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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
引越先と青い鳥編:荷物を持つには背筋もいる
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彼女はアスレチックが設置されるのではと思った

ようやくガライの念願が叶いそうです。



 「チヤ!」


 ラジーの道案内で食堂を通り過ぎたところにあった厨房に辿り着いたガライは、入り口から中に呼び掛けた。


辺りには空腹を刺激するいい匂いが漂い、美味しい食事を連想させる。そんな中で火の様子を見つつ、棚に食器を並べていた女性はその声に振り向く。


「おや、ようやく着いたのかい、ガライ」


登っていた踏み台から降りたチヤは、1つにくくった茶色の髪を揺らしながらこちらに近付いて来る。

その声を聞きながら、ガライはラジーを腕から下ろす。


「心配させたな。さっき着いたところ。レイニオは馬たちを休ませに行っている」


義理の息子の事を伝えると彼女は笑う。


「心配はしてなかったけど。あの子もちゃんとやる事やってるみたいだね」


「役立っていますよ、実際」

「ガライが走っていった時とかな」

キャロラインとジャガルドが頷く。


「何だい。また何か()ってきたとか言わないだろうね?」

「流石に言わないが、やたら大きなウサギには遭遇したな」


ジャガルドが肩を竦める。その言葉に反応するウサミミが。


「ウサギ?」

首を傾げたラジーと共にフードのウサミミも傾く。


「その話は後でな。チヤ、腹が減ったんだけど、出来てる?」

「そう言うと思って、ちゃんと用意してるよ。隣で待ってな」


そう伝えて、彼女は鍋の方へと向かっていった。


 ラジーは作業机の上にあった布巾を取ってきて、先導するように隣へと歩いていく。

この親子は引っ越し前、下町で食堂を営んでいた。その習慣なのだ。


食堂に着くと、ラジーは椅子に上がり、大人数用の大きなテーブルをせっせと拭いていく。

以前、手伝おうとした事があったが、チヤから「ラジーの仕事だから」と止められているため、そのまま席に座る3人。


 ぐるりと周りを眺めていたキャロラインが湖を臨む窓を見ながら呟く。


「やはり、いろいろ足りませんね」

「まぁなぁ」


カーテンの取り払われたそれは、付け替え予定である。

本来グラスや酒が並ぶであろう空の棚、絵が掛けてあったはずの壁、脇に避けられたままの小さめのテーブル。

全てが、長年人が住んでいなかった事を示していた。


「でも、屋根があって安心して寝られる、それだけでも有難いな」

ガライは天井を仰ぎながら言った。


確かに町の外では魔素と呼ばれるものが存在し、魔物を産み出している。よって町の外で夜を過ごすという事は、よっぽど腕に自信があるものか、その日の内に町まで着けなかったものに限られる。


ちなみに昨日は男2人交代で見張りをした。


「ま、何もないから何でも出来るってものさ。俺、トレーニング場がほしいなぁ」

ガライが笑いながら希望を述べた。


「では、私は大きな書斎を」

「作る予定だろうが。ハンモックとか」

ジャガルドの言葉に2人は声を揃えて「いいね(ですね)」と同意する。


「ブランコ、できる?」

テーブルを拭き終わったラジーが言ったところで、チヤがワゴンを押してやってきた。


「出来るだろうさ、無駄に豪華なのが」

何を想像したのか、やれやれと首を振っている。

その想像を予想できたのか、キャロラインから「あー」と納得の声。


「ラジーも食べるかい?」

「ん」


両腕を差し出す子供の脇に腕を回し、椅子に座らせる母親。

そして、テーブルに料理を並べていく。


 メインに三つ目熊のワイン煮込み、先程歩いてきた道端で作られていたリューシの入ったフレッシュサラダ。そしてカゴいっぱいに盛られたバケット。

煮込まれ黒光りするワイン煮込みから、肉とそれを乗算するスパイスの香りが上り、視覚にも嗅覚にも絶対に美味しいと確信させる料理であった。


「うわぁ」

ガライが感嘆の声を上げる。

他の2人も声こそ上げないが、目が釘付けである。


「おかわりはあるけど、この後引っ越し作業があるからね。動けなくなるまで食べるんじゃないよ?」

「判っているって。……太陽の恵みと大地の慈しみを頂きます」


そう返し、食事前の略式の祈りを捧げるとナイフを持つ。


「それ、今後もやるのかよ」

すでにナイフを持っていた茶髪の男は呆れたように言った。


「しょうがないだろ。我が家のしきたりなんだから」


そう言いつつ肉を切り分ける。抵抗なく、するりとナイフが入る。

それを迷いなく口へ運ぶ。


匂いを裏切らない芳醇な味が口の中に広がり、追いかけてくる野菜の甘味と上品に交ざり合う。


「やっぱ、チヤの料理はスゲェなぁ……」


あっという間に口の中から消えていったクマ肉に溜め息混じりの声を漏らす。


「何であのでっかいのが、こんなに美味しくなるんだろ……」

「腕だけなら王宮で働いていてもおかしくないのに」

「それは出来ない相談だって言ったよ、キャロ。あたしは下町の食堂で充分さ」


令嬢の言葉に、むぐむぐと肉を頬張っている子供の食事の世話をしながらチヤは返した。


「また商売始めるのか?」

ジャガルドが聞くと彼女は頷いた。

「屋台か何かで惣菜でも売りたいね」


「そこはいろいろ手続きしておきましょう」

「おかわり」


そうキャロラインが返したのとおかわりコールが重なる。

そちらを見ると、知らない間にガライの皿は空になっており、カゴの中のバケットも少なくなっていた。


「おや、美味しかったみたいだね」

「うん」

「持ってくるよ。ルドもいるかい?」

「頼む」


それを聞いた彼女は嬉しそうにカートを押しながら食堂を出ていった。






 結局、その後3皿程おかわりしたキャロライン曰くムキムキ達は、現在、荷物運びの真っ最中であった。


ちなみにラジーはあの後すぐに来たレイニオと念願の屋敷の中の探索へと向かった。

(レイニオはワイン煮込みを食べた後「何であんな凶悪な顔のヤツがこんなに……」と唸っていた)


「クローゼットってさ、中身入ってないと軽いよなー」


軽々と担いでいるガライがそんな事を言っている横でキャロラインが「有り得ません」と顔をしかめている。


そんなキャロラインは自身の本を腕いっぱいに抱えている。きっと彼女は明日、腕の筋肉痛に悩まされる事だろう。


ジャガルドは先程机を軽々と抱えて階段を登っていった。


こういう時、体力系男子は重宝されるのは自明の理である。

そして本当は片手に1つずつ家具を持って運ぶ、と男2人は言ったのだが、「家具が痛む」と言われ渋々1つずつ運ぶ事になったというのもお約束である。

仕方がないので筋力アップを意識して、やけに筋肉を隆起させていたりするのもまたお約束である。




 その手の荷物を下ろし玄関ホールに戻ってきた所で、外で倉庫に保管されていた家具の修理をしていたビフレットが彼らを呼び止めた。


「若様、キャロライン嬢、管理人の方がお見えです」

「入ってもらってくれ。キャロ、みんなに召集を」

「わかりました」


『皆様、管理人の方に挨拶するので玄関ホールへ集まって下さい』


ガライの言葉に美中年は承諾の旨を返し、キャロラインは魔法を使って他の仲間達に呼び掛ける。


彼女の魔法は風の力を借りて声を届けるものだ。

今頃、屋敷内にいる他の者達にも伝言が伝わっている事だろう。



熊肉って、インターネットで売っているのね……。


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