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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
森を飛ぶ編:階段昇降は下腿三頭筋の強化
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備えというより副産物

階段を上りながらの雑談と、待機組の親子の割と物騒な会話。


PVが30000、ユニークが8500超えました。

いつもお越し下さり、有り難うございます。


いつの間にか、投稿を始めて1年過ぎていました。

これからも、カレー様を宜しくお願いします。


ビフレットが出番無さすぎて、ハンモックをすごい勢いで作ってくれそうです。






 「でさ、ここが女神オルスイースの神殿って確定したってわけ」


 2人と1匹は階段を上りながら、今までのお互いの経緯を軽く話し合っていた。1人は頭をたまに擦りながら。


4人と1匹のはずなのに人数のカウントがおかしいのは、キャロラインが足の限界を訴えスプリングルに乗っているのと、泣いて体力の限界を超えたのか、パッタリと寝てしまったラジーをガライが抱えているからだ。


「そういう事は、今年の祭りにはここに来て神事を行わないといけないのですね」


先程は回っていなかった思考を取り戻した令嬢が確認する。


「うん。本当はどこでもいいらしいんだけど、(しか)る場所の方がいいんだって、ねーちゃんが言っていた」


『ねーちゃん=建国の女神』である事を聞いたジャガルドが、奇妙な顔をして幼馴染みを見る。


「何でだよ。どこでもいいんだろ?」


それに困ったように眉を下げて、ガライが理由を口にする。


「何かさ、家畜が暴れたり、植物が喋りだしたり、嵐が起こったりするんだってさ」


ガライには魔力の流れが余り判らない。

だから、話を聞いても「まっさかー」と思っただけ。儀式を行っている本人にも関わらず。

言った本人もただ笑っていた。


それを聞いて顔色を変えたのはキャロラインだ。


ガライの言った事はつまり、強い魔力の放出があるから、家畜が魔素を取り込み魔物化したり、同じく植物が変異を起こし意思を持ち始め、魔力の流れが強制的に変えられるから異常気象が起こる、と言っているのではないだろうか。


それ程の魔力を扱う神事、女神も関わってくるとなると、やはり結界のある遺跡や現存する施設なんかでないと影響が出てしまう、という事だろう。


「ぜーったい、神事はこちらに赴いて下さいまし!」


その思い至った事実に思わず叫んでしまった。男2人が驚き振り向いた程だ。


この国の守護神は、魔力の流れ?何それ新しい筋トレ?というこの男を通して、その周辺関係者を振り回しているに違いない。


「キャロ、しー。ラジーが起きる」

「何、そんなに慌ててんだよ」


よく判っていない2人は至って普通に返した。

ジャガルド、お前もか……。


「プレートの町を、混沌の海に突き落とす訳にはいきませんわ」


「まあ、聖域が見つかったんだから、心配しなくても他の場所でやったりしないって。……恥ずかしいし……」


キャロラインの反応に、とりあえず安心させるように言葉を返す。


その話を女神から聞いた際、一緒にいた甥も同じような反応をみせた為、もともと約束させられていたのだ。「見つからなかったら、マジで帰ってきて下さい!本当に!」とも言われた。

どうしてだろうか。


そして言葉尻は、抱えているウサミミフードに顔を隠してポツリと溢された。


今さら何を恥ずかしがる事あるんだ、と隣の男は思う。

昔、木登りしていて、ズボンが破れたよりも恥ずかしい事があるのだろうか。


「まあ、そういうわけだから、今日はここでキャンプな。おっちゃんも使っていいって言っていたし」


ようやく本題に戻った話。ここは神殿で結界が張られているから魔物が発生しない、という事を言いたかっただけなのに、大分横に反れていた。何故だ。


『おっちゃん』こと老竜ミンシードは、出掛ける前に「自由にしてくれて構わない」と言っていた。だから、一夜の宿にしても怒られたりはしないだろう。


直接会っていないジャガルドだけは「寝ずの番するよりは楽だが、いいのかよ、こんな所で」と、釈然としない様子だが。

古そうとはいえ、神殿には間違いないのだから、彼の反応は正しい。


「そうですわね。今から帰るとなると、途中で日が暮れてしまいますもの」


とキャロラインも頷いた。

日帰りの予定だったが、お泊まりも想定していなかった訳ではない。


黒髪の執事見習い曰く「絶対に何か起きるんだから、用意してた方がいい」との事。


「言われなくても判っていますわ……」と彼女はその時返していた。それを思い出し、溜め息をつく。退屈はしないが備える事しか出来ない。


「とにかく、地上に着いたらレイニオに通信を試みますわ。この距離ならば、言葉までは届けられませんが、何かあったのは判ると思います」


そんなやりとりがあったので、彼女の通信魔法で魔力を送っただけでも「やっぱりな」と納得されてしまうだろう。

解せぬ。


「朝、チヤはああ言ってたけど、やっぱり連絡しないとなぁ。夕食の用意もあるだろうし。キャロ、お願いな」


「夕食よりも、自称ただの執事が大変な事になりそうですが。承りましたわ」


一瞬、眩暈(めまい)でクラっとしているビフレットが脳裏を(よぎ)った。

似合いすぎてて怖い。


「チヤの事思い出したら、お腹空いた」


チヤの子供を抱え直しながら、別の想像をしたガライが照れ笑いをする。


「丁度あんじゃねぇか。鳥食え、鳥」


ジャガルドがなげやりに応じる。

お昼を食べた後に捕った鳥ことフレスタータが3匹、荷物の中に入ったままだ。


「そうだなぁ。香草って、この辺に生えているのかな?」

「起きたらラジーに頼んだらいいじゃねぇか。そいつなら匂い判んだろ」


マルゴール族は犬耳を持っているが、鼻も唯人より良い。だから、屋敷の料理人(チヤ)も香草だけは、自分の子供に採取を頼む事が多い。


「そう思うと、ラジーってマルゴール族なんだなーって感心する」

「すごく役に立っていますわね。お小遣いという名のお給料をあげるべきなのかしら……?」


馬やスプリングルの世話(義理の兄の補助あり)、森への採取(付き添いあり)、魔物回避(補助なし)、三属性の魔法の行使(むしろ勝手に発動してる?)。


こう列挙すると、この子供にはいろいろやってもらっている事が判る。大人顔負けだ。


「チヤに相談した方がいいかも。今なら俺より働いていると思うし、妥当じゃない?」


ガライが笑いながら足を止めた。と、当時に扉が開く。階段の終点だ。


 ようやく戻れた地上は、霧のような葉が夕日に照らされて、さらさらと揺れていた。


自分の瞳と同じ色になっているそれを、キャロラインは溜め息と共にしみじみと見た。

何とか帰って来られましたわ、とあの時自分の後を追って崖を降りてきた主を思う。


道連れなんて冗談ではない、と思っていたが、やっぱり助けに来てくれた時は、嬉しかった。


そんな事を思い返している令嬢の横で、男2人には葉霧がすりおろしたニンジールのように見えていた。お腹空いた。






 「ふぅん、捻りも何もないんだ」


 その日、ではなく翌日になってから大分経った頃。

プレートの町の端、湖を臨む屋敷の一角から平坦な声が上がった。


「迂闊じゃない? こんな田舎でも領主代理の屋敷だよ。もう少し用心すべき」


指摘するのは闇に溶け込むような黒髪の少年。

相対するのは、机を漁ろうとした手を驚きの余り止めた侵入者。


「あーあ、素人丸出し。こういう時は逃げ一択でしょ。それが出来ない時点で」


しゅっ、と何かが飛ぶ。


「相手に情報を与えているし、証拠を残している」




 それは夕方、森の方から蒼髪の令嬢から魔力が飛んで来たところから始まった。


その通信、というよりも馴染みのある魔力の流れに、見習い執事の少年は「やっぱりなぁ」と溜め息を付いた。

彼の主が動くところ、必ず何かが起こるのだ。


「どうかしたのかい?」


溜め息と共に作業の手を止めた息子に、養母が声をかける。


「キャロラインさんから。アニキたち、森でお泊まり確定」


思ったよりも呆れた声になったその言葉に、彼女は笑った。


「ははっ、しょうがない子たちだよ。まあ、今回、無理に帰って来るよりも安全を取ったんだろうね」


彼女の本当の子供が参加しての、危険地帯への探索だ。

何もなくても安全を取るだろう、とは思うが、やはり2人の脳裏には「何かあったんだろうな……」という思いがあった。


そしてそれは当たっている。

まあ、ガライがやらかしたのではなく、キャロラインの方なのだが。


前回、引っ越しでこの町に来る途中での野宿に参加していたレイニオは、何の心配もない事を身をもって知っていた。

アニキもジャガルドさんも野営に慣れており

、普通に料理が出来る(ここ重要)という事を。


養母の料理には負けるが、ちゃんと食べられるものが出てきた。だから、義理の兄弟が空腹で泣く事は無いだろう。


まあ、ラジーの場合、自分で食べられる草木を探してきそうだけども。


それを、母親が作る夕食の匂いを嗅ぎながら思う。


メンツがレイニオからラジーに変わっただけで、余り状況も変わらないじゃないか、と可笑しくなってくる。

よくも同じシチュエーションになるものだ。


「ビフレットさんにも報告してくる」


豆鞘の筋を取ったものを横に避け、レイニオは立ち上がった。


「やっぱり、来ると思うかい?」


鍋をかき混ぜながら、チヤは至って普通に尋ねた。

主語がないそれは、それでもレイニオには充分通じる。


「物証は欲しいだろうからね」


来る、とは断言せずに義理の息子は肩を竦めた。


「さて、どこのスカウトが来る事やら」

「再転職でも勧めてみる?」

「結局、同じ業種になるだろうさ。()()がいるようならいいなよ。用意しとく」

「相手が素直になるくらい()()()()夜食って訳?」


それにチヤは答えず、鍋の中身を味見している。


「大丈夫。ちゃんと何処の依頼か聞いておくから」


戸口に向かうレイニオに「そうそう」と母親が付け加えた。


「あの見た目王子様が話を聞いて、立ち眩みを起こすようなら『あんたがガライから屋敷任されてんだろ、シャキッとしな!』って言ってやっとくれ」


「それ、絶対言わなきゃいけないやつじゃん……」




ようやく、屋敷サイドの話になりました。

キャロラインが言っていた「間者がいる」ってヤツですね。

レイニオの出番です。……なんでこうなった?


キャンプ飯だ、ひゃっほい!とか、みんな想像する事は同じなんだなーとか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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