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85.世界樹の化身

 〈ブライト〉の前に現れた世界樹の化身、ジーブル・シーブレット。彼は、不思議な色の瞳で黙ってこちらを見つめていた。


 ロニーの魔法で洗脳されているらしく、氷属性の魔力とともにただならぬ殺気が漏れている。辺りが徐々に凍りついていく中、〈ブライト〉とロニーは距離を取りつつ、小声で作戦会議を始めた。


「おいどーすんだよ。アイツめっちゃ殺気やべぇじゃん」

「彼を沈静化させるには、気絶させるしかありません……殺してしまったら、この砂漠が大変なことになりますからね」

「でも、あの氷属性……非常に強力です。簡単には近づけないですよ」

「この中に、遠距離攻撃ができる方は? この際、弱点属性である炎の魔法ではなくても……」


 ロニーの問いに、全員目を逸らした。


「本来は、いるんですけどね……」


 遠距離攻撃ができるヘレナはコスモレナ城下町の宿に、炎属性が扱えるフランはルクア村の警護に残ってもらっている。


「ギルさん、やっぱり私たちがルクア村に残った方が良かったんじゃ……」

「ぼ、僕はそう思わないよ。僕らだけで、どうにかする方法があるはずさ」

「そうだぜシャーリィ。そうだ、とりま元凶のコイツに必殺喰らわせるか?」


 アルマはまた物騒なことを言い、ギルに小突かれた。この危機感の無さに、シャーリィは短くため息をつく。


「まぁでもよ、シャーリィさえいればゾンビアタックも同然の攻撃ができるわけだし。とりま突っ込んでみるのも手じゃね?」

「そんなことしたら……私怒るよ」


 “花冠の乙女”をアルマの腹にぐりぐりと押し付ける。ごめんて、と両手を上げて降参の体勢を取り、アルマは困ったような笑顔を浮かべた。


「“あんな場面”を見てんだ。命を無駄にするよーなことはしねぇよ。それに……」


 アルマは背負っていた剣を抜き放ち、真っ直ぐにジーブルへ向けた。


「成功すっかわかんないけど、俺は遠距離攻撃ができる…………と思う」

「おぉアルマクン! この場の救世主ですね!」

「うっせ! 元凶はお黙りやがれ!」

「うぅ、元凶が故に何も言い返せない……」


 もしロニーが仲間だったなら、アルマとはなかなか良いコンビになっていたのかもしれない。なんて、叶わない想像をしてしまった。シャーリィは頭を振って、杖を構え直した。


「アルマ、私が補助するよ」

「あんがと! 初お披露目の必殺技だけど、シャーリィとならやれる気がするぜ!」


 シャーリィはアルマの光属性の強さを、アルマはシャーリィの聖属性の補助能力を。ルーアイト防衛戦を力を合わせ生き残った二人には、確固たる信頼が生まれていた。


「やってみるっきゃねーわ」

「うん」


 ジーブルから、今も絶え間なく溢れ出る氷属性の魔力。時間が経てば経つほど、そこから侵食してくる氷もこちらに近づいてくる。どうせ交戦しなければならないのなら、仕掛けるのは早い方がいい。


「ふふ……」


 シャーリィは、自然と口角が上がるのを感じた。


(私、やっぱりドロテアさんの弟子なんだ。あれだけ怖くて嫌だった戦闘が、アルマと一緒なら大丈夫って思えるんだもん)


 もう、守られているだけの自分じゃない。世界の希望であるアルマを、この手で、この力で守るのだ。


「ギルさん。後方支援はお任せして良いですか? この辺りに『聖域(サンクチュアリ)』の魔法はかけておくので……」

「シャーリィ、きみは……」


 ギルは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻った。


「きみは、なんと言おうがあの人の弟子だ。胸を張って、自分を信じて行っておいで」

「えっ。ギル、こんな子供に……と言ったら失礼ですが、歳若い子たちに行かせて大丈夫なんですか?」

「心配しないでください、ロニー」


 ギルは頭領として、戦闘態勢に入る二人を静かに見守った。


「あの子たちは……きっとこの世界の誰よりも強くなる」


 期待を裏切るわけにはいかない。アルマとシャーリィは、覚悟を決めた。


「私たちの希望に力を……『加護(ブレッシング)』」


 シャーリィの『加護(ブレッシング)』を受け、守りを固めたアルマはニヤリと口角を上げた。


「よし、いくぜ。世界樹の化身だかなんだか知らねぇけど、俺たちの道を阻むなら敵だ」

「…………」


 剣先を向けられた世界樹の化身は、ゆっくりと顔を上げる。アルマの真っ黒な瞳と、ジーブルの不可思議な色をした瞳がかち合う。


「…………異世界からの使者よ」

「うわっ! しゃべった!」


 不意に、ジーブルが口を開いた。その声は、見目麗しい少年の見た目からは想像もつかないほど低く、朗々としていた。


「我が砂漠を荒らす者共よ……我が氷の裁きを受けるが良い! フェンリー・ブリザード!」

「おいおいこいつよぉ、後ろからオッサンが声当ててるとかねぇよなぁ!? なんかキメェんだけど!?」


 軽口を叩きながらも、アルマは飛んできた氷の刃を一振で真っ二つに切り裂いた。


「お。カスペルさんに言われた通り、抜刀術の動きを応用してみたら……意外といけるもんだな。この調子なら……」

「アルマ、集中して! 来るよ!」

「わかってるっての!」


 次々と繰り出される氷属性の攻撃を、アルマの剣術でいなし、叩き落とし、そして打ち返していく。アルマが対応できなかったものは、シャーリィの魔法で消滅させる。信頼し合う二人の連携は、以前よりも更に強化されているように見えた。


「ドロテアさん。あなたの育てた子たちは、あなたの想像以上に成長しています。僕は……僕は、あの子たちに――」


 ギルが、決意に満ちた瞳で二人を見つめたのと。


「いける! これはいけるぜ!」


 アルマが、飛んでくる氷の刃を掻い潜りながら、剣が届く範囲までジーブルとの距離を詰めたのがほぼ同時であった。


 自身と相性のいい聖属性の魔力で補助され、アルマはとてもノリに乗っている。カスペルとの特訓も、きちんと生かせているらしい。その動きは、過去一番で冴え渡っていた。


「シャーリィ! もっと魔力をこっちにくれ!」

「えぇ!?」


 しかし、シャーリィは冷静に状況を分析する。


 後方支援をしてくれているギルとロニー。彼らの周りには、シャーリィが張った『聖域(サンクチュアリ)』の結界がある。


 アルマへの魔力供給、そして『聖域(サンクチュアリ)』の維持、流れ弾の処理。それに加え魔力供給を増やすとなると、シャーリィの許容量はいとも簡単に超えてしまう。


「それは……ちょっと厳しいかも!」

「マジか! でも……俺の魔力だけじゃ……!」


 途端に、アルマは押され気味になってしまった。


 魔力と気持ちの関係はとても密接だ。先ほどのアルマのように、気持ちが乗っていれば魔力もそれに応えてくれる。体に巡る量が多くなり、通常以上の力が出せることもあるのだとか。その分、気持ちが落ち込んだ時の落ち幅は大きい。


 特に、シャーリィやアルマくらいの年頃は魔力が安定しづらい。


「アルマ! もっと集中して! 押されてる!」

「ンなこと言われて……うわっ!」


 的確に右手を狙った氷の刃で、アルマは剣を取り落としてしまった。カラン、と金属音を立て、回転しながらアルマの剣はロニーの足元へ滑り込んだ。


「……ほう。いい剣です。ルーアイト産の貴重な金属が使われていますね」

「分析してる場合じゃねぇ! 早くそれを……」

「その必要はありません」


 ロニーが『聖域(サンクチュアリ)』の結界から出てくる。氷の刃を自身の魔力で弾きながら、ゆっくりとアルマの方へ近づいていった。


「アルマクンの動きを見させていただきました。そしてわかりました。キミは……非常にもったいない動き方をしていると!」

「はぁ!?」


 文句あんのかよ、とでも言いたげだが、アルマも自分の動きの限界は感じていたのだろう。ムスッとした表情をしながらもロニーが話を続けるのを待っていた。


「アルマクン、あなたは光属性の使い手ですね。とても珍しい……。わたくしの仲間にも使い手がいたのですが、上司によって別属性に変えられてしまいましてね。お目にかかる機会がなかったのですよ」

「何が言いたいんだよ?」


 訝しげに睨みつけてくるアルマをものともせず、ロニーは堂々と胸を張った。


「つまり! このわたくしが! 当初の予定通り、キミに魔力の使い方を教えて差し上げましょう!」


 アルマは数秒の沈黙の後……


「あ!? 今することかよ!?」


 その場の誰もが思ったであろうことを叫び散らかした。

ロニーったら、敵なのに優しい……!(なお、本人はシャーリィたちが〈ブライト〉とは気づいていない模様)


次回は6/29更新予定です。

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