貴婦人と躍り狂うおやつ時
とうとう(ローレンにとって)最大の爆弾が投下されます。
PV19000、ユニークが5500を超えました。
有り難う御座います。
知らない間に帰っていったキングから、知らない間においしい草(彼なりの手土産)がもらえるかもしれません。
「1本、畑に植えてみようと思うんです」
マールドゴーラの採取を終えての帰り道、美中年が楽しそうに伝えてきた。胸には先程取ってきたばかりのマールドゴーラの入った袋が抱き抱えられている。
「どうやら、再生はしますが繁殖はあまりしないみたいなので」
「念のため、別に植えた方がいいぞー。どうなるか判らないからな」
いろいろあって疲れてしまった少女から「セキニン取りなさいよ」と言われて、協議の結果、おんぶに落ち着いたムキムキが彼女を背負いながら返す。
ちなみに背中も盛り上がったりカチカチだったりしているので、ルミはちょっと後悔している。
ガライの言葉に「そりゃそうだ」と頷いているギルド講師。ここまでくれば、この森の魔素の濃さによる異常な植生を認めざるを得ないようだ。
「判っています。大きめの鉢にでも入れますよ」
魔法で鉢を作れる男。形も思いのままである。
「その鉢をぶち破って出てくるんじゃないだろうか」と聞いていたレイニオは思ったが、口に出す事はなかった。
本当になりそうだし。
「それから、ローレンさん。湖に着いたら見て欲しいものがあるのですが」
ビフレットが大分視界の下の方にあるアイスブルーの頭を見ながら、その言葉を口にした。
それに「お?」と主が声を上げる。
「とうとう秘密を公開しちゃうのか」
「はい、しちゃいます」
笑い合う主従にローレンはまた固まった。
今でもお腹いっぱい秘密があったっていうのに、また何か喜んでいいのか畏れればいいのか判らない事だ、きっと!
その心中察してレイニオが心の中で十字を切る。
まあ、がんばれ、と他人事なので気のない声援をとりあえずローレンに向けて念じておいた。
ビフレットが腰に巻いていたポシェットから紙束を取り出したのは、リリ草の生える広場に戻ってきてからだった。
「このまま湖まで行きましょう」
意見を聞くために最初から用意していたものだ。それを出さないという選択肢もあったが、まあ、ある意味口は固そうだ、と彼は判断している。
今だって、まだビクついているところがあるので、初見の人物に簡単に話する事も無いだろう。
もし何かあったとしても、主の身分を知っているターリックの町のギルドマスターなら、バレても何とかしてくれるだろうが。この薬草採取の講師の推薦者でもあるし。
「その紙は?」
その肝心のローレンが尋ねると、美中年は目的のページまで捲りながら答えた。
「この辺りの植生を私なりに纏めたものです」
その言葉にレイニオが「あー……」と遠い目をする。
あの、特徴がすぎる絵のヤツね、と。
地図は普通に書けているので、自己満足のラクガキかと言われれば、そうではないのだが。
ガライもターリックの町から帰った日の内に報告されている。
『何処に何があるか判りやすいし、特徴がすごく捉えられているな』という見た目そのままな感想を言っていた。
「結構詳しく調べたんですね」
ローレンが紙束の厚みに感心したように言葉を溢す。
「専門的な知識は無いので、どこまで有用なのか判りませんが、一通り」
美中年が恥ずかしそうに謙遜している。その様子は、ここに成人女性がいたら襲われているだろう、結構な確率で。
幸いにも女性は少女だけ、しかもガライの背中にいるので、問題にはならなかった。
乙女の涙は今日も、少し波立っているが穏やかに空の青と森の緑をその身に映していた。
そんな風景がやけに似合う、見た目王子様がすぐ側の斜面を指し示す。
「こちらを見て欲しいのです」
そこには一見薄紫色の可憐な花しか咲いていないように見える。
「これはベルアンナですね。毒があり、食すると吐き気、手足の痺れ、酷いと全身麻痺や呼吸困難を起こすので、採取は慎重にしなければ駄目ですよ。ここまでの群生は珍しいですけど、たまに見掛けますね」
ローレンは薬草採取の講師らしく容易にその植物の名前を言い当て、更に解説を加える。
それに「おぉー」と感嘆の声を出すガライ。ローレンの答えに1つ頷いて、ビフレットは更に続ける。
「そうですよね。これは私も調べたのでこの草に関しては確認だったのですが、更にその横を見て下さい」
見た目少年の視線がそのまま横にずれていく。
薄紫色の花を通り過ぎ、キラリと光る緑色を越え、また薄紫色の花に辿り着く。
「ホント、いつ見ても不思議だなぁ」
視線がさ迷っているローレンを眺めながらガライが言うと、レイニオが「見つけやすくていいじゃない」と興味無さそうに返している。
まさかと思い無視していたありえないものに視線を戻すと、そこには緑色の輝き。昼間の陽光に照らされて鉱物のような反射を見せる植物がそこにあった。
もう一回、ベルアンナに目を向ける。
今日も優しい色合いの花である。
緑色に目を向ける。
それは葉っぱのような形をしているような気がする。
うん?とまた全体的に斜面を見る。
毒があるとは思えない可愛らしい花が、穏やかに吹く風に揺れている。
そして、その横の緑色の葉っぱらしきものをまじまじと見る。
植物にあるまじき結晶化した茎と葉、まだ柔らかそうな芽。
それは記憶に埋もれていたそれを掘り起こした。
「ぇ?えぇえ!?」
まさかの三度見を披露しつつ、困惑した声を出すローレン。
流石に信じられないのか、叫ぶまではいかないようだ。
「フフフ、天下のエメラブリですよ!」
エメラブリはいつの間にか天下を取っていた。
ギルド講師の困惑を他所に、自称執事がその正体を明かす。
それを最早聞いていないかのように輝石の葉をがぶり寄りで観察するローレン。
薬草の貴婦人が本当に貴婦人だったら、赤面を通り越して命の危険を感じて顔面蒼白になっているのでは無いだろうか。
ガライたちは年長2人の後ろでヒソヒソ言い合っている。
一通り観察しただろうタイミングでビフレットは再びローレンに話しかけた。
「しかも、見ての通り半分結晶化しているのです!」
後ろの3人はその凄さがよく判らない。
何であんな固そうなものが薬になるんだろうなーと意見を出し合っている。
実は体の中に貼り付いてるんじゃないか、それって体の中で宝石できちゃうじゃない、そうなったら薬草じゃないねソレとか、いろいろ。
「だから私は仮説を立てました。こちらをご覧下さい」
エメラブリをガン見している見た目少年に紙の束の開いたページをずずいっと差し出す……というより突き刺す。
いい歳こいたオッサンたちがテンション高過ぎます。
その光景に3人は、うわぁと引いた。普段の美中年ならこんな強引な行動に出ないし、ギルド講師も生徒をほったらかしたりしないだろう。
「魔性の女だなー」と筋肉ムキムキは呑気に思った。
ビフレットが差し出した紙束に肩を突かれ、ようやく正気に戻ったローレン。そのページに目を落とし、そして見開く。
念のため言っておくが、そのページには著者の特徴を捉えた絵は描かれていない。
「確かにそうかもしれません!これは1度検証してみなくては!!」
……彼は薬草採取の講師だったはずなのだが、いつの間に研究者になったのだろうか。
紙束を持ったままアワアワしている。
「アニキ、アレ、何が書いてあるの?」
ここに着いた段階でガライの背中から降りていたルミが至極当然の問いをする。その時、ちょっと解放感があったのは内緒だ。
「あれはなー、簡単にいうと、エメラブリが結晶化するのは毒草の毒から自らを守るためにしているんじゃないかっていうビフレットの考え、だな」
広大な敷地(森含む)はエメラブリの比較にはもってこいだった。
ビフレットは暇を見つけては、ベルアンナとエメラブリの分布や状態を調べて、書き綴ったのがあの紙束である。
内容はガライ、キャロライン、チヤも確認している。
「前から専門家に見てもらいたいって言っていたから、ローレンが来てからやたら浮き足立ってただろ?」
浮き足立つというか、やたらキラッキラのスマイルを振り撒いていた気がする。あれは美中年なりに、はしゃいでいたからなのらしい。ルミは納得した。
そのまま他のページ(イラスト含む)をビフレットの解説を受けながら、時には質問を挟み、ローレンが読んでいく。
その様子を見ながら、ガライはふと思った。
あれ? これって俺たち、いなくてもよくない?
斜め後ろにいた黒髪の少年に振り返る。
彼も丁度そう思っていたのか、力強く頷く。
ルミは斜面に生えているベルアンナを見ている。つまり飽きていた。
「おーい、ビフレット、ローレン。俺たち、家に帰っててもいいかー?」
別の世界に行っちゃっている2人に一応声をかける。
「はい、いいですよ」とビフレットから。
「もうちょっとぉ」とローレンから。
自称執事はしっかりと返事はしたが意識がこちらに全然向いていないし、見た目少年からは寝坊をしそうな子供のような間延びした言葉が返ってきた。
ダメだこりゃ、と3人は顔を見合わせ苦笑。
魔物が出てくるとかは頭の中から追い出されてしまっている様子。
「さー、今日のおやつはなんだろうなー」
自称執事のお言葉に甘えて足を屋敷に向ける。
何かあったら、すぐ駆け付ける所存で。
「ラジーが何か取っていたから、それを使った何かじゃない?」
おやつをよく一緒にもらっているルミも、その横に小走りに付いていく。
オトナの話、よくわかんない。
「……警戒だけは怠らないでよ、ホント」
聞いていないだろうが、義務として声をかけておくレイニオ。
まあ、ギルド講師はちょっとは戦えそうなので、人里近いこの場所ならば大丈夫だろうとの見立て。
これで責任は果たした。
ともかく、2人の距離が縮まったようでヨカッタヨカッタ。
そう銘々に考えながら、町の子供たちの声が聞こえる庭方面へと足を運んだ。
まだローレンのターンは終わっていません!
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