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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
領都来訪編:剣を振るには上腕二頭筋が不可欠
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仕事していない身分で何だけど……。

平原での大型魔物についてと、ちょっと屋敷視点。





 「何あれ何あれっ! すっごく大きいよ!?」


 警戒はしていないが、視線は魔物に向けたままの祖父に守られながら、ルミが小声で騒ぐという器用な事をして筋肉ムキムキたちを出迎えた。


手に握られた採取袋がブンブンと振られている。


「そうだなー、大きいなー」


その袋を止めながら、ガライが同意する。ついでに「お、結構採ったみたいだな」と袋の中身も確認する。


「ロックリザード、ですよね……」


彼女の祖父は見た事のない大きさのトカゲの魔物に、思わず確認をしてきた。


「間違いなくロックリザードだな。四足歩行で甲羅とかなかったし、尻尾も確認できた」


身体強化で視力を上げて確認したのだろう。護衛代理の問いに間違いない証拠を挙げていく。


 ロックリザードとは本来、岩場にいる自身の体にも岩を生やした魔物だ。

もちろん岩の部分は固く、土魔法だけでなく、たまに火魔法を使う個体もいる。


しかし、体長は大きくても人の2倍ほどだ。それが山の一部が動いているかのような大きさ。


先程から一言も発さず、ポカンとそれを見ているコーフィー君のようにもなろうというものだ。


ビフレットが密かに彼の隣に移動して、叫び出さないようにスタンバっている。


「こんなの倒せるの?」


ルミが純粋な興味で聞いてくる。

もし『倒せない』といったところで、「ふーん」と納得するだけの軽さ。


「倒せないと困る。まあ、総攻撃すれば倒せるんじゃないか?」


ガライが苦笑しながら他人事のように答えた。


「あれ? アニキ、倒しにいかないの?」


ルミが、筋肉ムキムキが魔物に向かって行くのは当たり前じゃないの?というように問い返してきた。

葉霧の森も普通に散歩するガライだ。そう思われるのも仕方無い。


「俺がいつでも魔物に突っ込んでいると思わないでくれ」


心外だと言わんばかりにルミに反論すると、ステンがすかさず口を出す。


「でもよく突っ込んで行って、ジャガルド殿に怒られているのでは?」


「あれは必要があるからだ」


「必要ねぇ……」

だったら何故ジャガルドは怒っているのか。


「それに、こういうのはルミのお父さんたちの仕事!」


「お父さんたちのっていう事は、領地軍の仕事って事?」

「そう。領主様に言ったのも『様子を見てくる』ってだけだし。前情報って大切なんだぞー。相手が判っていたら、対策だって立てやすいんだから」


今回だって、『トカゲ型の大型魔物』としか伝わってなかった。もしかしたら、地上型ドラゴンのドレイクだったかもしれないし、ガライの言った例えのようにカメだったかもしれない。


恐怖に駆られた人間が一瞬で記憶するものが、どれくらいの信憑性があるものか。


「ルミだって、事前にキングが優しいウサギだって知らなかったら、逃げるだろ?」

「キングは知ってても逃げたくなるわよ」


強面のアンゴラスウサギをガライは例に挙げたが、参考にはならなかった模様。

キングはいつも見掛けは凶悪で、急に現れる様は心の準備をしておかないと大の大人でもビビる。


「まあ、それはいいとして、滅多にない領地軍の活躍の場を取っちゃダメだろ。折角お給料もらってるんだから」


確かに領地軍の印象で一番人々の記憶に残り輝くのは、大捕物か魔物の討伐であろう。

それを言ってしまうのはどうかと思うが。


現に元領地軍隊長(ステン)が目に手を当て上を仰いでいる。


「でも今回は……ちょっと様子を見た方がいい」

「何故ですか?」


ガライがそう付け加えると、コーフィーが叫び終わったのだろう、ビフレットが彼の口から手を離しながら聞いてくる。

少年は青ざめたままだが、大丈夫だろうか。


「んー、見てもらった方が早いんだけど……、見えないよねぇ」


チラリと見たのは、ロックリザードの方だ。もちろん、あの巨体は見えているが、何かをしている、と言われても見える筈がなかった。


コーフィーはチラッと見て諦め、ルミは目を凝らして目からビームを出すつもりか、という程見ていたが、やがて首を振った。


結果が判りきっていた大人たちは、それを苦笑しながら見ていたが。


「実は、他の魔物を食べているようなんだ。主に虫型のやつ」


この平原には、小動物の他に(森には負けるが)少なくない魔物が発生する。そして、その魔物の大半が土地柄なのか虫の形をしている。


それらは領地軍や場合によっては冒険者ギルドの依頼で定期的に討伐されているが、それを食べている、とガライは言っているのだ。


「食べてくれているなら、いい奴じゃないの? 襲ってこないんでしょ?」


ルミがそれを聞いて、首を傾げる。魔物が減るなら、それでいいんじゃないか、と思っているのだろう。


「今のところは、な」


ステンが難しそうな顔をしている。問題に気が付いたようだ。


「ルミ嬢、一概にそうは言えないのですよ」

美中年がそんな少女に言った。


「魔物が魔物を食べるという事は、他の魔物が持っていた大量の魔素を取り込むという事です。魔素が多くなる、つまり体内の魔素が濃くなるという事は、より強い魔物になるかもしれません」


つまり魔素の生物濃縮が行われている可能性がある。ここまで大きくなった異形の魔物だ。何を考えて共食いのような事をしているかは判らないが、力を蓄えているように見える。


「ちなみに俺たちが食べているのは、倒してしばらく経ったものだから、魔素は抜けてるってチヤが言ってたぞ」


「えー、あれ以上大きくなったり強くなったら、町の壁も乗り越えて来ちゃうじゃない」


ガライが続けて言うが、別にそこは気にしていない。

その後にルミの言った言葉に、コーフィーは「ひえっ」と声を上げ、ステンが重々しく頷いた。


「そうだ。アイツがそのまま以前の住処(すみか)に帰るなら、こちらも襲わないし他の魔物を駆除してくれるという事で討伐は迷う所だが、

ある程度魔素を蓄え、こちらを襲う事素振りを見せるのであれば、早急に討伐を考えなければならない。

だが、今のままでも充分強い事が判るから、下手な手出しは藪をつついて蛇を出す結果になりかねないのだ」


「つまり、アイツ強いから、倒さなくていいなら倒さないで、勝手に林の方へ帰ってほしいなーって事」


老人の説明の途中から、よく判らなくなった子供2人はガライの身も蓋もない言葉に「なるほど」と納得した。


「旅ネコが言っていた「たたかわずして かつ」ってヤツだ!」


コーフィーが嬉しそうに言うが、少し違うんじゃあ?とビフレットは首を傾げた。


「ともかく、そういう対応は領主様や領地軍にしてもらうんだから、この事を早く伝えないとな。情報は『早く』『正しく』『詳しく』が大事だから。

あと、ギルドに報告も、な」


そう言って、手に持ったままの採取袋を掲げてみせた。






 「……と、軍の方で習わなかったのですか?目上に対する態度と共に」


 キャロラインは表情を変えないまま、目の前の招いた事は招いたカウントされるであろうが面倒くさい客に言い捨てた。


場所はプレートの町の屋敷。

彼女の執務室。


相手はギッと彼女を睨み付けてくるが、王宮にいた頃にはよくあった事なので、平然と視線を受け流している。


「これは失礼した、ポルタ領主代理」


悔しそうな声でそう頭を下げたのは、本来招いたはずの憲兵隊南方師団の師団長補佐と名乗っていた。


「はっ、あったり前だよなぁ? この中で一番身分高いのは、キャロライン嬢だもんなぁ?」


そして、こちらは招いていないあくまでオマケの男が、その師団長補佐を物凄く煽ってきている。



「それなのに、女だからって問答無用で『屋敷を改めさせろ』は無いわー。マジ無いわー。ホント、見習いからやり直せよ」


ついでに師団長補佐の男をペシペシ叩いて、容赦ない言葉をかけられるのは、彼の方が軍の中で階級が高いからである。


それを判っている師団長補佐もグッと我慢をして、用件を言い直す。


「では、改めて要請致します。領主代理、屋敷の中を改めさせて頂きたい。誘拐事件の調査のために」




ありゃ、ガライ、バレちゃう?とか、そうかー、突っ込まないかーとか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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