お茶請けは蜜かけ芋とスイートポテト
お芋掘りその後とその他諸々の説明の、女子のみと見せかけて実は違うお茶会。
主人公不在。
今回で100話目です。
皆様、いつも有り難うございます。
こんなに続いた小説は初めてです。
最後までちゃんと書くように頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします。
「それで、楽しかったですか?」
「物凄く楽しかったですわ! お姉様!」
目の前のキラキラした笑顔に、キャロラインは溜め息と共に視線を反らした。その先にも同情するような目線の少女がいて、いたたまれない。
アルプリール滞在3日目。
つまり彼女が目を覚まして翌日。キャロラインはサンテラスにてアルプリールを誘ってお茶会をしていた。
淑女講習中の少女も巻き込んで。
「アル、こういう話は他の貴族の方にしてはなりませんよ」
「大丈夫ですわ。お姉様だから話してます」
決め顔というのだろうか、やたら勝ち誇ったような顔で言われても、所詮芋掘りの話である。
「それでですね、農家の人でもたまにしか採れないという、一抱えくらいの大きさのお芋を見つけたのですわ! もう嬉しくて」
「……それはわたくしも見ましたわ。よく採れましたわね?」
しばらく芋掘りの話題から離れないというのが判ったので、仕方無く付き合う。
昨日、厨房にデンと置かれた芋に、本当にこれは芋かと思ったものだ。
「それが、ラジーちゃんが魔法を使って、手でバババッとして下さったのですわ」
土から出ている芋の頭からも、すでに大きい事が判っていた。
横で見ていたジャガルドが「このまま掘ると折れんぞ」と言うので、どうしてもそのまま掘りたかったアルプリールは悩む。
上からちょっとずつ土を退かしていくか、芋の大きさを予想して横の土を削っていくか。どちらにせよ時間がかかりそうである。
それに気付いた子供たちがわらわらと集まってくる。そして「グッといけー」やら「チビチビやるのよ」やら個性豊かなアドバイスを送ってくる。
ますますどうしていいか判らなくなった頃、隣に小さな影が立った。
ウサミミフードである。
「回りから、掘るね?」
そう言うと、ラジーは手に魔力を纏わせ(この時点でジャガルドは諦めたような顔をしていた)、えいっとばかりに足元の地面に突き刺した。
小さな手に似合わないくらい、ざっくりとラジーの腕は土の中に埋まった。
肩口まで土に埋まったラジーが、泣きそうな顔でジャガルドを見上げる。
「ルドおにいちゃん、とれない」
「だろうな」
ラジーだって失敗する。
みんなの加減がそれこそいい加減だからだ。
魔力をちょっとずつ抜くように腕を上げていけ、という言葉に従い、うんしょうんしょと引き抜き、肘くらいまでの深さになると、犬掻きのように芋の回りを掘り始めた。
マルゴール族なだけに。
それを見て彼女は思った。「リアルここ掘れコンコンですわ……」と。
「回りを掘って頂いたお陰で、お芋がスッポンって抜けましたわ。ねぇ、ルミちゃん」
「あははは、そうですね」
何故ここに呼ばれたか未だに判らないルミが、愛想笑いしつつ同意する。
流石に暴走馬車の勢いに負けている。
そして、お菓子とお茶は美味しいが、マナーを意識してか緊張で固まり気味だ。
「その後、子供たちが小さいお芋を焼き芋にして下さったのが美味しかったですわ」
「貴女、夕食もしっかり食べていた割に、焼き芋も食べていたのですか……」
昨日の夕食の席(ガライ抜き)で、キャロラインの食べる量よりも少し多めに食べていた彼女の姿を思い出す。
「シモンに回復促進魔法をかけたのですから、仕方無いのですわ。チヤの料理も美味しいし、仕方無いのですわ!」
大事な事なので『仕方無いのですわ』を2回言った……と少女は思った。
昨日、屋敷に帰ってきた後、アルプリールはようやく自身の護衛シモンと対面を果たした。
彼は意識を取り戻したものの熱を出しており、また『賊』にやられた傷もいまだ出血を続けていた。
その様子を見た彼女は何かに堪えるかのように1度グッと拳を握った後、いつもの調子で彼に話し掛ける。
「シモン、お加減如何かしら」
「アル、さま」
「貴方のお陰でポルタ令嬢と再会できましたわ。ですので、貴方は立派な護衛です」
森を走っている時、背中で自分の不甲斐なさをうわ言のように呟いていた神殿騎士に、先制するようにアルプリールは言い切った。
「今から治癒術を使いますわ。しっかり休んでから、鍛練して下さいまし。
貴方は立派な護衛ですけれども、休む時はちゃんと休まないといけませんわ。今はルド様が代わりに護衛に入って下さってます。『鉄砲水』、知っていますでしょう? 心配いりませんわ。あと」
「アル、手短に」
一緒に入室したキャロラインとジャガルド。一向に治療を始めない幼馴染みに対して、キャロラインが彼女の言葉を止めた。
名前が出たジャガルドは普段の強面を更にしかめている。
「ああ、申し訳ありません! 魔力満タンですから、しっかり直しますわよ」
そう言い彼の手を取り、流し込む魔力は温かい。
『オルスス神殿の姫巫女』とは、女神の声を聞けると同時に、いくつかの能力が贈られる。
使いこなせるかは姫巫女自体のセンスが問われるため、人によっては1種類という事もありえるような扱いの難しい能力だ。
アルプリールはセンスがよかったのか、『頭空っぽの方がいろいろ詰め込める』を地でいったのか、かなり使える方。
その内の1つ、『治癒術』は『回復促進魔法』と言い換えられる魔法であり、文字通り傷の治りを早めるものである、通常は。
彼女はそれに他の能力と合わせて、傷そのものを治癒出来るようにしたのだ。
どうして出来るようになったのかは本人に聞いても「ぱーっとやったら出来ましたわ!」といった具合。
謎が多い。
ただ、今の血を流しすぎている彼に、急激な回復は逆に体の負担が大きすぎるため、血を止めるために傷口だけ塞ぐ。
こう見えて、彼女はこういった治療に慣れている。よって魔法の程度を見極める判断は早い。
あっという間に眩しい程に発されていた魔力光が弱まる。そして、少し弱い光が続いた後、余韻を残して消えた。
「終りましたわ。本当に魔力を抑制された時は、どうなる事かと思いましたけども」
終了を告げると共に、姫巫女は薄くかいたらしい額の汗を拭う。
ちなみに、魔力を抑制していたブレスレットは、森に入り込んだ後で護衛がやられた際、力業で破壊したとの事だ。
それによりかなりの魔力を使い果たしたため、回復も出来ずに護衛をおぶって、森を走破する羽目になったらしい。
「まあ、判断は間違ってなかったんじゃねぇの」
どちらの提案かは判らないが、森を使っての逃走は普通なら考えられない。
魔物が発生するからだ。
よって、アルプリールの能力とシモンの実力をある程度知っているジャガルドはそう評した。
「でも、危ない事は止めて下さい。貴女は姫巫女である前に公爵令嬢なのですから」
他に方法はなかったというのは判ってはいるが、公爵令嬢のイメージを守るために、キャロラインは敢えてそう釘を刺しておいた。
「あの、少し聞きたいんだ……ですけれど」
今まで話を聞く側になっていたルミが言葉遣いを気にしながら、ここ数日を振り返る2人の話を変えた。
「あら、何かしら?」
キャロラインがお菓子を自分の取り皿に取りながら、質問の許可を出す。アルプリールはルミに視線を向けて首を傾げている。
「お2人の関係って、どうなっているんですか? 公爵令嬢と侯爵令嬢なのにアルプリールさんが『お姉様』って呼んでいるし」
それを聞いて2人の令嬢はお互い見合せ「そうですわね」と頷いた。
「確かに不思議に思いますわよね」
アルプリールがうんうん頷くと、キャロラインは呆れた顔で彼女を見た。
「大体は『この娘のワガママ』で説明出来るのです。困った事に」
そしてルミに視線を戻す。
「ルミ、アルプリールは貴女の姉弟子になります」
「何それ」
「あら、ルミちゃんもキャロお姉様にマナーを習っているの? そういう事は妹弟子!?」
パアッと笑顔になるピンク色の令嬢を放っておいて、「マナー……」とオウム返しにルミが単語を拾う。
「そうです。昔、アルが淑女教育を始めた頃、突然わたくしに父親の公爵本人が、まあ、当時は次期当主でしたけれども、会いに来まして、『娘のマナーの講師をしてくれないか』とおっしゃるのです。
最初は畏れ多くてお断りしましたが、よくよく話を聞いていくと、何でもその娘が『マナーの授業は退屈だから、友達と一緒に楽しく遊ぶように学びたいです』と言ったらしく、条件を満たすだろうわたくしに声をかけられたという事でしたわ。
その時にはガーデンパーティーなどに参加しておりましたから、公爵様の目に留まったのでしょう」
「お姉様の所作は、初対面の時から美しかったですわ!」
その時を思い出したのか、うんざりした様子で語るキャロラインに、アルプリールが「選ばれて当然」とばかりに付け加える。
「それはさておき」
それを無かったかのように話は続く。
「公爵家からの要請ですので、よっぽどの理由がなければ侯爵家の我が家は拒否出来ません。
ましてや、我が家の父親がわたくしよりも乗り気になってしまいまして、年齢1桁の小娘が更に小さい幼女にマナーを教えに行く事になったのですわ。
まあ、言っても、大人の講師の方もいらっしゃいましたが」
「そして、わたくしが『お姉様』と呼んでいいかとお尋ねしたのですわ! わたくしにはお兄様しかいなかったので」
「この娘はそうだったでしょうが、わたくしは講師には狙い撃ちにされ、公爵様にはアルが『わがまま』を言うとその都度お伺いを立て、気苦労が絶えなかったです。
一流の講師によるマナーを学ばせて頂いたのは感謝していますが、あの頃はストレスで1まわり太りましたわ……」
それを見たガライから、思わず心配されたのは苦い思い出だ。
「そういう訳で、わたくしたちは『アル』『お姉様』と呼びあっています。……恥ずかしいのですけれども」
「何を言っておりますの! お姉様はお姉様ですわ!」
「こんな調子なので訂正も効かないのです……」
「心中お察しします」
ルミは神妙に頷いた。
聞いた事はよく判ったが、キャロラインの苦労もよく判った気がした。
リューシ芋って、さつまいも?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、サチュ芋という別の芋があるため、多分違うと思われます。
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