さあ、説明と言い訳を聞こうか?
ようやく合流と、別れた後の地上組の様子です。
ジャガルドだって思うところがあるのです。
何か段々長くなっている……。
何故だ……?
フロアに到着して見つけたのは、二足歩行のトカゲ、スプリングルのシンだった。荷物を背負っているため間違いない。
「あれ?シンだけ? ご主人様はどうしたんだ?」
ガライの問い掛けに、キュー、と鳴いてシンは首を傾げる。
その様子をキャロラインは壁に凭れて座りながら見ていた。限界を超えている足を揉みつつ、息を調える。
姿の見えない彼が何をしようとしているかは大体判るが、彼女は傍観するつもりだ。
その間にも「うーん……」と考えていたガライが、シンにくくりつけられた荷物から水筒を取り出し、キャロラインに渡してから、再び階段に足を向けた。
「シンだけ先行したのかも。ちょっと上を見てくる」
そう言って、上に続く階段に足をかけた。
ガライも多分、察しているだろう。これが罠だという事は。
慎重に上がっていくガライの姿が、彼女の視界から消えていく。
……数秒後。
「うっわっ!」
そのガライがフロアに逆戻りするように飛び込んで来た。
後ろからは、階段スペースギリギリの岩が追いかけるように雪崩れ込んで来た。何か、どこかの物語で見たような気がするのは、気のせいか。
その様子に驚いたのか、シンが「ぎゅ」っと鳴いた。
その途端上がる「いって!」の声。
シンが鳴き声を上げたのにガライが気を取られた一瞬の間で、下だりの階段から、得物を構えた男が侵入。その柄をガライの頭に叩き付けたのだった。
「アホかっ、おんどれはっ!!」
受け止めようとしたのか、上げていた腕を己の頭へ、痛みに蹲るムキムキの背中を踏みつけ、犯人であるライトブラウン色の髪の男がぶちまける。
「護衛の、意味が、無いっつーてんだろーがっ!!」
本日2回目のため、反論の余地はない。
それが判っているのだろうガライは、素直に正座に移行した。東の国の誠意を見せるための待機法だという。
「記憶力ニワトリ以下か!さっき言ったところだろうが!今度すっと、縛り付けんぞ!もう一回言うぞ!護衛対象が、護衛を置いて行くな!そもそも崖に飛び込むなーっ!!」
キャロラインは上りの階段を覗き込み、上にいるであろうウサミミフードの子供を呼んだ。
「すまん、ルド。申し開きもない」
真剣な声でガライが、その男ジャガルドに素直に謝った。
「でも、選択に後悔はない。キャロを失う訳にはいかないんだ」
聞こえない振りをしてキャロラインは、上から一生懸命下りてくる子供を見守る。ラジーには1段がまだ高いのだろう。なかなか下りられない階段に、すごく泣きそうな顔をしている。
「お前……、オレたちだって、お前を失う訳にはいかないんだって事、判るだろ!?」
「……すまん」
チッと舌打ちをして、1度背中をグリグリと踏んだ後、足を離した。そして隙を作ってくれた相棒へと向かって歩いていく。
ジャガルドと入れ違いのように、ようやく階段を下り終わったラジーが、真っ赤な顔をしてガライにとたとたと走り寄る。
「アニキぃー」
先程まで踏まれていた背中に貼り付いた。
この大きさ、カチカチ、やっぱりアニキだ。
そして、安心の余り泣き出した。
ラジーにしてみれば、カサカサ(ジャイアントセンチピードの事らしい)が出てこないように地面をカチカチにして振り返ってみれば、アニキとキャロお姉さんがいなくなっていた状態。
何やら騒がしかったのには気が付いていなかったらしい。
ルドお兄さんも怖い顔をして、後から来た緑色の犬(グリーンウォルフの事)を蹴散らし、「あいつら探しにいくぞ」と言っただけだったので、いないし、こわいし、泣きそうだった。
じんわりと涙の滲んだ目元に気が付いたジャガルドが、こんな場所で泣かれては困るので、心中複雑でどんな顔をしていいか判らない状態で(どんな顔をしたらいいか判らねぇ……。あ?笑えるわけねぇだろ)、結局困った顔をしつつも、ちゃんと状況を説明したようだったが。
戦いのおこぼれを狙ってやってきたグリーンウォルフを、巨大ムカデに誘導しながら相手した後、ジャガルドはムカデの残り(1匹は弱っていたため、ウォルフにやられていた)を片付けた。
そして、泣きそうな子供に現状の説明をした後、まだ心の中が大嵐のまま、2人と1匹は崖の下に降りれるような場所を探すために、移動を始めたところだ。
岩の壁はかなり垂直に近い斜度があり、ガライのように『壁面の突起を足場に降りる』なんて事は難しい。
ラジーもいるし、降りたら今度は登らなくてはならなくなる。
下にはキャロラインもいるので、そんな乱暴な手は使えなかった。
彼らは崖に沿って進んでいく。ちょっとくらい崖が崩れてなだらかになっている場所があるかもしれない、と思っての事だ。
ラジーを自分の前に乗せ、ジャガルドはスプリングルで移動していた。
今、気にかけないといけないのは腕の中の幼子だけなので、この方がスピードが出せるし、守りやすいからだ。
前王弟では決して出来ない態勢である。
そんな事したら、シンが可哀想だ。
もう、アイツ、移動の時は縛り付けといた方が幸せな気がする。オレが。
そんな事を沸々と思いながら、時に木の根を飛び越え、時に襲ってくる魔物をいなし、森を駆けていく。
騎兵団でも『鉄砲水』と異名を呼ばれるくらいの実力者であるジャガルドである。
口は悪いし、お酒を飲むと水芸をかなりの頻度で披露しているが、魔素の濃い森の中で戦い抜ける程の戦力は持っている。
今回は天然の天才魔法使いのサポートもあるため、よっぽどの事が無い限り負けはしないだろう。
スプリングルの上から槍を振るっていると、腕の中の子供がこちらを向こうとする仕草をしているのに気が付いた。
「何だ、ラジー」
そう呼び掛けると、フードの下から大きな目が上がってくる。
「ちょっと、ちがう」
違う?とシンの歩みを止めさせた。
森の民の子供が言う事を甘くみてはいけない。直感で森の雰囲気を読み、時には魔物の発生すら感知する。
「あっち」
そう言って、ラジーは崖とは反対である森の方を指差した。ちょっと行きすぎたようで、少し後ろ気味だ。
「何かあるって。みんな、元気。……寒い、冷たい?……んー、今日の空、みたい?」
「爽やかって事か」
子供の語彙での又聞きは、想像力との戦いである。
余り本とか読まないタイプのジャガルドは、『神聖な雰囲気』をヒントからそう解釈した。
「行ってみたい、けど」
そう言って、しょんぼりする。心なしかウサミミもしんなりしている。
どうやら、先程のルドお兄さんの様子に、邪魔をしてはいけないんだな、と思っているらしい。
「あー、悪かった。(ラジーには)怒ってねぇ」
溜め息と共にそう言って、胸元までもないその頭を撫でる。
「見た感じ、崖には降りるところが無さそうだから、そっちに行くぞ」
実際、先程から崖の状態を確認しつつ来たが、見える範囲では、厚切りベーコンの断面のようにその表面を晒している。
その言葉にウサミミがこくりと上下した。
やっぱり、オレに子守りはムリだ、と三兄弟末っ子は幼馴染み2人を思った。
物怖じしないラジーだから何とかなっているが。絶対、他の子だと泣いている。
木に埋もれるようにそれはあった。
石は経年劣化で欠け、施されていた彫刻は磨り減っていたが、明らかに人工物の名残だった。回りにも、壁だったであろう石組みや建物の跡が散見される。
「これか?」
「ん」
扉らしき石の壁は締まったままだった。しかしラジーがかれらに頼むと、壁の一部から光が出てきて(ジャガルドは思わず槍を構えた)、扉が開いた。
……子供の分だけ(ウサミミ含む)。
「オレはともかく、シン、ムリじゃね?」
屈めば何とかいける……か?とも思ったが、荷物を乗せているスプリングルが通るには穴が小さすぎた。
「んー……、ん」
ウサミミを傾けてラジーは考えていたが、やがてジャガルドに向けて両手を差し出した。だっこのポーズだ。
つまり、
「なるほど、光の当たったヤツの大きさ分、開くって事か」
ラジーをだっこしたまま、ジャガルドは頷いた。
目の前には、自分と抱えた子供の大きさに開いた扉。
シンに乗る事も考えたが、シン自身が怖がったため却下した。ムキムキの大きさだと、首を下げれば通れるはずだ。
それにしても、ネズミが同じ事をしたら極小の穴が開くのだろうか、と考えながら、シンの手綱を引きながら扉をくぐる。
何故か明るい遺跡の中、何故かすぐに見つけた階段を下りていく。
何故か魔物の気配はない。
遺跡ってそんなもんだ、と彼は思っている。大概、大雑把である。
ラジーは背丈的に階段下りが難しそうなので、シンの上だ。
ちょっと眠そうで、首がこっくりこっくりしている。まあ、朝から動き回ってたしな、と起こすような事はしなかった。
静かな空間に、足音と爪音だけが響く。
そうなると考えるのは、幼馴染みの事だ。
アイツ、護衛を何だと思ってんだ。そりゃあ、行動範囲制限されて窮屈なのも判るが、王宮にいた時の方が拘束酷かっただろうが。我慢しやがれ。
などと、ぐるぐる考えている内に、一旦収まっていた怒りが再燃してきた。
小さい時は護衛なんてもの、付いていなかったが、限度があるだろ。いい大人が!
そう怒りが濃縮されて来た時、ラジーがパチッと目を覚ました。
「音がする、下から」
まだジャガルドの耳には届いていないが、ラジーには聞こえてきたらしい。
音は下から上に上がってくる。
つまり誰かが上ってきているという事だ。
スケルトンなどの魔物ではない限り、音を立てて階段を上ってくる存在というものは限られていて。
しかも、相手はまだこちらに気が付いていないという可能性が高い。
その瞬間、彼は相棒の背に乗る子供に相談を持ち掛けていた。
「ラジー、やって欲しい事があるんだが」
ラジーにお願いした事は簡単だ。
『オレが合図したら、階段いっぱいに石をおとしてくれ』というものだ。
ちゃんとガライたちであるだろう、と予測も話してある。
その上で『急に何処かに行かないように話をするから、ビックリさせてくれ』と頼んだのだ。
石を落とすと聞いてコテンと首を傾げ、アニキがいると聞いて喜び、ビックリさせてくれと言われて難しい顔をしたラジーだったが、やがてゆっくりと頷いた。
ラジーだって、2人が急にいなくなって寂しかったのだから。イタズラくらい許されるだろうと思ったのだ。
ジャガルドは襲撃に、階段途中に時々ある広いフロアを使おうと決めていた。死角の少ない通路は強襲に向かない。
「……、ねーちゃん……だ。……しなきゃ、……ないって」
ようやく聞き慣れた相手の声が聞こえてきた。相槌が聞こえないのは、片方がへばっているからだろう。
まあ、仕方無いよな、と思う。
しばらく下りた後にあったフロアにシンを待機させ、ラジーは下から見えない少し上の位置に。そして自分はそれより少し下がった位置の壁に貼り付く。念のため、視界を遮るために薄く霧を発生させる。
「この間隔だと、階層があるところかな」
はっきりと声が聞こえ、次いで見慣れた赤い頭が下の方に見えた。青い頭も見える。
まあ、そうだろうな、と安堵する。
一応、心配もしているのだ、幼馴染みとして。
彼らがフロアに入るのを見てから、足音を消して階段を下る。
「あれ?シンだけ? ご主人様はどうしたんだ?」
そしてフロアより下段で、また死角である壁に貼り付く。
「シンだけ先行したのかも。ちょっと上を見てくる」
そう言って、偉丈夫がフロアから出てくる。
階段を何段か上がった所で、ジャガルドは上に向かって合図をして、フロア入り口に移動した。
フロア側入り口で座り込んでいた蒼髪の令嬢は、それを見て苦笑している。
見逃してくれるようだ。
そして、その後、部屋に逆戻りしてきたガライの注意をシンに鳴かせる事によって反らせ、強襲に成功した。
ちょっとラジーを迎えに行かなくて、泣かれそうになったが、ガライが慰めているから、すぐに機嫌を直すだろう。
これも罰だと思って受け入れろ。
ついでに朝食3日間抜きをラジーの母親に言い付けてやる!
相棒の首を叩きながら、ジャガルドはフンッと息を吐いた。
ラジーが泣いたのはガライのせいなので、ギリギリセーフ!とジャガルドは思っています。
まあ、間違ってはいないんですけどね。
ちなみに直前で気が付いたガライは白刃取りをしようとしていました。失敗していますが。
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