1.出会い
世界が闇に覆われた、とは言われているが、こんな晴れた空と澄んだ空気のどこが闇なのだろう、と思う。
例えば先日訪れた街。人々は相変わらずの生活を送っていたし、作物の育成に問題があるようにも見えなかった。
例えば今いるこの森。少し遠くで水が流れる音と、風に揺られた木々の葉がざわめく音しか聴こえない。魔物の気配も感じない。
至って平和。『世界に希望の光を』の合言葉を掲げ旅をしているが、もうとっくに世界は平和なのではなかろうか。
それこそ、こんな昼間に、裸で寝転ぶ人間がいるくらい。
(――裸!?)
膝丈ほどの草むらの中に、一人の青年が横たわっていた。それも、素っ裸で。何の恥じらいもなく、何も隠さず、大の字で。
(え……裸だ……嘘ぉ……)
シャーリィ・ステルラは、木製の杖を強く握りしめガタガタと震えた。優しく吹く風に、ネイビーブルーのワンピースと桃色のお下げ髪が静かに揺れている。
安らかな寝息を立てる青年の中心部には目を遣らないようにして、思考を巡らせた。
なぜ、彼は裸で寝ているのか。酔っ払って迷い込んだにしては、この森は深すぎる。今日の野営地を確保するにも苦労したのだ。そもそも、街と街の中間地点になんて、一般人はほとんど寄りつかない。それこそ、自分たちのような商隊や、人目につきたくない盗賊くらいしか通らないだろう。
もし、後者の方だとしたら。素っ裸で寝ているのも、通りがかりの人間を油断させて襲うためだとしたら。そう考えると身がすくむ。
「でも、け、怪我……してるかもしれないしなぁ……」
しかし、人の良さが勝った。シャーリィは、周りの大人が心配するレベルでお人好しだった。いつか悪い奴に騙されるのではないかと言われ続けている。自分でも他人に甘すぎる自覚はあるが、目の前の困っている人を見過ごすのは違う気がするのだ。
そっと、反撃できる距離を取りながら青年に近寄る。この辺りでは見かけない、艶やかな黒髪。肌の色素も、少し濃い気がする。顔つきは幼さが残っており、自分と同じくらいの年齢に見えた。目立った怪我はなさそうで、ほっと胸を撫で下ろす。
「そうだ、師匠か頭領を呼ん……」
気が緩んだせいか、足元にあった枝を踏んでしまった。枝は軽快な音とともに真っ二つに折れた。びっくりして二、三歩後ずさると、ガサゴソと草むらが鳴る。
まずい。そう思い、青年の方を見た頃にはもう遅かった。音で青年は目を覚まし、瞬きを繰り返していた。その黒い瞳と、シャーリィの赤い瞳がかち合う。
「…………」
「…………」
「…………?」
「…………!」
両者、しばしの沈黙の後、
「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
先に悲鳴を上げたのはシャーリィだった。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿となります、梁根というものです。
序盤はスローペースでほのぼのキャラバンの日常を、中盤以降はちょっぴりシリアスになったり、主人公に変化が起きたりする予定です。
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次回は8月13日の夕方あたりに投稿予定です。




