そのままでは癪だから
プテラスバードを地面に堕とした後のムキムキ2人と、ルミへのお説教(?)前半です。
R4.6.17 内容を追加しました。鳥は半分冷凍ではなく、半冷凍になりました。
「うんうん、『つらぬけー』って便利便利」
ガライが笑いながら、先程ジャガルドに堕とされた、地面にもがいている巨鳥に近付く。
もがいていると一言で言っても、その巨体から繰り出される蹴りや羽ばたきは、それだけで脅威だ。
凪払われた翼をしゃがんで避ける。
「お前、気の抜けた言い方するんじゃねぇ。後、技名みたいに言うな」
いつもの軽口を言う幼馴染みに、これまたいつもの調子で返す。
彼はただ、魔法を撃ち出すイメージを固めるために言っているだけであって、技名を叫んでいる訳ではない。本当に本当。
「技名付けたらいいのに」
「昔、キャロに『ダサい』って言われたぞ。オプションですっげぇ冷めた目で。それに乱戦で叫んでられねぇだろ」
「え。叫ぶ予定あるの?」
「ねぇよ」
その時、プテラスバードがバサバサと羽ばたいた。風で葉っぱや枝が舞い上がる。
「まだやる気だな」
ジャガルドが腕を目の前に翳しながら言う。
「そりゃあタダでは唐揚げになりたくないよなぁ」
ジャガルドより近くにいたガライが叩きつけられる風に抗いながら、何故かしみじみと返した。
「ササミにもなりたくないと思うぞ」
再び起き上がった不幸せの青い鳥を観察しながらジャガルドはそう答えた。むしろ料理にされたくないのではないだろうか。
「ま、人を襲いにきたんだ。人に襲われる覚悟もあるって事さ!」
いい笑顔で付き出された鉤爪を鷲掴みにする。プテラスバードは鷲ではないが。
そしてそれを起点に巨鳥の上に駆け上がる。当然、プテラスバードは振り落とそうと暴れるが、ムキムキにはちょっとした乗り物のようであった。体に掴まっているのも何だか楽しそうですらある。
「まったく、遊んでんじゃねぇ。子供が寝ちまうぞ」
もう1人のムキムキが数本の水の槍を巨鳥にけしかける。
「あ、そうだった」
そう言うと、その背に気合いと共に拳を叩き込んだ。
「これがホントの鳥肉のタタキ?」
チヤがこの場にいたら肩を竦めたであろう。「タタキの意味が違う」と。
「動くなよ、ガライ」
痛みに体を仰け反らせて鳴くプテラスバードにジャガルドは再び槍を構えた。
「さっさと終わらせるぞ。唐揚げよりも夕飯だ」
「それは言えてる」
日暮れ前に始まった救出劇はようやく終わろうとしていた。
途中から目的を見失っていたが。
「それでさ、プテラスバードをルドが凍らせようとしたんだけど、魔力が足りなくって。そこでラジーの氷の出番ってわけ」
ガライは見かけによらず、音も立てずにハーブティーを飲む。
運動の後の水分は美味しい。豆乳ならもっとよかったが。
「オレの魔力量で無茶いうな。凍っただけでもマシだと思え」
ふん、と堅焼きクッキーを囓りながらジャガルドが横を向く。自分の魔力量が少ないのは昔から解っている。
「でも、ラジーの魔法は半端ないな。氷の塊だけなのにオレの魔法を軽く超えてくる」
もぐもぐと咀嚼しながら、彼は先程の事を思い出す。
巨鳥を全部凍らせるのが無理だと判った時だ。ガライがポンっと手を打った。
「じゃあさ、ラジーが作っていた俺の氷持ってきたらいいんじゃないか?」
普通ならば、魔法は形を成した段階で魔力が抜けていくものなのだが、ラジーの魔法は違う。
かれらに頼んで作ってもらうものなので、魔力が宿ったままになっているのだ。
それを使おうとガライは言っている。
「お前、本当にそういうの、よく思い付くよな……」
「教育の賜物です」
ジャガルドが呆れたように言えば、ガライは笑って返した。
「で、どうやって持ってくんだよ?」
「もう1回突っ切るしかないでしょ」
「スプリングルは寒さ苦手なんだが……」
そういう訳で、実は現場までもう1往復していた男2人なのだった。
夜の森をポージングした氷像を抱えて走る筋肉ダルマたち。
第3者がいたとしたら、非常に怪しい光景に映った事だろう。
それで何とか半冷凍ながらプテラスバードを凍らせる事が出来たと2人は語った。
「ですが、チヤが帰ってきたとしても、今日の作業は無理でしょう。あの鳥が明日どうなっているかは判りませんが」
キャロラインの言う事も尤もだ。
あの場所は野生の動物が跋扈する森である。生前がどうであれ美味しそうなエサが置いてあるのだから、食べられても仕方がない。
こんな事で子供を起こすのは流石に大人として駄目だろう。
「ま、その時はその時。何か美味しいもの作ってもらうさ」
「それって結局、チヤ頼みという事では?」
「仕方ないじゃん。衣食住の食はチヤが握っているんだしさ」
「夕食も作りかけのものがありましたが、果たして仕上げてもいいものかと考えてしまいます」
「今日くらいいいんじゃねぇ? オレ、ちょっとやってくるわ」
騎兵団で野営もする事があるジャガルドがビフレットの言葉に反応して、厨房へと足を向ける。
「ジャガルドさま、すてきー。けっこんしてー」
「アホか」
笑ったガライの冷やかしに軽くそう返して通路へと消えていった。
「あの、あのね」
お茶を飲み少し落ち着いたらしいルミが、話が途切れたのを見計らって、その場の皆に声をかけた。
然り気無くルミの様子を窺っていたガライがそちらを向く。
「どうした?」
少女が話しやすいように極力穏やかに話を促す。
「私、本当はね、森にお母さんの薬を探しに行ったの。それで、ね。私、全然、森の事、知らなかった」
彼女の突然の独白を仲間たちは黙って聞いた。
一部ポリポリという音がするのは聞き逃して頂きたい。
「この子が言ってくれなきゃ、何の用意もしなかった。注意もしてくれたし、守ってくれた。私、お姉さんなのに」
「ルミ」
ガライがカップをサイドテーブルの上に置く。
そして彼女に視線を合わせる。
「それに気が付いただけでもよかった。今日は無事だったけど、いつも上手くいくとは限らないからな」
ガライの視線にキャロラインが頷く。
「そうですわね。下手をすれば森の中で魔物と鉢合わせ、という事にもなりかねなかったでしょう。ラジーの事ですから、それを判った上で付いていった。貴女のために」
その言葉にぎゅっと唇を噛み締める若葉色の髪の少女。
「自分の行動に沢山の人が関わっている事を忘れるな。
ラジーもそうだけど、ラジーの母親のチヤだって心配してる。爺さんのステンもここに駆け込んできた時、血相を変えていたぞ。反対されただろうが、それだけ心配したって事だからな。後でちゃんと謝っておけよ。
もちろん母親のセラにも、だぞ。病気なのに娘が森に行ったかもしれないって判ったら、それだけでも負担がかかるもんだ」
「うぅ、ごめんなさい……」
ガライにゆっくりと突き付けられる事実に、ルミは心の底から悪い事したなぁ、としょげる。
「あのさ、ラジーの義兄として言わせてもらうけど、今更、罪悪感を抱くくらいなら、最初から止めておけばよかったんだ。
今晩くらいは許してあげるけど、いつまでもクヨクヨしている方がラジーにも迷惑」
レイニオが追撃のように辛口のコメント。
仲間たちからしたら、割とソフトな言い方だなぁ、と彼を見守っている。
「それから、その薬草っての、アンタが動かなくても手に入ったんだから、骨折り損ってヤツだよ。残念でした」
やっばい、ストックなくなった。
更新が遅れたら、あーあ、やっちまったな、と思って下さい。
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