表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/140

3.転移者?

 そんなこんなで、水の音が強い方へ歩く途中に、この全裸の青年を発見したのだった。


『こ、ここはなんだ!? 起き上がれねぇ……! お前は誰だ!? 髪色ピンクってヤバくね!? てか俺……なんで素っ裸なんだよ!』


 青年は忙しなく辺りを見回し、何かを訴えかけてくる。しかし、それはシャーリィが知るどの言葉でもなく、理解ができなかった。


 どこかの民族の子なのかも、とシャーリィは考えた。であれば、言語に明るいギルなら青年の言葉がわかるかもしれない。下手に刺激して襲われるより、ギルが来るまで待っていた方がいいだろう。杖を足元に置き、攻撃の意思はないことをアピールする。


『あの……せめて、その、ここを隠す布とかくれません……? 葉っぱとかでもいいんで……』


 青年は尚も何かを訴え続けるが、シャーリィは答えてあげることができない。


『なんだここ……外国か……? 俺、外国語わかんねーよ……』

(ごめんね、君。頭領が来るまでの辛抱だから……)


 喚いていた青年もいつの間にか話さなくなり、辺りはシンと静まり返った。気まずい空気に耐えていると、やがて人の足音が聞こえてきた。振り返ると、そこには駆け足でこちらへ向かってくるギルの姿があった。


「あぁシャーリィ! 平気? 悲鳴が聞こえたけど……怪我してない?」

「はい、無傷です。それより……」


 シャーリィは青年に目を向ける。ギルも、その視線を追う。そして、裸の青年が横たわっているのを視認すると、短く「うわ」と声を漏らした。


「この方……私じゃ言葉が通じなくて。頭領ならわかるんじゃないかと思って、待ってました」

「なるほどね。了解、話してみる……と、その前に」


 ギルは、自らのローブを横たわる青年に被せた。


「大事なところ丸出しじゃ、可哀想だからね。どうかな? 僕の言葉、わかる?」

『え……なんだ……? あ、ありがとう……め、メルシー? 謝謝? せ、センキュー?』

「……え」


 青年の言葉に、ギルが驚いたように目を見開いた。


「これは……参ったね」

「も、もしかして頭領にもわからない言葉なんですか……?」

「いや、わかるよ。僕はね。けど……たぶん彼がわからないから」


 ギルの指先に光が宿った。周囲に魔力が充満する。沢山のルーンが刻まれたその光は、彼が得意とする実戦魔法の一つ、言語魔法だ。術者が理解できる言葉を、対象にも同程度の言語能力として授ける効果がある。シャーリィも、それでいくつかの国の言葉を教わった。


「さて……そろそろだね」


 言語魔法は、魔力を帯びた指で触れるのが発動条件だ。ギルは青年に近づき、片手で前髪を上げると、


「えいっ」

『いでっ!?』


 なかなか強い力でデコピンした。


「これで大丈夫なはず。……君、僕の言ってることがわかるかな?」

『わ………』


 青年は、草むらの中で目を輝かせる。


「わかる! すげぇ! わかるよ!」

「それは良かった!」


 魔法はしっかり効いたらしい。青年が興奮し大喜びする様子を見ていると、つられてシャーリィも嬉しくなった。何を言っているのかわかるだけで、彼への警戒心が解けていく。


「助かったよ、ありがとう。あんたら……一体何者なんだ?」

「僕らはキャラバン<ブライト>。世界を希望の光で満たすため、品物を作っては売り歩く商隊さ」

「ブライト……へぇ、なんかかっこいいな!」


 褒められてギルは少し得意げに目を細めた。


「ところで、なんだけど。君は素っ裸で何をしていたんだい? 趣味?」

「しゅ……!?」

「シャーリィ、世界には色々な好みを持つひとがいるんだよ。裸で草むらに寝転ぶ……そんな趣味があってもおかしくないさ」

「いや、違います違います」


 青年が、もぞもぞと起き上がろうとする。どうやら上手く体が動かせないようだ。咄嗟にギルが手を伸ばし、上体を起こさせる。


「まったく……人を変態のように言うなよな。だいたい、あんたらだっておかしいだろ、その格好。白髪にピンク髪って……こんな田舎でコスプレ大会でもやってるの?」

「こす……?」


 言葉は通じるようになったが、所々意味が汲み取れない。シャーリィは、助けを求めるようにギルを見上げた。


「コスプレね。わかりやすく言うなら、服や化粧を真似て違う人になりきることかな。世界にはそういう文化もあるんだよ」

「へぇ……。なら私たち、コスプレではないですね。これが普通ですから」

「その通り。僕らのこの格好は、コスプレじゃない」


 青年は、泣きそうな表情でこちらを向く。


「じゃあここは何だってんだよ。寝てたらいつの間にかマッパで草原に放り出されて……家に帰りたいよ……」

「どこから来たのかわかれば、僕たちが家まで送るよ」

「それはありがたいけど……なぁ、ここの地名を教えてくれ」

「え? うーんと、ランシーブの街とタリーの街の中間くらいかな」


 どちらも商業や観光が盛んな大きな都市だ。特に、現在向かっているタリーという街は、西の王都も近く人の往来も激しい。この森はその二つを結ぶ街道から少し外れた場所にあるが、食料となる木の実や獣が多く、旅人たちには絶好の寄り道スポットとなっている。知らない人はいないはずなのだが。


「聞いたことないな……舞浜まで帰るのにいくらかかるんだろ……」

「マイハマ……か。シャーリィ、知ってる?」

「うーん、わからないです」


 シャーリィは考えた。噛み合わない会話、互いに知らない地名。青年がシャーリィたちの容姿を不思議に思うと同時に、彼の黒髪と黒目もこの辺りでは珍しい部類に入る。


 彼はどこから来たのか。もしも“どこからも”来ていないのだとしたら。考えられることが一つだけあった。師ドロテアから聞いた、とある伝説の話だ。


「救世主……」


 シャーリィはポツリと呟いた。


「頭領、私、師匠から教わりました」


 ――この世界が闇の力に堕ちるとき、別の世界から救世主が現れて、眩い光の力で私たちを助けてくれる


「この人が、この世界の人ではないとしたら……全部の説明がつくと思うんです」


 光の力の有無は一旦置いておくとして、救世主が別の世界からやってこられるのであれば、青年がそちら側の人間でもおかしくはない。


 ギルも、まじまじと青年を見つめながら「そうか……」と呟いた。


「それってつまり、異世界転移ってやつ? 向こうの俺はどうなってるんだ……?」

「然るべき人に見てもらえば、きっとわかるさ。うん、きっと大丈夫」

「と、頭領……?」


 ギルが青年の前にしゃがむ。好奇心に満ちた少年のような表情をしている。シャーリィは、この後どうなるのか何となく予想がついた。


「僕、君が別の世界からの転移者なのか、はたまた記憶喪失の全裸趣味なのか……気になっちゃった」

「はぁ……それは俺も気になるけど」

「でしょ? それに、どうせ行くアテもないよね。ならさ……」


 ギルはにっこりと微笑むと、その顔を青年に近づけた。


「僕らと一緒に来ない?」


「…………は?」


 当たり前の反応だ。しかし、ギルの判断は正しい。こんな草むらに、何も装備していない裸の人間を置き去りになんてできない。このまま夜を迎えたなら、彼は間違いなく無惨な姿で次の朝日を浴びることになるだろう。森には食べられる獣も多いが、肉食で凶暴なやつらもいる。そして何より、夜は魔物が活発化する。とりあえず青年を野営地へ連れていくのは、概ね賛成だ。


 シャーリィは、ギルの言葉を補足する目的で続いた。


「いいじゃないですか。ここにいるより安全です。一緒に行きましょう?」

「無理に、とは言わないけどさ。森を抜けるまで……どうかな」

「で、でも……」


 青年が警戒するのも無理はない。彼が何者であろうと、シャーリィたちは見ず知らずの他人。はいわかりました、で気軽について行くには、出会ってからの時間が短すぎる。


 空を見上げると、太陽は西の地平線にかかろうとしていた。もう間もなく、陽が落ち暗くなるだろう。あまり時間がない。


(仕方ないなぁ……)


 シャーリィとギルは目配せをした。


「コホン。頭領、頭領? 積み荷の中に、不飛鳥(トバナイチョウ)の干し肉がありましたよね?」

「そうだねぇ。でも、そろそろ悪くなってしまいそうだから……今日中に食べないとね」

「師匠なら、硬い干し肉も上手く料理してくれますよ。この前の香草焼き……美味しかったですねぇ〜」


 ちらりと青年を見る。彼は口を半開きにして、ぼーっと虚空を見つめていた。今、彼の頭の中は肉料理でいっぱいなことだろう。……いわゆる、食べ物で釣る作戦だ。


「……肉」


 効果はあったらしい。青年はグーグーと腹を鳴らしている。


「この先には、僕らの野営地があるんだ。別に君を取って食いはしないから、一緒に来てくれないかな」

「…………最寄りの街まで、連れて行ってくれ、ますか」

「もちろんだ! キャラバン<ブライト>は、君を歓迎しよう!」


 ギルと青年は、手を取り合う。


「立てそうかい?」

「おう! 立てる立て――」


 そして、青年の下半身を隠していたローブがはらりと落ちた。

次回は8月14日のどこかで更新します。たぶん朝かな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ