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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
領都来訪編:剣を振るには上腕二頭筋が不可欠
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あくまで執事ですよ、本当ですよ!

領主との話し合い+レスさんち大集合。

ぼ、ボケ要因がいない、だと……!



 「それよりも、私の補佐官より報告が来ていると思うが、魔物の群れの襲来とそれに乗じて行われた誘拐事件の調査に、王国軍の方からプレートの町に兵が派遣されて来るんだが、軍からその報告はあったか?」


 前王弟は話を変え、今回、訪問した原因について領主に尋ねた。


「はい、一応その旨は通知されましたが、詳細は何も知らされておりません。ポルタ令嬢からの手紙でようやく事の次第を知り、驚いています」


このような事は、領主に報告するのが当たり前であろう。内部監査でもあるまいし。

その事に領主は話を聞いて困惑していた。


「やはり、私が探されているのだろうな」


そうなると理由はそう多くない。


以前は不要だと言われていたのに、扱いの差が激しすぎないか、と彼は思った。

今更、誰かの思惑に乗る気は更々無いのだけれど。


「その報告書と先程渡した彼女の手紙に書いてあると思うが、その目を眩ませるために少しの間、この町に滞在させてほしい」


今回の訪問の本来の目的を切り出した。


「それは構いません。この屋敷をお使い下さい」


その言葉に慌てたのはガライだ。外には出していないが。


「しかし、私がいたと知られれば迷惑がかかるぞ。この通り、カールレーと判る金の目も誤魔化している。許可だけもらえれば、町に宿を取るつもりだったのだが」


ガライの特徴ある金色の目は、今はオリブー色だ。


昔、騎士団に入団する時に作ってもらった魔道具で、体内の魔力を使って見た目の色を変えている。

ちなみにイヤーカフ型なので、落とす心配もない。


ただ、身体強化とは別に魔力を勝手に使い続けているようなものなので、とても疲れるのがネックである。


「その方が一般の目撃者が増えて、危険です。何かあった時、口止めも出来ないでしょう。その点、この館の中ならば箝口令も出す事が出来ますし、部屋も空いております。なにより、」


「あの子の王宮にいた時の話をお聞きしたいです。私たちの知らない、あの子の生きた時間。それを教えて下さいな」


その言葉にガライは悟った。

この人たちはもうスーンの事を乗り越えているのだと。


「……判った。だが、ここにいる間は私を元騎兵団員で冒険者の『ガラム』として扱ってくれ。以前、娘の為に薬草採取を依頼したという事で」


そう言って服の下から出してきたのは赤いパスケース。その中には間違いなく『ガラム』と書かれたギルド証が入っていた。


それを見て、夫婦は納得する。

なるほど、ステンの言う通り、(せわ)しなく動き回っているようだ、と。


 その時、扉がノックされた。

次いで、男性の声が外から掛けられる。


「失礼します。警備隊所属、レスです。お呼びとの事で参りました」


「お父さんだ」と後ろにいた少女が小さく声を上げた。

その思わず上がった声を聞こえなかった事にして、領主は入室の許可を出した。


そこにいたのは茶金色の髪をツーブロックに刈り揃えた、人懐っこそうな……というよりもチャラそうな感じを受ける男だった。

二枚目よりも三枚目と言ったところか。

領地軍の制服を着ているという事は、勤務中に呼び出されたのかもしれない。


その男は、室内を見るなり固まった。


それもそうだろう、とガライは思う。

プレートの町にいるはずの自分の家族が、何故か一番の上司である領主の館の応接室にいるのだから。


「な、何事ですか……?」


思わず領主に状況を聞いてしまう程には混乱しているらしい。

それに近付いたのは義理の父親(ステン)だった。


「相変わらず腑抜けたような面をしているな、お前は」


その言葉に条件反射のように背中がピーンッと伸びる。チャラさが少し無くなった気がした。


「至極真っ当に任務に当たっております、隊長!」


凄い勢いで敬礼をし、ステンを『隊長』と呼んだ。


「相変わらず、義理の息子は義父親(ちちおや)に頭が上がらないようだ」


その様子を領主は朗らかに笑いながら見ている。隣に座る夫人も懐かしいものを見るような目だ。


それを見て、ガライはレスさんちの男たちの力関係が判った気がした。

これは刷り込まれているなぁ。しかも領主公認で。


 このままでは父親に飛び付きたいであろうルミが、いつまでも行動に移せないので、彼は立ち上がった。


「ステン、そろそろその人を紹介をしてくれないか」


正体は先程ルミが言っていたので知っているが、改めて紹介を頼む。それを受けて、ようやくステンは義理の息子に絡むのを止めた。


「あぁ、申し訳ありません、ガラ()様」


領主に言った事を適用したのだろう。

老人はガライを偽名で呼んだ。そして、その男を引き連れて応接セットの側まで歩いて来る。


「いやぁ、昔からからかい甲斐のあるヤツでしてなぁ。つい」

「つい、で絡まれるこっちの身にもなってくれよ」


ボソリと言っている言葉もガライには筒抜けである。

そこはまあ、頑張れ、としか言いようがない


「この男は私の義理の息子でミックと言います」

「ミック=レスです。よろしくお願いします」


この応接室に合いそうで合わない少し合ってる?大男を目の前に、よく判っていないまま挨拶をする。


「俺はガラム。普段は冒険者をやっているんだが、今回、幼馴染みの領主代理の代わりに着任挨拶に来た」


嘘は言っていないな、とビフレットは頷いた。


冒険者登録もしているし、本来の身分を隠している今、そう名乗るのが適切だろう。


しかし、ビフレットの考えとは違い、ガライは「屋敷警備員と名乗るのは止めて下さいませ!」とキャロラインに言われたので仕方無くそう名乗っただけだ。

屋敷警備員、格好良さそうなのに……。


流れで握手をしたミックは、大混乱だ。


え、冒険者なの?でも領主代理の代わりって言っていたんじゃないの?領主代理の代理ってなんなの?お義父さんいる理由にならないよね?と、いうかお義父さん、何でいるのー!?


その疑問に答えたのは、腰に突撃してきた娘のルミだった。


「お父さん、久し振りー! 浮気していないよね!?」

「してないよっ!?」


彼女は、ガライが普段の喋り方になったのが判ったため、溜めていたパワーを一気に爆発させて、自分の父親に突進をかけたのだった。

ちょっと爆発が変な方向に暴発したようだが。


なお、よろめかなかった事に義理の父親が満足げに頷いていたのには気が付いていないようだ。


何で隊長と同じような事を言うんだろう、とその本人は自分の娘の成長に一抹の不安を覚えている。


……同居する祖父と孫だからではないだろうか。


「あのね、アニキ……あっ、ガラ、ム……様?が領都に行くって言うから、私たち一緒に付いてきたんだよ」

「今はあの屋敷にも人が住んでいるからな。管理は余り必要ではない」


ルミの言葉に続き、ステンが屋敷の管理人としての説明をした。


ムキムキの頭に「もうすこしがんばりましょう」と言っている幼馴染みが優雅に通っていった。


「無理言って付いてきてもらったんだ。領主代理の代わりだから、1人って訳にもいかなくて。護衛役も兼ねて声をかけたんだ。ステンって強いから」


ステンを強さで圧倒するようなガライが、当たり前のようにそう説明をした。

それに追従するように、まだソファの後ろに立っていたビフレットが口を開く。


「それに、領都にご家族がいると聞いておりましたから。お連れした次第です」


今まで気が付かなかったその男の顔を見て、ミックは衝撃を受けた。


第一に顔がいい。

左右のバランスが取れた顔はそれだけだと人形めいた印象を受けるであろうが、少しタレ目の青い目が命を吹き込み、優しげな雰囲気を持たせている。


そして、その目の縁を飾るのは金色の長い睫毛。瞬きの度に音が聞こえそうだ。

それと同じ色のウェーブがかった少し長めの髪は緩く1つに束ね背中に流している。


足もスラリと長く、娘の肩よりは上に腰がきている程だ。

まるで物語の中から抜き出てきたような存在。



それが愛する妻の横に立っていた。



「な、なななななー!?」

「煩いぞ」


領主の前だという事も忘れて声を上げた義理の息子にステンはデコピンをお見舞いした。(うずくま)るミック。


「ビフレット、勘違いされてるぞ」


そんなミックの心情に気が付いたガライが、笑いながら自分の執事に伝えると、彼は溜め息と共に蟀谷(こめかみ)にその長くて白い指を当てた。


「何だか久々のような気がします」


王都にいた頃、更に言うなら、この前王弟に出会う前なら割と頻繁にあった事だった。有りもしない仲を勘繰られるというのは。


仕方がないので、踞った男に近付きその横に腰を下ろす。そして囁くように声をかける。


「貴方は、自分の妻が信用出来ないのですか?」


痛みに押さえたままの手をそっと取る。


「私はガラ()様の執事です。ご近所付き合いはさせて頂いていますが、他に気にかけなければならないお方がおりますので」

「変な言い方するなよ……」


真剣な顔をして警備軍の男と視線を合わせたところで、自身の主から注意が入る。


「実際、その通りでしょう? ……だから貴方の迷いは検討違いです。それともあの方を留め置けるという自信がおありでは無いのでしょうか?」


それを聞いて、バッと立ち上がったミック。そして、「セラッ、愛してる!」と自分の妻の元へ行き、抱き締めた。


「私も愛しております」

ほんわりと微笑んだままのセラは戸惑い無く抱き返した。


「あー……、一応、領主の前なんだけどなぁ」


ガライが余裕のあるセラに若干引きながら呟くと、「いつもの事です」と領主夫婦とステンが声を揃えて言った。


「いつもの事なんだ……」


「離れて暮らす2人は何時でもシンセンなのよ!」

ルミが我が事のように胸を張る。何処で覚えた、そんな言葉。


「いいですねぇ、お互い想い合っているのは」


常に一方通行で想いを寄せられていた男は、立ち上がりながら微笑んだ。

発破をかけた自覚はあるのだろうか。


「ガラム様、しばらくしたら元の世界に戻って来ますので、お気になさらないよう」


「えぇー」と言いながら、ガライは席に座り直した。

慣れているようだし気にしないのなら、別にいいっか、と思いながら。


レスさんちの入婿頑張れ!とか、ビフレットがただの執事……?とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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