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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
冒険者講習編:脳筋も一種の筋肉だろ?
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パンケーキにくるまれて

薬草採取の講義がようやく終了です。


PVが21000、ユニークが5900超えました。

お越し頂き有り難う御座います。

チヤがパンケーキを10枚重ねにしてホイップクリームましましにしてくれそうです。



「で、この森自体の事は黙っていてくれるって事でいいんだよな?」


時間にして、約10分。

ようやく外見詐欺の2人が復帰した。


「はい、この森が特殊なのか、魔素のある場所でも育つのか、まだ未知数ですからね」


あれは何だったんだろうか、と内心首を傾げながらローレンは頷く。そして食べかけのパンケーキを口に運んだ。


失礼かもしれないが、冷めたら美味しさが損なわれるだろうし、何だか無性に甘いものが食べたくなった。

ちゃんと断りは入れてある。


「まあ、普段は魔物も結構出るし、目先の利益に飛び付く馬鹿が()かなくていいんじゃない」


今度は傍で聞く事にした様子のレイニオが、主の斜め後ろから毒を吐く。


「鍛練も出来て一石二鳥だと思うんだけどなー」

ガライが呑気に執事見習いに返す。


「そんな考えの方は、余りいらっしゃらないと思います」


美中年が復活した笑みを苦笑に変えている。


「ともかく、ビフレットさんが記してくれたこの資料を持ち帰って、ギルドで検証ですね」


ギルド講師が咀嚼の合間を縫ってそう言うと、新人冒険者も頷いた。


「そうだな。これが本当なら、大変な発見になるわけだし」


なんたって、万能薬草が養殖出来るようになるかもしれないのだ。そうなれば、現在高価なこの薬も、安価で手に入るようになるかもしれない。


「……対策されちゃうだろうけど」

ボソリと呟かれた言葉は、ただ1人にしか届かなかった。


「だから、俺たちの事も黙っていてほしいんだ。この環境を気に入っているしさ」


聞こえたと思わせない様子で、ガライは言葉を続ける。

それは先程呆けていた時に言った事の念押しである。発見者が自分たちである事は勿論、身分の事も暗に含まれている。


その事に気付かないローレンは気軽な感じで了承する。


「本人が嫌がっているのに、名前を出したりしませんよ。ちょっと勿体ないかなって思いますけど」


「この人が研究職してたら、違和感しかない気がする」


レイニオが想像したのか、奇妙なものを見たような顔をしている。

当のビフレットも研究している自分を想像したらしく「うーん……」と首を捻っている。しっくりこなかったらしい。


「い、いえ、大丈夫です! ビフレットさんは何でも似合うと思いますっ!」


フォローのつもりなのか、見た目少年が慌てて言う。

それは着こなしか何かの話であろうか。服屋の店員のような台詞をトーン高く口に出している。


「有り難う御座います。でも、今は研究よりも農業がしたいですね」

見た目王子様がその言葉に苦笑をする。


折角、念願の自分の畑を自分で世話出来る環境になったのだから、それを手放したくはない。


その言葉を聞いたローレンは、激しく違和感を感じた。


キラキラの王子様10年後が鍬を肩に担ぎ、一面に広がる畑の真ん中に仁王立ち……を思わず脳内に描いてしまった。


が、無理矢理納得させる。


「そうだな。ビフレットなら研究職も出来るだろうが、今は折角ここに住み始めたし、畑も始めたところだし、手一杯」

「はい。1つずつやっていかないと」


ガライの台詞に少しはにかみながら、ビフレットは同意した。


「それでですね、あの……」


ローレンがモジモジと声を上げた。

何だ?とばかりにガライが顔を向ける。


「おかわり、頂けますか?」


いつの間にか、パンケーキが無くなっていた。

みんなの視線が空の皿に注がれているのを感じて、恥ずかしそうに身を縮こませる。


「ローレンって、結構食べる方?」


ガライがおかしそうに尋ねた。恥ずかしがる必要はないとばかりに。


「よく『そんだけ食べて、何で大きくならないんだ』と言われます」


自分でその言葉を言って落ち込む、見た目少年。

そう言われましても、というやつだ。


「甘いものは?」

「別腹です!」


「よし、判った。レイニオ、チヤに2枚追加って」


「さっきの言葉で何が判ったの、アニキ。まあ、言ってくるけど」

主の要求に呆れた顔をしつつ、了承を返す執事見習い。


「余り食べるとディナーが入らなくなりますよ」


自称執事が母親のような事を言っているのを背で聞きながら、レイニオは部屋を出ていった。


「大丈夫です。ふわふわなのでカウントされませんから」

「男前だなぁ。ローレンだったら、この前の5種類のパンも10ずついけそうだ」

「ああ、あれは美味しかったですね。いくらでもいけそうでした」

「何それ、美味しそう」


そんな言葉が交わされたのも知らずに。







 チヤが用意した惣菜を、彼はニコニコと笑顔で受け取った。

随分と彼女の料理が気に入ったようである。




 あの後、すぐに追加のパンケーキと共にチヤが応接室にやってきた。


そして、ガライの前には豆乳が置かれる。

そわそわしているローレンを見て、パンケーキとは別にエプロンのポケットから包装されたクッキーが出された。


「あんた、燃費が悪そうだからオマケだよ」

チヤは彼の見た目には触れずにそう添えて。


「有り難う御座います! パンケーキ、とても美味しいです!」


先程切り分けた時に跳んだのだろうヤマモーの汁を頬に付け、邪気の無い顔で笑うローレン。


それがチヤの何かのスイッチをぶち抜いたらしい。


「そうかい、本当はクリームを添えたのを食べさせてやりたいところだけど、今日は焼く枚数が多かったからね。用意してないんだよ。その分、お土産を楽しみにしてな」


「それも美味しそうです……! 何か頂けるのですか!? うわぁ、どうしよう!」


彼女の中で、見た目少年がここに泊まらない事は確定しているようだ。

頬を赤くする彼の振り切り具合を見て、直ぐ様、自分の城に帰って行った。


「チヤって、何しに来たんだっけ?」

「消費者の感想が聞きたかったんじゃない?」


豆乳に口を付けたガライと上司のお茶を入れ直したレイニオは、不思議そうに顔を見合わせた。


気分はお腹を減らした小リスに餌付けである。

ガライたちに料理を褒められるのとは別の情熱が、彼女を厨房へ駆り立てた。


まあ、今回のギルド講師の派遣においての条件に、報酬の他、食事も付けているため、全く的外れな行動ではなかったのだが。


「何だか、凄い量出来そうな気がしますね」

ビフレットの呟きに彼らは大きく頷いた。




 そして現在、話し合いも終わり、玄関先に立った彼らの元に、チヤが抱える程の袋を持ってきていた。


「日持ちするヤツを多めに入れといたよ」


そう言って、見た目自分の義理の息子くらいの男に、その頭よりも大きな袋を渡す料理人。


最初にも記したが、彼自身の荷物は彼の身長の半分くらいのリュックに中身がパンパンに入っているのである。

それを背負い、前には料理の入った大きな袋。そして幸せそうに微笑む見た目少年。


……何故か、旅行を楽しみにしている子供が、ぎゅうぎゅうの乗り合い馬車に乗っている場面を彷彿とさせた。

そんな場面に行き当たった事はないが。


「有り難う御座います! 今夜早速食べてみます」


このプレートの町に宿はある事にはあるが、宿というより下宿であり、現在はこの間の事件の被害者が一時の仮宿にしているため、空きはない。


だから、ローレンは今から隣の町(というよりはやっぱり村なのだが)に宿を求めに行くらしい。


ちなみにガライが「泊まってけば?」と言ったが、落ち着かないと丁重に辞退された。

冒険者にはこの屋敷は不人気である。


「チヤさんのお店があったら、薬草の事もあるし、通ってしまうかもしれないですね」


そのローレンの言葉に、ビフレットがニコリと微笑む。


「おや、勘がいいですね。もうすぐチヤさんは町中で料理屋を始める予定なのですよ」


その時、ギルド講師の背後に稲妻が走った!

……ような気がした。


「いい場所あったんだって?」

「らしいよ。人も増えてるし、この間の鳥肉パーティーで需要もあるって判ったしね」


ガライとチヤが食堂の復活に意欲を見せている。元常連客としては気になるところなのだろう。


あ、プルプルしてる、とレイニオがローレンを眺めている。


「今回は飲食スペースは少なめで惣菜を売る事になるだろうね」

「ラジーも遊びたいだろうしなぁ」


王都の食堂では、彼女の子供も重要な働き手だったので、今回はその負担を減らす予定のようだ。


あ、そろそろ来るな、とレイニオが己の耳に手を当てた。



「……絶対、また来ますっ!」



手に持つ袋を抱きしめ、見た目少年は声を上げた。目がエメラブリより輝いている。


彼にとって、稀少な薬草が採れる上、美味しいものも食べられるとなれば、多少遠かろうと人外魔境と呼ばれていようと、この町に来る価値が物凄く高くなった。


「私もまた薬草の話が聞きたいですから、また来て下さいね」


ようやく普通に話せるようになってきた美中年が言うと、ガライが意味深に笑う。


「遠慮せずに来たらいいからな。いろいろ知っちゃっても」


レイニオが視線を逸らしている。

彼は多分、自分たちの身分を知れば『振り出しに戻る』を地で行くのではないか、と思っているはずだ。

そしてそれは当たっている。


「それじゃ、また。楽しみにしています」


そう言って、ギルド講師は帰路に着いた。



しばらくみんなでその背を見送っていたが、ガライが「さて」と声を出すと、見送りモードが解除された。


「俺はちょっと鍛練してこようかな。夕食まで時間あるだろ?」

「あるけど、あんまり遠くに行かないでおくれよ」


ガライの予定にチヤが肩を回す。

食堂もいいが、まずは仲間たちの胃袋を満たす方(ゆうしょく)が先決だ。


「ラジーを探しに行ってくるよ。後で手伝うから」

「私はマールドゴーラを畑に植えてきます」


そして、それぞれ自分の用事のために屋敷の各所に散っていった。

夕日に照らされて白い壁がパンケーキ色に見える屋敷だけがそれを見送っていた。





「そういえば、ガラムさんの本当の名前って、ガライさんって言うんだよね。

目も金色で、髪の毛も赤くて目立っていたなぁ。……。

ん、あれ? 目が金色っておかしくない?

確か、この国の王族って……。


え、いやいや、まさかぁ……」



ふむ、気付かれたようですな。

ん?拙者でござるか?

拙者はただのお見送り係でござる。

町の門までご案内致しますぞ。

それにしても、ローレン殿はもっと早く気付くと思っていたでござる。はっはっはっ。

まあ、ここは王宮ではござらん。不敬は気にしておられんよ。

それにしても、葉霧の森は素材の宝庫でござるなぁ。

薬草といい、魔物といい。

魔素とは奥が深いものでござる。

何かカラクリでもあるやもしれぬなぁ。


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