登録すらまともに出来ない
ギルドの応接室での密約です。
構図的に「お主も悪よのぅ」に見えなくもない。
PV5000超え、ユニーク1500超えしました!有り難う御座います。
ガライが驚きの余り執務机を空手チョップで叩き割りそうです!!
用意されたのは商談や来客に使われている応接室のようだった。
豪華、とまではいかないが、それでも魔道具の照明が設置され、クッションの効いた長椅子や床に敷かれた絨毯、ピカピカに磨かれたテーブルは明らかに高級品。
品良く調えられた部屋は、冒険者登録に来た新人が通される部屋ではないだろう、と思わずツッコミを入れたくなった。
ともかく、ギルド長である老人から席を勧められたガライは戸惑いもなく長椅子に腰掛けた。
ジャガルドは座らず、その斜め後ろに控える。
「お前も座ればいいじゃん」
「そんな事したら、親父に怒られるっつーの」
隣の席をポンポンと叩いた前王弟に、護衛である幼馴染みは反論した。
親父とは、王都の騎兵団団長の事であろうか。ギルド長は遠い目をする。有名な話だ。
そこに先程の窓口にいた細面の職員が書類と何かの魔道具の載ったトレイを持って入室してきた。
それがテーブルに置かれたのを契機にギルド長が口を開く。
「無作法はお許し願いたい。私はこのターリック冒険者ギルドのギルド長をしておりますザフランと申します」
「さっきも言ったが俺は今、職務怠慢中でな。作法は気にするな。名は敢えて名乗らん。その方がいいだろう」
机に頭を打ち付けそうな程、頭を下げたギルド長はガライの許可を得て、ようやく向かいの席に座った。
それをおかしなものを見る目で見ていたギルド職員は、習慣のようにその後ろに立った。
「お気遣い有り難う御座います。何があったかは聞かない方がいいのですね」
「言い逃れ出来なくなる」
「……判りました。肝に銘じます」
それだけ確認すると、ギルド長は机の上に置かれたトレイから書類を取り出した。先程、窓口で出された登録用紙であるようだ。
「さて、冒険者ギルドとしては、冒険者登録に貴賤は問わないという事になっておる。身分を持ち出す事も許さんがの」
その紙を差し出しながら、説明を始めた。
「それはギルド自体が各国から独立を認められており、場合によっては国に対して監査や強硬姿勢を取る事も出来るためじゃ」
「その辺りは聞いた事があるな。『有事の際は協力を求める事もあるため、冒険者ギルドを抑圧してはならない』だっけ。
その時に騎士団と冒険者の役目が重複して命令系統が混乱する可能性があるからって、現役の騎士は登録出来ないってさ」
堅苦しい態度を早々に止めたのか、2人は普通とは言いがたいけれども、大分緩和された空気をもって話し始めた。
「で、さっきもその書類見たが、俺の情報をあんまり書くとマズそうなんだけど。そこの所どうするんだ?」
「多少の嘘には目を瞑るしかありませんな」
その言葉に後ろに立つギルド職員がギョッとする。ギルド長が、自由だからこそ不正の許されない書類の不正を奨励するとは。
「何しろ見る人が見たら姿だけでバレますからなぁ」
「だよなー、知ってた」
2人して笑うが、後ろに立っている2人は、片や呆れたように片や信じられないものを見るかのように、お互いの前の人物を見た。
「そういう訳でサクッと書いて下され」
「名前、どうするかなぁ」
そう言いながらも、先程から考えていたのだろう。
数秒後、それを口にした。
「ガラム=マサラーイ=ウントカラカッタ5世で」
「なげぇ」
即座にジャガルドが返す。
「何で5世なんだよ?」
「歴史書か何かで4世まで見た気がするから」
まさかの実在の人物だった。
「そんな名前をよく覚えてられるな……」
「何か長いんだもん」
そんな理由で覚えるな、とジャガルドは思ったが、まあ、幼馴染み殿はこんなヤツだと考え直す。
「せめて名前だけにしとけ」
「そうしとく」
あっさり名前だけを記入。名前も一文字違いなだけである。
ふんふんと用紙を書き進めていく。
「種族ってさぁ、多分マルゴール族みたいなのを書くんだよな」
「種族の習慣とかしきたりとかありますから、登録する時に把握しておくのです」
ふと用紙の項目に対して疑問を口にすると、今まで黙っていた細面の職員が慣れたように答えた。
流石、窓口担当。
「俺のところの一族も独特だけどなぁ」
「ある意味希少部族だよな」
「そんな事言ったら絶滅寸前って事になっちゃうじゃん」
「だから保護(近衛とかに守護)されてんだろ」
「なるほど」
そこの欄は空白のまま飛ばす。
え、普通の人族じゃないの? と職員はガライの顔を見直す。
そこで金色の目とバッチリと音がしそうな程、視線が合う。
あれ?金色の目って……。
そう思った職員にその瞳がニンマリと笑った。
「武器:己のカラダ、属性:ヒ・ミ・ツ、っと。うーん……、うん。書けたぞ」
内心恐慌状態の職員をおいて、ガライは上から目を通し直し、不備はなさそうだとギルド長に書類を返した。
「それでは、ギルド証もしくはギルドカードというものを発行しましょうかの」
嘘じゃなくても変な内容をスルーして、ギルド長はトレイに載った魔道具を机に置いた。職員は頭を過った可能性にソワソワと体を揺らしている。
「このカードは冒険者個人を特定するためのものじゃ。遭遇した魔物の種類や遭遇した土地情報、討伐記録、ギルドの評価ポイントなどの活動記録が集積される。評価ポイントは依頼を受ける際のレベルの参考にしたり、特典が受けられたりするものじゃ。一種の信用と思ってもらえればいい」
「それは知ってる。俺の連れが今、素材の買取してもらっているのとかだろ?」
ガライが身を乗り出す。
そういえば、ステンの持っていた素材の中にプテラスバードのものもあった気がするのだが、気のせいであろうか?
「それも特典の一部ですな。他にも初心者の講習や参考資料の貸出、道具の貸出もしているぞ。そのポイントによって冒険者はランク付けされている」
「俺、薬草採取の講習受けたい!」
その言葉に一瞬ポカンとするギルド長だったが、咳払いをして立ち直る。
「薬草の採取か……、確かにあそこには森があるが、今日は担当が出払っているからの、講習は出来ん」
「だったら後日、こっちに人を寄越してくれないか? 口が固そうなヤツを。特別手当てを出してもいいし、依頼にしてもいい」
そう口を出したのはジャガルドだった。事前にキャロラインと打ち合わせしていたのかもしれない。
「それは構いませんが」
「すまんな、今はまだ余り移動したくない」
それこそ、キャロラインが危惧する『バレる可能性』である。
「判りました。手配しておきましょう」
ギルド長が頷くと、ジャガルドはまた後ろに控えた。あくまで付き添いというスタンスのようだ。
「それならビフレットも話が聞けるな!」
その話にガライが嬉しそうに言った。
植物に関する事はビフレット担当、そんな風に思っているかもしれない。
「それでは登録しましょう。血液を2、3滴貰えますかな」
一旦、その話は後にして、ギルド長は容器に入った銀色の針を渡してきた。割りと太めだ。
どうやらカードに個人認証を刻むために使用するようだが、渡された針を見ながらガライは変な顔をする。
「……ま、やってみたらいいか」
数秒の思案の後、そんな軽い言葉と共にそれで戸惑いなく指を刺し、血液を指定の場所に垂らした。
と、同時にボンッという音と共に魔道具にセットされたカードが煙を吐く。
その現象にガライ以外が思わず「は?」と声を漏らした。
「あー、やっぱりかー」
やった本人だけは困った顔で顔を掻いている。
その言葉にジャガルドが目の前の赤銅色を見た。
「もしかしてアレか? アレに書いてあるアレか?」
「多分ソレ」
うわぁ、と引いた様子の幼馴染み兼護衛は、驚いたまま魔道具を凝視しているギルド関係者を見た。
気持ちはよくわかる。
普通はこんな事なるはずがない。魔力過多であろうと魔法が使えないとしても。
「あのな、俺、血を使った魔道具の個別認証とか出来ないんだわ。他の方法無いか?」
普通にギルド長に話し掛けるガライ。
無駄に歳を重ねていない彼はすぐに魔道具から目線を上げた。
「いやぁ、魔道具が壊れなくてよかった」
そして、そう言う新人冒険者に、だったら早く言え、と思った。
やってくれといったのはこちらだった為、怒るのはお門違いだけれども。
「では手動で登録します。おい、仮登録に使うカードを持ってきてくれ」
気を取り直して、同じく魔道具を凝視したままだった職員に声を掛けると、彼はハッとしてすぐに部屋を出ていき、すぐに戻ってきた。
そして要望のカードを受け取ると、煙の薄れたカードと交換する。
「君もこういうケースは初めてだろうから見ておくといい。これを同じように魔道具にセットして……」
そして小声で説明をしながら約5分。
クッションの効いた長椅子の上で腕だけで体を持ち上げていたガライに「終わりました」と声がかかった。
お尻を長椅子に着地させ、居住いを正したガライの目の前に新しいカードが置かれる。
「説明させて頂く。
まず、このカードは腕に覚えの無いものや研修中に渡している仮カードと呼ばれるものだったのじゃが、先程の魔道具にかける事によって、個人登録をしたのでお主以外に使う事は出来なくなっておる。
ただ、個人認証では無いため、肌身離さず身に付けていないと討伐記録などが正確に取れない場合があるんじゃ」
「これって所在地通知機能とかあるんじゃないのか?」
さっきの待ち時間の間に思い至った事について聞いておくガライ。魔物との遭遇した土地情報なんて、その機能がないと収集するなんて無理だ。
「そう言われると思って、その機能は切っておいたわい」
ギルド長はそれを見越してカードの登録をしてくれたようだ。
「じゃが、そのカードは所謂特別仕様。普通の窓口には提出出来んようになってしまってな。よって私かこの者のみ対応する事になる」
聞いていなかったのか、その言葉に一瞬、えっ、となった職員だったが、気を取り直してこちらを向く。
「改めまして、貴方の担当になった……みたいな、窓口担当のクローグです。よりよい冒険者生活を送れるよう、しっかりサポートさせて頂きますので、これから宜しくお願いします」
しっかりと45度のお辞儀をしたその際にメガネのチェーンがチャラリと揺れる。
「俺はガラ……ムにしたんだっけ。ヨロシクな。本名の方は、後悔しないならギルド長に聞いたらいい。喋っちゃダメだけど」
専用窓口という事で多少情報開示を許可するガライ。
「早速、名前忘れてんじゃねぇよ……」
その後ろで呆れ顔のジャガルド。そしてギルド長に怪しげな笑みを向けられて焦る窓口担当。
「それじゃあ、ギルドの窓口に戻ろうか。やる事やったし」
そんなギルド関係者をおいて、ガライはソファーから立ち上がった。
「お前が言うな。約束の事、任せる」
ジャガルドが先に扉の方へ行き、扉を開く。
「判りました。至急手配させて頂きます」
ギルド長が返事したのを確認した後、彼らは応接室から退室した。
いい大人たちによる、半分お遊び半分諦めの冒険者登録でした。
アレに書いてあるアレって何ぞ?とかクローグ氏、慣れだよ慣れ!とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。




