ムキムキは荷物持ちにも筋トレを見出だす
町に出る美中年+ムキムキ+元隊長。
そして領都訪問前に話合われた事。
PVが39000超えました。いつもお越し下さり、有り難うございます!
セラとルミが芋を使った家庭料理を振る舞ってくれそうです。
ボンオネの町は、はっきり言って大分田舎だ。
それでも街道の途中にあるターリックの町よりは栄えているし、プレートの町とは比べるべくもない。
しかし、他の領地の都市と並べると、やはり見劣りしてしまう。一通りの施設は揃っているものの、見るべきものもなく特色というものも無いがため、人を留めておく力が弱い。だから『人は来るが出ていく方も多い』、そういった印象だ。
プラスの点として、この町に来る馬車で説明を受けた通り、シルーバ領領都ボンオネは国内の東周りの街道と中央の街道の迂回路……いや、脇道……のような街道が交わっており、他国へ行く際の足掛かりとなっている。
だが、本格的に商売をしようとする者ならば、より立地の良い街道の先にある町に拠点を置くだろう、という微妙な場所。
周りに畑が広がっている事からも微妙さはお察しである。
そんな町にガライはビフレットの付き添いで繰り出していた。もちろん、付き添いの付き添いであるステンも一緒に。
ちなみに迎えに来た彼の一言目は「お灸を据えてきましたので、明日はマシになると思います」だった。
どういうお灸だったのかは、聞いてはいけない。
「あの人、本当に引退したんだろうか?」と後のルメール氏の言。住んでいる所が練習に事欠かない場所なのだから仕方無い。
さて、それよりも何故ガライがビフレットの付き添いなのか。
それはプレートの町を出発する前まで遡る。
「ガライ。領都に着いても、余り出歩かないように」
2日前の夕食後、キャロラインから発されたその言葉に、お茶を飲む彼女を思わず凝視した。
「何で!?」
町歩きを結構楽しみにしていたガライは声を上げる。それに隣に座っていた男がやれやれと首を振った。
「お前な……。人が多い所は基本ダメに決まってんだろうが」
お忘れかもしれないが、彼は王都から『追放』されて『姿を消した』王族だ。
人の少ないこの町ならばまだしも、かなりの人が行き交う領都でその姿を目撃されるのは、リスクしかない。
「ターリックの町でもギリギリのラインなのです。シルーバ領は人より家畜の数の方が多いと言えども、流石に領都は許可出来ませんわ」
「見つかったら、領主が迷惑を被るんだぞ。それにステンにも負担がかかるだろ」
ステンは今回付いていけないジャガルドに代わり、護衛をしてもらう事になっている。
本人に打診した時にはすぐに「期待に添えられるか判りませんが」と言いつつ、前向きな返事をしていた。
ルミのじーちゃんはアグレッシブなのだ。
「そうなんだけどさぁ」とガライが渋っていると、食後のデザートなのか、レモモードを使ったタルトを運んできたチヤが「おやっ」と声を出した。
「なんだい、せっかく領都に行くんだから、お使いを頼もうと思ったのに」
彼女のお店『子犬のごちそう亭』は、今のところ順調に営業している。
井戸端会議場と化している時もあるが、概ね奥様方に好評だ。
食事の支度は手間がかかるのを省略出来るし、余り使われない外貨を使う機会でもあるので。
その為、今回の領都へは付いていかない事になっている。
「あ、僕もある」
それは彼女の子供たちも同じ事。
レイニオが義母親の話題に便乗した。隣のラジーはタルトに目が釘付けだ。
「珍しいな。レイニオが買うものあるって」
ガライがそんな黒髪の少年に問いかける。
「ちょっと手に入りにくいものなんで。南の国にはあるから、多分、領都には入ってきていると思う」
「何だか物騒な想像をしてしまいますね」
チヤが手早く切り分けたタルトの乗った皿を各自に配りながら、ビフレットが余計な事を言う。
それに黒髪の少年はニヤッと笑って目を細めた。
「案外、外れてないかもよ?」
明言しない辺りがニクい。
美中年が皿をテーブルに置きながら嫌そうに顔をしかめる。それとは反対に興味を引かれたガライは、視線をタルトの上のレモモードから上げる。
「それって俺たちでも買える物なのか?」
「冗談だよ。大丈夫。普通に買える物だから」
さっき言った事を忘れてますわね、とキャロラインはタルトをつつきながら思った。
だから、不用意に出歩くなと言っているだろう、と。
「じゃあ、買い物はビフレットに任せるしかないね」
そう言ってチヤは着けていたエプロンのポケットからメモを取り出した。買い物リストだろう。
「でもさ、この人に頼むのも、何かトラブル起きそうじゃない?」
レイニオは容赦なく直球の言葉を投げ付けた。
それは美中年の心にストライクで刺さる。
キャロラインとジャガルドが「確かに」と頷いているのも拍車かけている。
「キラキラおじさん、キラキラ?」と言っているラジーが、悪気はないのに更に追い打ちをかけている。
連携がヒドイ。
「だったらさ、俺がメインじゃなくて、ビフレットに俺が付いていくのは、どうだろう?」
そんな中、ガライが思い付いた、とばかりに提案する。
「俺が前に出たら目立つんだったら、それより目立つビフレットに前に立ってもらえばいい。ビフレットが1人だと遭遇しそうな事も、俺とステンがいれば回避出来そうじゃん?」
「確かにそうですが……」
メガネを上げつつキャロラインは判断したが、やっぱり不満そうだ。
自分たちのいないところでは、何かあってもフォローが出来ないかもしれない、と。
それをジャガルドが首を振って止める。
「この辺が妥協点じゃねぇか? ガライだって社会経験が無ぇわけじゃねぇ。厄介事はある程度回避出来んだろ。それに束縛し過ぎんのも反発を生む、だろ?」
「……むぅ、そうですわね」
出来るだけ主の自由を損なわないように動いているキャロラインは、それに一応の納得をみせる。
前王弟といえども、ガライは世間知らずではない。むしろ流れに乗るのは彼の方が上手ではないだろうか。
「では、ガライ。ステンさんをちゃんと連れて、ビフレットの付き添いをするのですよ」
「言ってておかしくない? それ」
そのキャロラインの言い方にレイニオがツッコミを入れる。
お使い本人の付き添いの付き添いとは、これいかに。
「それ以上の説明があるとでも?」
「……ごめん、キャロラインさん」
「私だって、1人で買い物くらい出来ますよぅ……」
輝いていようが中年である自称執事は、誰も否定しなかった「買い物するだけでトラブルに合いそう」というイメージに、自分の分のタルトを似合わない大口でパクリとやけ食いするのであった。
そういう事があったので、お使い本人と、その付き添いと、付き添いの付き添いという、ある意味斬新な構成で3人は町に下りてきた。
ガライからは付き添いという考えが頭から消えていそうで、物珍しそうにキョロキョロしているが。
「ステン殿、この品物はどこに行けばいいでしょうか?」
「ああ、これならいい店を知っているぞ」
「でも、その店って」
町を歩きながら巡る店について、この町に住んでいたステンに相談するのは自然だ。
本来なら、現在進行形でボンオネに単身居住(家族がプレートの町に行っているだけで赴任ではない)中のミックに頼めばいいのだろうが、ステンは怪しい笑顔で言及を避けている。
きっと、彼は、いや彼らは日常業務を行いながらも疲労と戦っている事だろう。
それはともかく、「ビフレットが買い物をするんだから、俺のやる事が無いんだよな。だから、荷物くらい持つって」とガライが自ら立候補したので、荷物を非常に恐縮しながらも持たせているビフレット。
自分では持ちきれない、と2軒目での量で悟ってしまったので、主に頼まざるを得なくなっている。
それを筋トレだと、むやみに上腕二頭筋に力を入れながら嬉々として荷物を抱えるガライに、「配達も出来ますよ」と言えなくなるステンと店主たち。普通はそんな量の買ったものを持って帰ったりしないのだ、普通は。
それを数度繰り返せば、周りに注目をされ始めるのは必然である。
こんな田舎に似合わない貴族然とした直視すれば目が潰れそうな美貌の男が、護衛よろしくムキムキマッチョ2人を連れて大量の買い物をしている。
しかもかなりの量の買った物を1人の男に持たせているし、もう1人は知っている人は知っている領地軍の元隊長だった老人だ。
注目されない方がおかしい。
ただ、ビフレットは注目される事に関して慣れてしまっているため、敵視などの負の感情以外の視線には見向きもしない。
ガライも気にしない。
ガライの場合、荷物に視界が遮られつつある、という事情もあるが。
チヤのオーダーは量多めなのだ。
やはり何処にいても注目される方々だ、とステンは自分もその要因の1つであるにも関わらず、当たり前だと受け入れていた。
そんな彼の視界に、人波の向こうから走ってくる人影が映り込む。
数秒後には接触する速さで近付いてきている。
それを見咎めて割り込むように体を動かすステンだったが、それを止めた者がいた。
ガライだ。
振り向いて、何故だと視線で問えば、そちらを向いたまま彼は笑った。
「大丈夫」
え、ガライ何で止めたの!?とか、キラキラおじさんは色々なものを惹き付けるのだ……とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。