あれば便利だけど、筋力で代用出来るだろ?
少し短めです。
事件の予感?
「あ、まだここにいた」
そこにかかった声。
男たちがそちらを向くと、お使いに行っていたレイニオが荷物を抱えてそこにいた。
そして、その後ろには昨日も見た若葉色の頭。
「ただいま戻りました」
黒髪の少年がそう言うと、彼らは口々に「おかえり」を返した。
「お嬢さんにはいらっしゃい、かな」
ビフレットがにこりと微笑む。
それに、はにかみながら「こんにちは」と挨拶する少女ルミ。
「帰り道で会ったから、連れてきました」
レイニオが簡潔に経緯を話した。
「おじいちゃんが遊びに行ってこいって言うんだもの」
そう言いつつ、目がラジーに向かっている。
つまり、ステンは引っ越しの間、ラジーの面倒を見るように孫娘に命じたのだろう。
本人が少し及び腰だが、多分彼女の勢いに怯えているだけだ。
「じゃ、オレは司令官殿のところに戻ろうかね」
ジャガルドが肩を鳴らしながら歩き出す。
「ルド、キャロに『とりあえず部屋だけ決めろ』って言っておいて。後で手伝いにいく」
ガライの言葉に、彼はヒラヒラと手を振って裏口へと入っていった。
「この木はどうしましょうか?」
ビフレットが顎に手を当て、小首を傾げた。
「とりあえず適当な大きさに切ったら?……ラジー、いける?」
レイニオが義理の家族に声をかけると「ん」と返事が返ってくる。
本当はレイニオがやってもよかったのだが、この用途で魔法は使いたく無かったのだ。
それを知っているガライが思わずその黒髪を撫でると「止めて下さい」と顔を赤くした。
「では、この辺りでお願いします」
ビフレットが切る所を指示すると、ラジーは「んー」と唸った後、「えい」と可愛らしく木にチョップを繰り出した。
どうやらガライの真似らしい。
当然、子供の力で割れるはずも、ましてや切る事なんて出来るはずもない。だが、このウサミミフードは魔法の使い手だ。
木はすっぱりとその部分で切られた。
手をよく見てみると、手に水流が巻き付いているのが判る。先程までいたジャガルドの特技を真似した高速水流なのだろう。
数ヶ所同じ様にかわいい手刀を入れた後、木に残った水分を『開墾術その1』を応用して千切ってポイッとした。
「やっぱ、すっげーなぁ、ラジーの魔法。便利だなー」
魔法を使い終わったと見るや否や、ラジーの頭をグリグリしたのはやはりガライだった。
ウサミミが左右に揺れている。
「俺には出来ないからなぁ」
ハハハと笑うそこに、羨望などはない。純粋に凄いと思っているだけ。
「魔法が使えないからって全然遅れを取ったりしないのに、何言ってんのアニキ」
くわんくわん揺れているラジーの頭を止めながら、レイニオがため息混じりに言った。
そうガライは魔法が使えない。
それはこの世界において、とても珍しい。よって、こんな事を言い出す人が出てくるのも仕方がない事なのかもしれない。
「はぁ!?魔法が使えないなんて、本気で言ってるの!? 王族なんでしょ!」
この中で付き合いの浅いルミが、そう声を上げた。
「王族だろうが、使えないもんは使えないなー」
少女の反応を楽しむかのようにガライが答える。
「すみません、うかつでした」
「こういう人もいるからね、反省するように」
その主人の後ろで自称執事と執事見習いが密かに言葉を交わしている。
その主人には『謝罪不要』と以前から言われているので、代わりに後で筋トレに付き合うというルールになっている。
「『王はこの国の太陽と成るべくして、強大な力を賜る』って本に書いてあったわよ!そんなの」
「って言うけどさ、魔法使えるからって何だって言うんだ?」
ルミの言葉を全部言わさないかのように、ガライは被せてそれを少女に問う。
それを言ってしまえば、多分、笑い事では済まなくなってしまう。自分はよくても。
「は!?いっぱいあるじゃない。火をつけるとか水を湧かせるとか。魔物だって怖くないわ!」
「魔物倒せない程弱くても? 魔法って多少便利なだけだと思うぞ。頼りすぎると禄な事ない」
先程からレイニオの後ろに隠れて出てこないウサミミを見ながら、開き直りとも取れる言葉を言う。
「人間、何でも出来るものさ。魔法なんかなくったって。筋肉があれば大抵解決する!」
何故か急にサイドチェストを入れてきた。
場を和ませるためなのか!?とこの中で一番年上のビフレットは内心つっこむ。
「火も付けられるし、果物搾れるし、魔物も殴り飛ばせるぞ!」
「そんなの嫌よ!ぴょんこ、行くわよ!!」
普通の女の子にそれはないよ、という行動に、とうとうルミはラジーの腕を取って湖の方へと走って行ってしまった。
「……若様、筋肉って苦しいですよ」
ビフレットが思わず苦笑を漏らせば、ガライは何の事だと言わんばかりに大袈裟に驚く。
「魔法は自分をたまに裏切るけど、筋肉は自分を裏切らないのにー」
「それもそうなんですけどね……」
主の言い分に否定しきれず言葉を濁す美中年。
「ラジー、大丈夫かな……」
黒髪の少年は湖の方を見ながら、家族の心配を口にした。
「そうだな。ルミの様子がちょっとおかしかった気がする」
それにガライが思い出すためか首を傾げて同意を示す。
「はい、何だか不安とか焦っているような感じでしたね」
観察眼溢れるビフレットも言うのだから、間違いないのだろう。落ち着きなく揺れる瞳は何かを気にしていた。
「レイニオ、荷物をもらうから、動いてくれないか?」
ガライがそう告げると、レイニオは頷き腕の中の荷物を彼に渡した。そして瞬きする間に姿を消す。
「レイニオに動いてもらう程ですか?」
ビフレットは先程までレイニオが持っていた荷物を見ながら、主人に尋ねる。
「何かやらかしそうな気配がする」
ガライが低い声でそう返す。
こういう時のガライの勘は大体当たる。それを知っている自称執事は子供たちが去っていった方へ顔を向けたが、姿を確認する事が出来なかった。
「何事もなければいいのですが」
その甘い相貌を僅かにしかめ、ビフレットは呟いた。
ルミも悪い子ではないのですが。思った事を口に出しちゃうようです。
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