あいつら今どうしているかなぁ。
トレイトデーシュ平原でヒィルベリーの採取をします。
切る場所に困りました。
R5.10.19
ロックリザードの大きさを倍にします。
プテラスバードで7メートルだもんなぁ……。
一番近い岩の柱の下には、寄り添うよう様に膝下くらい迄の木が生えていた。
細い枝に艶のある固そうな葉っぱ。その下に赤みを帯びた小さな白い花とコインくらいの大きさの白い実とショッキングピンク色をした実。
「これがヒィルベリーです」
美中年が微笑みながら言った。
「やはり日陰から半日陰を好むため、岩で日が遮られる場所にありましたね。この平原にはここに来るまでに日向を好む植物が多く見られましたが、少しの日陰を求めてこの場所に根を下ろしているなんて、何て健気なのでしょうか。そして、最初は白いのに熟してくると鮮やかな色に変貌する果実は大人の階段を上っていく女性のように……」
「あー、ビフレット。子供たちが飽きるから要約してくれ」
何時もの如く、植物を語りだしたら止まらなくなりそうな自称執事の言葉を遮って、彼の主は説明を求めた。
それに青いタレ目を瞬いて、少し残念そうにしながら低木に向いていた視線を同行者に向ける。
「つまりですね、白い実が未成熟なもので痛み止めになります。ピンクの実は完熟していまして、果肉は固いままですが食べたらシャリっと甘いそうですよ。ギルドの依頼なら、白い実の方を採るみたいです」
「オレも知ってる。ピンクの実は1日5個までだって、かーちゃんが言ってた! 口がシブシブになってご飯食べれなくなるんだよ!」
知識をひけらかしたくて仕方無い従兄弟を「子供ねー」と言いたげに見ているルミ。
自分に話を振られても困るので黙っているが。
「そうですね。食べすぎると口がシブシブになってしまうので、摘まみ食いは程々に。
料理長さんからパンとクリームを預かっていますので、食後にフルーツサンドにして食べられますよ」
「採れたてを挟むのか。いいな、それ」
自称ただの執事が追加情報を伝えると、主が嬉しそうに声を上げる。
「それじゃあ、白い実を集めればいいんだな。木の本数を見る限り、何ヵ所か岩を回らないといけないみたいだけど」
「それでは、遠くに行く場合、私が子供たちと荷物を見ていましょう。今見る限り、護衛は必要なさそうですから」
何ヵ所か回るの言葉に、黙って話の成り行きを見守っていたステンが提案した。
「2、3ヶ所は一緒に行けそうだけど、そうなるか。魔物が出たら合図してくれ」
その言葉にガライは少し考えた後、了承を返す。どうせ子供たちは、途中で集中力が切れるだろうから。
とりあえず、その場にあるヒィルベリーの白い実を摘んでいく。
へたと茎の中間部分に力を入れると、小気味良くプチリと取れる。
季節によって増減はするが、大体年中実を付けているそうだ。但し、1本の木になる実の数は多くない。何本かまとめて生えてはいるが、やはりガライの言った通り、何ヵ所か回らない事には採取袋を満たす事は出来ないだろう。
手の平にいっぱいになった木の実を袋に落とす。実自体が固いので潰れる心配は無さそうだ。
同時に、子供たちも競うように、こちらへと木の実を持ってきた。
実際、個数を競っていたのか「私の方が多いわよ」とルミが得意気に言っていたが。
もうちょっと頑張れ、未来のヒーロー。
ジャガルドとこんな事をしたらどうなるだろう、と思いかけ、以前に「魔物の倒した数の多い方が勝ち」とかやったなぁ、と思い出す。
その時は僅差で負けて、軽食屋で軽食じゃない分量を奢らされたんだっけ、と要らぬ事まで掘り起こされた。
「騎兵団の食欲を舐めるなよ」である。
それが2、3ヶ所続いた頃には、袋も大分溜まった。
子供たちも単調な作業にやはり集中力が切れ、近くの草花を観察したり、時折見かける虫を追ったりし始めていた。
勿論、小型の魔物も出現したが、ステンが何事もなく対処している。
お昼は、岩の陰にあるテーブルのような低い平たい石の上に敷物を敷いて、みんなで食べた。
あっちで何がいた、こっちにどんな花が咲いていた、と子供たちと時折ビフレットが喋るのに、相槌を打ちながらバスケットに詰めてきた料理を食べる。
野外で食べやすいようピタパンに挟まれた肉の燻製と彩りのサーニィレレタ。ピリッと辛みの効いたソースを添えて。
鳥のつくねをハンバーグ状にして、こちらはキャベッタとトマッホの輪切りを挟んだ卵ベースのソースをかけたもの。
そして、珍しい白身魚のフライと爽やかな酸味のあるシルソの葉を挟んだレモモード風味のものの3種類。
大盤振る舞いだなぁ、とガライは有り難く全種類一通り食べた。
コーフィーが黙ってトマッホを除けていたが、ルミがこれもまた黙って元に戻していた。
苦笑して見ているステン。
チヤの子供たちは好き嫌いが無いため、珍しい光景だ。
最終的にステンの「旅ネコはタギネーマ以外残さない」という言葉で、鼻を摘まみながらも完食していたが。
食後のお茶を飲みながら、温かく見守っていた大人2人である。
天気は晴れ。
西から吹く風は涼しく、太陽に温められた石を撫でていく。そのついでに背丈の低い草の葉をさらさらと鳴らし草原は波を起こす。
透き通る空に浮かぶ純白の雲は、形を変えながらもゆっくりとした速度でその青を滑って目の前を通りすぎていく。
「若様」
そんな空を見ていた視界に、金髪が入り込んでくる。
「何だ?」
腰程しかない背の低い円柱の岩の上で大の字に寝転がっていたガライは、視線をそのままに尋ねた。
「何を考えていますか?」
寝転がる主の横で顔を覗き込みながら、自称執事は尋ね返した。
「こうしてのんびり空を見る事なんて、しばらくなかったなーって」
ビフレットの頭に雲が重なって、ラジーのウサミミフードのようになって、そのミミがみるみる伸びて、そして離れた。
その様子にふっと笑う。
「楽しそうですね」
「そうだな。幸せの形はその時々だ。でも、確かに楽しいし幸せだと思う」
そして、先程の映像の余韻に浸るかのように目を閉じる。
ウサミミがニョキニョキ早送りに生えていくようだった。そして育ったミミがスポーンと抜けて独り立ちして去っていく。
思い出しても笑ってしまいそうだ。
「同時に残してきた者たちに申し訳ないとも思う。こうしていると、王宮には空が無いのがよく判る」
「そうですね。空なんて、あそこにいたら仰ぐ事も忘れてしまいます」
ビフレットが空に視線を移した気配がする。
その間に身を起こしたガライは、隣に置いていた採取袋を引き寄せる。
もうほとんど一杯だが、どうやら子供たちも遊びながらも集めていたようなので、合流したら満杯になるだろう。
時折、付いていっているのであろうステンの姿が石柱の周辺に見受けられた。
「さて、そろそろ合りゅ」
『合流しよう』という言葉は途中で止まった。そして、バッと平原の奥の方、遥か向こうの林を見据えた。
「いますか……?」
流石のビフレットでも主の行動で何が起こったのか覚った。
噂の大型の魔物が出たのだ。
「うん、いる。ビフレットも判ると思う。3つ並んだように見える柱の左」
その方向だろう場所をツイッと指差し、首を捻る。
「本当はずっといたのかもしれないけど、岩に擬態していたのかも。さっき、不意に動いた」
それまでは判らなかったのだと言う。
「あれは、ロックリザードかな? 表皮から岩が生えているんだ」
そう言われたビフレットは指定された方に目を凝らした。
この位置からでは、3つ背比べをするかのように並んだ岩の柱の左手側、少し小さめの岩が乱立している箇所がある。
岩の柱は2、3つくらい纏まって立っている所もあるが、基本は孤立している。それが1ヶ所だけ沢山生えているのだ。
ビフレットはもう一度、その岩を観察する。
どうやら色も違うようだ。
平原に立っているものは灰色がかった白っぽいぼこぼことしたものであるのに対し、それらは茶色い、砂や石を含んだもののように見えた。
そして、それが視界の中で僅かに動いた。
「……大きいですね……」
よくてこの間のプテラスバードくらいだと思っていた自称執事は、岩の生えている範囲から想像を超える大きさに絶句する。
10、11ナベル(20~22メートル)くらいはあると推測出来る。
「特別な個体かもしれないなぁ。通常のより大きいし、背中の岩も立派だ」
ガライは乗っていた岩から飛び降りて振り向く。
そしてニッコリ笑って手を差し出す。
目を見張った美中年が、一拍の思考の後、その手を恭しく取って貴婦人のように艶やかに笑った。
「降りれない訳じゃないですからね?」
そう言いつつ、筋肉ムキムキの手を借りて、岩から優雅に降ろされた。
「判っているよ、私の心のヒマワリよ。ってやりたくなっただけ」
「それって、貴方の父上がやった事じゃないですか……!」
ガライの父親、つまり先々代の国王様である。そんな男が階段でのエスコートによく使っていた定型文なのである。
ガライが覚える程には、その使用頻度は高かった。
「ある種のネタだよなぁ、あそこまでいけば。
……そういえば、そろそろキャロが「エスコートの仕方どころか目上に対する常識さえないとは。学び舎からやり直しなさい!」って憲兵に言っていそうな気がするなあ。ルドが止めてくれればいいけど」
手を離し、いつもと変わらない速度で歩きだしたガライが、『エスコート』の言葉から幼馴染みたちの事を口に出した。
その言葉に「確か」と後に続きながら、自称執事が思い出す。
「王都からの報告で、ロガシーさんちの次男が帯同するらしいですね」
「あ、そっか。ルドに内緒って言われてたから、すっかり忘れてた。逆にキャロもそっちにかかりきりになるかも?」
甥からの報告に書いてあった『ジャガルドには内密に』という文言を忠実に守っていた彼は、その光景が容易に想像出来た。
幼馴染みの兄たちは一筋縄ではいかない事をよーく知っているからだ。
「ダイン様には会った事があるのですが、そんなに癖のある方なのですか?」
そんな事を言った主に対して、不思議そうなビフレット。
それに曖昧な笑みを浮かべただけでノーコメントを貫き、ガライは手を振っているルミの方へ向かった。
中途半端で終わっています。
次回、一方その頃……が出来ればいいのですが。
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