ナイター戦、実況中継中!(飛入り参加可)
レイニオと大人たちによる、戯れ混じりの救出作戦の模様をお送りします。尚、延長による番組変更はありません。
PVが1000を超えています!ひゃぁ。
皆様、お読み頂き、有り難う御座います!!
R4.6.17 内容を少し変更しました。ガライ、意識してたな……。
『アニキの細かい氷像もそうだけど、土の柱を氷で覆うなんて、凄い事するよ』
レイニオは木の上で感嘆の言葉を飛ばしていた。
義理の兄弟の開けた広場から少し離れた場所。
魔物たちの索敵範囲ギリギリに彼は気配を消して潜んでいた。主のお願い通りに。
「でも、籠城には向かないな」
敬愛する前王弟の相槌が側にいるかのように聞こえた。
何て事はない。それがレイニオの風の魔法なのだから。
遠くの声を聞く事も出来るし、声を届ける事も出来る。キャロラインのように複数に送る事は出来ないが。
逆に彼女は遠くの音を聞くのは余り得意ではない。
レイニオと通信紛いの事が出来るのは魔力の波形をお互いに覚えているからだ。
『柱の内部魔力を保たないと強度が下がるから?』
未だ姿の見えない相手に少年は聞いた。
「それもあるけど、あの2人が柱の上で長時間粘れるとは思わない。周りを壁で囲むよりは断然マシだけど」
ガライの声は心配が含まれていた。
壁で囲んだ場合、外の様子が窺えなくなる。それは突破されるのではないかという恐怖と、狭いところに閉じ込められるという恐怖に曝されるという事。
幼い子供たちにそれは耐えられない事だろう。そう考えるとラジーの選択は正しい。
しかし、ルミの性格とラジーの魔力量を考えると、やはり無茶だと言わざるを得ない。
望んでこういう状況になったのでは無いが。
『アニキ、少しズレてる。11時半の方向』
「おっと、すまん」
『司令官、もうすぐ目標到達。突入しますか?』
『周りの戦力を駆逐後突入。小さな騎士は柔ではありません。焦るな、と伝えて下さい』
『了解』
ガライに方向を示しつつ、キャロラインに現状を報告する。
ちなみに『司令官』というのは仲間たちの間のお遊びだ。つまり意味は全くない。
『キャロラインさんが、ラジ-は強い子だから周りを殲滅してから助けに行って、だってさ』
すぐさまガライにその言葉を伝える。
「グリーンウォルフは仲間を森の中に伏せているからなぁ。お、発見」
そして言葉が途絶える。
魔物の対処に移ったのだろう。辺りがざわざわとにわかに騒がしくなる。
『後詰めはルドに対処させます。今は子供たちの回収を優先に』
キャロラインの平常通りの声が届く。
『伏兵残り5。僕はこのまま?』
『お任せします。ルドが接敵しました、コボルドです』
『横取り狙いかな』
そこに再びガライの言葉が入ってくる。
「レイニオ、終わったぞ。ウォルフだけじゃなかったから、早めの撤収望むって言ってくれ」
『少し騒ぎすぎたのかな。……司令官、別の敵性勢力の可能性。早めの帰還が望ましいです』
『了解しました。スピード重視に切り換えます。ルドにはこのまま合流するよう伝えます』
『じゃ、僕も参加しようっと。アニキ突入OK』
「おっし、判った!行くぞ!!」
その声と同時に、ズホッと草むらから広場に走り込んだ筋肉ダルマが確認出来た。本当に近くにいたようである。
「うんうん、ヒーローは遅れて現れるってね。まんまじゃん」
泣きそうな顔のラジーと魔物を蹴り上げている赤銅色の頭を眺めていたレイニオは、何か納得したように頷いて自分も参加しようと魔力を練り始めた。
「あー、晩御飯何かなー」
ガライは広場に走り込んだ勢いでグリーンウォルフを数匹轢いている。そして最後にいたウォルフを蹴り上げて、柱の上を見上げた。
「ラジー!」
その姿を見たラジーは顔を歪める。
「アニキ……!」
何かこういう物語あったなぁ、と横で見ていたルミは場違いにも思った。
2人は決して恋仲ではないが。
「もうちょっと我慢な」
魔物の突進を横に避け、足元を払う。走る勢いそのままにウォルフは倒れ込む。
そこに狙いすまされた風の刃が襲いかかった。それは首だけキレイに切り落とし、ふわりと溶ける。
「レイニオ、えげつなーい」
『撲殺しているアニキよりマシじゃない?』
そりゃそうだ、とガライは笑った。
先程の風はレイニオの魔法だ。ガライの行動を邪魔しない範囲で魔物の脚や胴を薙いでいく。ちなみにガライの氷像には傷一つつけていない。
その攻撃で怯んで動きが止まった魔物をガライが蹴り飛ばし、時に殴り付け、地面に叩きつける。
その際、地面が少し陥没するのは彼がちょっとばかり急いでいるからだった。
「何か、さっきから嫌な予感がするんだよな……」
最後のウォルフを踏みつけ、ぽつりと呟いた。
それを聞き止めたのはレイニオだけ。
その言葉に顔からサーッと血の気が引く感じがした。
『ちょっと、司令官! アニキが怖い事言い始めたんだけど……!』
『早急に離脱を要請します! ルド、緊急事態です』
なんちゃって司令部が慌ただしくなる。
そんな中、ガライは柱に近付き上に声をかける。
「おーい、終わったぞー。早めに降りてこい」
「……アニキーっ!!」
ラジーは戸惑いもなくガライへと飛び降りた。
4ナベル(8メートル)くらいある高さを、だ。
それをしっかり抱き止める。
安心したのか顔をぐちゃぐちゃにして泣き始めたラジーを立たせ(すぐに足に貼り付いた)、ガライはまた上を向いた。
「ルミも来い!」
柱の縁から顔を出したルミが高さに怯んだ。
「こ、こんな高いところムリだよぉ」
「絶対に受け止める。信じてくれ!」
そこにフロントラットスプレットは必要ないのでは、とレイニオは思った。何故にポージング。何故に筋肉強調。
しかも横にある2分の1スケールの氷像と同じ格好である。
緊張を和らげようとしているのかな……。
そう思いながら、空を仰いだ瞬間、星を遮る何かが視界を掠めた。
『!上空より接近物あり!鳥型と推測』
それを見逃さず、彼は警告を飛ばした。
ついでに突風も飛ばした。飛行物にではなく、ルミの方に。
その風は柱の端で下を覗き込んでいて不安定な体勢をしているルミの体を押した。
さっさと降りろ。
暗にそう言いたかったらしい。
当然、軽い少女の体は押し出された。そしてそのままの体勢で落ちる。
思わずルミの口から悲鳴が漏れた。その時、何かが服に引っ掛かるが、落ちる勢いの方が勝ったらしく、服を一部破って体は重力に従う。
下にいたガライは、ラジーを振り払うわけにもいかず上半身と片足の移動で言葉通りガッチリ彼女を抱き止めた。
お姫様だっこ状態になったのは、狙ったわけではない。胸筋の分厚さに別の意味の悲鳴を上げたルミは悪くない。
レイニオは考えがドライなだけで、ラジーを蔑ろにしているわけではありません。
ちゃんとお兄ちゃんしています。
私もマッチョに姫抱っこされたいわぁ、とか、晩御飯、何だろうな……とか思った方は、ブックマークや評価、いいね!をポチッとお願いします。