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24.ともだち

 数時間後。


 ルーアイト城の探検にも飽きてきたシャーリィとアルマは、豪華なドレスを身にまとった貴族たちのいる広場にいた。真ん中にいたら目立ってしまうので、中央階段の影で膝を抱えながらぼんやり駄弁りながら時が過ぎるのを待つ。


「なぁ、朝めっちゃ走ったじゃん。俺、すっげー疲れてさ。ねみぃんだよな」

「部屋、貸してもらったじゃない」


 貸し出された部屋は、会議用の大きなテーブルが設置されたスペースの横に、人数分のベッドを置いた寝室がある。いつものように完全に男女で分けることはできなかったが『〈ブライト〉の女なら襲われても返り討ちにする』とのことで共用となった。


「戻って寝ててもいいんだよ?」

「いやぁー。でもさ、なんか、あんな話された後だし。一人でいたくないって言うか……」


 そりゃ『あなたはこの世界に存在していません』なんて言われたら、不安になるのも仕方がない。しかも、頼りの大人たちは工房にこもっていたり、幼なじみと遊びに行ってしまったり、明日からの商売に向けて呼び込みに言っていたりで不在。暇しているのはシャーリィしかいなかった。だからといって、こんな所まで着いてこなくてもいいのでら、とシャーリィは思っていた。


「私じゃ、寂しさを埋められないんじゃない?」

「いいんだ、誰でも。そばにいてくれれば」


 アルマが元気じゃないと、どうも調子が狂う。かと言って、気の利いた慰めができるほどシャーリィは器用ではない。


 どちらも沈黙したまま、微妙な空気が漂う。そのうち、広場にいる貴族たちに変な目で見られそうだ。場所を移動しよう……とシャーリィは腰を上げた。


「ま、待って」


 その腕を、アルマが掴む。力が強い。縋るようにシャーリィを見てくる。


(こ……子犬……!?)


 いつぞや商売で訪れた街で、迷子の子犬の兄弟を保護したことを思い出した。今のアルマは、その子たちによく似ている。心臓の奥が、キュッとなった。


「移動しよ、アルマ。立って」

「うん」


 手を握ると、安心したように表情を綻ばせるアルマ。この時、初めてシャーリィは彼が自分よりも年下なのだと感じた。


「……ねぇ。私、ここに来る前のあなたのことは知らないけれど、アルマはアルマだよ。こうして触れられる。アルマはちゃんと存在してるから。その……何を言いたいかというとね」


 話し出したはいいが、頭の中で言葉がまとまらない。あんたも締まらないやつだね、というドロテアの幻聴が聞こえてくるようだった。


「と、ともかく、アルマがなんであろうと〈ブライト〉の仲間であることに変わりはないから! それだけは覚えておいて! わかった?」


 無理やりに締めくくる。なんだか恥ずかしいことを言ってしまった気がして、頬が熱くなった。まっすぐにアルマの顔を見られない。


「い、行こうか。師匠とリデル様が戻ってきているかもしれないし……」

「あぁ」


 アルマが短く返事をする。そして、シャーリィの手を握り返した。


「ありがとな。俺の存在を認めてくれて。俺、シャーリィと友だちなれてよかった」

「……私も!」


 ルーアイトに来てから初めて、アルマは笑ってくれた。それが嬉しくて、シャーリィも自然と口角が上がる。


「俺、ここに来れば自分の正体がわかるって思って、ずっと頑張ってきたんだ。ここまで走れたのも、そのおかげで。だから……ちょっとショックだったんだ」

「そう、だよね」

「でも、大丈夫だよな。女王様の力は本物っぽいし。あと七日待てば、俺がどこから来た何なのかわかる。果報は寝て待てって言うしな!」


 アルマはシャーリィの手を離した。そして、もう大丈夫だぜ、と親指を立てた。それがどんな意味を指すのかは知らないが、シャーリィも倣って親指を立てる。


「いいねぇ。若いねぇ」


 その時、上から声が降ってきた。見上げると、ドロテアとリデルが大階段を下ってきているところだった。リデルは先程のAラインドレスではなく、裾が短めのワンピースを着用している。城下町に行っていたのだろう。


「あんたたち、こんな所でなにやってたの?」

「ちょっと暇で……行き着いた先がここでした」

「そう。私は頭領に商品の製作を手伝ってくれって泣かれたんで、そっち行ってくるから。まだ遊んでていいよ」


 じゃっ、と言いドロテアは足早に去っていってしまった。向かうはギルが待つ地下の工房だ。製作をするということは、しばらくは戻ってこないだろう。


「行ってしまいましたわね」


 幼なじみとはいえ、王女様を放ったらかしにできるのなんてドロテアくらいしかいない。リデルは困ったように苦笑いをする。


「ドリーったら、昔からあんな感じなのよ」

「自由ですよね」


 わかります、と共感するシャーリィ。いつも師匠の奔放さに振り回されてきたため、リデルの気持ちも察することができた。


「もう慣れっこですの。あなたもドリーが師匠だなんて……厳しくて大変でしょう?」

「えぇまぁ……。でも、それくらい期待されてるってわかるので……優しいところもあるんです、時々ですが……」


 完全に初対面ではないとはいえ、王女と話すのは緊張する。言葉一つひとつに失礼がないか、頭の中で整理してから口に出した。しかし……


「あなた……“わかる”側の人間ですわね。ドリーのあの尊大で上から目線な態度から、ほんの微かに漏れる優しい言葉……! あれは(ヤク)ですわ。一度嵌ると抜け出せない永遠の罠ですわ……!」


 シャーリィの心配は不要であった。リデルは重度のドロテア信者。ドロテアのことになると途端に饒舌になり、そして大興奮するのだ。王女らしからぬその様子に、シャーリィとアルマは呆然とした。


「この人……ドロテアさんのオタク?」

「相当好きみたいだね……」


 ひそひそと話す二人を尻目に、リデルはまだまだ暴走し続ける。謁見の間での儚げな王女はどこへ行ったのだろう。


「ねぇシャーリィ? リデル、あなたともっとお話がしたいわ!  これからお時間はあるかしら?」

「あ……はい。時間なら売るほどあります……」

「じゃあ買いますわ!  一緒にお茶しましょう! テラスで沈む夕陽を見ながら飲むお茶は、とても美味しいの!」


 もうリデルは止まらない。何かをする予定もないので、ここは大人しく従っておくことにした。


「あ……でもリデル様。私、その、今、とっとととと、友だちと一緒で」

「アルマ! あなたも〈ブライト〉でドロテアと生活しているのよね! もちろんいいわ! あなたのお話も聞かせてくださいまし!」


 アルマはほっと胸を撫で下ろす。


「よかった、1人にされるかと思ったぜ」

「ふふ。あんな話をされた後ですもの。みんなでいた方が楽しいわ。ご案内しますね!」


 楽しそうに階段を駆け上がるリデル。初めに抱いていた印象が、一気に変わった瞬間だった。

シャーリィ と アルマ は ともだち に なった!

次回は8日に更新します。

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