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4. うげぇ…

~前回のあらすじ~

美しき『ラベンダーの乙女』こと、私の女神様“エリザベス”様にダッシュで逃げられました。

-なして?!!!


  ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼


「…わ、たし、彼女に失礼な振る舞いをしてしまったのでしょうか…。」

(・・・女神に逃げられた・・っ!!泣)


彼の話を信じるならば、彼女は私の恩人である。

本人が意図してなかったとしても、結果私がこれから虐げられないのだとすれば、彼女のお蔭だ。


(・・・唯一の、お礼の言えるチャンスだったかもしれない。)


目下の者から気安く声を掛けてはいけない。

でも、今ならまだ不慣れな平民がマナーを分からずやってしまったのだと、寛容に受け止めて貰えたかもしれない。

今ならオルコルド様にそれを聞いた直後で、本人も居るのだから、そちらからのフォローを貰いながら、自然とお礼が言えたかもしれない。

…ー雲の上の方であるあの方と話せそうな機会なんて、今だけだったのかもしれないのに…。


「…いや、特には。まぁ、お辞儀じぎくらいはするべきだったかもしれないけど…二人とも面白いくらい見詰め合ってピクリとも動かないから、何か-」


「-何か…っ?」


「き、禁断の扉でも開いたのかと…。」


・ ・ ・ 。


(・・・はぁ?)


頬に赤みを差させながら、目の前の美男子は的外れな暴論をのたまった。

何言ってんだ。頭湧いてんのか、この男。と暴言を吐きたくなるが、我慢…。どうやら、目の前の阿呆あほうは頭に百合の花を咲かせているらしい。


「…どう見てもその様な反応だとは思えませんが…見詰め合っていた、とはどのくらいでしょうか?」

「うーん…10秒くらいかな?彼女も何も言わず、キミをずっと見詰めてたよ。」


私が正気を取り戻すまで、彼女もノーリアクションだったらしい。


(立ち去る時なんて、まるで…怯えてる様だった?何故…?)


身に覚えがないけれど、あんな美少女に嫌われたんだとしたら、ショックで涙が出そうだ…。


「…まぁ、本当に体調が優れなかったのかもだし、急ぎの用でも思い出したのかもしれない。-怒っているような様子ではなかったからさ。気にしなくてもきっと大丈夫だよ。」


そんな言葉と共に、ニッコリと笑いかけられる。


(…元気づけてくれているのか。チャラいけど、悪いヤツじゃな-)


悪いヤツじゃないと、思いかけて、現在も抱きしめられ、腰を抱かれているのを思い出した。


「それに、オレ達が仲良く見え過ぎて、邪魔してしまったと思ってしまったのかもしれないねー♡」


「まさか。私とオルコルド様では釣合が取れませんから。……オルコルド様、もう自力で立てますので、放していただいて大丈夫です。」


失礼の無い程度に両手に力を入れて、彼の胸を押して距離を取ろうとする。早よ離せアピールである。


「いやいや。煉瓦レンガできたこの道をまたつまずかないとも限らない。危ないから、オレに是非エスコートさせてよ。」


(オメーが引っ張んなきゃ転びそうになることもなかったよ…!)

「いえいえ。私如きがそんな、ご迷惑を掛けられませんから…!」


また片目をつぶって星を飛ばしてくる。

もしかして、こちらが嫌がっているのに気が付いてないのだろうか?


彼の右手は私の肩を掴み、左腕は私の腰をがっちり掴んで離す気が全くないように思われる。


-完全にセクハラである。


腰に回された手の感触が、気持ちが悪い。

ウィンク飛ばすな気色が悪い。

目の前の傍迷惑な勘違い野郎に、イライラと苛ついてしまう。


(平民女の何が気に入ったのか…後ろに可愛いお嬢さん方が控えてるんだから、エスコートするならそちらをするべきだろう!)


こんな平民の私ではなく、後ろで黄色い声を上げている女の子達の相手をすればいいのに…本当に迷惑な野郎だ。


それでも押す力は、努めて遠慮がちに軽く引いて押してを繰り返した。

本気で押すと脆弱なお貴族様の身体は盛大にすっ転ぶか、吹っ飛ぶかしてしまうと思われ、怪我をしたなど難癖を付けられない為にも、一生懸命精一杯の努力で限り限りの所で理性に踏みとどまり、歯を食いしばる思いで、最小限の力で押しているのである。


(同じ平民であれば、一発でのしてやるのに…怒怒怒)


怒りで目が据わるのが分かる。目の前の男に表情が見えないように、顔を下げた。

睨む事すら許されない、我が身が口惜しい。

悔し過ぎて歯軋りギシギシさせたい。そうしたら、ドン引きして離してくれるだろうかと、馬鹿な考えすら本気で浮かんでくる。


本来であれば、こんな風にベタベタ接近されて、大人しくしているようなタマではないのだ。


じゃあ、どんな奴かといわれれば、一言でいうと“脳筋”である。

揉め事は全てソレで治めてきたといっても過言ではない。


小さい頃-特に思春期ぐらいが酷かっただろうか。

何故か街の同年代の少年から、髪を引っ張られたり、からかわれたりする事が多かった。

見た目だけなら、大人しそうな外見が悪かったのだろうか。よく目を付けられたもんだ。


そんな彼らをどう対処したかといえば、もちろん、子供らしくぶつかっていった。

片っ端からぶん殴ったのだ。

女の子だからって武器なんて使わない。拳と拳のぶつかり合いだ(親達が後から出てきた時、武器を使うと私の方に非があるように思われるのを防ぐ為でもある)。

…まぁ、骨のないこと、やり返してくる気概のある奴はあまりいなかった。


地元の同年代の男の子達には、私=暴れ馬という認識を恐怖と共に埋めつけ、からかう様な馬鹿もいなくなり、すっきりとしたもんだった。

ちなみに補足しておくと、年下と女の子は可愛がる主義なのでそちらには慕われたもんだし、馬鹿以外の同年代の男の子とは仲も良かった。人格矯正もといお仕置きをしてやった元・馬鹿達ともちゃんと仲直りをして友達になったもんだ。


しかし、そんな今までが通用しないのが、現在いる場所である。

ぶん殴って終了するのは、私の人生だ。下手すりゃ家族にまで害が及ぶ。

我慢しなきゃ…我慢、我慢、我慢…×∞


「くっ……ふはっ。駄目だ、くすぐったい。」


(-おっ♪)


くすぐったつもりはなかったが、次の瞬間、腰に回っていた腕が解けた為、内心やっと解放されるのかと喜んだ。-のも、つかの間。

解いた彼の左手は、彼の押している私の右手を掴んだ。


「!?」


「キミの力って子猫みたいだね。…可愛いな。」


そう言って、私の右手に自身の唇を押し付ける。



瞬間---ぷっつんと、軽快に理性が弾けとんだ。


自他ともに認める、短気で短慮で喧嘩っ早い私。その理性は、例えるならシャボン玉の様に薄い膜で覆われている。

今まさに弾けて割れた理性から、怒りの感情が爆発する。

今だけは“後で後悔するぞ!”という理性の警告などもう消えて聞こえない。

ただただこの苛立ちを目の前の男にぶつけて、分からせてやらないと気が済まない。

苛立ちの感情に支配され、本気でどついてやろうかと思い、胸を押す力を少し増やすつもりで頭の角度を少し下げた-


「あれ?ここ、ソワフルールの花びらが付いているよ。」


そう言って彼は私の頭部を撫でるように触れ、視覚外に付いていた花びらを2枚取って見せた。


彼の様子は、先程と何も変わらない。

手の甲にキスをするなど貴族にとってただの挨拶行為と変わらない。

現在平民、元日本人の私にとっては完・全・に・セクハラに値する行為だったとしても、アレは怒るに値しない行為なのだ…。


(……ちっ)


ニコニコと笑顔を向けるその様子に、こちらの頭も少し冷え、腐った気持ちで内心舌を打つ。


「とても美しかったので、先程まで木の下を歩いていたんです。すみません、まだ付いていたなんて。取って頂いて、有難うございます。」


先程全て払い落としたと思っていたが…まだ落ち切ってなかったようだ。

親切にされて、どつくタイミングを逃してしまった。


その上、こう…ニコニコ笑いかけられると、怒りを保つこともできず、意気阻喪(そそう)してしまう。

ぷしゅうぅっ…と、先程まで炎のようにたぎっていた怒りが、燃え尽き煙になって抜けていくような気分になり、ぶすぶすと焼け残った炭の様なモノだけが、心に残る。


「そうなんだ。でも、ソワフルールの気持ちも分かってしまうな。キミの青い髪は…とても美しいから。こんな風に-」


そう言って彼は、品のある仕草ですっと、私の髪の一束を手に取り-


「-思わず身を寄せ、触れてしまいたくなってしまう。」


-ちゅ…と、唇を落とした。

そして、目線を手元の髪からこちらへ送り、ニコリと笑いかけた。

そんな彼に私は-


「うげぇ……きもっ……」

(…ぞぅわぞわするぅ…っ!)


-思わず、ついつい、ぽろっと暴言を吐いていた。


何ならどん引きついでに、何してんだコイツという非難をありありと表情に浮かべてしまったかもしれない。

先程の行為(手の甲にキス)は、我を忘れるほどの怒りを感じたが、髪にキス、更には砂を吐きたくなる様な甘々~な言葉と行為は、私に怒りではなく全身にさぶいぼを立たせる程の寒気を襲わせるものだった。


「・・・・えっ」


彼は目の前で固まってしまった。

ビシリッと何かがひび割れる様な大きな音さえ、聞こえた気がする。


 ・ ・ ・ ・ 。


(…わ、私今、声に出して…たっ?! いくらクソキモ野郎でも、貴族に“キモい”はマズい…マズいって-!!!)


ざぁ…っと顔から血の気が引くのが分かる。

どうしよう、どうしようと混乱した頭で考えて、はたっと気づく。


(あ…-今私、“日本語”で暴言吐いてた・・・?)


私はたまに素で、日本語が出てしまう時がある。

前世日本人だった頃の記憶がある為、考え事をしている時などぽろりと出てしまうのだ。


(なら…きっと誤魔化ごまかせる!)


呆然としているギルバートのゆるんだ手から、体を脱出させる。

1歩、大きく距離を取って-


「-申し訳御座いません。」


と、開口一番謝りながら、頭を下げた。


「-私の髪などに、そのようなお言葉を頂けるなど光栄の極みです。ですが私は平民。この様にエスコートされることも、男性にレディとして扱われることにも、不慣れなのです。どうしたらいいか分からず困惑し、不作法な対応をしてしまうやもしれません…。既に失礼が点がありましたら、ご無礼をお詫び申し上げます…。」


無詠唱で水魔法をこっそり使って、瞳に似非えせ涙を溜め、少し躰を震わせて。

下げていた頭を起こし、ちらりと顔を伺い見上げる。

秘技(でも何でもないけど)-不慣れだからうっかりやっちゃいましたってへっ☆

通称・カマトトぶりっこである。


(…実際、日本人の女で可愛くない子がこんなことやったら、絶対分かってやってんだろ、カマトトぶってんじゃねぇ、ぶっ○すぞ!ってなるけど、貴族の体面を保つ為にこの嘘に乗らない手はないでしょう?!)


普段なら、性格的にもこの様な行為は絶対行わないのだが、さすがに形振なりふり構ってられない。こちらも取り繕う為に必死である。



「…っ。」


顔を上げ、動揺したのは私の方だった。

そこに立っていたのは、先程までニコニコと笑っていた男ではなかった。


真顔-そういっていいのか、分からない。


全ての表情が剥がれ落ちて、何の感情も浮かんでいない顔。

そんな表情で、こちらをじぃ…と見下ろしてくる。


ぞっとした。

先程の何十倍も。

血の気が引き、恐怖で全身が強張るのが分かった。

恐れに心臓を鷲掴みにされたかのような感覚で、胸が息苦しくなった。


目の前にいるのは人間の筈なのに、先程までは人間だったのに、今の彼をそう思えない自分がいる。

目の前で震える私を、何の感情も無しに、じぃ…と、じぃー…とずっと見下ろすモノ。


得体のしれないモノに対しての恐怖---



「何、下級生を虐めているんだ?ギル。」

「-っえ。」


声を掛けたのは、おそらくギルバートの知り合いの知らない男性で、反動的に声を出したのはギルバートだった。

私は声も出す余裕すら、まだなかった。


「イジメて…?え?」

「虐めているだろう。女性をそんなふうに泣かせるとは、君らしくない。」


声を掛けられ、そちらを振り返るギルバートの顔には、感情が戻っていた。

声を掛けた彼はこちらへ近づいてくると、ギルバートの肩を掴んだ。

気難しそうな顔を、少し不愉快そうに歪め、そう、ギルバートに苦言をていした。


「何言っているんだ、ユーリウス。古今東西、オレが女性に酷い事をした事があるか?泣かせるなんて-」


「君が女性を泣かせていた事なら、数多く目撃証言があるが。」


「…いや、告白や誘いを断ったせいで泣かれたことはあるけど、それは誠意をもって対応したからこそで、イジメて泣かせるなんてそんな事する訳ないだろう。」


「じゃあ、そこの彼女は何故泣いているんだ?」


その言葉を受け、ギルバートが慌ててこちらを振り返った。

こちらを見下ろす瞳も表情も先程とは違い、焦りに染まっている。

それでも、再び見下ろされ、思わずびくりと肩が震えた。

涙は先程作製したの似非涙だが、あのまま見下ろされ続けていたら、さすがに泣いていたかもしれない。

ギルバートにも私の感情が伝わったのか、一瞬顔に動揺が走ったのが見えた。


「っいや、怒ってないから。ええと・・・そう、キミとオレとの間に無礼なんてなかった。だから、そんな風に泣かないでくれ。」


「本当、に・・・?」


このユーリウスという人に声を掛けられてからのギルバートは、先程まで話していた彼と相違なかったが、あんな顔をされてすぐには信じられなかった。

ゆっくり体を起こしながら、念の為、もう一度確認する。


「もちろんだよ。」


紳士的に、ハンカチーフを差し出された。

これで涙を拭けということだろうが…綺麗なハンカチだ。絶対高い。使用後後々どうしていいか分からない。


(返しに行きたくもないしな…。)


受け取らずにいると、「失礼」と一言掛けた後、優しく頬から目尻にかけてを拭かれる。

優しい手つきに、彼の表情を伺い見ると、少し困った顔でニッコリと笑顔を返された。


本当に怒っている訳でもないらしい…。

ようやく安心できて、ぎこちないながらも、こちらも笑顔で答える。


「…ありがとう、ございます……。」


(先程の彼の姿は、振られた事のないモテ男がショックで放心した姿だったのかもしれないな…。)


そう、納得させる事で、自身の気分を無理やり切り替える事にした。

にこっと、笑顔を浮かべる。


『営業スマイル』…それは、いつだってどんな感情であっても笑わないといけない過酷な世界を生き抜いた人間の武器だ。日本人特有の『愛想笑い』を進化させた、上位スキルといっても過言ではない。

前世と今世のアルバイトで鍛えぬいた、0円スマイルを喰らえぃっ!


-にこっ

-ニコッ


お互い笑顔を交わし、仲直り(修復する仲も何も無いが)だ。

そうして目の前で笑顔を浮かべている彼は、まるで先程あった事を忘れているかのように見える程、私が暴言を吐く前の彼のままだった。


(仮?にもお貴族様だし、表情のまま受け取っちゃ駄目かもしれないけど。無かった事にしてくれそうだなー。…本当に無かった事にしたいのは、女に盛大に拒否られた事実だろうけど…。 お互い無かった事にしよーね☆)


そう思いを込めて、もう一度私は、彼に最高の0円スマイルを贈った。


20.6.28 より自然にどつきたくなるよう、加筆しました。

20.6.30 主人公の子供時代のエピソードを軽く追加しました。

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