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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
領都来訪編:剣を振るには上腕二頭筋が不可欠
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嘘は言っていませんわ

キャロラインの執務室にて、人攫いの調査許可を得に来たはずの憲兵隊と……?

主人公不在です。





「では、改めて要請致します。領主代理、屋敷の中を改めさせて頂きたい。誘拐事件の調査のために」



 キャロラインの執務室には、現在キャロライン本人、憲兵隊南方師団の師団長補佐を名乗る男。その部下であろう男と、更に付き添いの男。

キャロラインの後ろにはジャガルド。部屋のドア付近にはレイニオが立っている。


「お断りします」


そんなムキムキ率が高い空間で、キャロラインはキッパリと即答した。


「意味が判りませんわ。その事件の際、誰もこの屋敷に立ち入っていないのにも関わらず、何故被害者であるわたくしたちの方を改めの必要があるのですか?」


「屋敷に何者かが出入りしていた、という情報があるのですよ」


理由を述べよ、というキャロラインに師団長補佐が(もっと)もらしい事を言う。

しかし、他の町では通用するその手は、この町では使えない。


「それならば、その情報をもたらした者を捕縛なさいませ。事件の際、村人と知り合いの冒険者しかいなかったこの町の情報を知るのならば、犯人の仲間ですわ」


「田舎ならでは、だね」

レイニオがボソリと呟いた。


キャロラインが言った通り、このプレートの町は田舎であるが(ゆえ)に、住人はほぼ顔見知り。余所者が入り込めば、たちまち町中に知れ渡るのだ。


そんな中で憲兵隊南方師団なんて場所に知り合いのいる者など皆無。たれこみなど入るはずもなかった。


「そうだな。こんな普段から通行人もほぼいない街道沿いの町、更に奥まった所にある屋敷の事を知っているヤツがいたら関係者しかありえねぇな。屋敷なんか調べねぇで、そっち調べろよ、無能が」


外野がニヤニヤしながら更に煽りを入れる。だが、正論である。


「……それが、ついでにこんな話も入ってきているのです。『前王弟殿下がこちらに出入りをしている』と」


少し怒りを逃すためなのか暫く黙った後、苦し紛れのように次の話を口にする。


「全然話が繋がっておりませんが、何か関係があるのですか?」


キャロラインは表情一つ変えずにそう聞いた。

王宮からの手が入っているのだったら、それくらいは想定内なのだから。


一応話は聞いてやろうという態勢である。自分の後ろのジャガルドもそうだろうが、彼は別の事に気が取られているはずだ。


「その殿下が今回の事を主導していたのではないかという疑惑がありまして。少し前のクーデターの旗頭もあの方でしたし」


今回の言い分もそれっぽい理由を付け加えてきたが、彼女はバカにしたように嘲笑った。


「あら、その件は濡れ衣だったと国王陛下が直々に発表されていませんでしたか? その情報ならば、ここでも手に入りますわ」


キャロラインには国王との相互情報交換の手段があるがため、普通の領地よりも王都の情報が入りやすい。


まあ、前王弟殿下がいる可能性が高いと挑んでくるのだから、自分達の関係も伝達系統も調べて来ているだろう、とレイニオは思っている。

調べてなかったら、それこそバカだ、とチラリと話し合いの場を見る。


「それはそうかもしれませんが、あの方の行方はようとして知られていません。何処かに潜んで国の転覆を謀っているやもしれません」


前王弟を知っている者に対し、ありもしない罪を口にする師団長補佐。


確かに彼らを知らない者からすれば、国王とその叔父の仲はそんなに知られておらず、

先程の『クーデターの件』イコール『王都大脱出!害虫爆発しろ!!独り身だよバーカ作戦』も前王弟が王座簒奪を狙ったと思われているのだろう。


本人は全くやる気などないのだけれども。「転覆?満腹の方がいいなぁ」と彼らの脳裏の主は言っている。


本人はこのようにきっと気にしないだろうが、周りの者は別だ。

そう仕向けたのは自分たちだが、他人に言われるのは嫌である。


よってその一言は、この場にいる者を怒らせるという目的があったのなら、充分な効果があったと言えるだろう。

しかし、彼は人攫いの調査に来ているという事を忘れてはならない。


「まぁ!?貴族の前で王族に対してその発現は問題ですわよ。憲兵の風上にも置けません。ましてや師団長補佐なのでしょう? 口を慎むべきですわ。まあ、殿下が国家転覆を狙っていようとそうでなくても、迂闊な方には捕まらないでしょうしね。そもそも、どのような容姿か知っているのかも怪しくなってきますわね、迂闊ですもの。そして、やはりその情報も持ち込んだ方が共犯者ではなくて?国家転覆の。勿論、あの方はここにはいませんわ」


キャロラインは沸き立つ腹の(うち)を見せないように、有無を言わせない早口で散々こけ落とした後、悲しそうに眉を寄せた。


「あの方を最後に見たのは、(数日前に)わたくしたちの元を去っていく時でしたわ……。それから姿を見た事はありません。元気にしていらっしゃるといいのですが……」


それは当然ながら、ガライが領都ボンオネに行っているからである。


それに「くっ」と言葉を漏らしサッと視線を逸らしたジャガルドは、よく見ると肩が震えている。

それは後悔をしていると見る事も出来るが、見る者が見ると笑うのを我慢しているのが丸判りである。


「確か、王都追放はそのまんま継続だっけか」


ようやく憲兵隊の男が早口の悪口を認識して口を開きかけたその時、付き添いで来た男がキャロラインの女優っぷりを感心しながらも、流れに逆らわず至極真面目な顔で頷いた。


「だったら、なおさらこんな田舎町に陣取らんと思うぞ。何しろ王都から1週間はかかるからな。潜むってんなら、オレならもっと近くにするぜ、マジで」


全くの正論である。

おちょくるような口調で無ければ、素直に聞くしかない言葉だが、この男はあえて反論の余地を残している。


しかし、それに続く言葉にはそれを裏切る厳しさを入れてきた。


「領主代理に面と向かって「いない」と言われてんだ。それ以上は、お前が彼女を任命した国王に食ってかかるのと同意になる。そうなるとオレは黙っていられない訳だが」


これにより、否定の言葉を遮られた。


「それに、今回は(さら)われた人の調査ってオレは聞いたんだが、違ったのか? 違わねぇんならこんな事してないで、許可だけ取ってサッサと被害者の調査に行けよ。サボりだって言われても仕方ねぇぞ。そこにオレも含まれっちまうのは業腹なんだが?」


ガッと肩を掴んだ手は、結構な力が入っているのか師団長補佐の顔をしかめさせ、体の向きを強制的に変えた。


確かに目的を(たが)えてしまっている。

師団長補佐の付き人も、先程までのやり取りで納得したのか、すぐにでも出ていきそうな態勢だ。

どうやら彼には王都にある貴族からの手の者ではないようである。


「って事だ、キャロライン嬢。町での聴き込みと滞在許可をもらえるか」


勝手に話を進める彼に、キャロラインはいろいろ含みのある溜め息を付いた。


「その人の態度から『拒否』と言いたいところですが、聞き分けなく文句を言われ居座られても困りますから、仕方ありません。

その代わり、ちゃんと捜査して下さいませ。わたくしたちに失望されないように。今回の事はちゃんと一言一句国王陛下へ報告させて頂きますけれども」


そら見ろ、とばかりに師団長補佐に目を向けたのは、付き人の男だった。かなりの常識人なのだろう。


 そして、論破された師団長補佐は強制回れ右をさせられ、執務室の外に出された。

それに追随する付き人の男と玄関まで案内するためだろう執事見習い。


彼の手によって扉が閉められ、足音が遠ざかって行くと、誰からともなく溜め息が漏れた。


「何ですか、あれは。おざなりにも程があります!」

「何でディー兄がいんだよ!」

「あっははー、バッカでー!」


そして同時に違う事を叫んだ。


「ん?」と顔を見合わせた来訪者の男とキャロライン。すぐに残る1人の顔に視線を向ける。


「なんだ、聞いてねぇんだ?」


彼はしてやったり、とニヤニヤと笑いながら。


「陛下を通してダイン様から口止めされていたので」


彼女は何事もなかったかのようにメガネを上げながら。


王都からの報告書に『秘密厳守』と書かれていれば、それは全力で乗る……いや、守るしかないだろう、と彼女は内心頷く。


それを察したのか彼も「そりゃ仕方ねぇな」と笑いを継続しながらも、物凄い数の苦虫を噛み潰したような顔の弟を覗き込んだ。

そう『弟を』である。


「そりゃ、お前。丁度通り掛かった憲兵隊師団でプレートの町に人攫いの調査に行くって聞いたから、便乗したに決まってんだろ。弟『たち』に会いたかったのは嘘じゃねぇし」


男は悪どい顔のまま、ネタばらしをした。



また中途半端に……。

しかも兄ちゃん、自己紹介すら入ってない……!

ジャガ(ルド)、(カ)ヴォルチャ(ー)、ダイ(コ)ンと来て、次は何でしょうか?


ジャガルド、とばっちりだなぁとか、師団長補佐はまだヤラカすな?とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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