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前王弟殿下のかれいなる隠遁生活(スローライフ)【本編完結】  作者: 羽生 しゅん
前王弟は引っ越し中:長距離走は腸腰筋が重要
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ある日、森の中、クマさん、からの衝撃

お越し頂き、ありがとうございます!

この話は恋愛なし、チートなし、出世もなし、あるのは筋肉とほのぼのと一癖ある仲間たちという事を踏まえてお読み下さい。

(あらすじ見たら大体判る気もする)

本人たちは至って普通にスローライフを楽しんでいます。


今回はまだ引っ越し途中の話です。



 見上げる空は何処までも落ちそうな錯覚を起こす程その色を湛え、木々の間を吹き抜ける風は生命を祝福するようにしゃらりしゃらりと音を奏でながら流れていく。



 その日、少女は知った。


クマも空を飛ぶ事を。





 事の始まりは、少女の持つ籠が採取物でいっぱいになり、帰り道をゆっくりと、だが早足で歩いていた時の事だった。


 朝から絶好の天気に恵まれたこの日、少女は木の実を採りに町の近くの森に来ていた。


この森は町の管理の下整備されており、町の住人もよく利用する自然の宝庫だ。見回りが行われ、見通しも森にしてはかなりよく、比較的安全だと言われている。10歳くらいになると街の誰しも一度は足を運んでいるだろう。


その中で彼女は偶然にも、たわわに実るベリリの木を見つけた。大樹の陰に隠れるような少し目立たないところにあったため、まだ誰にも見つかっていなかったのだろう。


ベリリの実はオレンジ色の皮に黄色い果肉を持っていて、少女はそれのジャムが大好物である。

彼女は予想外の幸運に顔を綻ばせ、夢中でベリリの実を手に持つ籠に入れていった。


 さて、比較的安全と言われているこの森だが、全く危険がないというわけではないのだ。


この世界には、魔物といわれる空気中の魔力を取り込み、突然発生して襲いかかってくる生物が出現する可能性がある。

他の場所に比べて空気中の魔力が少ないという事で、比較的安全という風に言われているだけだ。


その時は何ともなかったが、軽率だった、と彼女は籠に入ったベリリの実を横目に、昼食の甘辛だれの鶏肉挟みパンを食べながら反省していた。


町でもいろいろ伝わっているし、両親からも言い聞かせられている。

魔物が直接出現しないのは、空気中の魔力がよく使われている人口が多い都市や町くらいのものである、と。

そして、魔物に見つかれば、一般人など命を落とす他ないのだ、とも。




 その後、籠がいっぱいになったため、いざ帰ろうと帰り道を歩き始めて数分後、警戒を強めていた彼女の視界にそれは入ってきた。



熊だ。



かなり遠いが、その大きさが見て取れる。

多分、魔物化した熊なんだ。


そう考えた瞬間、その熊がこちらを向いた。


籠いっぱいのベリリの実は甘い香りを放っている。運悪く風上だったようで、それを人間より鼻のいい熊が嗅ぎわける事など容易い事。同時にそれを持つ人間の匂いも。


脊髄反射のように少女は走り出した。

籠を手放さなかったのは、恐怖で忘れていただけなのか、ただ単に食い意地が張っていただけなのか。


しかし身体強化などの魔法は使えない彼女が、四つ足の獣に足の速さで敵うはずがない。

あっという間に距離を詰められる。


もう少しで森を抜けるというのに。

そうすれば誰かが見つけてくれるはず……!


そんな少女の考えと裏腹に、風圧を感じて振り返ると、思ったよりも近い場所に熊の顔。その額にギラギラとした第3の目が!


三つ目熊 (サザングリズリー)!!

森の殺し屋っ!!


そう認識した途端、足が縺れた。

「きゃあっ」


思わず口を突いて出た悲鳴。

手を離れていく採取用の籠。

咄嗟に身を捻ったが、手をついてしまう。


この数瞬が命取り。

この森で最強と言われている熊に取っては、見逃すはずのない致命的な隙。


魔物は立ち上がり、大きく腕を振り上げた。


見せつけるかの様に、恐怖を煽るかの様に。


それを肩越しに見るしかない少女。目を瞑る事なんて出来なかった。




「どっせーいっ!!」



 少女の頭上が陰った、と思った瞬間、気合いの入った男性の叫びが聞こえた。


次に視界に入る大きな背。


目を丸くしたような顔の熊の顎に突き刺さる膝。

かなりのスピードが乗った跳び膝蹴りである。


2ナベル(4メートル)はある熊をそのまま仰向けに倒れさせる程の威力があったようだ。

地面に少なくない振動が起こる。


「ラジー!」

「ん」


男の呼び掛けに子供の声が聞こえ、それと同時に熊の下の地面が鋭く隆起する。


土の魔法だ。


それを追いかけるように、水で出来た槍が熊の腹へ飛来する。


「勝手に行くな、阿呆!」


もう一人、大人の男の声が聞こえた。


「バカと言ってくれ!」


そう簡単に返すと男は落ちてくる熊の腕を掴み、地面に叩きつける。

そして、


「ぅおりやぁぁぁっ!!」


なんと、腹を蹴り上げ投げ飛ばしたのだ。

大きな人の更に5倍は重量がありそうな巨体を、だ。


途中で手を離したのか、それは綺麗な放物線を描き街道の彼方へ飛んでいった。


嘘のように、ポーンと擬音語がつきそうな飛びっぷり。


少女は固まったままその行方を目で追う事しか出来なかった。





 「大丈夫だったか?」


 しばらくしてから声をかけてきたのは、先程、熊を投げ飛ばした張本人。


改めて見ると、赤銅色の髪をした人で、服の上からでも鍛え上げられた筋肉がよく判る。

その手を差し出しながら、黄金色の目が笑っていた。


「変な格好で固まっているな、コイツ」


後ろからの声に慌ててその手を取る。

そう言えば、この人たちが現れてからずっと四つん這いのままだった。


「悪口、だめ」


子供の声がそれを嗜める。

強い力で引っ張り起こされる。少し足が宙に浮いた。


「そうだぞ、ルド。レディに何て事言うんだ」


足をようやく地面につけ後ろを振り返ると、ルドと呼ばれたライトブラウンの髪のこれまた体格の良い男性と、その肩に肩車されているウサギの耳のついたフードを被った子供がいた。


「ほぉ、こんな時に紳士ぶるなら、さっさとエスコートして来なきゃなぁ、あの熊を」


親指で街道の方を指し示すルドと呼ばれた男性。その言葉にあっと声を出したのは誰だったのか。


そう言えば、熊、投げ飛ばされたままだった。

戻って来ないという事は、恐らく逃げたか死んでいるのだろうけど。


慌てた様子で「すぐ戻る」と赤銅色の髪の人は少女の手を離すと、すぐに熊の方へ走って行ってしまった。


「ま、護衛なんて今、いらないだろうけど」


と残った男の人はウサミミフードの子供を肩から降ろしながら言うと、その子が首から下げていた笛に何回か息を吹き入れる。


音は鳴らなかったが、近くから「ぐえっ」という苦しそうな声がした。


しばらくすると、ガサガサと草むらが揺れ、「何なんですか、もう!」と今度は黒髪の少年が姿を現した。


「疲れたから、シンに乗って休んでいたのに」

「体力ねぇな、お前」


その言葉にジト目を返す少年。


「アンタ達と一緒にしないで下さいよ。こんなか弱い青少年を」


そう言いつつ、足下にあった採取用の籠を拾い上げる。


「これ、アンタの?」


余りの怒涛の展開にまだ声が出ない少女はコクコクと頷いた。


「へぇ、ベリリの実かぁ。ラジー、好きだったよね?」


籠の中身を覗きに来たウサミミフードの子供に少年が聞くと、その子は「ん」と肯定の声を上げた。


「ところで、どういう状況なの? これ」


籠を少女に返しながら、彼は青年に聞く。

それは至極当たり前の疑問である。


「とりあえず、街道まで移動するぞ。後続と行き違いになる」


それに応じたのはフードを被った子供の挙手だけだった。



ええっと、コメントに困りますが、主人公はクマを追いかけていった奴です。

少女ではありません。


前日譚なので、時間を空けずに投稿したいと思います。


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