ここが変だよ、騎兵団
ビフレットの畑の話。
畑には浪漫と財宝が詰まっている……らしい。
ユニークが200を超えました。
皆様、このわちゃわちゃ話を覗いて下さって有り難う御座います!
翌日。
朝から仲間たちはそれぞれ行動をしていた。
チヤは前日に言った通り、クマ肉の保存食を作りながら、翡翠色の植物を少量摘んできてスープを仕込んでいるし、キャロラインは筋肉痛に苛まれながら部屋の整理を行っている。ジャガルドはその手伝いに駆り出され、レイニオはお使いを兼ねた町歩きをしているはずだ。
そして、残りの3人は。
「と、いう事で、少し場所をずらしました」
朝からキラキラしている自称執事に、大きいのと小さいのが「おぉー」と拍手する。
「あまり葉霧の森に近くなると日当たりがよくないので、この辺りが妥当かな、と」
「屋敷の真横かぁ。ま、玄関と窓からは見えないからいいと思うぞ」
ビフレットの言葉に屋敷の主が頷く。
「エグタルも、できる?」
ウサミミが耳を揺らしながら、ズボンをくいっと引く。
「若様のトマッホが出来るのであれば、エグタルも出来ますよ」
美中年が屈みながら、ラジーに微笑んだ。
「出来たらいいな」
ガライも笑って顔を覗き込む。
「それには土を耕して、畑にしないといけないから、ラジーにも手伝ってもらいたいんだ」
「ん、がんばる」
ぐっと両手を握りしめる。
「鍬と鋤は用意しています。あと、昨日引き抜いた木も移動させましょう」
ビフレットは畑にする地面に線を引いた。
「ラジーには大きいと思うけど、やってみるか?」
ガライが鋤を手に取りながらラジーに尋ねる。
「やってみる」
ウサミミを揺らしながらコクリと頷いた。
「魔法、は?」
ガライが支える地面に突き刺した鋤の肩でぴょんぴょん跳びながら、ラジーはキラキラおじさんに質問を投げ掛けた。
(その呼び名についてビフレットは「オジサン……」と項垂れていた)
「仕上げとかには使いますけど、基本は手作業にしたいですね。時間がある事ですし」
その呼び名の通りキラキラした笑顔でそう言うビフレットは、よっぽど土いじりが出来るのが嬉しいらしい。
彼の魔法は土属性だ。
土属性だから土いじりが好き、というわけではないが、彼の魔法は何故か生産に特化している。
魔力が少ないため、大規模な魔法は使えない。しかし、こういう場面では無類の力を発揮する。以前は隠していたのを大っぴらに使えるのが、その機嫌の理由だろう。
ようやくポコリと取れた地面に「おー」と声を上げながら穴を覗くラジー。それを見ながらガライが鋤を新たに地面に突き刺す。
「じゃあ、全体的にやっちゃうぞ」
「お願いします」
そう農夫もどきが返すと同時に、ガライの怒涛の土起こしが始まった。
ドドドドドッという効果音がぴったりのその鋤使いは魔法で動く魔道具のよう。
手に持つのは鋤のはずなのに、速すぎて何も見えないというのはどういう事だろう。
その光景を見て半分思考を放棄した自称ただの執事。
呆然としながらも残った鍬を持ち上げ振ろうとしているウサミミを止めている。
その内、高速で振りすぎて刃が取れてしまったのか、素手で地面を掘り始めた前王弟。
彼は遠い目をして眺めるしかなかった。土で遊び始めたウサミミを監視しながら。
「ガライ、何してんだ、お前」
土起こしの終点が見えた頃、畑予定地の面々に声をかけたのは、休憩に来たジャガルドだった。
何故か鋤の刃を片手に呆れ顔である。
「お、部屋の模様替えは済んだのか?」
ガライは手を止め、土を払いながらそちらを向く。ジャガルドが鋤の刃をビフレットに渡しながら「終わると思うか?」と逆に聞いた。
「全く思わないな。キャロだし屋敷は広いからな。それとこれは『ライズ王国騎兵団式開墾術その3』だ」
「ああ、あったな、そんなの。懐かしい」
兵役に就いた事のある2人は、顔を見合わせて笑った。
『その3』って何だ、とビフレットは思った。
「そうそう、それで思い出したけど、『その1』をやってほしいんだ」
普通にナンバリングされているのか、開墾術。
ビフレットは騎兵団の存在意義について、誰かに尋ねたくなった。
「昨日、木を引っこ抜いたからさ、使えるようにしたいんだ」
「あれか。『その1』って、生木を木材や薪にする方法ってヤツ」
野戦用なのか? でも開墾術って。え、人が住めるようにまでしちゃうの、騎兵団。
まさかお遊び要素満載で考え出され、幾多の改良を重ねたそれが、騎兵団で災害時用に正式採用されているとも知らず、ビフレットは混乱している。
「そもそも引っこ抜くってなんだ。普通は倒木とか切り倒したり殴り倒したりだろ」
ああ、殴り倒せるんですね。
ビフレットは何だか訳が判らなくなっている。
「そこは置いといて、ルドだったら魔法ですぐだろ」
「まあな。ラジーは……、コツがいるから今回は見学、だな」
「?わかった」
『ライズ王国騎兵団式開墾術その1』は周辺の脅威を排除した後、拓けた土地を確保するために行われる。
そこにある資源を一切無駄にしないように利用出来るものは利用出来るようにする。石や木、水すらも。
昨日のガライが引っこ抜いた木まで移動した彼らは、ジャガルドが木の表面に手を置いたのを、穴が開くほど見ていた。
ラジーは魔力の流れを視るため。
ビフレットは『開墾術その1』への興味。
そしてガライは、
「水魔法、いいよなぁ」
単純に羨ましいからだった。
「お前ら、見すぎだろ」
呆れたようにジャガルドが溢した。
「へらない、魔法」
ラジーが早く、と目で訴える。
「……出た水はどうする?」
「桶を持ってきたから、後で馬小屋に持っていく!」
ガライがいい笑顔で桶を掲げる。
「木の水分が抜けるなら、ドライトマッホなんかも出来そうですね」
ビフレットは他の利用法を考えている。
それを見て、はぁと溜め息をつく。
「オレの休憩時間はどこに行ったよ……。やるぞ」
そう言うと、ジャガルドはじわりじわりと木に魔力を注ぎ出した。そしてテーブルにコップの水を溢した時のように、するすると隅々にまで行き渡らせる。
そこで手招きで呼んだガライが、心得たように持っていた桶を彼の足元に置く。そこに少しずつ木から回収した魔力を流し込んでいく。
たらり、と乾いた桶の底が湿らされた。
それはすぐに底全体に広がり、嵩を増し、桶一杯に溜まる。覗き込めば透明度の高い水がそこにゆらゆらと揺れていた。
「こんなもんだろ」
ジャガルドが木の幹から手を離すと、枝から葉っぱがバサッと落ちた。
木を少し離れて見ると、数ヵ月早送りされたかのように瑞々しさがなくなっているのに気付く。
「木の内部の水分を魔力と混ぜて、それを回収すると同時にその水分を引っ張っている、のかな?」
木の状態を確かめたビフレットは顎に手を当て、ちらりと魔法の使用者に聞く。
「概ねその認識だ。手で触れないといけないのと魔力を行き渡らせる必要があるから、攻撃としては使えない魔法だ」
ラジーの前だ。人間に使っても即席ミイラは出来ないよ、と遠回しに言いたいらしい。
「ラジー、これは濡れててもぜったい生き物に使っちゃダメだぞ。水分が乾くどころかカッサカサになっちゃうからな」
こう直球でラジーに言い聞かせているガライは昔、ジャガルドに濡れた服を乾かしてもらおうとやってもらった事があるそうだ。
結果は彼の言う通り。
それにコクリと頷くラジーには悪いが、今までも強力な魔法を使っていた気がする。ここでつっこむのも野暮というものだろう。
亀○流の畑耕すのやってみたかったんだ。
亀の甲羅はないけど……。
『ライズ王国騎兵団式開墾術』は彼ら(ガライとジャガルド)が所属していた時に遊び半分で作られたものです。
「野営地の確保するの道具なしで作れるようにしようぜ!(キリッ)」とやらかした結果こうなりました。
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