の前には年頃の少女が立ち、鞘に納められた煌びやかな剣を水平にして少年に授けていた。

 少年がそれを恭しく受け取り、周囲の貴族から拍手が起こる。


 今この瞬間、少年は勇者になった。


 この世界において、勇者とは聖剣に選ばれた剣士のことを指す。先ほど少女が授けた剣こそが聖剣であり、ナイル王国の国宝である。

 そして、聖剣を授けた少女こそ、勇者パーティの回復役にして、ナイル王国の王位継承権第一位のナミブ王女である。


 今宵は勇者の任命式。

 数年前に出現した魔王を討伐するため、聖剣の主を定める儀式を経て、勇者が選ばれた。


 勇者の後ろにはさらに2人の少女が跪いている。赤毛長髪の少女が勇者パーティーの魔法使いのカスピで、銀髪で露出が多い民族的な服に身を包む少女が勇者パーティーの格闘家のユタである。この 4人が今代の勇者パーティーである。


 魔王討伐を拝命する 4人が決定したこの瞬間、ナミブの背後の玉座に座る国王が立ち上がり、宣言した。


 「私はナイル王国国王として、ここに宣言する! この少年を勇者と認め、魔王討伐を託すと!」

 


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