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「ルミちゃーん、あーそーぼー」からの彼女の従兄弟の懐柔まで。
前回書き忘れていましたが、今までの文章をところどころ修正しています。一番の修正点はビフレットの身分が「伯爵家次男」→「子爵家次男」になったところです。ちょっと身分低めなんです。
「ルミー、遊ぼうぜー!」
護衛役の老人が開けた扉から、ガライは中に声をかける。勿論、常識範囲内で、だ。ご近所迷惑ダメ、絶対。
現在地、レスさんちinボンオネ。
扉を開けた先にあるリビングらしき部屋にいた少女の母親が苦笑している。先程ルミに声をかける前にちゃんと挨拶したので、事情は説明済みだ。
少し間があってから、「ちょっと待っててー」という声と共にドッタンバッタンと物音が聞こえた。
「何をやっとるんだ……」と彼女の祖父が呆れた声を出せば、その娘がお茶を淹れながら理由を口にした。
「この町には図書館があるので、昨日行っていたみたいなんです」
娘を誘いに来た筋肉ムキムキに、淹れたてのお茶を出す。
この町にはプレートの町には無い『図書館』がある。文字が読めなくても教本や絵本なんかもあり、住民に貸し出しされている。こんな場所……というと語弊があるが、都市の規模の割には結構な蔵書数を誇ると聞いている。
領主家族が代々集めていた、というのもあるが、今は亡き領主の娘も進んで絵本なんかを寄進したという。
「『あの子の回避にもなったし、薬草の勉強にもなったわ!』と言っていましたので、勉強したものを片付けているのでしょう」
穏やかに言う母親には悪いが、そうだろうか?と付き添いのビフレットは疑う。
明らかに紙などを片付けている音じゃなかったのだが。
「ただ単にヤツに捕まりたくないだけだろう」
ステンが先にお茶を飲みながら、ほぼ事実を溜め息と共に吐き出した。この町に来てからガライに付き添っているが、その他の時間で見た孫たちを考えると、そりゃあルミもああなるわな、と思いながら。
現在の状況だが、あの孫の事だ。恐らく部屋で籠城の構えを取っていたのだろう。もしくは、脱出の時間稼ぎのための仕掛けか。
「何だ? そんなに絡み辛い子なのか?」
遊びに誘いに来たガライは、保護者の言葉から原因であろう彼女の従兄弟について聞いた。
基本、人に遠慮しないルミが毛嫌いするのがあまり想像付かない。レイニオすら『人見知り』と称したのだから。
「絡み辛いとかではないのですが……」
「普段は大人しい子らしいんですけど、何と言いますか、はっちゃけちゃいまして」
ステンが言い淀むと、セラがその続きを話す。
「凄く勢いよく喋って、話を聞いてくれないって言っていましたわ」
あの子もそろそろ落ち着くと思いますけども、と顔に手をあてる。
あれか、とガライは思った。
引っ越し初日のルミみたいなものか、と。
あの時はラジーがその勢いにタジタジだった。
その内バタバタと音がして、その本人が大人たちのいる部屋へ顔を出した。
「アニキ、遊ぶって何するの?」
深緑色の目が遥か上にある顔に向けられる。
「ルミ。それよりも挨拶が先よ」
やんわりと注意をするセラに、ハッとしたように動きを止め、服を整え、スカートを摘まむ。
「おはようございます。殿下」
宮廷式の挨拶をわざわざ行う。
それに答えるように、ガライも胸に手を置き上体を傾ける。
「おはよう、お嬢さん。今日の装いも朝露に濡れる若葉のように輝いているよ」
「殿下も、えーっと、背筋が山脈のようですわ」
「……違和感が気にならないのが、辛い」
どうやらキャロラインからの課題はまだ用意されているようだ。
急に始めた挨拶もお互い褒めたのも、淑女教育の一環である。ルミの言葉ではガライくらいしか喜ばないだろうけれども。
その挨拶がおかしい事は判っているのに、言い慣れているビフレットは、その言い回しを注意する事が出来なかった。
今朝も「組み木細工のようにピッタリのナイスバルクですね」とか己の主に言ってきたからだ。
「気を取り直して、今日はトレイトデーシュ平原に行くんだけど、一緒に行かないか? お昼付きだぞー」
ガライが本題を切り出した。忙しそうだったら断ってもいいと、思っての聞き方だ。
それにルミは飛び付く。
「行く! 平原って行った事ないもん」
「ただなぁ、今、襲っては来ないらしいが、大型の魔物がいるんだって。それと、採取の手伝いもしてもらうけど、いいのか?」
一応、デメリットの提示も忘れない。
ルミはその言葉に少し考えてから、慎重に口を開いた。
「大型の魔物って、そんなのが出てるの?」
「何件か目撃情報があるそうだ。平原の奥にいるって言ってた。大きなトカゲらしいぞ」
『大きなトカゲ』と聞いてルミはプレートの町の屋敷にいるスプリングルを想像した。二足歩行のトカゲは、筋肉ムキムキを乗せられるくらいには大きい。
「それから、採取は領主様からの依頼。ヒィルベリーの採取なんだけど、手伝ってほしいなーって」
ガライはもう一つの少女の知りたいだろう情報を伝える。
「危なくないの?」
それが一番大事なところだ。
「平原の浅い場所しか行かない予定だから。戦いに行く訳じゃない」
それを聞いて、ルミは母親に振り返った。最終判断はやはり保護者に委ねられる。
その視線に笑顔で頷くセラ。
「お父さんも行くみたいだから、はしゃぎすぎないように行ってきなさい」
「やったぁ」
それは行ける事に対してだろうか、それとも噂の従兄弟の相手から解放されるからだろうか。
必要なものは誘いに来た側がほとんど用意してあったし、自分も準備万端だ。すぐに行ける旨を伝えて、外に出ようと扉を開けた。
そこには手を上げたまま固まる男の子。どうやら扉をノックしようとしたところだったらしい。本当に目と鼻の先にいた。
その姿を見て、ルミが勝ち誇ったように笑う。
「おはよう、コーフィー。今日は用事があるからアンタとは遊べないわ」
それを聞いて彼は一瞬呆気に取られたようだが、すぐに「何でだよ」と口を尖らせる。
その少年はルミよりも少し年下であろうか。彼女の父親と似た茶金色の髪の毛は短く切られ、活発そうな印象を受けるが、胸に抱いた何かの辞典がそれを裏切る。
口を尖らせてはいるが、眉をへの字に曲げちょっと泣きそうになっている。
恐らくそこがルミにとって負担なのだろう。
「すまないが、俺たちがルミにギルドの依頼の手伝いを頼んだんだ」
その後ろから、ぬっと出てきたのは筋肉ムキムキの大男だった。見慣れない赤い髪に作り物のようなオリブー色の目が彼をねめつける。
すわ、脅迫か!?と彼は戦慄を覚えた。
オレがルミを守ならきゃ、と本を抱える手に力が入る。
「だ、誰だ!お前は!!」
その少し震えた声色で切った啖呵に、大男はキョトンとした後、ニヤリと笑った。
「俺はなぁ、ルミのおともだちだ」
わざわざ勘違いされるような抑揚で啖呵に答えるガライ。どこまで抵抗されるのやら、と腹の中で思っていた。
プレートの町の子供たちは、レイニオとラジーがいたからか、あっという間に遠慮がなくなったが。
「オ、オレが、先に約束してたんだぞ!」
「約束していた覚え無いんだけど」
こんな大人が友達なんて、と衝撃を受けながら、それでも自己主張をする少年。
それにルミがボソリと物申すが、美中年に微笑みと共に止められている。
「じゃあさ、一緒に来ないか?」
そんな主張をしているコーフィーくん(仮)に何を思ったか、筋肉ムキムキが誘いをかけた。
それに「はぁ!?」と言ったのは、子供2人ともであった。
「だって、遊ぶんだったら、別に俺たちと一緒でも出来るだろ。心配だったら、俺たちを見張っておけばいいじゃん」
「ルミ嬢、よく考えて下さい。私たちと一緒に行けば、彼の興味が分散されると思いませんか?」
ガライが少年に話しかけている間に、ルミの傍にいたビフレットが彼女へと耳打ちした。
そりゃあ、彼のホームで戦うよりも、どっちにもアウェイの方が、マウントを取るような物言いは減るだろう。
ルミはそう考えた後、こくりと頷いた。
「じゃあ、どこ行くんだよ?」
彼も乗り気なのか、行き先を聞いている。
恐らく、日常とは違う事について興味があるのだろう。ルミを守るという目的も達成出来るし。
「平原。ヒィルベリーを摘みに行くんだ」
「オレ、知ってる!丸い白い実だろ!?」
「ルミのお爺さんも一緒に行くから、怒られたりしないし」
扉のところで苦笑している老兵を指すと、納得したように本を抱え直した。元領地軍隊長の名は安心の代名詞のようだ。
「ルミのお爺ちゃん、すげぇ強いって父ちゃん言ってた!」
「しかも冒険者ギルドの依頼だぞー? おこづかい稼げちゃうかもよ?」
「おぉー!」
ガライが少年を言いくるめているのを見て、自分も一枚噛んでいるステンは思った。
『詐欺に騙されてるように見える』と。
それか、おまけに色々付いてくる高額商品を売り付けられている、でも可。
「で、行く?」
「行く!」
一連のやり取りを家の中から傍観していた、留守番のセラは話が纏まったのを見届けると、「コーフィーくんのお家に伝えに行かなくちゃ」と茶器を片付けながら今日の予定を追加した。
何で誘いに行っただけで、こんな事になっているのか……。
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