だって鍛練しないと筋肉が落ち着かなくて
前王弟が領主に提案します。
いつの間にかPVが36000、ユニークが10000を超えていました。皆様、お越し下さり有り難うございます。
ビフレットが舞台俳優のようにいい声で歌ってくれそうです。
「失礼ながら、ガラム様、でよろしいかしら。これからも普通に喋って頂いても構わないのですよ」
シルーバ伯爵夫人は、対面に座る冒険者ガラムに声をかけた。
先程からの管理人一家に対する喋り方からして、普段はそちらの喋り方をしているのだろう、という推測からの言葉。
それに彼は笑う。
「今回は『領主代理の就任挨拶』をするために来たのだから、それ相応の対応をするのは当たり前だと思ったまで。
それに、たまに使わないと忘れそうでな」
つまり他の立場であれば、そういう喋り方をするかもしれないと示唆している。
それを聞き「差し出口を申しましたわ」と夫人は引き下がった。自分たちへの敬意と言われてしまえば、仕方無い。
「忘れそう」と言ったのには、王族としてどうなのだろうとは思うが、彼の事だ。ウエットの効いた冗談なのだろう。
だったら精々、練習台になってやろう、と領主夫婦は思った。
実際にはムキムキは本当に野生化しそうで、幼馴染みたちが四苦八苦しているのだけれども。
「話は変わるが」
そんな野生化しそうな前王弟が少し考えた後、話を切り出した。
「ミックを見て思い付いたのだが、明日から滞在中、領地軍の訓練に参加させてもらえないだろうか」
「領地軍にですか」
領主が聞き返すと、前王弟は頷いた。
「そうだ。ここだと日課の走り込みが出来なさそうだし、久し振りに軍の訓練に混ぜてもらうのも悪くないと思ったのだが」
「若様……」
自称ただの執事が呆れたように声を出した。
さっきだって、町に着く少し前まで馬車と並走していただろうに……。
その言葉を聞いて、領主は納得した。
「確か、ガラム様は騎兵団に在籍していたのでしたね」
社交界では既知の事実であり、娘との手紙にも度々出てきた事柄。大きな体格と合わせると、納得しかない。
「わかりました。手配しましょう」
そう言い、彼の更に後ろの抱き合ったままの夫婦に通常通りに声をかけた。
「ミック=レス」
「はいっ!」
すぐさま、敬礼を取るレス家入婿。
妻を丁重に横に置くのは流石である。
「この後、一旦警備軍に帰り、隊長に手紙を渡してほしい。急を要する。返答はこちらに出向くように、と伝えてくれ。
その後は非番にしてもらうので、家族サービスするように」
「承りました。有り難うございます」
直ぐ様、壁際に立っていた家令に指示を出し、レターセット持ってこさせた後、領主は内容が余り深くなりすぎない様にその手紙を書き、机の上に置きミックへと寄せる。
「……やり過ぎないで下さいよ、若様」
「ここの領地軍の練度によるなぁ」
その間にヒソヒソと会話を交わす主従。
それを聞いて呆れたように肩を竦めるのはレス家の孫。
アニキが強いのは知っているが、どこまで強いのか、武芸の『ぶ』も知らない彼女には判らないからだ。
毎日訓練しているんだから、アニキには負けないでしょ。と自身の父親を見ながら予想を立てている。
アニキほど、ムキムキではないけれど。
「訓練開始は1番の鐘です。訓練所は屋敷の隣にある警備隊屯所の裏手にあります。迷う事は無いでしょう」
キャロラインなら迷いそうだなー、と瞬時に2人の脳裏に過ったのは秘密だ。
1番の鐘は大体朝6時頃。その前に3度捨て鐘が鳴らされる。
こういう鐘は都市部には設置されているが、プレートの町なんかの田舎には無い。ニワトリや家畜の鳴き声で代用されているからだ。
「都会だな」
「ですねー」
田舎暮らしにすっかり染まった王宮生まれ王宮育ちが、訳の判らない事を言っている。
それを見た目王子様10年後が同意している。
もっと都会にいたでしょうに、と今回の旅の護衛役は苦笑した。可笑しいを通り越して奇妙である。
「それでは、私は一旦詰め所へ戻ります」
手紙を持ったミックは、結局本題は何だったのか判らないまま、暇を告げる。
「確かに渡してくれ。でないと明日プテラスバードが襲来するかもしれんからな」
領主が冗談めかして言うと、それにピンと来ていない彼は「はぁ」としか言いようがなかった。
つまり、娘の起こした事件の詳細を知らされていないという事。
「ステン」
「選択肢を与えようかと」
その反応に領主が彼の義理の父親を呼ぶと、すぐにそう返された。
つまり、前王弟に関わるか否か、をだ。
「別に話してくれても構わんぞ」
本人は笑いながら否定しなかった。
「黙っていられるなら」
何かとんでもない事が話されている、と判ったのかミックはそのまま素早く身を翻し、「失礼しました」と応接室を出ていった。
「まったく。お父さんって、いつもこうなんだから!」
父親の出ていった扉を見ながら、彼の娘が呆れた顔をして呟く。
少女の思考に、大人の力関係はまだ考慮されていなさそうだ。
「危機管理能力があるって事でしょうね」
自分に関係ありそうなキナ臭い話は徹底的に聞かないようにする。聞かなければ「知らなかった」と通す事が出来るからだ。
ビフレットがルミに言うと、「どういう意味?」と彼女が聞き返す。
少し考える素振りを見せた後、美中年はニッコリと微笑んだ。
「イタズラを考えている人の近くには、いたくないって事です」
「人聞きの悪い。イタズラの仲間に入れてあげようかなって言っているだけだって」
イタズラを考えている悪い大人たちは笑い合っている。それを見て、なるほど、と少女は納得した。
町の男子たちが何かやらかす前の顔にそっくりだ。
「まあ、イタズラに加担させるかはステンに任せる」
ガライがそう締めくくる。
恐らく、彼は聞いてくるだろう。
「領主に敬語を使われるあの冒険者は何者だ」と。
それにどう答えるかは元隊長の匙加減次第である。
そこに扉を叩く音が聞こえ、壁際の執事がそちらに向かう。
「どうやらお部屋が用意出来たようです。案内させましょう、ガライ様」
事情を知らない者が室内にいなくなったため、呼び名を元に戻すシルーバ伯爵。
「ああ、頼む。ステンたちは家があるのだったな」
それに返事をしつつ、レス家の家長に滞在先を聞く。
「はい。今はアヤツ1人で暮らしておりますが、以前は親子で暮らしておりました」
「お父さん、散らかしてないかしら」
「整理整頓は出来る人だから大丈夫よ」
家の事を思い出したのか、ルミが疑問を口に出すとセラが微笑む。
「では、何かあればそこに乗り込」
「使いを出しますね!」
殿下、貴族の皮が破れてます、殿下。
ビフレットは主の言葉に被せるように声を上げた。
町を見て回る予定のガライは、どうせ行く事になるから別に慌てる事無いのに、と苦笑を浮かべる。
それに判っているとばかりに鷹揚に頷くステン。
「そうして頂けますか。明日は早めに訓練所に待機しておきます」
ついでに明日の予定も告げておく。
必要は無いと思うが、王族の護衛の代役だからだ。
「さすがステン」
「判ってるー」とは、この場では流石に言わないが、ガライは感心する。
ガライがジャガルドと共に、毎日湖の周りを走ったりトレーニングしている事を知っているのだ。
「ふふ、私の朝も早いものでして」
今尚、修練を欠かさない老人は笑う。入婿は明日の朝、大変ではないだろうか。
「張り切りすぎるなよ」
そう言ってガライは美中年を連れて、扉を開けたまま待機していた執事に誘われ姿を消した。
その残された言葉に口の端を上げた老人を、容易に想像しながら。
ルメール=ブルーフは、昨日受け取った領主からの手紙によって、いつもより早めに詰め所の裏手にある訓練所にやって来た。
まだ定時である1番の捨て鐘すら鳴っていない夜明け前である。
先に詰め所にいる夜勤の部下に挨拶をして、そして訓練所に足を踏み入れた。
いつも通りの何もない、それこそ毎日踏み固められて草さえ生えないだだっ広い空間。
そして、そこに懐かしい姿が佇んでいた。
「ステン隊長……!」
その呼び名に振り向いた彼は、想像よりも髪に白いものも皺も増えているが、未だに鍛えられた肉体を保持しているようだった。
「まずは挨拶だ。それに今はお前が隊長だろう」
こちらをチラリと確認した後は、一点を見据えたまま叱責をする。
「私の中では、隊長に変わりありませんので。おはようございます」
言われた通りに挨拶をして、本日早く訓練所に来た理由を思い出す。
「訓練に参加したい、とはステン隊長の事でしょうか?」
「まずは、おはよう。そして、答えは『違う』。あそこにおられる方だ」
あそこ?とルメールは、ステンの視線の先を辿る。誰もいるようには見えない。
それを察した元上司は「見ているところが違う」と言う。
やっぱり誰もいるようには見えない。
それを見て、やれやれと首を振った老人はそちらに声をかけた。
「ガラム様、責任者が来ました!」
「すぐ行く!」
そちらから若い男の声がした。
そして、次の瞬間には隣に声の主らしき男が立っていた。
「おはようございまっす。今日は宜しく頼む」
人好きする笑顔に挙げられた手。
ルメールは思わず二度見した。
「はぁ!?」
ルメールさんの受難が始まる……のか?
彼の名前はフル(プレート)メイルからです。
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