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第一話 朝起きて -5

 放課後、遥を連れて自宅へ戻る。遥とは趣味が合うために、彼女はこうしてたまにわが家へ来ることがあるのだ。

「それにしても新弾で結構環境壊れたね。拓未はまあまあ収穫あっただろうけど、僕はさっぱりだったし」

「いや、確かに強化されたと言えばそうなんだが、最近の傾向的にこの後規制が厳しくないそうでなー」

「でも何もないよりはマシなんじゃないの?」

「それもそうか」

 とりとめのないやりとりを繰り返しながら自宅へたどり着くと、家族の物の他にもう一足見慣れた女性ものの靴が玄関に置かれていた。

「めぐねぇ、来てんのか」

 ドアを開けたことでこちらに気付いたのだろう、居間からひょっこりと一人の男が顔を出す。

「おお拓未帰ってきたか。母さんから買い出し頼まれてんだが、今恵が来てるから……」

 帰宅早々面倒事を押し付けてこようとした兄貴であったが、隣に居る遥に視線を向けると言葉が止まる。

「拓未お前、のぞみちゃんと言う者がありながらお前」

 信じられないといった表情でこちらを見てから、彼はこちらへと近寄ってくる。

「そうか、いや、そうか」

「何を納得してんのか知らないけど違うからな? のぞみもそうだが、遥とも何もないからな?」

「ん? 遥…………?」

 俺の言葉のどこに引っかかったのか、兄貴は遥を上から下までじっくりと観察している。遥はその視線に何か感じることがあるのか、逃げるでもなく兄貴を見ている。

「……あー、拓未悪いんだがお使いに行ってきてくれ。買うもののリストはこれな」

 母親のお手製であろう走り書きとエコバックを俺の手に握らせ、兄貴は俺を追い出そうとする。

「いや兄貴自分で行けよ」

「恵も来てるし、それに」

 一度そこで言葉を区切り、ちらっと遥を見ながら続ける。

「少し鳥栖君と話したいからな」

 ぴくっと、一瞬遥が震える。何かを理解したのか、兄貴に向かって一つ頷くと、遥も行って来てと言う。

 何か釈然としないものを感じながらも、しぶしぶながら近くのスーパーへと足を向けた。


 二十分ほどたってから帰宅すると、向こうの話も終わっていたのだろう。居間には遥の姿はなかった、俺の部屋に通したらしい。

「遥となんの話をしたんよ」

 買い物袋を兄貴に兄貴に押し付けて聞くも、適当にはぐらかされて内容は教えてくれなかった。

「これは鳥栖ちゃんの問題だからな。知りたかったら彼女に聞いてくれ」

 そう返されると、こちらも強く聞くことはできない。諦めて標的を遥へと変える。

 自室では遥がストレージを漁っていた。

「おかえり」

 手を止めてこちらへと言葉を向ける彼女に、何を話していたのかと問うと、首の後ろをさすりながら彼女は答える。

「え? 別に大したことは話してないよ? 拓未と付き合ってるのかとか聞かれただけで」

「だから何もないって言ってんだろ」

 相変わらず何かあると俺に恋人を作らせようとするあの男に若干あきれる。別に兄貴と違ってそんなに急いで彼女作る必要はないだろうと。

「お兄さんも心配なんじゃない、色々と」

「そうか? あいつのことだから人を煽って遊んでるだけなきもするが」

「ああ」

 心当たりがあるのだろう。三か月ほどの付き合いではあるが、兄貴と遭遇すれば彼女も巻き込まれて遊ぶこともある。その時の奴の言動を思い出したのか、なんとも微妙な表情を浮かべている。

「だとしても、創一さんが拓未のことを考えているのは間違いないよ。学校での様子とか聞かれたし」

「親かよ」

 心配しているのもそうなのかもししれないが、あの男のことだ。絶対に他の理由の方が大きいだろうとどうしても思ってしまうのだった。


 その後遥は一時間ほど滞在して帰っていった。兄貴に家まで送ってやれと言われたので珍しく彼女の自宅までついて行ってから、ついでに近所のコンビニに向かうとそこにはたまたま誠がいた。

「やあ」

 レジ袋をひらひらとさせていることから、買い物は済ませたようだった。

「ちょうどいい所で会ったね。これから拓未の家に行くとこだったんだ」

 誠は俺の家で夕飯をとることも多い。彼の家は両親ともに帰宅が遅く、姉は彼氏の家に行くことが多いため回収ついでに食卓を囲むことがたびたびあるのだ。帰宅部の俺とは違い、文芸部の彼は週三回ほどの活動に参加している。そのため一度学校で別れてから合流することもある。この日の彼も一度自宅に帰ったのだろう、服装は制服ではなく私服になっていた。

「めぐねぇ居たしそんな気はしてたわ」

 だからこそこいつをもてなす用の飲み物を買いに来たのだが、その必要はなかったらしい。

「にしてもお前それ好きだよな」

 誠は高頻度で桃水のようなものを摂取している。それもわざわざコンビニに売っている紙パックで。「安い割に量も多いし、この何とも言えないチープな甘みが好きなんだよ」と言うのがその理由らしい。

「まあね。でも拓未も炭酸を無限に飲んでるんだし、たいして変わらないと思うんだけど」

 それを言われると返す言葉がない。仕方がないので俺は話題をそらすことにした。別にこいつの好きなものは知ってるし、今さら広げる話でもないわけだしな。

「そういやよ、今日のぞみに何を願ったとか聞かれたんだけど。女子ってやっぱそういうものが気になるのかね? 風合瀬も信じてるんだかそうじゃないのかいまいちわからんが、もともと星祭りに行こうって提案もあいつからだし」

 誠は一瞬視線を上に向けると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「まあ気になることではあるんじゃないかな。願いを持たない人の方が少ないんだし、そういう事って興味わくのもわかるよ」

 それに、そういって言葉を区切ってから彼は何かを考えるように一度手で顎を撫でる。

「……そういう願いって本人の気持ちが反映されるからね。のぞみはともかく風合瀬さんは心の中をさらけ出して欲しいんじゃない? みんなともっと仲良くなりたいと考えているんじゃないかな」

 誠はそう良いながらも、何かを考えているようだった。


 一日が終わり、ベッドの中で今日の出来事を思い浮かべる。確実に記憶の中の今日とは何かが決定的に違う。のぞみにあんな質問をされた記憶はないし、立花も言っていた通りそれぞれにどこか違和感があった。

 一体みんなどうしたのか? まさかみんなも未来からやってきたのか?

 そんな疑問が頭の中に浮かんだが、ひとまず思考を後回しにする。一応まだこれが夢で、次起きたら二十歳の自分に戻っているかもしれないし。

 なんとなく明日も“今日”の続きだろうなと言う想いを胸に、俺は夢の中へと溶けていった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。佐倉はつねです。

これにて執筆済みの第一話分の投稿が終了しました。第二話ができ次第、順次更新をしたいと思います。

設定上7/15が誠の誕生日のため、そこに間に合えばいいなと。駄目なら20日のあざみの誕生日かな?

それでは次回更新まで、しばらくお待ちください。



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