悟れ!さもなくば慣れろ!!
年長組と一緒だと、ガライもおかしな方向にいかない……はず。
投稿が遅れました。申し訳ないです。
そしていつもより長くなった。
切る所が見つからなかったんだ……。
家の窓から漏れる光が、田舎特有の余り整備されていない道を照らす。天気がいい今夜は、月の光も手伝って灯りがいらない程だった。
まだ眠るには早い、宵口の時間帯。
いつもより町がざわめいて聞こえるのは、少し前の地響きのせいであろう。
明日の朝、倒された巨鳥と対面したら、今のざわめきが蜂の巣をつついたような騒ぎになるのは目にみえている。
しかし彼らは何事もなかったという態度で陰影を濃くする道を歩く。
「何か、まだゆっくりこの町を見ていないなぁ、俺たち」
こんな時間に出歩いてはいけないはずの身分のガライが周りを見渡しながら言った。
忘れがちであるが、約1日遅れて到着した幼馴染み3人は、屋敷に着いてからまだ町へと出歩いた事がない。
「見ても何もないわよ。田舎の普通の町だから」
とルミが言うと、その横を歩いているビフレットが口を挟む。
「そんな事ないと思いますよ。豊かな水を湛える湖、煙るような自然、そして広大な畑!」
「……ビフレット、農耕好きを隠さなくなってるな」
「勿論ですよ!」
物凄くキラキラしい笑顔を向けられて、主が生温かい笑みを浮かべる。もうこの暗闇すら退けそうな勢いだ。
好きな事を出来るようになって何より。
ここでキャロラインなら「枯れない水源、有り余る資材、そして食糧自給率120%!」と言った事だろう。
うん、夢がないな、と自称執事と幼馴染みの思考の落差に遠い目をする。キャロラインが現実を見すぎているだけだ。
キャロの指導でルミがそうなったら嫌だなあ、と前を行く若葉色の頭を見ながらガライはそう思った。
レスさん一家のお宅は屋敷の管理もあるため、町の中でも奥の方に位置し、湖に割合近い所に建っている。
小さいながらも庭があり、片隅に存在する花壇が設えてあった。しかし、今は疎らに何かの植物が勝手気儘に育っている。
まあ、女主人であるセラは臥せりがちであるようだし、ルミに至ってはまだまだ花よりも遊びたい方が勝つのだろう。手が回っていないのも仕方がない。
多分、ビフレットが見逃すはずがないので、しばらくしたら見映えのいい花壇に生まれ変わっていそうだ。
木の扉に付いているノッカーを鳴らすと、すぐに扉は開いた。
中から家主が姿を現す。
一瞬、視線が彷徨い、そして孫娘を見つける。
「おじいちゃん、ただいま。……ごめんなさい」
美中年に促されて祖父の前に出た少女は、普段の勝ち気な態度を潜め、おずおずとその顔を見上げた。
その瞬間、祖父は彼女を抱き締めた。
「お帰り、ルミ。……無事で、よかった」
感極まったような絞り出すような声が耳を打つ。
孫娘が暗くなっていくのに帰って来ない、魔物蔓延る森に入ったなど、不安要素しかない行動に心配しないなど出来るはずもなかった。
それが判った少女も、ぎゅっと祖父の首に抱き付いた。
後ろの2人はそれを見ない振りをしている。
「何してるんだい、アンタたち」
そう言って開いたままだった扉から顔を覗かせたのは、様子を見に来たチヤだった。
「いや、直視しているのもなんだなーっと思って」
「感動の再会ですから、邪魔するのも不粋かな、と」
頭を掻くガライと申し訳なさそうにしているビフレット。
それにハッとしたルミ。
「お母さんは!?」
その言葉に笑みを溢し、場所を空けるチヤ。
「とりあえず入りなよ。こんな所で固まってないでさ」
緩んだ祖父の腕から抜け出し、少女は駆け足で家の中に入っていく。
「お母さん!」
その声を聞きながら、チヤは自分の所の大人たちを見やった。
「で、さっきの地響きはアンタたちの仕業だろ? 何があった?」
「ここでは何ですから、入って下さい。狭いですがどうぞ」
家主であるステンに案内され、家の中に入る一同。
「お母さん、ごめんなさいっ、よかったよぅ……!」
ルミの涙声を背景に居間の椅子に各々座った。
「チヤ、後でラジーを褒めてやってくれよな。スゴく頑張ったみたいだから」
早速、一番身分が高い男が話の口火を切る。
「あの子も無事のようだね。よかったよ」
「やっぱり危ない事があったんですね?」
ずっとレスさん家にいたチヤが安堵の息を吐き、屋敷にいたビフレットが、現場に行っていたガライに事の成り行きを尋ねた。
「そうだな。かくかくしかじかでラジーの考えは当たっていたってところだな。……ステン、あまり怒ってやるなよ。ルミだって反省しているし、こっちもちょっとしたお仕置きをする事になっているから」
ガライは直ぐに立ち上がろうとしたステンを座らせる。
この祖父あってのあの孫である。
「ちょっと、ガライ。かくかくしかじかで通じると思わないでおくれ。でも、ここで話せないって事は判ったよ……。後で聞かせてもらおうか。で、お仕置きって、いつものヤツかい」
やはり、かくかくしかじかだけでは話が通じるはずもなかった。
チヤが溜め息と共に腕を組む。常に何かの作業をしている彼女なりの話を聞く態勢である。それを店の常連だったガライは知っている。
そして彼女もまた『前王弟式お仕置き』の存在を知っていた。
「そうなんです。1週間キャロライン嬢から淑女教育を受けるって事になりました」
と美中年が内容を伝えると、命じた本人は、
「名付けて『キャロラインズブートキャンプ』だな」
なんてさらっと言った。
「何か別なものが鍛えられそうな名前ですね」
その命名に苦笑するビフレット。主の名付けはいつも独特である。
「いいのですか、殿下」
彼らの会話の意図するところに気が付いた老兵がそちらを見る。つまりそれは、『お仕置き』と銘打っていながらもルミの為になるものだという事。
「ん? 何がだ?」
その質問に笑いながら首を傾げるガライ。
「俺はただ、ルミに嫌な事をさせようとしているだけだぞ」
「活かすも殺すも彼女次第ですよ、ステン殿」
主の言葉を引き継ぐかのように自称執事は告げた。
それにステンは何も言えなくなった。
これが前王弟ガライ=カールレーか。何と懐の広い……。
「あ、そうだ。チヤ」
そんなステンを置いて、ガライは思い出したように料理人に声をかけた。
「何だい?」
「プテラスバードって、おいしい?」
油断していたチヤは、ガライを思わず凝視した。
プテラスバードって、あれだろ?
あの青くて大きくて牛なんかをゴックンいっちゃうヤツ。
その瞬間、チヤは全てを悟った。
「ははぁ、ガライ。アンタ、何処に置いて来た?」
さっきの地響きはプテラスバードを空から叩き落とした衝撃なのだと。
「森の入り口付近。本当はもうちょっと誘き寄せたかったんだけどなぁ」
そして、食べる気なのだと。
それがまだ判っていないステンがプテラスバードと聞いて、目を白黒させている。
そんな彼に、料理人は容赦なく言い放つ。
「ステンさん、明日の朝すぐに人を集めてくれないかい。あんなデカブツ、解体すのにも消費するにも人手がいるよ!」
「は、はぁ……!? たべ……食べる? 倒すのは、あれ?」
その事象を処理しきれないステンがチヤの言葉にさらに混乱する。
だって、その名前って、被害がめっちゃ出る生物の名前じゃ……。
「多数決で唐揚げがいいってなったんだけど、他のも作れる?」
厄災に等しい名前を告げた本人が、モジモジしながら料理をオーダーしている。
大男がモジモジしても気持ち悪いだけだが、誰もツッこめない。
「あれだけ大きいんだ、油が足りなくなるよ! それに美味しいは美味しいけど、美味しく食べられる量ってもんがあるだろ。まったく! 町の人にも食べてもらわないと」
チヤはもう、料理をしなければならないという使命感に燃えている。
肝心のプテラスバードを倒したのかどうかはどうでもいいのだ。それをどう捌くかに考えが及んでいる。
「それなら、引っ越し祝いって事で振る舞っては?」
余りの勢いに口を挟めなかったビフレットが提案する。
「食材、足りるかねぇ……」
町の、と付くチヤの言葉と機嫌が良さそうなガライ。
「仲良くなるには食事を一緒にするのが1番だよな! 俺たち、全然町の事、知らないから丁度いい」
「そこまで食べる人が沢山いるとも思えないのですが」
チヤの呟きに美中年が返す。
彼女の基準は時々、常連だった騎兵団のものになる。
体育会系と一般人を同じだと思わないでほしい。
「肉を分けるって事で他の食材と交換すれば、顔合わせも出来ていいんじゃないか?」
もう唐揚げ祭りでは無くなっている気がするガライの言い分に、チヤもそれもそうか、と頷いた。
「じゃあ、今日はさっさと寝ないとね。アンタたち、夕食は?」
「ルドが作ってくれてる」
「おや、そうかい。ルドなら無難なものが出来そうだね」
人選に納得する厨房の主。
キャロラインとレイニオは……。うん、考えないでおこう。
タイトルはチヤのお言葉。
それに尽きる。
これが、前王弟殿下か……!とか、もう唐揚げ祭り改め鳥肉祭りでいいんじゃない?とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。