唐揚げパーティーは進化した!
PVが2000を超えました。有り難うございます!
何か、何時まで経っても引っ越しの片付け終わらないんだけど、この人達……。
今晩の夕食と明日の予定を一頻り考えた後、チヤは改めてステンに向き直る。
「そういう事だから、明日朝一で町の人への声かけを頼むよ。あと、広場の使用許可だね。
それと、夕食は作っておいたから、ちゃんと食べるんだよ。あの子にも。食べてぐっすり寝りゃ元気になるさ。スープも飲んでしまって構わないから」
プテラスバード・ショックからようやく抜け出せたステンは頭を下げた。
「本当に今日は助かった。ルミを助けて下さり有り難う御座いました」
前半は娘の看病をしてくれたチヤへ、後半は孫娘を捜索してくれたガライへ。
それに手を振る筋肉ムキムキ。
「俺たちも無関係じゃなかったし、そんな大それた事はしていないから気にするな」
魔物もいる夜の森を突っ切って、魔物の相手もして、果てには巨鳥も落としておきながら、大した事ではないと宣う前王弟。
謙遜なのか、王宮ではそれ以上の事が日常的に起こっていたのか、ステンには判断が付かなかった。
ただ、この方は本当に気にしていない事は嫌でも判った。それが当然の事だと思っている。
周りも彼がそう思っているだろうという事を察しているだろうが、誰も止める気はないらしい。
それの証拠に、自称執事の方を見るとニッコリと微笑まれた。
そして彼は主を促す。
「若様、そろそろお暇しましょう。夜分に長居は失礼になります。それに、レイニオが待ちくたびれているかもしれません」
「そうだな。今日はレイニオにもずっとおつかい頼んだままだったからなぁ。何かご褒美あげたいな。
……唐揚げ増量?」
ガライが立つのを見計らって、立ち上がり椅子を引く。
「何か果物の方がいいかもしれないよ。うちの子たちは働き者だね、まったく」
同じ様にチヤの椅子も引くビフレット。その動作は手慣れている。
「ルミー! 帰るなー!」
ガライが奥に声をかける。それだけ見ると、ただの近所のお兄ちゃんだ。
「お邪魔しました」
ビフレットが率先して扉を開け、押さえる。
「ちゃんと養生するんだよ」
チヤが奥に声をかけつつ、外に出る。
レディファーストだ。
「また明日ー。 では失礼する」
続いてガライががらりと声の調子を変えて、家主に挨拶をする。
その姿は先程、唐揚げ以外も出来るのかと聞いていたモジモジしていたものとは違い、真っ直ぐに立ち、威光を背負い、人を導くに足る王族の姿だった。
カールレーを名乗る者特有の金色の目が、静かに老年の男を映す。
「怒るのもいいが、褒めてもやってくれ。母親を思っての事なのだから」
そう肩を叩いて、ふっと笑い扉をくぐる前王弟。
「結局、そういう人なのですよ、若様は。だから私たちも付いていくのです」
扉を開けたままだったビフレットがステンに囁いた。
一足先にこの家へ挨拶するために訪れた際、尋ねられた言葉。それの答えだった。
人によって感じ方は違うだろうが、それがガライ=カールレーなのだ、と彼は言う。
「では明日の朝、また伺いますね。それでは、おやすみなさい」
輝く笑みを復活させて、青いタレ目を細めながら、彼はゆっくりと扉を閉めた。
「ルドって、結局、何作ったんだろうな?」
「シチューじゃないかい。作りかけだったし」
「あれって、シチューだったのですか!? スープだと……!」
そんな3人の会話が遠ざかっていった。
ぱちり。
ラジーは唐突に目を覚ました。
ベッドの中。ふっくらした枕に、温かいお布団。小さな机に自分のカバンが乗せてある。
知らない天井だというわけでもなく、昨日も見た、引っ越して来たばかりの自分の部屋だ。
少しざわざわとした空気、鳥のさえずり、窓から入ってくる光。
朝だ、と判断する。
そして、気配を消して部屋の中にいる義理の兄の存在が目に留まる。
「おはよう、ラジー」
「ん、おはよう。レイニオ」
起きた、と判ったのだろう。窓から外を眺めていたレイニオが声をかけてくるのに、挨拶を返す。
ラジーは朝すっぱりと起きられる方なので、多少お布団に未練を残しながらも、すぐに体を起こす。部屋にレイニオがいるという事は、何か用事があるという事だ。
顔を見ているのに気が付いたのだろう。義兄は「あー」と言いながら、ラジーのベッドに近寄る。
「ラジーってさ、昨日、ウサギに乗った後、寝ちゃったんだよ」
その言葉に昨日のあれこれを思い出す。
探検ごっこは楽しかったし、魔物は出てきたけどアニキが助けに来てくれた。
ウサギは本当にふわふわでポカポカだった。
あれはいいものだった、と1つ頷く。
「あの後、僕たちはここに何事もなく帰ってきて、玄関ホールでアニキとジャガルドさんを待ってたんだけど」
それを了承だと取ったのか、レイニオが昨日の出来事の続きを話す。
「どーん、って音がしたと思ったら、しばらくして帰ってきた。その音、ラジーはウサギに乗る前見たと思うけど、その大きい鳥を落とした音だったんだって。アニキたちは勿論無傷で。ジャガルドさんが落としたらしいよ」
大きい鳥、何かいたような気がしないでもない。
実際のところ、ラジーはその時、アニキしか見えてなかった。いつも通りムキムキで、だっこの安心感が半端ない。思わず涙が出た。
「アニキはその後すぐにあのガキを送って行くついでに義母さんを迎えに行ったんだけど、帰ってきたら何か町あげての引っ越し祝いパーティーになってた」
ラジーを抱き上げ、再び窓の側へ。ラジーには窓はまだ少し高い。
抱かれたラジーは促され、レイニオと同じように外を見る。
そこには朝日に輝く湖と空と同化しそうな霧のような緑。ところどころ倒れた木。
そしてそこからちょっと見えている青い何か。多分、不幸せな青い鳥なのだろう、とラジーは思った。
と、同時に、
「……ササミチーズ、あるかな」
おなかがグーっと鳴った。
そういえば、昨日の晩ご飯食べてなかった。
ちなみにジャガルドが作った晩ご飯は大方の予想通り、シチュー+ハードパン、キャベッタとニンジールの浅漬けピクルス、リューシとアスパパルのベーコン巻きだった。
お味の程はチヤ曰く「いかにも男の料理って感じの可もなく不可もない味」だそうだ。「いいじゃないか、安定感があるって事だろ」と少し不機嫌にシチューを啜る茶髪の男がいたとか。
「そこで料理が出る辺り、義母さんの子だって判るなぁ。その義母さんは今あそこにいる」
あそこ、つまりプテラスバードの所だ。どうやら陣頭指揮を取っているらしい。
レイニオはラジーを下ろすと、クローゼットを開けて、今日の服といつものウサミミフードを出す。
「だからラジーを案内するために僕が待ってたわけ。朝ごはんは用意してあるよ。あれは昼用」
ニヤリと笑ったレイニオはラジーのふわふわな髪の毛を撫でる。犬耳がピンっと立つ。尻尾も揺れている。
「今日のお昼は町全体で『幸せの青い鳥をお裾分け★パーティー』なんだって」
「星、いるの?」
「何かいるらしいよ。ビフレットさんが言ってた」
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