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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
冒険者講習編:脳筋も一種の筋肉だろ?
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魚の小骨がガッツリ刺さっている

契約についての確認。

……のはずが、あれ?

中途半端だし、やたら長くなったし、内容がずれているような?


R5.2.8 あまりにも自称ただの執事がシリアスぶっていたので、耐えきれず大分加筆しました。



 今日のおやつはパンケーキだった。

薄いがふわふわの生地に、ウサミミフードが取ってきたであろうヤマモー(赤い実で甘酸っぱい)が入っている。熱で皮が破れ赤い実から果汁が飛び出ているが、それがまたソースになり飽きさせない。


くるくると巻いたそれをラップリーフ(薄く大きな葉)でくるみ、庭で町の子供たちと一緒に食べていたところ、ようやく彼らは帰ってきた。


「おかえり。話出来たか?」


5個目を食べ終えた筋肉ムキムキが、ラップリーフを丸めながら聞いた。


ちなみに6個目はストップがかかっている。ジャガルド共々不平の声を漏らした。


「若様、申し訳ありませんでした。自分の事でつい夢中になって、お側を離れる真似を……」


「こっちから離れたんだけどねー」

傍で食べていたルミがボソッと呟く。それに横にいたラジーが首を傾げた。


「大丈夫だ。こっちはみんなでおやつ食べていただけだからな」


「な?」と周りにいる子供たちに話を振ると、「そうだよー」「おいしいよ」「ソイツ、だれ?」と一斉に返ってくる。


一部、ローレンに熱視線を送っているのがいるが、新たな遊び相手として狙われているのだろう。どう見ても町の子供の年長と同じくらいに見えるので、仕方ない。


「この人は冒険者で、俺の先生! また明日ジャイアントスイングしてやるから絡まないように!」


ガライの言葉に「アニキの先生なんだ!」「新しい子かと思ったのに」「はーい」とまた一斉にバラバラの返事をする子供たち。

纏まっているようで全然纏まっていない。


そんな中、ラジーがローレンを見上げる。

「これ、ラジーが取ってきたの」


パンケーキの中に入っている赤い実の事だろう。

森からの帰りにルドおにいちゃんから「草とか木の実とか取る名人だ」と説明を受けたので、どうかな、と思ったらしい。


簡単な言葉での説明とは言え、草とは如何なものか。


「あ、はい。ちゃんと熟したのが採れていますね。すごいです」


そう評価をもらうと、パァと顔を明るくした。お尻の部分がもにょもにょ動いているのを見ると、凄く喜んでいるらしい。


「それで、ローレンもおやつ食べる?」


チヤからは「お客さんに腹を空かされちゃあ料理人の名折れってやつだよ!」と言われている。だから、来客者であるギルド講師にもガライはちゃんと聞いてみた。


その問いに彼のお腹が思い出したかのようにキューと鳴る。

結構な時間、野外にいたものだから、エネルギー消費もしている。


「ええっと、もらえるのなら……」


何故か「腹の音も見掛け通りでよかった」という安心感をもたらしたその音に、ビフレットは微笑んだ。


「では、貰ってきますので、部屋でお待ち下さい」


そう言い、軽く一礼をして厨房の方へ行きかけるのをレイニオが止める。


「僕が行ってくる。ビフレットさんがいないと話にならないでしょ」


そう言って、視線で手に持ったままの資料を指す。


「そうだな。ついでに飲み物も頼む。流石に5枚は水分取られて……」


ガライが同意しながら空笑いでオーダーの追加をする。それに呆れた顔を寄越すレイニオ。


「アニキは食べ過ぎ」

「腹一杯には食べてないぞ」


そもそも容量から違うようだ。

やれやれと肩を竦めながら、黒髪の少年は義母親の待つ厨房へと歩いていった。


「ルミはどうする? 薬草採取の講義は終わったようなものだけど」


赤銅色の髪の男は立ち上がりながら、己の尻を払う。ローレンに顔を向けると、彼も頷く。


「はい。初回講習で教えるような事は、一通り終わりましたから」


「んー、じゃあ、みんなと遊ぼうかな」


もうみんなと一緒におやつを食べた段階で、ルミの今日の学習意欲は終了していたようだ。


「荷物はどうしますか?」


その答えを聞きながら、ビフレットが応接室に置いてきた荷物を思い出す。


ルミが今持っている袋には、リリ草、その花、ラジーも採ったと思われるヤマモーの実、マールドゴーラの花が入っている。

彼女もマールドゴーラの採取はしたが「処理に困る」という事で、ガライの採取袋に入れられている。

だって、可愛くないもん。


まあ、ガライに渡しておけばこの屋敷の料理人に渡り、いずれはレスさん宅に還元させるだろうが。

少女にそこまでの打算はない。


そして、置いてある荷物は、淑女教育のための筆記用具とペリュトン製の大きな孔雀の羽根である。


目玉模様のある羽根をびよんびよんしながら味気ない大きめの採取袋を持って帰る少女。

想像するだけで、訳が判らない。


「羽根は明日持って帰るから、置いておいて」


流石にそれだけの荷物を持って帰ろうとは思わなかったようだ。

それに「判りました」とホッとした声で答える。そんな光景にならなくて何より。


「羽根って何だよ?」


近くでパンケーキを食べ終えた雑貨屋の息子ランツが、羽根なんて軽いもんだろ、とばかりに言ってくる。


「この前の魔物の羽根! 大きくて目が痛くなりそうでグネグネですごいんだから!」


それじゃあよく判らないと思うのだが。

答えるルミのそんな声とランツ他「えぇー?」という困惑の声を聞きながら、大人3人は屋敷へと入っていった。






 「さて、どうするか教えてくれるか?」


 席に着いたタイミングで、執事見習いがお茶と焼きたてのパンケーキを配膳し、出掛ける前と同じように壁際に立った。

違うのは、話し合いのためにビフレットがガライの横に座ったという事だけだ。

その横には目玉模様の大きな羽根が鎮座しているが。


ビフレットも何故かローレンも緊張している。そこにガライが話を促すように話し掛けた。


「まず、今日採取した素材ですが、ローレンさんが相場で買い取りして下さるそうです」


主の横に座るなど畏れ多い、と思っている美中年は体をモゾモゾとさせながら、ギルド講師と決めていた素材の行き先について話す。


「マールドゴーラはこちらで使うかもしれないという事で、主にリリ草になりますね。リリ草はギルドの常設依頼ですので、値段の変動はあまり無いんです」


こっちはこっちでこの部屋に慣れる事は無いし、ほぼ正面に美中年の顔があると変な汗が出る。

声が少し高くなっている事を自覚して、余計に心中を乱している悪循環。大人の矜持なのか、態度に出さないでおこうとプルプルしている。

対面の2人も大人の対応をしているが。


今、ローレンが言った常設依頼とは、普通の薬にも使われ、複合傷薬の材料にもなるリリ草は常に在庫が必要なものなので、どこの支部でも常に依頼が出されている代物らしい。


安価だが割と安易に採取できるが故、駆け出しの冒険者のちょっとした資金源になっている、という話だ。


「反面、花の方は流行り病の発生や時期に左右されます。値段も採取の難易度から、少し高価になりますね」


「保存は出来るはずだよな?」

先程、野外で聞いた話を思い出す。


「それでも必要な時は足りなくなるものなんです。タイミングよく咲いている訳でもないし、採る人も少ないですし……」


自分で言っておきながらダメージを受けている見た目少年。それを見ながら、ガライは「なるほどなぁ」と相槌を打った。


「じゃあ、この町の産業にしちゃえば、そこそこ売れる?」

「畑で育てられるのかという問題と、花が定期的に咲くのかという問題がありますが」


前王弟の思い付きに、ビフレットが直ぐ様問題点を上げる。


「でもそれが出来れば保存も出来ますし、運搬も重さが軽い分、リューシよりは簡単に出来るでしょうね」


「うーん、やっぱり要検証ってところだなぁ」


「あと、値段がどれくらい付くかにもよりますね。今のところ、毎年のように流行り病の薬不足の話は各地で聞かれるので、今よりも安価でも利益は見込めるんじゃないかと」


「うわぁ、キャロが喜ぶ案件だ。芋は他の地域でも採れているから、こっちの方が希少性が出るだろうし」


「キャロライン嬢を呼びますか?」

「いいや、今呼ぶとカオスになりそう」


そう言って、ガライはローレンに目を向ける。目の前のやりとりにポカーンとしていたギルド講師は、筋肉ムキムキにニッコリと微笑まれた。


「って事で、どれくらいになりそう?」


物凄く遠回りしているし、何だか聞いてはいけないような話が間に入ったような気がするが、聞かれたのなら答えるのが講師の勤めだろう。


「同じ重さなら、お芋よりも高いです!」


明らかに話に引っ張られた回答であった。


「ま、芋みたいには採れないだろうけどな」

「リューシは1個が結構大きいですからね」


そうかそうかと普通にウンウン頷く対面の2人。

壁際のレイニオが密かに「そうじゃないだろう」という顔をしている。現に『お芋発言』をしたローレンが羞恥に頭を抱えているのが目に入る。



「次に、エメラブリの事ですが」


そんなローレンの様子を知りつつも、ビフレットが次の話に移る。


「私たちの名前を出さずにギルドに報告してもらいます。まあ、然るところには事前に連絡、ですけれども」


つまり、ローレンにはこの発見を「有志が見つけた」とギルドに報告してもらい、その後栽培可能か検証してもらう。ただし、然るところ=国王陛下には連絡入れておきますよ、という事である。


「やっぱり言っておかないと駄目かぁ」


自称執事の言葉にガライが溜め息をつく。

あんまり仕事を増やすのもな、と思って。


「後であの方が胃痛で倒れてもいいのなら」

「うん、報告大事だな」


微笑みながら美中年に言われると、流石に実現させるつもりはないガライはすぐにその意見を肯定した。

甥に倒れられては困る。


事情は判らないが、何やら組織の構成員みたいだな、とギルド講師は思いながらも美中年に顔を向けた。

だとしたら、この男たちは幹部か何かだろうか。そう思いながら、問いかける。


「でも、本当にいいのですか? 発見者だと名乗り出なくて。そうなれば、引く手あまたでしょうに」


この報告を聞けば、ローレンが想像出来るだけで、ギルドの研究機関、薬士協会、凄いところだと国の研究所から声がかかるかもしれない。その機会を不意にするとは、どういう事なのだろう。

やっぱりどこかの組織の構成員なのかな?


それを聞いて、美中年はふっと微笑みを消した。

急な変化にローレンだけでなく、隣の筋肉ムキムキも慌てる。



「私の引く手など、1つでいいのです」



憂いに染まった声に、ギルド講師はビクリと肩を震わせた。

何か急に色気が半端ない。


「こら、ビフレット」


横でその言葉を聞いたガライは1つ息を吐きながら、美中年の頬を指でグリッと押した。


真正面からその顔を見ていたローレンは美中年の変顔への変形をまともに見る羽目に。

感想は「顔を多少潰されても美人は美人」だった事を記しておこう。


「わ、わかしゃま……」


頬を押されたままのビフレットが目線を隣へと移す。


「選択肢があるのはいい事ではないか」


その目をじっと見て、ガライがゆっくりと言い聞かせる。


言葉が重さを持つ。


雑音が聞こえなくなる。



「ただ、道が沢山あろうと、お前が私を選べばいいだけの事だ」



頬から指が外される。

のろのろとそこに己の手を当てるビフレット。


ガライの顔はすぐにテーブルの対面に向けられる。


「って事で、俺たちシャイだからあんまり世に出たくないの。

俺的にはビフレットがいなくなるといろいろ困るし、急にこの町に人が沢山来られても混乱しちゃうし、言わないで欲しいかな。シャイだから」


大事な事だから、シャイを2回言いました。


しかし、圧力にも似た気配に完全に気圧されて見ている事しか出来なかったローレンは、筋肉ムキムキの言葉にカクンと首を振ったのみ。半分意識が飛んでいる。


2人の状態を見て取ったレイニオが壁際から歩いてきた。


「アニキ、こんなのじゃ話し合いにならないよ」


その言葉に、はぁ、と力を抜くように息を吐く。そして、金色の目を片手で覆う。


「ビフレットのアレは強力だからなぁ。印象の上書きが必要だったわけ。折角、仲良くなってきたみたいだから」


そう言って手を退け、目の前のアイスブルーの頭を見やる。

見た目王子様にようやく慣れてどもったりしなくなったのに、フェロモンにやられるのは、どちらにとっても可哀想すぎる。


それを危惧する程には今まで事件がありすぎた。よく巻き込まれたし。


「まあ、さっきのでいろいろバレたとしても、ギルドの依頼の条件なんだから軽々しく話すわけにはいかないだろう」

「あー、ルールは遵守しそうだよね、この人」


ガライとレイニオの会話をどこか遠くで聞きながら、ローレンは「アレ」とか「バレる」とか一体何の事だろうか、とぼんやりと思った。


何かが脳裏を掠めた気がするが、今は何も考えられなかった。


何故、こうなったし。

契約内容確認だけじゃなかったんかーい。


レイニオ、ツッコミご苦労様です!とか、誰か笑いを入れろ!とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。

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